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32:邪神
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なぜだろう、最近一姉さまの様子がおかしいような?
もともと感情を出す人ではなかったけれど、前と今ではその理由が大きく違っているような気がする。
前は心の中の野心をひた隠し、されど爪を研いで準備は怠らなかった。しかし今は目標を見失ったかのように無気力で、心ここに非ずの状態にみえる。
階位が上がると必然と上神の話がより多く聞こえてくるようになる。
下神の頃は一部例外を除き、彼らの人数だけを知っていた。
いまは一姉さまの階位が上がったので内訳が変わっているが、当時は、熾神一人で智神は三人、座神が五人の計九人だった。
そして中神になったら智神の神性が聞こえてくるようになった。でも座神の方は朧気であの人は光系統とか、聖が強いとかそんな感じ。
ちなみに〝太陽〟に〝冥府〟、そして〝知恵〟だそうだ。最近上がったばかりの一姉さまは今だ朧気。
ここで感じる違和感は、驚くほど熾神の情報がないことだろう。
熾神が唯一人という情報以外、何を司るのかはおろか、男神なのか女神なのかも判っていない。『能』の間では本当に居るのかと存在すら危ぶまれ囁かれている。
だが居ないなんて絶対ない。
わたしは智神の『太陽』に会ったことがある。座神も、今は違うけれど一姉さまや、もう一人の『月』にだって会っている。
その三人の誰よりも大きく強い神力が、ここ神界には渦巻いているのだ。あまりにも膨大、きっとこれが熾神の神力だろう。
これを感じられるようになったのはつい最近。二番手だった『主』から簒奪した神力が馴染んだことでやっと解るようになった。
まるで空気のように、蔓延し至極当然のようにこの場に存在していたから、これが誰かの神力だなんてとても思わなかった。
これと並ぶと熾神になれる?
いや無理だ。神々全員が一つにでもならない限り、この神力と並ぶことはないだろう。
『主』を簒奪したわたしが気づくくらいだから、その上に居た一姉さまだって気づいていただろう。
そしてわたしの知る一姉さまは、これを知ってもなお、智神で満足して止まるような性格はしていない。腹に真っ黒い一物を抱えつつそれを隠し通す野心家。さすがは我が姉だなと、邪神になりかけたわたしも舌を巻いていたのに……
一姉さま、いったい何があったんですか?
『能』に上がってしばらく、知らない神から先触れがあった。それは牙の生えたカラスの白骨で、それを平然と送ってきた神の頭を疑う。
……いや待って。
送り主はなんと智神だったので、先ほどの発言は無かったことにして欲しい。
一姉さまを抜いた三人の智神のうち、面識経験のあるのは『月』と相互の運命を持つ『太陽』だけだ。
他の二人で知っているのは、最近知ったばかりの神性だけ。そして今回先触れを出してきたのは邪神と名高い『冥府』の方だった。
最高位の邪神が『冥府』である。
もしわたしに〝聖〟が芽生えなかったなら、一姉さまの元を追われて『冥府』にお世話になる未来もあっただろうか?
ちなみに先触れの内容は「用事がある、来い」だった。
拒否権?
そんなのあるわけないっしょ。
邪神『冥府』は耳の長い褐色の中年の男だった。
三柱の男神のうち二柱が褐色肌って……智神大丈夫か?
まあ今回はワセリンがないだけマシかもだけどさ。
鼻に引っ掛けた黄いろ色の薄いサングラスが、昔やんちゃをしていたっぽいチョイ悪おやじ風味を足している。髪は短髪、色はいぶし銀で、側頭部には黒光りする牛のような角が生えていた。羊頭の悪魔とは違うアピールかしら。
姿は神性に引っ張られるはずなので『冥府』の印象がこれってことかな?
いや。ほんとうに引っ張られるのかなぁ?
