41 / 50
41,校舎裏
しおりを挟む
「シオンー!クラウドー!」
昼休みになると、ヒナタは走って観覧席へ向かった。先に了承を取りたいからと、とりあえずクラスメイトたちは待たせている。
「おー、ヒナタ!お疲れさん」
「頑張りましたね、ヒナタ」
迎えたクラウドはヒナタの頭をガシガシなで、シオンは優しく微笑む。
「あ…うん…」
ヒナタは嬉しくて、照れくさくて、ほほを染めてうつむいた。以前いた学校は不登校気味で、こうした行事にもほとんど参加しなかった。『家族』に頑張りを見せたり、ほめられたりすること事態が初めてなのだ。一番見てほしい蓮はどんな顔をしているだろうか。顔を上げるが、蓮の姿はない。
「れ…っレンは?!」
クラスメイトも待っている。蓮がいないと話にならない。焦ってシオンとクラウドに聞く。
「校舎のお手洗いに行かれましたよ」
「すぐ戻るだろ」
「そう…」
ヒナタは少しほっとしてうなずいた。
用を済ませた蓮は初等部校舎内をプラプラ歩いていた。前に見学したことはあるが、人気のない校舎内はまた違う雰囲気だ。
「あっ!あの人っ!」
「ヒナタのお兄さんだ!」
そんな蓮の姿に気づいたのは、昼休みになり、校舎内に入ってきた数人の生徒たち。目立つ珍しい黒髪で、すぐにクラスメイトの親族だとわかった。
「あの…っヒナタのお兄さんですよね?!」
彼らはすぐに駆け寄り、ワクワクドキドキしながら蓮に話しかける。
「あ?」
「ヒっ…?!」
「ぼ、ぼくたち、ヒナタ、と同じ組の…っ」
思ったより威圧的な蓮の反応にビクッとしつつ、自己紹介しようとする。蓮としては脅かすつもりはないが、子どもに気を使おうという気持ちもないので仕方がない。
「ああ…何。何か用」
蓮は子どもたちの顔ぶれを見て、ヒナタの周りにいたなと思う。
「い…っ今、何しているんですか…っ?」
「別に。戻るとこ」
と、蓮はまた歩き始める。
「ま、待って!良かったら、その…っ」
子どもたちは蓮を引き止め、どうする?言っちゃう?とコソコソ顔を見合わせる。そして、意を決して蓮を見上げた。
「い、一緒にっ遊んでくださいっ!!」
「…あ?」
何でこうなった。
蓮は子どもたちをぞろぞろ連れ、廊下を歩いていた。
「レンさん!て!手をつないでいい?」
「…」
「わーい、わたしもー!」
右手を強引に繋がれ、左腕にひとり抱きつき、服のすそを後ろからふたりに引っ張られ、まさに群がっている状態だ。子どもたちにはよくあるナンパのように下心がある訳ではない。拒絶することも出来ず、そのまま歩くしかなかった。
「レンさん、一緒にお弁当食べよー?」
「あ?何でだよ。家族んとこ行け」
「お母さんたち、高等部の方行っちゃったよ」
「出店いっぱいだもんね」
「初等部は終わるまで行っちゃダメなんだって」
「あ、そ…」
などと、ワイワイ話しながらあてもなく行進する。蓮の態度は素っ気ないが、子どもたちは顔のかわいらしさと手や腕の意外なたくましさにうっとりしていた。
レン、どこ行っちゃったの。
一方、待ちきれなくなったヒナタは走って校舎へ向かっていた。もう、クラスメイトたちに蓮の強さを証明したいという気持ちより、蓮に会いたいという気持ちの方が勝っていた。
「…め、だ」
「?」
ふと、校舎の方から聞き覚えのない男の声が聞こえ、ヒナタは立ち止まる。ふらりと昇降口から出てきたのは見覚えもない大きな男。
「?!」
どうやら外国人のようで、ヒナタはドキリと心臓がはね上がった。以前、ヨイチら3人に拉致されたことのある彼は、外国人というだけで恐怖の対象だ。
「き…金眼だ…!」
その外国人の男はヒナタの左眼を見つめ、ギラギラとした表情になる。ヒナタは誰も気に止めないのもあり、左の金眼を隠す眼帯もコンタクトレンズも着けていない。
「すごい…っほ、本物…!!」
「…っ?!」
男が手を伸ばし、ヒナタは声にならない悲鳴を上げる。きびすを返し、走り出す。
「あ!待て…っ」
