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02:王都
09:ドレスの色
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店に入る前、
「フィリベルト様、お手を貸して頂けますか?」
すると目の前に大きな手が伸びてきた。
どうやら私と手を繋ぐことは抵抗が無くなったらしい。クスリと笑いながらその手に自分の腕を絡める。
「お、おい?」
「この方がより親密に見えるでしょう」
さあっ行きましょうと意気揚々と店へと足を運べば、フィリベルト様はしぶしぶと言う体で歩き出す。
う~んもう少し温度差が縮まればいいのになぁ。
「いらっしゃいませ」
店に入ると馬車を見て待ち構えていた店員が頭を深々と下げて礼を取っていた。
そして顔を上げフィリベルト様が視界に入ると「っ」と息を飲んだ。しかし腕に巻き付く私を見て笑顔が戻る。
うんうん、期待通りの効果があったようで何よりね。
「本日は何をお求めでございましょうか?」
「夜会用のドレスを頼みたい」
「まぁドレスですか。もしやそちらの可愛らしいお嬢様のお召し物でしょうか?」
「ああそうだ」
「ではお嬢様はこちらへお願いします。まずは採寸いたしましょう」
「ええ分かったわ。
ところでそのお嬢様と言うのはやめて頂ける?
私は既に旦那様と結婚しています。次からは夫人と呼んでくださいな」
「まぁご夫婦でございましたか、大変失礼いたしました」
店員は謝罪をし頭を下げた。
その頭を下げる一瞬だけ、本気で驚いていた表情が見えたが、再び起き上がった時にはその表情は消え去っていた。
なるほど、お勧めのお店と言うだけのことはあるわね。
私たちは店先から中へ案内された。
「ご夫人はお若いですから、こちら側のドレスがお勧めでございます」
そこはフリルが多めの明るい色のドレスが並ぶブースだった。私はドレスに付けらえた値段をそれとなく確認した。今年の冬にお父様と行ったお店も中々だったが、この店も流石はヴァルラお姉さまのお勧めだけあって、ドレスの値段は思ったよりも張っていた。
大丈夫かしら?
「済まない。この店はオーダーメイドも扱っていると聞いてきた」
ええっオーダーメイド!?
まさかそちらとは思わなかった。レディメイドでもこんなにいいお値段なのに、オーダーって、本当に大丈夫かしら。
「失礼いたしました。お客様はオーダーメイドをご所望でございましたか、もちろん扱っておりますとも」
どうぞこちらへと今度はカウンターの方へ移動する。そこで出てきたのはオーダーメイドの値段表。
デザイン料と生地、装飾などなど。
最低のランクをすべて選んで……、うわっ高っ!!
ざっと計算を終えたのか、フィリベルト様も「ほぅ」と一言唸った。果たして今の『ほぅ』は、高い方の『ほぅ』なのか、安い方の『ほぅ』なのかどちらだろう?
「問題ない、こちらで頼めるか」
「ええ勿論ですわ、ありがとうございます」
店員の笑みが増した。
どうやらオーダーメイドを買う様な客なので上客扱いされたっぽいわね。
「では本日はご夫人の採寸と、ドレスのデザインなどをざっとお打合せさせて頂きたいと思います」
「それはいいが、完成はいつになる?」
「通常ですと完成までに一ヶ月頂いておりますが、いまは収穫祭の準備で大変込み合っておりまして、もう少々お時間を頂いております」
「いやドレスはその五日後の夜会で使いたいのだが」
「申し訳ございません。どう頑張ってもその日までにご準備はできません」
「むぅ……そうであったか。
物を知らずに無茶な注文をしたようだ。済まなかった」
よくよく考えてみればまさにその通り。ドレスが夜会の日を抜いた四日で出来るわけないわよね。
私は別段オーダーメイドに憧れもないから惜しいとも思わない。他ならぬフィリベルト様から贈って頂けることが重要なのよ!
