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20:妹
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後日、三姉さまが見習いちゃんを連れて現れた。
「あっ仕様書を見ていた子だ」
「あぁ五姉さま! 私のこと覚えていてくれたんですの!」
「えっ五姉さま?」
「あら月姉さまの方がよろしかったですか?」
「いやそうじゃなくて、その、五姉さまってわたしの事かな?」
「もちろんですわ!」
おおおっ、わたしにも妹が、うわぁぁすっごく嬉しい!
我ながら興奮しすぎたようで、ニヨニヨ笑う三姉さまはさっさと帰ってください!
さて今後は三姉さまが作った研修の必須事項を埋めるように指導をしていくのだが、ざっと目を通してみると、教える項目が滅茶苦茶多いことに気づいた。
まってまって。わたしこんなに習ってない。
さては端折ったな? 後で四姉さま、いや二姉さまの方を問い詰めよう。
「改めて、第八位『月』だよ」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
「指導に入る前に一つ聞いていいかな」
「はい、なんでも聞いてくださいませ」
手と手を顔の前で組み祈るような姿勢をとって、ずずぃと迫る妹。
おおぅ近い近い。
大型犬にすり寄られてるみたいだな。
「わたしの研修のとき、最初に天使を創っていたよね。あれはなんで創ったの?」
「五姉さまが創っていらしたからですわ」
はい?
「明確な理由はなくて、わたしが創ったから創ったって聞こえたんだけど」
「その通りですわ。
ですが私の技術ではあそこまで精緻な天使は再現できませんでした。どうぞ愚かな妹とお笑いください」
「ちょ、ちょっとタイム。
えーっと。そうだあの時の天使をあげるから解析を試してみて」
言外に壊していいよと言ったつもり。
天使を大切そうに抱きつつ、ほわぁと興奮で頬を染める妹を残して、三姉さまのところへ転移した。
「三姉さま!」
「『月』いくら姉妹でも不躾よ。先触れくらい出しなさい」
そう言いつつもテーブルに二つのティーセットが準備されていた。つまりわたしが来ることは、とっくに予見されていたってことだ。
「そんな事よりあの子なんなんですか?」
「はぁ。妹というものは『勝利』に染まるものなのかしら。少しは落ち着きなさい。
わたくしは最初に負の属性に傾いていると言ったはずよ。なにを驚くの」
いやあれは負の属性にではなくて、腐。対象はわたしとわたしに関する全般。
「わたしに対して憧れとか盲信を抱いてますよね」
「そうよ。だからわたくしの手には負えないとも言ったわ」
「わたしは四姉さまに染まるでしたっけ。なるほど、いまの三姉さまって二姉さまみたいですね!」
必要なことははぐらかし常にぼかす。
その言葉はさすがに堪えたのだろう、三姉さまは「うぐ」とうめき声を漏らした。
妹の研修はもう引き継いでいるから撤回する気はない。そして三姉さまへの意趣返しも出来たので、満足満足。
わたしはさっさと自室へ戻った。
部屋では妹が天使を椅子のクッションの上に置いて眺めていた。
椅子の上に天使を置いているのだから、彼女の方は地べたに座っていて、肘をつき手を組んだところに顎を乗せ、恍惚とした表情で天使をじぃと見つめている。
「ただいま。……何やってるの、それ?」
「解析していますわ」
それはわたしの知ってる解析じゃあない。なんなら十人中九人がそれ違うっていうだろう。唯一の一人は彼女だけ。
これは前途多難だわ……
妹の研修が進んでいく。
その間にも見習いたちを受け入れて集団研修を行っていた。その度に妹が見習いたちを威嚇するのはどうかと思う。
元の気質が犬に近いため、もはや縄張りに入って来た野良犬を追い払う番犬にしか見えない。多頭飼いが出来ないタイプ。
この妹、緑の大地よりも灰色の大地を好んでいる。この子本当に〝生命〟持ってんの? と甚だ疑問だ。
どれだけ灰色が好きなのだろう。任せた世界の海がほぼ凍っていた。
「ねえ妹よ。この世界の温度設定間違ってないかな」
「もしや海が氷ついていることに疑問がおありですか?
