下っ端から始まる創造神

夏菜しの

文字の大きさ
16 / 44

16:【機能】の重要性を知る

しおりを挟む
 三姉さまと豊穣ちゃんの二人がひとつの世界を見守っていた。
 合作なのか、その世界は緑緑みどりみどりしていてとても綺麗だった。

 ここでわたしの世界を見て欲しい。
 第一の世界を創った後、最初に出たのが水の気ってこともあり、基本青が多め。それ以外はだいたい灰色だ。
「この世界はいま氷河期なのかしら」
「いいえ普通の大地ですけど」
「草木も生えていない大地って、あなたねぇ。もしかしてわたくしに喧嘩を売っているのかしら?」
「月ちゃん、豊穣としても言わせて貰うよ。
 こんな実りのない世界は、ゴミだよゴミー!」
 二人とも酷い。
 なんでかわたしが世界を創ると大地がこうなるんだよー
 こんな大地ばっかりだから、生物は海で進化して陸に上がらず一生を終えるのさ。
 でもさぁ逆に見てくれ。この海の中を、ほぉら宝の山でしょう?

「豊穣としてもう一度言うよ。ゴミだねー」
 ぐはっ


 話がこれで終わるわけはなく、三姉さまのお説教に突入した。
 大変長いが簡潔に纏めたなら、【機能】をすべて自分で創るのをやめなさいと言われたんだと思う。
「しかしですね。【機能】は自分で創ればタダですが、依頼すると神力だいきんが必要なんですよ? 知ってましたか」
「そう言えば昔も言ったことがあったわね。
 あなた実は馬鹿だったわね」
 心外な。

「姉としてこのまま放置はできません。
 あなたの世界に合う生命の【機能】を創るから神力を寄越しなさい!」
「ええっ押し売り反対です!」
「あーもう。二割引きしてあげるから今のうちに権能の重要性を体験しておきなさい」
「もう一声!」
「厚かましいわねあなた……
 わたくしじゃなく『豊穣』の創った【機能】なら半額で下ろすわ」
 権能が同じなら、神位の高さで【機能】の値段も上がる。安くする代わりに豊穣ちゃんに創らせるのだろうけどそれでも半値は言い過ぎだ。白目をむく未来の豊穣ちゃんの姿が見える。
 実際は差額は三姉さまが負担し、わたしと豊穣ちゃんそれぞれに利があるように分配したってことだろうけどさ。
 そしてこれは姉妹以外たにんを巻き込んだんだからここで折れろというメッセージでもあるわけで……
「じゃあそれでお願いします」
 もちろん素直に折れます。



 豊穣ちゃんが『生命』の【機能】を届けてくれた。
 失礼ながらさっそく解析させて貰った。豊穣ちゃんは同格の第九位『無』なので、兄貴の時のように解析不能になったりはしない。
 【機能】の根幹に使われている権能は『生命』でそこ以外は実力相応。その手の作業が得意なわたしには劣り、苦手な四姉さまよりは出来が良い。
 権能さえあれば再現可能って当たり前か。その権能が無いから、『月《わたし》』の【機能】に価値が出るんだもん。

 新しく創る世界に『生命』の【機能】を組み込んだ。微調整は自分でもできるのだが、豊穣ちゃんが待ったをかけた。
「あたしがやるから月ちゃんは触らないで」
 もしかして信頼されてない?
 でもまあ調整は創った人がやる方が良いに決まっているのだから素直にお願いした。

 調整が終わり【機能】の組み込みが完了した。
 世界の刻を開始してしばし眺めていると大地に緑が溢れていく。
「おおっこれがわたしの世界……?」
「こんなの普通だよ、感動するとこかなぁー」
「だってほら、こんなに早く生物が陸に上がってるんだよ!?」
「だから普通だってばー」
 これが普通だと? 『豊穣』め、なんてイージーモードな世界なんだ。
 いやだから世界の平均利益が低いのでは……? 過酷な世界ほど生物は神の恩恵に感謝するのではないだろうか。

「あたしねー最近やっと月ちゃんが何考えてるのか判るようになったんだ。
 月ちゃんって聖の神性無かったら完全に邪神だよねー」
「それはさすがにわたしに失礼じゃないかな?」
「平均利益2000越えでしょー。年貢のきつい国と一緒じゃん。
 生かさず殺さずみたいなー」
「でもさ締め付ければ吐き出すんだもん。やらないよりはやった方がいいでしょ」
「うわぁまじ邪神。引くわー」
 ぐう……

 ここまで言われては黙ってられない。わたしは陸に上がった生物が知恵をつける前に刻を止めた。
 まずは三姉さまのところへ行き、『地』の【機能】を購入。さらにバザールで知り合った『鍛冶』のところへ行き、『月』と交換で『鍛冶』の【機能】を手に入れた。
 鍛冶より月の方が珍しいからと沢山くれようとしたんだけど、等価交換したわたしはエライと思う。

 さて集めてきた【機能】をこの世界用に調整し直して全部どーん!
 世界の刻を再稼働!

 豊かな大地に豊富な資源、さらに天上の鍛冶の技術を経て、世界は急速に科学文明に傾いてぐんぐんと成長していった。
 宇宙船の開発、軌道エレベータの建造に宇宙コロニーまで。

 しかし終焉はあっけないものだった。
 軌道上に建造した宇宙コロニーが落ちてきて大陸に穴が。その後は大津波。何とか一割が生き延びたが、すぐに二つ目の宇宙コロニーが落ちてきて惑星は長い長い氷河期に入ってすべてが氷の下に消えていった。
 【機能】代を差っ引いた最終利益は800っきり。いつもの半分だ。

 原因を探ってみた。
 どうやら『鍛冶』の【機能】が良くなかったらしい。
 うすうす気づいていたけれど、稼働している世界に適用させるために、世界に合うように自分で調整したのが不味かった。

 わたしの技術は研修時代に三姉さまから学んだものがルーツとなる。だから三姉さまの【機能】を調整することは比較的容易だった。
 しかし『鍛冶』は違った。ルーツが違うのだから彼らの【機能】は別畑。安易に触れてよい物じゃあなかったらしい。
 つまり自業自得……

 改めて失敗しなかった場合の収益を試算してみた。
 ふぅん1200か。
 生物の進化が早く時間効率は優秀なのは認めるが、ちょっといまさら感満載かな。
 わたしの神性がまだ未覚醒ならば、正の属性を目指してやっただろうけど、すでに負の属性持ちですし、人にはそれに合った世界ってのがある。
 灰色の世界、いいじゃないか。
 でもたまにはこんな世界も創ろうかなと少しだけ思った。今度は最初から、【機能】を埋め込んでね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...