間に合わないのだからと、吊るしのレディメイドのドレスから選び、追加料金を払い、三日ほど掛けて私用に手直しをすると言う案に落ち着いた。
私たちは先ほど案内されたブースに再び戻ってきた。
「ご夫人の年齢でしたら深い色よりも、こちらの明るめの色のドレスがよろしいかと思います」
秋の収穫祭なので、秋を表す黄色と赤、そして茶色が流行りの様だ。なおこれがそのまま年齢順で、若い人は黄色で年齢が上がると赤を経て茶になる。
さらに同じ色でも濃さがあり、若かったり未婚だと色は明るめで、既婚や年配になるほど色は濃くそして深くなっていくそうだ。
つまり明るい黄色が一番若く、赤を通り越して茶の深めが一番年配ってことだ。
その例に習えば、私には明るい黄色がお勧めらしい。
フィリベルト様は店員から説明された通り、明るい黄色のドレスを中心に品定めし始めた。今回私は贈って頂く立場なので口を挟むことは無い。
無いと言いつつ、本当は流行なんて無視したいと思っていた。
静かに座っていたのは最初の数分だけ。
すぐに鏡の前に立たされると、これがいい、こっちの方が似合うだの、気付けば店員の数が増えて皆でドレスを私に当ててくる。
かなりの時間が掛かりやっと残り三つほどになった。最後の三つ、フィリベルト様はどうしても決めかねている様で、結論が出ないらしい。
そこで、立ちっぱなしで疲れていたこともあり、私はちょっとしたミスをした。
「ベアトリクスはどう思う?」
その瞬間、私は並んだ黄色いドレスを見ずに欲しかったドレスの方に視線を向けてしまった。
「もしや他に欲しいドレスがあったか?」
そう指摘されれば誤魔化すのは不自然だと思い、先ほどまでの話や流れをまったく無視した、濃紺のドレスを指差した。
「その色は貴女には暗すぎるのではないか?」
覚えたての、店員の教えをそのまま口にした。当然だが店員も、フィリベルト様の言葉に同意してコクコクと頷いている。
やはり言うべきではなかったと後悔が生まれる。
「そうですよね、ごめんなさい。ドレスはやっぱり旦那様が決めてください」
「もしや何か思い入れのあるドレスなのか?」
私の態度に違和感があったのだろう、フィリベルト様が理由を問い掛けてきた。
「私が初めて閣下とお会いした時に着ていらした軍服がこの色でございました」
フィリベルト様は視線を彷徨わせて、
「ああそうか、クラハト領に行ったとき確かにその色の軍服であったな」
「折角贈って頂けるのですから思い出の色が欲しいと思いましたが、似合わない様ですし諦めますわ」
するとフィリベルト様は、店員に向き直り、
「済まないがあの色で、屋敷の中で着られる簡素なドレスはないか?」
「そうですね、確かあったと思います」
「ではそちらも買わせて貰おう。
これでどうだろうかベアトリクス。家ではそちらを着て、今回の夜会ではこちらの明るい色を着てはどうか」
「はい! もちろん不満なんてございません。
ありがとうございます!」
追加で手直しをする黄色のドレスは置いていき、濃紺の簡素なドレスだけを頂いて店を後にした。
実は今すぐに着て帰りたいのだけど、流石にそれははしたないのでグッと我慢した。
馬車は王宮に向かって走っていく。
「フィリベルト様。ありがとうございました」
「改まってどうした」
「これはお礼ですわ」
頬に触れる軽いキス。
「頬だけか?」
フィリベルト様はちょっと小馬鹿にする感じでニヤッと笑った。
むっ!
よいしょとフィリベルト様の膝の上に跨り、
「お、おい何を! 危ないぞ」
そんな台詞は知った事か!
首に手を回して長い長い口づけをしてやった!
「フィリベルト様、お手を貸して頂けますか?」
すると目の前に大きな手が伸びてきた。
どうやら私と手を繋ぐことは抵抗が無くなったらしい。クスリと笑いながらその手に自分の腕を絡める。
「お、おい?」
「この方がより親密に見えるでしょう」
さあっ行きましょうと意気揚々と店へと足を運べば、フィリベルト様はしぶしぶと言う体で歩き出す。
う~んもう少し温度差が縮まればいいのになぁ。
「いらっしゃいませ」
店に入ると馬車を見て待ち構えていた店員が頭を深々と下げて礼を取っていた。
そして顔を上げフィリベルト様が視界に入ると「っ」と息を飲んだ。しかし腕に巻き付く私を見て笑顔が戻る。
うんうん、期待通りの効果があったようで何よりね。
「本日は何をお求めでございましょうか?」
「夜会用のドレスを頼みたい」
「まぁドレスですか。もしやそちらの可愛らしいお嬢様のお召し物でしょうか?」
「ああそうだ」
「ではお嬢様はこちらへお願いします。まずは採寸いたしましょう」
「ええ分かったわ。
ところでそのお嬢様と言うのはやめて頂ける?
私は既に旦那様と結婚しています。次からは夫人と呼んでくださいな」
「まぁご夫婦でございましたか、大変失礼いたしました」
店員は謝罪をし頭を下げた。
その頭を下げる一瞬だけ、本気で驚いていた表情が見えたが、再び起き上がった時にはその表情は消え去っていた。
なるほど、お勧めのお店と言うだけのことはあるわね。
私たちは店先から中へ案内された。
「ご夫人はお若いですから、こちら側のドレスがお勧めでございます」
そこはフリルが多めの明るい色のドレスが並ぶブースだった。私はドレスに付けらえた値段をそれとなく確認した。今年の冬にお父様と行ったお店も中々だったが、この店も流石はヴァルラお姉さまのお勧めだけあって、ドレスの値段は思ったよりも張っていた。
大丈夫かしら?
「済まない。この店はオーダーメイドも扱っていると聞いてきた」
ええっオーダーメイド!?
まさかそちらとは思わなかった。レディメイドでもこんなにいいお値段なのに、オーダーって、本当に大丈夫かしら。
「失礼いたしました。お客様はオーダーメイドをご所望でございましたか、もちろん扱っておりますとも」
どうぞこちらへと今度はカウンターの方へ移動する。そこで出てきたのはオーダーメイドの値段表。
デザイン料と生地、装飾などなど。
最低のランクをすべて選んで……、うわっ高っ!!