ですが安心してください。この温度設定にすると【信仰】の入りが増すのですわ」
そりゃあ世界の半分が凍ってんだもん。奪い合う食糧も大して多くはないから神にだって祈るよ。
「その【信仰】は一時的だね。その世界が終わったらちゃんと試算するように」
「分かりましたわ!」
困ったことに、返事だけは良いんだよねぇ。
久しぶりに検証世界を創ってみた。
兄貴に渡した『月が降ってくる』やつをヒントに、月の権能で〝重力〟と〝引力〟が使えることに気づいたのだ。
という訳で、月の権能で重力二倍増しの世界を構築。
進化はいつもよりもゆっくりと、だが強い個体が多く現れた。続いて三倍。大型の生物が死滅し、細かな生物が覇権を握った。
数十年に一度、星の横を通る彗星を作成。星が近づくタイミングで死を散布。【信仰】が爆上がりした。しかし死の散布量が多すぎたようで、半数が死滅した。
失敗失敗。
そんな世界を眺める妹は、顔を赤らめて恍惚とした表情を見せていた。わたしは妹が邪神となっても、あの子ならあるよと素直に受け入れるだろう。
紆余曲折はあったが、妹は無事すべての研修を終えた。
先触れの月狼を三姉さまに送る。終焉のとき月を喰らう狼でわたしが好んで使うメッセンジャーである。ちなみに三姉さまのは毛むくじゃらの小さな妖精で、四姉さまのは純白の鷲。まあ四姉さまのは滅多に来ないけどね。
先触れに反応があったので妹を連れて転移。
「研修が終わったのね、お疲れ様。このまま一姉さまに所へいくわよ」
言うが早いか三姉さまの転移に巻き込まれて連れていかれた。一姉さまはどうやら形式だけらしい。反対されることなく、妹は神となった。
習わしで研修で創った世界の半分の【信仰】を。わたしからは二姉さまと同じく500を贈った。たかが500だけども力神の500と大神の500の価値の違いは考慮して欲しい。
さて神になり二つほどの世界の終焉を迎えた妹は、
「氷5:闇3:重力1:その他1ね。
ねえ『月』、あなた研修でいったい何を教えてきたの?」
引力が無いのは不思議だが重力はきっとアレだろう。でも闇と氷は本人の気質だと思うの。ワタシハカンケイナイ。
「ところでその他には何が含まれているんですか?」
「強めに死、弱いめで生命があるわね」
「生命で邪神は回避されますか?」
「知らないわよ!
あと一姉さまから伝言よ。わたくしの生命の【機能】とあなたの死の国の【機能】を譲るように、ですって」
「ええ~っまた死の国ですか。あれ採算が合わないから嫌なんですよ~」
「あら妹から神力を取るの?」
「くっ分かりましたよ! 創ります渡します。
ところで三姉さま、〝生命〟の【機能】をわたしにも融通してもらえませんか?」
「……『月』って性格悪いわよね」
「きっと姉に似たんですよ」
三姉さまをやり込めたあと、預かった生命の【機能】と新たに創った死の国セットを妹に譲った。
「あっ仕様書を見ていた子だ」
「あぁ五姉さま! 私のこと覚えていてくれたんですの!」
「えっ五姉さま?」
「あら月姉さまの方がよろしかったですか?」
「いやそうじゃなくて、その、五姉さまってわたしの事かな?」
「もちろんですわ!」
おおおっ、わたしにも妹が、うわぁぁすっごく嬉しい!
我ながら興奮しすぎたようで、ニヨニヨ笑う三姉さまはさっさと帰ってください!
さて今後は三姉さまが作った研修の必須事項を埋めるように指導をしていくのだが、ざっと目を通してみると、教える項目が滅茶苦茶多いことに気づいた。
まってまって。わたしこんなに習ってない。
さては端折ったな? 後で四姉さま、いや二姉さまの方を問い詰めよう。
「改めて、第八位『月』だよ」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
「指導に入る前に一つ聞いていいかな」
「はい、なんでも聞いてくださいませ」
手と手を顔の前で組み祈るような姿勢をとって、ずずぃと迫る妹。
おおぅ近い近い。
大型犬にすり寄られてるみたいだな。
「わたしの研修のとき、最初に天使を創っていたよね。あれはなんで創ったの?」
「五姉さまが創っていらしたからですわ」
はい?
