下っ端から始まる創造神

夏菜しの

文字の大きさ
44 / 44

44:第一位『熾』

しおりを挟む
 ブラックアウト二度目。
 意識を失っていた時間は前回に比べると格段に短かったのだけど、現在進行形でわたしは何もない空間に隔離されていた。
 権能が違う神が、消滅して吸収されたのは前代未聞で、なんでも取り込むと危険視されているのだと思う。

 手持ちの権能は〝処女〟が加わり【純愛・貞節・美】が増えている。
 なんで〝美〟?
 求められてなお純潔であれってこと? つまり誰も見向きもしない雑草は認めないって意味だろうか。世知辛い世の中だな……
 とりあえず使える権能は増えたが、わたしの神性は月のままらしい。
 美の女神とか一回は言ってみたかったのに残念。

 封じられているうちにこの能力の深堀りと行きたいが、まだその時期じゃあない。
 これは予感にして必然だけれども、遠からず、わたしは『座』神を消滅させるから、そのあとの方がむしろ効率が良いのだ。
 封じられているのに? と思うだろう。
 実のところ、もうわたしが何かするまでもなく、彼女は消滅しつつあるはずだ。
 消滅した『処女』は『座』神の眷属だった。その眷属を前代未聞の方法で喰われてしまったから、彼女はいま間違いなくわたしに恐怖している。
 恐怖を抱くということはすでに負けを認めているのと同じこと。権能が同じ者同士の負けは消滅に繋がる。
 やがて来るその刻が来るまでもうしばらく考えよう。


 神の消滅。
 不安定な時期である『無』の消滅はいったん忘れると。神が消滅するのは、一般的には長期の停滞と、同じ階位に同一の神性がいて力比べに負けた場合の二つ。
 そして稀に起きる事例のひとつが、違う階位でも同一の神性ならありうるってこと。

 前回のは稀であるが起きうることだった。しかし今回は権能が違う・・・・・『処女』を吸収・・すると言う本来起きないことをした。
 本当に・・・

 この『本当にことば』が掛かっているのは、〝吸収〟ではなく〝権能が違う〟の方だ。

 わたしは意図的に『処女』を煽った。
 ちょっと考えればすぐに気づいただろう。しかし『処女』は動揺したところに、わたしが眷属から借りた〝純愛〟の権能を使う様を見せられて自我を失った。
 眷属が居たら権能が使えるって言うのも不思議な話だ。繋がりがあるからと、姉御気質の二姉さまなら言うだろう。
 わたしが神になった時、一姉さまと二姉さまから神力を分けて貰っている。これが繋がりと言うのなら確かにそうなのだけど、神力を分けてもいない『星』や『冒険』の権能も眷属に迎えたというだけで、わたしは使うことができている。

 だから〝権能が違う〟と言う解釈こそが間違っているのではないかと思った。

 とりあえず検証実験だ。
 さて第四位『動物』の権能は【動物・自然】だ。『処女』のように隠されていた〝美〟なんてものもあるかも知れないが、今回は関係ないので割愛する。
 〝自然〟と言うとかなり漠然としているけれど、眷属にいる『砂漠』、『嵐』、『氷雪』あたりは自然と言っても過言なかろう。
 とりあえず今回は〝砂漠〟を借りる。わたしは砂漠に棲むサソリを連想し、新たな生命を創り出してみた。
 カサカサと動くサソリが生まれた。
 今度は月の権能を使用して太陽のごとく砂漠を反射。乾いた大地は湿った大地、つまり湿地に転じた。反射率を調整すると、さらに豊穣の大地まで再現できた。
 おおっ! 夢にまで見てないけど、緑多き大地、感無量だね。


 いろいろな検証をしていると、大幅に神力が増した。どうやら欠けていた月が満ちたようだ。慣れたのかブラックアウトの三回目は無し。
 二人分の神力を加えたわたしは一姉さまの超えた手応えを得ていた。太陽あにきにはちょっと足りないかな?