ざっと計算を終えたのか、フィリベルト様も「ほぅ」と一言唸った。果たして今の『ほぅ』は、高い方の『ほぅ』なのか、安い方の『ほぅ』なのかどちらだろう?
「問題ない、こちらで頼めるか」
「ええ勿論ですわ、ありがとうございます」
店員の笑みが増した。
どうやらオーダーメイドを買う様な客なので上客扱いされたっぽいわね。
「では本日はご夫人の採寸と、ドレスのデザインなどをざっとお打合せさせて頂きたいと思います」
「それはいいが、完成はいつになる?」
「通常ですと完成までに一ヶ月頂いておりますが、いまは収穫祭の準備で大変込み合っておりまして、もう少々お時間を頂いております」
「いやドレスはその五日後の夜会で使いたいのだが」
「申し訳ございません。どう頑張ってもその日までにご準備はできません」
「むぅ……そうであったか。
物を知らずに無茶な注文をしたようだ。済まなかった」
よくよく考えてみればまさにその通り。ドレスが夜会の日を抜いた四日で出来るわけないわよね。
私は別段オーダーメイドに憧れもないから惜しいとも思わない。他ならぬフィリベルト様から贈って頂けることが重要なのよ!
間に合わないのだからと、吊るしのレディメイドのドレスから選び、追加料金を払い、三日ほど掛けて私用に手直しをすると言う案に落ち着いた。
私たちは先ほど案内されたブースに再び戻ってきた。
「ご夫人の年齢でしたら深い色よりも、こちらの明るめの色のドレスがよろしいかと思います」
秋の収穫祭なので、秋を表す黄色と赤、そして茶色が流行りの様だ。なおこれがそのまま年齢順で、若い人は黄色で年齢が上がると赤を経て茶になる。
さらに同じ色でも濃さがあり、若かったり未婚だと色は明るめで、既婚や年配になるほど色は濃くそして深くなっていくそうだ。
つまり明るい黄色が一番若く、赤を通り越して茶の深めが一番年配ってことだ。
その例に習えば、私には明るい黄色がお勧めらしい。
フィリベルト様は店員から説明された通り、明るい黄色のドレスを中心に品定めし始めた。今回私は贈って頂く立場なので口を挟むことは無い。
無いと言いつつ、本当は流行なんて無視したいと思っていた。
静かに座っていたのは最初の数分だけ。
すぐに鏡の前に立たされると、これがいい、こっちの方が似合うだの、気付けば店員の数が増えて皆でドレスを私に当ててくる。
かなりの時間が掛かりやっと残り三つほどになった。最後の三つ、フィリベルト様はどうしても決めかねている様で、結論が出ないらしい。
そこで、立ちっぱなしで疲れていたこともあり、私はちょっとしたミスをした。
「ベアトリクスはどう思う?」
その瞬間、私は並んだ黄色いドレスを見ずに欲しかったドレスの方に視線を向けてしまった。
「もしや他に欲しいドレスがあったか?」
そう指摘されれば誤魔化すのは不自然だと思い、先ほどまでの話や流れをまったく無視した、濃紺のドレスを指差した。
「その色は貴女には暗すぎるのではないか?」
覚えたての、店員の教えをそのまま口にした。当然だが店員も、フィリベルト様の言葉に同意してコクコクと頷いている。
やはり言うべきではなかったと後悔が生まれる。
「そうですよね、ごめんなさい。ドレスはやっぱり旦那様が決めてください」
「もしや何か思い入れのあるドレスなのか?」
私の態度に違和感があったのだろう、フィリベルト様が理由を問い掛けてきた。
「私が初めて閣下とお会いした時に着ていらした軍服がこの色でございました」
フィリベルト様は視線を彷徨わせて、
「ああそうか、クラハト領に行ったとき確かにその色の軍服であったな」
「折角贈って頂けるのですから思い出の色が欲しいと思いましたが、似合わない様ですし諦めますわ」
するとフィリベルト様は、店員に向き直り、
「済まないがあの色で、屋敷の中で着られる簡素なドレスはないか?」
「そうですね、確かあったと思います」
「ではそちらも買わせて貰おう。
これでどうだろうかベアトリクス。家ではそちらを着て、今回の夜会ではこちらの明るい色を着てはどうか」
「はい! もちろん不満なんてございません。
ありがとうございます!」
追加で手直しをする黄色のドレスは置いていき、濃紺の簡素なドレスだけを頂いて店を後にした。
実は今すぐに着て帰りたいのだけど、流石にそれははしたないのでグッと我慢した。
馬車は王宮に向かって走っていく。
「フィリベルト様。ありがとうございました」
「改まってどうした」
「これはお礼ですわ」
頬に触れる軽いキス。
「頬だけか?」
フィリベルト様はちょっと小馬鹿にする感じでニヤッと笑った。
むっ!
よいしょとフィリベルト様の膝の上に跨り、
「お、おい何を! 危ないぞ」
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首に手を回して長い長い口づけをしてやった!
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