フィロソフィア：転生したら俺を好きな娘が全員異常に理屈っぽいんだが。

第16話：生徒会と「温故知新」―歴史に学ぶ危機解決法―

夕暮れが学院の尖塔を橙色に染める頃、生徒会室に珍しく全員が集まっていた。重い空気が流れ、窓から差し込む夕日が書類を金色に照らしている。

生徒会長のジーナが立ち上がった。背筋をピンと伸ばし、青緑色の鋭い瞳で全員を見回す。制服の上に羽織ったコバルトブルーのマントが、動きに合わせて揺れた。

「今日は重要な話がある」

静かな声が室内に響く。エマは真剣な表情で背筋を伸ばし、ミルは小さな体で椅子に座りながらも、鋭い目でジーナを見つめていた。ルーシーは静かに膝の上で手を組んでいる。

「テオリア女王陛下から直々に、我々生徒会に命令があった」

部屋の空気が一段と引き締まった。

「隣国マキャベリアが、ローレンティアの割譲を我が国に求めてきている」

ミルが青灰色の瞳を不安そうに揺らした。

「それって、国境の街ローレンティアですか？あの良質な鉄鉱石が採れる...」

「そうだ」

ジーナはうなずき、テーブルの地図に指を置いた。

「もし要求を拒めば、武力でローレンティアを併合すると脅してきている」

エマが真っ先に反応した。銀色の髪が肩で揺れ、青い瞳に怒りの光が宿る。

「それは明らかに間違った行いです！他国の領土を力で奪うなんて、そんなことがまかり通ったら、どの国も安心して暮らせません！」

ミルも小さな体で立ち上がり、テーブルに両手をついた。

「その通りです。できるだけ多くの人が幸せになることを考えれば、武力による征服は決して認められません。多くの人々が苦しむことになりますから」

ジーナは地図に目を落とした。

「女王陛下は、この国家的な危機に際して、我々生徒会に解決策の提案を求めていらっしゃる」

みんな驚いている。テルは居場所のなさを感じていた。学院の制服ではなく、衛兵の革の胸当てと肩当てを身につけ、腰には剣を下げている。何の知識もない新参者の自分が、国家の危機に関わる会議にいていいのだろうか。

「あの、俺はここにいてもいいのかな」

思わず口にした言葉に、ジーナが穏やかに答えた。

「もちろんだ。君は異国の人間だ。異なる視点がぶつかり合うことで真理は現れる。君の意見が必要なんだ」

ミルは小さなノートを取り出し、数字を書き込みながら言った。

「利害を計算すれば、戦争による損失は大きすぎます。私は条件付きの交渉を提案します。ローレンティアの一部の使用権を認める代わりに、経済的な補償と平和協定を結ぶのです」

ルーシーは長い黒髪を肩に流しながら、冷静に分析した。

「経験豊富な外交官による正式な交渉を提案します。マキャベリアとの話し合いの場を設け、お互いの言葉の意味を明確にすることから始めるべきです」

エマが続ける。

「私もルーシーと同じ考えです。戦争は最も理性的でない選択です。お互いの理性を信じ、きちんとした話し合いを通じて解決策を見出すべきです」

ジーナは窓辺に歩み寄った。夕日に照らされた横顔が威厳を放っている。

「私は、力の均衡が必要だと考える。理性だけでは解決できない問題もある。我々は、強い意志を示しながら、同時に対話の道を探るべきだ」

三人の意見を聞いた後、ジーナが振り返り、テルの方を見た。

「テルはどう思う？」

突然の問いかけに、テルは言葉に詰まる。四人の鋭い視線が同時にテルに向けられた。

「俺は何も知らないから偉そうなことは言えない。まずは歴史をもう一度知らなければならないと思うんだ」

ジーナが眉を少し上げ、「続けて」と促した。

「つまり、前の戦争、君たちが『宗教戦争』と呼ぶものがどうやって始まり、どういう経緯をたどり、どういう結末になったのか。その歴史を知らなければ、そこから学ぶことはできないと思う」

少し考えてから、テルは付け加えた。

「俺の国に『温故知新』ということばがある。『昔の物事を学び研究し、そこから新しい知識や見解を得る』という意味だ。歴史に学ぶことで見えてくる解決策もあると思う」

部屋に静寂が流れ、みんながテルの言葉を考えているようだった。

「テルの言うことには一理ある」

ジーナが静かに言った。

「歴史を知ることはとても重要だ。歴史は単なる過去の記録ではなく、人間の理性が成長していく過程でもある」

彼女はテーブルに戻り、両手をつきながら続けた。

「実は我々も宗教戦争についてよく知っているとは言い難い。もちろん知識としては学んでいるが、当時は子どもだったからね」

「では、誰に聞けば？」

エマが首をかしげて尋ねた。

「大ジャンヌだろうね」

ジーナの言葉に、テルとエマは顔を見合わせた。大ジャンヌの亡くなった弟、エミールのことを思い出し、胸が痛む。大ジャンヌにとって、それは辛い記憶のはずだ。

「でも、それでは、大ジャンヌに悲しい過去を思い出させてしまうのでは」

テルは心配そうに言った。

ジーナは静かに頭を振った。

「大ジャンヌは強い人だ。国の危機に際して、私情を挟むような人ではないよ」

窓の外は完全に暗くなり、星が見え始めていた。ジーナはルーシーの方を向いた。

「ルーシー、今の趣旨を正しく大ジャンヌに伝えて、宗教戦争について我々に教えてもらえるよう頼みに行ってくれるかな」

ルーシーは立ち上がり、頭を下げて部屋を出ていった。

残された四人は再び沈黙に包まれた。窓の外では、月が雲間から顔を出し、学院の庭を青白い光で照らし始めていた。

「戦争を避けられるでしょうか...」

エマが小さくつぶやいた。青い瞳には不安と決意が交錯し、白い指先が制服の裾を握りしめていた。

誰も即答できないまま、星々がさらに輝きを増していく夜空を見つめた。冷たい月光が、不確かな未来を暗示しているように思えた。