 空間に小さな歪みが生まれた。これは転移だ。
 現れたのは予想通り一姉さまと『太陽』の二人だ。完璧と思っていた二人の転移も、神力が上がった目で見たら歪みがあったんだなと少し感慨深く感じる。

「暇そうだな」
 ポージング無しで兄貴が声を掛けてきた。
「そんなことないですよ」
 嘘じゃあない。権能関係の実験で暇は十分に潰せていた。
 そうじゃなければ勝手に外に出ているもの。ここまで成長したわたしを封ずるのは第一位『熾』以外には不可能だと理解しているのだ。

「第四位『月』、お前を第二位『智』へ昇格させることに決まった。それからお前は邪神と認定された」
「さらっと言いますね。甘んじて受けますけど……
 それよりも眷属が全然足りてませんけど一気に二つも階位が上がっても問題ないんですか?」
 前代未聞の神喰いだもん、邪神認定そのくらいは覚悟してたさ。
「そんなものはお前が喰らった二人分の眷属を引き継げば解決だろうが」
「邪神認定しておいて無茶を言いますね。もともとあそこの眷属なんてわたしに対しては恨みしかないでしょうに。
 一揆起こされたらどーするんですか」
「自業自得だろう。いいか、これ以上神を喰うなよ」
「第一位『熾』になる、いや戻るからですか」
「そうだ。
 お前は自ら気づいたようだが、本来、第二位に至った神にだけ伝える理がそれだ。
 全知全能であった唯一の神はいま〝神の種〟を熟む樹となった。第一位『熾』とは神の樹であり神界そのものだ」
 やはりわたしが以前より感じていた神界を覆う膨大な神力は『熾』のものだったようだ。つまり誰もが『熾』であるとも言える。

「だから一姉さまは野心を失ったのですね」
「ええ。そうよ……」
「全員吸収して喰らってやろうとは思わなかったんですか?」
「姉妹を除いて~なら出来たかもね。でもそれは『熾』ではないわ」
 すべてを得た者が『熾』であるなら、姉妹も喰わなければならない。
 だから無理だと……
 気にもされず喰われる側だと言われた、兄貴が顔をしかめているのでこの話はここまで。

「一応確認しますが、『智』の方針は?」
「飽くまで停滞し消滅を迎えるだったが、お前のお陰でしばらく退屈しなさそうで困っているぞ」
「それは残念。次に飽きそうなときは言ってください。わたしが喰いましょう」
「馬鹿が。洒落にならんから止めろ!」

 なお第二位『智』まで至った神性はもう誕生しなくなるらしい。
 わたしの神性は月。今後〝月〟は生まれなくなるのだけど……
「まだ調査中だが各階位から〝処女〟の神性を持っていた者が消滅した。お前は〝処女〟の神性も得ていないか?」
「表面上は〝月〟ですけど、いまは〝処女〟の権能も持ってます」
「はぁ……、また問題ね」
 二人で分かった風に終わるのはやめて~、ちゃんと説明してくださいよ。

「さっき俺が言った通りだ。第二位に至った神性はもう誕生しない。そしていま存在するその神性持ちは一斉に消える」
「ちょっ!? 一姉さま。もしかしてわたしって超危なかったのでは?」
「そうね、とても危なかったと思うわ」
 先達の〝月〟は第三位と第四位。『座』がもう一歩踏み出していたならば、わたしは消滅していたと言うことだ。
 そしてわたしを〝月〟へと導いたのはこの姉である。
 こわっ!! 一姉さまこわっ!!



 神力が増したことでさらに広がったわたしの神域へやには、様々な神が集まっていた。集団は左右に真っ二つ。数が少ない左側と数の多い右側の対比は1:3。
 言うまでもなく少数である左側がわたしの眷属で、右側が『座』と『処女』らの眷属になる。
 わたしが姿を現すと、二つの集団は真逆の反応を見せた。歓声と不満そして恐怖だ。どっちがどっちなんて言うまでもないだろう。
「第二位『月』、邪神です。改めてよろしくね!」







 唯一柱の神は人々の生活を見て羨みました。
 全知にして全能。すべての力を持っているはずなのに、誰もが持っているだろう家族や恋人、そして友人を持っていなかったのです。
 永く永く悩んだ末についに神は決意します。
 すべてを捨てて、新たにすべてを手に入れることを。




─ 完 ─



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...