太陽=『太陽』ってのが、どうにもちょっと怪しいと思ってる今日この頃。日焼けが太陽なわけがないだろうに。
きっと智神になると姿だって変えられるんじゃないかなぁ、知らんけど。
「はじめまして第六位『月』です。
お呼びになりました?」
「おお来たか。わりぃな急に呼んじまって」
めっちゃ砕けた口調で油断しそうになるが、相手は最高峰の邪神だ。気を引き締めて当たりたい。
人の気を知ってか知らずか、邪神さまはニッと口角を上げると虚空に穴を開いて無造作に手を突っ込み、そこから何かを取り出した。
えーと【機能】かな?
んんっ待って。
なんかその【機能】見覚えあるような……
「これオメエが創ったんだってな。座んとこの【機能】は使えねえのばっかだが、オメエが創ったこれはイイぜ。実に気に入った!」
ああっ完全に思い出したわ!
あれバザーに出して売れ残った『死の国セット』の【機能】だ! あの後、豊穣ちゃんに上げたはずなのに、なんでここにあるの!?
「えーと確かにわたしが創りましたけど、全然売れなくて処分に困ったといいますか……その……」
「そりゃあオメエ、売り先が間違ってたんだろうよ。
いーかこう言うのはオレんとこ持ってこねえとダメだぜ」
無茶言わないでほしい、当時のわたしにそんな伝手はない。ついでに言うと現在進行形で邪神と関わりたくないです。
早く帰らせて……
その後は死の国セットの大量注文と、【冥府】と【秩序】の【機能】を貰った。驚くことに〝冥府〟の権能は【死・冥府・秩序・常闇】だそうで、二つもわたしと被ってた。
〝月〟のわたしが【常闇】持ちだと判ると態度がさらに軟化して、「アニキと慕ってくれてもいいぜ」と言われた。
兄貴とアニキ、言葉は同じだけど意味合いは全然違うヤツ。
うん邪神がアニキはないわー
「ええっと。お言葉は大変嬉しいのですが、実はもう太陽神を兄として慕っておりますので。申し訳ございません」
体よく〝太陽〟を持ち出して断ったら舌打ちされた。
その舌打ちの相手って兄貴ですよね? 頼むよ!?
もともと感情を出す人ではなかったけれど、前と今ではその理由が大きく違っているような気がする。
前は心の中の野心をひた隠し、されど爪を研いで準備は怠らなかった。しかし今は目標を見失ったかのように無気力で、心ここに非ずの状態にみえる。
階位が上がると必然と上神の話がより多く聞こえてくるようになる。
下神の頃は一部例外を除き、彼らの人数だけを知っていた。
いまは一姉さまの階位が上がったので内訳が変わっているが、当時は、熾神一人で智神は三人、座神が五人の計九人だった。
そして中神になったら智神の神性が聞こえてくるようになった。でも座神の方は朧気であの人は光系統とか、聖が強いとかそんな感じ。
ちなみに〝太陽〟に〝冥府〟、そして〝知恵〟だそうだ。最近上がったばかりの一姉さまは今だ朧気。
ここで感じる違和感は、驚くほど熾神の情報がないことだろう。
熾神が唯一人という情報以外、何を司るのかはおろか、男神なのか女神なのかも判っていない。『能』の間では本当に居るのかと存在すら危ぶまれ囁かれている。
だが居ないなんて絶対ない。
わたしは智神の『太陽』に会ったことがある。座神も、今は違うけれど一姉さまや、もう一人の『月』にだって会っている。
その三人の誰よりも大きく強い神力が、ここ神界には渦巻いているのだ。あまりにも膨大、きっとこれが熾神の神力だろう。
これを感じられるようになったのはつい最近。二番手だった『主』から簒奪した神力が馴染んだことでやっと解るようになった。
まるで空気のように、蔓延し至極当然のようにこの場に存在していたから、これが誰かの神力だなんてとても思わなかった。
これと並ぶと熾神になれる?