「明確な理由はなくて、わたしが創ったから創ったって聞こえたんだけど」
「その通りですわ。
ですが私の技術ではあそこまで精緻な天使は再現できませんでした。どうぞ愚かな妹とお笑いください」
「ちょ、ちょっとタイム。
えーっと。そうだあの時の天使をあげるから解析を試してみて」
言外に壊していいよと言ったつもり。
天使を大切そうに抱きつつ、ほわぁと興奮で頬を染める妹を残して、三姉さまのところへ転移した。
「三姉さま!」
「『月』いくら姉妹でも不躾よ。先触れくらい出しなさい」
そう言いつつもテーブルに二つのティーセットが準備されていた。つまりわたしが来ることは、とっくに予見されていたってことだ。
「そんな事よりあの子なんなんですか?」
「はぁ。妹というものは『勝利』に染まるものなのかしら。少しは落ち着きなさい。
わたくしは最初に負の属性に傾いていると言ったはずよ。なにを驚くの」
いやあれは負の属性にではなくて、腐。対象はわたしとわたしに関する全般。
「わたしに対して憧れとか盲信を抱いてますよね」
「そうよ。だからわたくしの手には負えないとも言ったわ」
「わたしは四姉さまに染まるでしたっけ。なるほど、いまの三姉さまって二姉さまみたいですね!」
必要なことははぐらかし常にぼかす。
その言葉はさすがに堪えたのだろう、三姉さまは「うぐ」とうめき声を漏らした。
妹の研修はもう引き継いでいるから撤回する気はない。そして三姉さまへの意趣返しも出来たので、満足満足。
わたしはさっさと自室へ戻った。
部屋では妹が天使を椅子のクッションの上に置いて眺めていた。
椅子の上に天使を置いているのだから、彼女の方は地べたに座っていて、肘をつき手を組んだところに顎を乗せ、恍惚とした表情で天使をじぃと見つめている。
「ただいま。……何やってるの、それ?」
「解析していますわ」
それはわたしの知ってる解析じゃあない。なんなら十人中九人がそれ違うっていうだろう。唯一の一人は彼女だけ。
これは前途多難だわ……
妹の研修が進んでいく。
その間にも見習いたちを受け入れて集団研修を行っていた。その度に妹が見習いたちを威嚇するのはどうかと思う。
元の気質が犬に近いため、もはや縄張りに入って来た野良犬を追い払う番犬にしか見えない。多頭飼いが出来ないタイプ。
この妹、緑の大地よりも灰色の大地を好んでいる。この子本当に〝生命〟持ってんの? と甚だ疑問だ。
どれだけ灰色が好きなのだろう。任せた世界の海がほぼ凍っていた。
「ねえ妹よ。この世界の温度設定間違ってないかな」
「もしや海が氷ついていることに疑問がおありですか?
ですが安心してください。この温度設定にすると【信仰】の入りが増すのですわ」
そりゃあ世界の半分が凍ってんだもん。奪い合う食糧も大して多くはないから神にだって祈るよ。
「その【信仰】は一時的だね。その世界が終わったらちゃんと試算するように」
「分かりましたわ!」
困ったことに、返事だけは良いんだよねぇ。
久しぶりに検証世界を創ってみた。
兄貴に渡した『月が降ってくる』やつをヒントに、月の権能で〝重力〟と〝引力〟が使えることに気づいたのだ。
という訳で、月の権能で重力二倍増しの世界を構築。
進化はいつもよりもゆっくりと、だが強い個体が多く現れた。続いて三倍。大型の生物が死滅し、細かな生物が覇権を握った。
数十年に一度、星の横を通る彗星を作成。星が近づくタイミングで死を散布。【信仰】が爆上がりした。しかし死の散布量が多すぎたようで、半数が死滅した。
失敗失敗。
そんな世界を眺める妹は、顔を赤らめて恍惚とした表情を見せていた。わたしは妹が邪神となっても、あの子ならあるよと素直に受け入れるだろう。
紆余曲折はあったが、妹は無事すべての研修を終えた。
先触れの月狼を三姉さまに送る。終焉のとき月を喰らう狼でわたしが好んで使うメッセンジャーである。ちなみに三姉さまのは毛むくじゃらの小さな妖精で、四姉さまのは純白の鷲。まあ四姉さまのは滅多に来ないけどね。
先触れに反応があったので妹を連れて転移。
「研修が終わったのね、お疲れ様。このまま一姉さまに所へいくわよ」
言うが早いか三姉さまの転移に巻き込まれて連れていかれた。一姉さまはどうやら形式だけらしい。反対されることなく、妹は神となった。
習わしで研修で創った世界の半分の【信仰】を。わたしからは二姉さまと同じく500を贈った。たかが500だけども力神の500と大神の500の価値の違いは考慮して欲しい。
さて神になり二つほどの世界の終焉を迎えた妹は、
「氷5:闇3:重力1:その他1ね。
ねえ『月』、あなた研修でいったい何を教えてきたの?」
引力が無いのは不思議だが重力はきっとアレだろう。でも闇と氷は本人の気質だと思うの。ワタシハカンケイナイ。
「ところでその他には何が含まれているんですか?」
「強めに死、弱いめで生命があるわね」
「生命で邪神は回避されますか?」
「知らないわよ!
あと一姉さまから伝言よ。わたくしの生命の【機能】とあなたの死の国の【機能】を譲るように、ですって」
「ええ~っまた死の国ですか。あれ採算が合わないから嫌なんですよ~」
「あら妹から神力を取るの?」
「くっ分かりましたよ! 創ります渡します。
ところで三姉さま、〝生命〟の【機能】をわたしにも融通してもらえませんか?」
「……『月』って性格悪いわよね」
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