下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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38:中一位交流会①

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 部屋に一通の封書が届いた。

【中一位交流会のご案内】


 こんなのあったなぁと独り言ちる。
 昇格が早すぎて下二位に参加した以来、今回が三度目。参加しても切磋琢磨した同期なんて誰もいやしないし、早すぎる昇格をやっかまれるのが目に見えている。
 う~ん前も思ったけど、これ強制かしら?
 なんとかして断る方法はないかと模索を始めたところで空間が揺れた。
 転移だ。
 先触れなしでやってくる人なんて、二姉さまか四姉さま、おっと忘れちゃいけない『環』がいたなっと。姉妹の半数かぁ、三姉さまの苦労が知れるわ。

「やっ」
 褐色肌に赤い瞳と髪。転移してきたのは二姉さまだった。
「二姉さま、先触れがありませんよ」
「うわぁ~『月』まで『大地』みたいなこと言わないでよ!」
 やっぱり言ってるんだ。三姉さまもっと頑張って!

「それで何の用ですか?」
「それだよそれ! 当然行くよね~!?」
 はしたなくも二姉さまが指差してきたのは、わたしが手にしていた交流会の封書だ。
「ああこれですか。いまどうやって断るか考えているところです」
「うんうん断りの文面~って、断ったらダメでしょ!
 『月』はウチと一緒にいくの!」
「えー嫌ですよ」
「あのね。ウチって姉妹みんなとは階位離れてるじゃん。
 だからみんなと一緒にお出かけしたことなくてね。今回のすご~く楽しみにしてたんだよね。ダメ? かなぁ~」
 うぐ、その言い方はズルい。まるでわたしが悪者みたいじゃあないか。
「あーもう! 分かりました。行けばいいんでしょう行けば!」



【中一位交流会 会場】

 中一位の会場は、大広間だった下神会場と違って普通の部屋だった。中央には円卓が置かれていて八つの椅子が準備されている。雰囲気はまんま会議室。

 部屋にはすでに三人の神が座っていて、わたしと二姉さまに視線を向けている。
 じろじろ見られるのは居心地が悪い。さっさと座ろう。
 えーとどこに座ろうかな……
 視線を彷徨わせてすぐに気づく、テーブルにカードサイズの紙が置いてあり、そこに神性なまえが書いてあった。
 〝月〟を探して席に着くと、〝白炎にねえさま〟は隣だったようで大変心強い。

 席に座りざっと周りを確認する。
 先にいた三人は、白い中着と黒い上着を纏った清潔感あるアラサー風の男神と、黒いローブ姿に白い髭が豊かなお爺ちゃん、こちらも当然男神だ。最後の一人は純白のドレスを纏った金髪の若い女。えーとなになに、『調和』に『魔術』で、げっ『処女』じゃん。
 うわぁ面倒なの居たわー

 決してその白いいで立ちが羨ましかったわけじゃあない。
 〝愛〟や〝安産〟に〝豊穣〟そして〝欲望〟などを謡わなければ、ほとんどの女神は処女のまま終わるのが常……よね?
 それをわざわざ神性で発現するってどーなのよ。それともなにか? わたしが少数派だっての!?


「ふんっ挨拶もないなんて礼儀を知らないわね」
「やめたまえ」
 最初の台詞が『処女』で次の台詞が『調和』だ。〝調和〟を司るだけあって波風は立てないタイプなんだろう。ちなみに『魔術』の正式名称は『学問(魔術)』といって、以前ご縁があった歌さんと同じく派生タイプ。学問系統の神様は自分の題材以外に興味を示さない傾向にあるので、無関心が平常運転になる。
 いやお爺ちゃんだし寝てるのかも……?

 それにしても『処女』よ。いい度胸しているな。温厚なわたしはともかく、二姉さまはイケイケの脳筋なのでその喧嘩買っちゃうぞ?
 しかし予想に反して二姉さまはすんっとして大変静かでいらっしゃる。
「ん~なに?」
「いえなにも」
「『月』って喧嘩買わないタイプなの~?」
「買いませんよ。二姉さまこそいいんですか、舐められてますよ」
「だって『月』に言ったんじゃん。姉だからってウチがしゃしゃり出るのはおかしいっしょ」
「あの言い方だと二姉さまも対象だと思いますけど?」
「ハァ~? そんな訳ないよね~『処女」ぅ~?」
「あらあら。なり立ての『主』が妹の前だからって粋がらない方がいいわよ」
 二姉さまの言葉に対して、『処女』が圧を高めてきた。同じ階位でも中一位ともなれば上下の幅はとても広い。なんせ次の階位に上がるには大体十倍ほどの神力が必要となるのだからね。
 少し前に上がったばかりの二姉さまより『処女』の方が圧が強いのも仕方がない。しかし姉がやり込められて黙っていられるほどわたしは無関心ではない。

「あんたこそ先に上がった程度で粋がらない方がいいよ」
 わたしは抑えていた神力を一気に開放した。奪った『主』に加えて自ら蓄えてきた神力量は、わたしの予測によると『座』とほぼ同等だ。
 一瞬で『処女』の顔が青褪めた。ついでに『魔術』も。
 あっお爺ちゃん起きてたんだ。


 その時部屋の扉が開いた。
 入ってきたのは赤みかかった短髪を逆立てた筋肉粒々の青年だ。
「おおっおもしれーことやってんじゃねえか。オレ様も混ぜろや」
 部屋の中のただならぬ様子をすぐに察した彼は、オオカミのように伸びた八重歯を見せてニィと嗤った。
「『月』よ。私が代わりに謝罪するからここは退いてほしい。それから『破壊』、お前もだ。やめろ」
「おおっあんたが『月』か! アニキから話は聞いてるぜぇ! ヨロシクな!」
 『破壊』と言えば邪神だ。その彼が言うアニキは兄貴たいようではなく『冥府』に違いない。上三位『座』に邪神はいないから中一位『破壊』が邪神のナンバー2に相違あるまい。
 ねえ、最近のわたしって邪神に縁がありすぎじゃあない?


 さてその『破壊』だが、彼はテーブルの紙をみて示された席に向うと、なんとわたしの隣の紙とそれを入れ替えやがった。
 そして堂々とわたしの隣に座ったのだ。
 白い髭豊かな『魔術』は無関心。憎々しげにこちらを睨む『処女』と、こんな時に限って何も言わない『調和』はもっと空気読め。
 ほらほら~場の空気乱れてますよ? 『調和』さん、ちゃんと整えて! 仕事さぼらないで!

 残りの二人は同時に現れた。
 オオカミヘッドを被った半裸の大男と、青地に白のレースを波のようにあしらったドレスを着た女神。前者は『動物』、後者は『海』だってさ。
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