いや無理だ。神々全員が一つにでもならない限り、この神力と並ぶことはないだろう。
『主』を簒奪したわたしが気づくくらいだから、その上に居た一姉さまだって気づいていただろう。
そしてわたしの知る一姉さまは、これを知ってもなお、智神で満足して止まるような性格はしていない。腹に真っ黒い一物を抱えつつそれを隠し通す野心家。さすがは我が姉だなと、邪神になりかけたわたしも舌を巻いていたのに……
一姉さま、いったい何があったんですか?
『能』に上がってしばらく、知らない神から先触れがあった。それは牙の生えたカラスの白骨で、それを平然と送ってきた神の頭を疑う。
……いや待って。
送り主はなんと智神だったので、先ほどの発言は無かったことにして欲しい。
一姉さまを抜いた三人の智神のうち、面識経験のあるのは『月』と相互の運命を持つ『太陽』だけだ。
他の二人で知っているのは、最近知ったばかりの神性だけ。そして今回先触れを出してきたのは邪神と名高い『冥府』の方だった。
最高位の邪神が『冥府』である。
もしわたしに〝聖〟が芽生えなかったなら、一姉さまの元を追われて『冥府』にお世話になる未来もあっただろうか?
ちなみに先触れの内容は「用事がある、来い」だった。
拒否権?
そんなのあるわけないっしょ。
邪神『冥府』は耳の長い褐色の中年の男だった。
三柱の男神のうち二柱が褐色肌って……智神大丈夫か?
まあ今回はワセリンがないだけマシかもだけどさ。
鼻に引っ掛けた黄いろ色の薄いサングラスが、昔やんちゃをしていたっぽいチョイ悪おやじ風味を足している。髪は短髪、色はいぶし銀で、側頭部には黒光りする牛のような角が生えていた。羊頭の悪魔とは違うアピールかしら。
姿は神性に引っ張られるはずなので『冥府』の印象がこれってことかな?
いや。ほんとうに引っ張られるのかなぁ?
太陽=『太陽』ってのが、どうにもちょっと怪しいと思ってる今日この頃。日焼けが太陽なわけがないだろうに。
きっと智神になると姿だって変えられるんじゃないかなぁ、知らんけど。
「はじめまして第六位『月』です。
お呼びになりました?」
「おお来たか。わりぃな急に呼んじまって」
めっちゃ砕けた口調で油断しそうになるが、相手は最高峰の邪神だ。気を引き締めて当たりたい。
人の気を知ってか知らずか、邪神さまはニッと口角を上げると虚空に穴を開いて無造作に手を突っ込み、そこから何かを取り出した。
えーと【機能】かな?
んんっ待って。
なんかその【機能】見覚えあるような……
「これオメエが創ったんだってな。座んとこの【機能】は使えねえのばっかだが、オメエが創ったこれはイイぜ。実に気に入った!」
ああっ完全に思い出したわ!
あれバザーに出して売れ残った『死の国セット』の【機能】だ! あの後、豊穣ちゃんに上げたはずなのに、なんでここにあるの!?
「えーと確かにわたしが創りましたけど、全然売れなくて処分に困ったといいますか……その……」
「そりゃあオメエ、売り先が間違ってたんだろうよ。
いーかこう言うのはオレんとこ持ってこねえとダメだぜ」
無茶言わないでほしい、当時のわたしにそんな伝手はない。ついでに言うと現在進行形で邪神と関わりたくないです。
早く帰らせて……
その後は死の国セットの大量注文と、【冥府】と【秩序】の【機能】を貰った。驚くことに〝冥府〟の権能は【死・冥府・秩序・常闇】だそうで、二つもわたしと被ってた。
〝月〟のわたしが【常闇】持ちだと判ると態度がさらに軟化して、「アニキと慕ってくれてもいいぜ」と言われた。
兄貴とアニキ、言葉は同じだけど意味合いは全然違うヤツ。
うん邪神がアニキはないわー
「ええっと。お言葉は大変嬉しいのですが、実はもう太陽神を兄として慕っておりますので。申し訳ございません」
体よく〝太陽〟を持ち出して断ったら舌打ちされた。
その舌打ちの相手って兄貴ですよね? 頼むよ!?
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