下っ端から始まる創造神

夏菜しの

文字の大きさ
43 / 44

43:司るということ

しおりを挟む
 同じ手口でわたしの【機能】全種を五つ手に入れた『環』はホクホク顔を見せている。ちなみに五つの内訳はわたし以外のこの場のメンバー+自分の分+『秋』だ。『環』のやつ、恐れ多くも『能』神から脅し取ったのだ。
 いやあ末恐ろしい妹だね。末っ子だけに。

「ねえ『環』、わたしのブースの売り子やらない?」
「むむむっ五姉さまのお店の番ですか、とても魅力的なお誘いですわね」
「報酬は、そうだな。そこにある【機能】を一つずつでどう?」
 売れ残った【機能】全部と言いかけたが、そうするとこの子は品を売らずに客を追い返すに決まってる。
「私が売り子をやっている間、五姉さまはどちらにいらっしゃるのです?」
「少し離れたところで待ってる」
 本当は完全に離れる方が良いのだけど、それをすると『環』はきっとここを去るだろうし、この辺が折衷案だよねー
「……わかりました。五姉さまたってのお願いです。お受けいたしましょう」
「じゃあお願いね」
「はい! 『環』にお任せください!」


 『秋』はブースが何とか見えるくらいの場所にテーブルを準備してくれた。紅茶とジャム、そしてお茶菓子付き。
 ちなみに同席はしていない。
 最初に勧めて座らせたら『環』から邪念のようなものが飛んできたから。放っておけば彼女は〝重力〟持ちなので念はやがて物理に変わるだろう。


 わたしが離れると四つっきりの区画だけどバザールらしさが見えるようになった。
 遠目にそれを見ていると
「羨ましいのですか?」
「まあそうだね。わたしはあのくらいの時期がとても短かったからさ」
「滅多に起きないことだと聞きましたよ」
「わたしもそう思ってたよ」
「今はそう思っていないと?」
「あれ、そういう風に聞こえた。勘違いさせちゃったかな。ごめんね」
 嘘だ、いまは違うと確信している。
 だけど彼にそれを伝える必要なんてない。



 バザールの残り時間もあと二時間ほどとなった。見ていないけれど、完売しているブースもいくつか出ていることだろう。
 立地もスタートも悪かったが『愛』のブースもあと二つ売れたら完売らしいしね。
 うちを含めて三人は完売には程遠く、ここから完売はまず不可能だ。
 品数多すぎたかな~と反省していると、『愛』のブースに表情を険しくした女神が怒鳴り込んできた。

「『秋』神、揉め事のようですよ」
「ええもちろん見ていましたが、すこし静観させてください。事情を知りたい」
 この距離だ、止めに入るのはすぐにできる。
 それよりも揉め事の理由を知っておきたい気持ちはよく分かる。

 ……のだけど。
「ダメですね。悪いけどわたしが行きます」
「ついていきます、いえ。ついて行かせてください」

 血相を変えて乗り込んできた女神。それに遅れてのんびりやってきたのは、最近知り合ったばかりの第四位『処女』だった。



 『処女』はわたしが現れると舌打ちを漏らした。対して乗り込んできた女神は真っ赤から真っ青に変わる。
「久しぶり、うちの『愛』に何か不手際でもあった?」
「お久しぶりね。その子、わたくしの眷属『誠実』に不良品の【機能】を売りつけたのよ。どういう頭の構造をしてるのかと思ったけれど、貴女を見て納得したわ」
「あっそ。納得したなら帰りなよ」
「っ!?
 ねえ、貴女。〝愛〟をなんだと思ってるの」
 『愛』は第四位『主』に睨まれて委縮している。
 緊張を解すためというか、わたしは『愛』の肩に手を置いて、彼女しょじょに対抗すべく神力を送った。すると血の気を失っていた『愛』の顔に赤みが差した。

「ボクにとって愛は自由で永遠です」
「で、でも! そ、その相手が複数いるなんて不純だわ!
 そんなの〝誠実〟じゃあない!」
 あーこの子『誠実』だっけ。なんだか事情が分かったような気がするなぁ。

 うちの『愛』は、浮気こそ死だが、本気なら何人でもOKと言う極端な世界観を持っている。無機質もOKほどぶっ飛んではいないが、普通・・として語れば〝ただ一人を永遠に愛す〟の方だろう。
 『愛』が売った【機能】には当然〝愛〟の権能が使われているのだけど、彼女の世界観のまま、多数OKだったのだと思う。
 それが『誠実』には許せなかったと……
 ついでに『処女』も……

「ふふふっ寄り親が売女ばいただから、汚らわしいハーレムのような思想を持つのですわ。貴女の眷属の店だと知っていたなら、最初から足は運ばなかったと言うのに」
「ボクはともかく、月先生まで馬鹿にしないでください!」
「よく言ったわ『愛』! さすがは私の妹弟子ですの!
 『処女』神、あなたは今日から私の敵ですわ!」
「『権』にさえなっていない下神が吠えるな!」
 『処女』の圧が増した。『環』は一瞬耐えたが、すぐに膝を屈する。
「はいそこまで。『処女あんた』やり過ぎ」
 こちらも圧を高めて相殺して消してやった。難なく消された『処女』は悔しそうに顔をしかめ、『誠実』の方はわたしを見て震え始めた。寄り親が簡単に負けるとこ見たんだからこれは仕方ないだろう。

「あろうことかこのわたくし、第四位『処女』に喧嘩を売ったのよ!
 態度を改めさせるのは当然だわ!」
「あーもう。処女処女煩いなぁ。
 そもそもさ、豊穣や欲望、それから安産なんて神以外、女神だったら大体処女に決まってんじゃん。それを偉そうに権能なんかにして、恥ずかしくないの?」
 左の方で『豊穣』ちゃんが『あたしは違う~』と首を振っている。風評被害みたいになっちゃったね、ごめんね。

「な、なにを馬鹿なことをっ!?
 司るものと結果的に処女では意味合いが違いますのよ? だってわたくしは権能を持っているのですもの」
 おおぅめっちゃ動揺してんだけど、煽ったこっちがびっくりだよ。

 権能ねぇ……
 えーと〝処女〟の権能は【純愛・貞節】だったっけ? 幸い〝純愛〟ならば『愛』が持っている。
 当人には劣ると言うから創ろうとも思わなかったけれど、眷属の権能は自由に使えるってのは以前三姉さまから聞いている。
 今回が初体験、失敗したら恥ずかしいから基礎も基礎のやつ。そしてうちの『愛』なら絶対に創らないだろう、〝ただ一人を愛したものに加護を与える〟だけの【機能】を創ってやった。

「ほらこれでいーい? 諍いの原因はこれで解決ね」
「は? え? それは……」
「〝純愛〟の権能だけど。あれぇ~もしかして存在意義見失っちゃった?」
 煽り口調で言ってやったら、ほんとうに『処女』の姿が揺らぎ始めた。
 えっなんで!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...