下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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42:強か

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 バザール当日。
 会場に赴くと、入り口に統括の『秋』が立っていた。
「お仕事ご苦労様ですー」
 ぺこりと一礼。脇を抜けようとしたら軽くブロックされた。その表情は必死だ。
 どーした『秋』よ?
「ブースまでご案内します」
「いやいや忙しいでしょう。場所を教えてくれたら勝手に行きますよ」
「いえ! 大丈夫です。この日のために開けておきましたので!」
 あ、そうですか。
 統括自ら案内するとかVIP待遇過ぎません?

 無下に断るのもアレかと、彼の後ろについていくことに決めた。
 まず入り口を、……潜らず。ずぅっと左に迂回し、出店されている広場の端、要するに出店ブースの裏側を通り抜けていく。
 通行途中に、何が売っているかざっと見ておきたかったのだがその目論見は消えた。まあさっき入り口でパンフを貰ったから後でチェックすることにしよう。

 皆が背を向けているはずの裏手を歩いているのだが、どうしてか妙に視線をビシバシ感じる。さすがに気になり視線を向ければ露骨に視線を反らされ、タイミングを逃した者らは青褪め震えだした。
 青褪めている時点で好意的な視線ではないらしい。
 あれか。もしかして神力ちからの抑え方が甘いのかも。よーし普段より気合を入れて抑えるぞー
 何故か『秋』が冷や汗をかきながら振り返ってきたので、にっこり微笑んでおく。

 ついに広場の一番奥に辿り着いた。
 現在の位置は入り口から見て左奥の一角だ。ここがわたしのブースだろうか?
 しかし『秋』の足は止まらない。
 広場左奥から延びる細っそい遊歩道に入り、一分にも満たないほんの少しを歩いたら、ちょっと開けた場所が現れた。

 まさか、ね?
 しかしその開けた場所に、出品ブースを示すシートが4つ敷かれていたのだ。ついでに言うとすでに2つのブースは埋まっている。

「よおっ『月』さん。久しぶりだな」
「『月』ちゃん~ううぅ~もう!!」
 苦笑を漏ら前者は顔見知りの『鍛冶』で、涙目&怒り顔と言う珍しい表情の後者は『豊穣』ちゃんだった。
「『月』神さまはあちらでお願いします」
 そう言いつつ開いているブースの片方を指す『秋』。

 おおぅ立地悪っ!
 案内なしでここまで来る人は絶対に居ないだろう。まさかなーと先ほど貰ったばかりのパンフを確認すると、ちゃんとここも書いてある。ちなみにそのパンフによると最後の四人目は〝第九位『愛』〟らしい。第九位『無』において神性は早い者勝ち、ひとりで愛を発現させたうちの『愛』はまだ昇格していないので彼女に違いない。
 『鍛冶』と『豊穣』、そして『愛』って知り合いばっかりじゃん。

「これはどう言うことかな。申し込みが遅かったからじゃあないよね?」
 それなら体よく知り合い四人が集まるわけがない。
「いえその……」
 『秋』がチラチラと『豊穣』ちゃんに視線を送っている。
 そりゃああの子の胸部装甲は男性の目を引くだろうけれども! いまは流石に失礼じゃないかなぁ?
「『月』ちゃんの所為に決まってるじゃん!」
 ええっ『豊穣』ちゃんが何故かこっちにキレたぞ。

「ど、どういうこと」
「いーい。バザールって伝手の少ない下神のための催しなんだよ? そこに第四位『主』が参加したらどーなると思う!?」
「凄い伝手が出来るかもーと思うよ」
「ふうん。ねえ今の『月』ちゃんの神力っていくつ?」
「えーっと1300万くらい……です」
 あーだんだん分かってきたぞ……

「じゃあ質問するね。『月』ちゃんが『無』の頃にそれと出会ったらどう思う」
 いまの神力は当時の一姉さまとほぼ同じはず。当時のわたしは……
「恐れ慄きます……」
「出店場所に一人だと可哀そうだからって、巻き込まれたあたしたちに何か言うことない?」
「ごめんなさい。以後気を付けます」
「ちなみに値段は普通なんだよね?」
「うんそれは大丈夫。前と変わらず『無』や『大』でも買えるようにしてるよ」
「じゃあいい。今回は許す」
 普段温厚な人ほど怒ると怖いというのは本当だと思った。


 大物なのか開始ギリギリにも拘らず、おっとり足でやってきた『愛』はバザールの開催挨拶中に準備を終えた。
「ギリギリじゃん。気を付けなよ」
「月先生知っていますか? 偉い人の挨拶は無駄に長いと相場が決まってるんですよ。ボクはその無駄を有効活用したんです」
 そう言って『愛』はえっへんと薄い胸をはった。
 言い訳のレベルが四姉さまみたいだな。どうしてこんな子に育ったんだろう?

 さてバザールだが。
 客は来る。しかし彼らは遊歩道から出てくることはなく、青褪めつつUターンを繰り返している。
 侵入率は脅威の〇%で、待機時間の最長は二.三秒とすこぶる短い。
「ねえ『月』ちゃん? あたしが売り子やるから消えてくれないかなー」
 酷い……
 ちなみに『秋』もずっとここに居て、わたしが出歩こうとすると、別の管理者を呼び、これに用事を言いつけてくれと懇願していた。
 お花を摘む用事は流石に変われません。

 バザール開始から早二時間。ついに一人目の客がやってきた。
「ご・ね・え・さ・まー!!! 『環』が来ましたわ!」
 前言撤回。これは客じゃない。
 だってわたしに抱き着くためにブースに入り込もうとしてんだもん。
「関係者以外ブースに入らないよーに。
 ほら出た出た。そんで何しに来たの?」
「あら私がバザールに参加したらおかしいですか?」
「おかしくはないけど……」
「こほん。
 店主、棚のそこからここまで、全部買いますわ」
 青空天井のバザールだから棚なんてないが、ブースの端から端までと言う意味と取れば理解できる。
 要するに全部くれだ。

「お一人一種につき一品まででお願いします」
「えー! 横暴です! 『環』は全部欲しいんですー!」
「あっなるほど。
 ねえ月先生、ボクに一つずつ売ってください」
「いいよ、毎度~」

「『環』さん。いま買った月先生の【機能】を譲ります・・・・から、ボクの【機能】を買っていきませんか」
「もちろん全種類買いますわ!」
「ちょ転売は……」
「チッチ。月先生違います。これは転売ではありません。
 だってボクは月先生の機能で代金は頂いていませんからね」
 強かと言うべきだろうか、確かにそうだけども。
 初めて売れた~と『愛』が嬉しそうなので、注意しにくい。だってこんな僻地なブースに押し込まれたのも、そもそもわたしの所為だしなぁ。
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