呼び止める声が更に恐怖をあおる。捕まれば、犯され、眼をえぐり取られ、殺されるのだ。金眼保有者であるという本能がそう言っている。もつれそうになる足を必死に動かす。
人目のある校庭の方へ行けばいいものを、周りすら見えないほど恐怖にとらわれたヒナタは人気のない校舎裏に向かってしまっていた。
「レンさん、屋上行こう!」
子どもたちの誰かが言い、それに従って蓮たちは屋上への階段を上っていた。
普通、ドラマや漫画でもない限り学校の屋上への扉は施錠されているだろうが、ここ初等部校舎の階段つきあたりの扉は開放されているらしい。子どもたちは当然のように扉を開けた。ヒュウっと風が吹き、眼前が広がる。
「校庭見えるし、高等部の方まで見えるんだよ!」
「ふーん…」
子どもたちは屋上を囲む高いフェンスの方へ、蓮の手を引いて走っていく。確かにフェンス以外遮るものがなく、校庭はもちろん広い学校の敷地がほとんど見渡せるようだ。
「あれ?ヒナタじゃない?」
「えー?本当だ!」
校庭と逆側、校舎裏の方へ行っていた子どもたちが下を指差し声をあげる。
「…?」
蓮はシオンとクラウドのそばにいるはずの彼が何故校舎裏にいるのか疑問に思いつつ、校舎裏側に移動する。フェンス越しに見下ろせば、確かに見覚えのあるオレンジ色が見えた。
「…ヒナタ、追いかけられてない?」
子どもたちのひとりがぽつりと言う。見れば、速くはない足で一生懸命走っているヒナタの背後には大柄な男。状況はわからないが、上からは追いかけられているように見える。
子どもたち皆がそれを認識する前に、蓮は3メートルほどあるフェンスをひょいっとかけ上がっていた。そして、フェンスの上に立ったかと思うと、飛び降りた。もちろん、屋上の向こう側に。
「…っわあぁぁぁあ?!!」
「レンさーん?!!」
ワンテンポ遅れ、子どもたちが叫ぶ。初等部校舎は4階建て。さすがに子どもでも飛び降りればタダでは済まないとわかる。皆、一斉にフェンスにかけ寄り、下をのぞき込んだ。
「はぁ…っ!はぁっ!…た…っえ…!」
ヒナタは息も絶え絶えに走りながら助けを呼ぶが、声にならない。外国人の男はまだ追ってくる。早く、助けて。ただただそれだけを願っていた。その時。
「?!!」
ヒナタと男の間に、何者かが立ちふさがった。あまりのことに男は理解が追いつかない。人が頭上から降ってきたのだから。
「な、何…っぶべらっっ?!!」
それを確かめるセリフを吐く前に、男は顔の激痛と共にふっ飛んでいた。そのまま地面に叩きつけられ、転がり、失神する。
「レ…っ…!!」
ヒナタは潤んでよく見えない目で、その人物の後ろ姿を見つめる。ずっと暗闇にいた自分を光の方へ導いてくれた人、蓮だ。やっぱり、彼はピンチの時に必ず助けに来てくれるヒーローなんだと確信する。
「ヒナタ」
「わぁあああぁんっ!!レンーっっ!!」
振り向いた蓮に泣き叫びながら抱きつく。助けられた安心感と、何より嬉しくて嬉しくて。蓮の胸元に顔をうずめてわんわん泣いた。
「うわぁああっ!!やったぁ!!」
「レンさん、すごいーっ!」
「めちゃくちゃ強いね!!」
屋上では、子どもたちが歓声をあげていた。クラスメイトを追いかける悪者を一発で殴り倒した姿は、まさに強いヒーローだ。ヒナタの発言をはからずも証明していた。
「…」
一方、何故追いかけられていたのか確かめもせずに殴ってしまったと、蓮はハタと思う。しかし、泣くヒナタを見て、まぁソイツが悪いだろうと勝手に判断していた。
そこへ、バタバタと走る音が聴こえ、別の外国人の男たちが校舎裏にやってくる。
「あーっ!!お前…っ?!」
「ウェア王のニセモノっ!!」
「あ?」
彼らは蓮を見るなり、指差して叫ぶ。
「うわ?!あいつ何でぶっ倒れてんの?!」
さらにのびている男に気づいて、驚く。見たことのあるようなふたりだが、蓮は気づかない。さらに、校舎の影からもう一人の外国人の男が姿を見せる。
「れ…レン、か?」
「あ」
信じられないといった表情で蓮を見つめる彼と他ふたりがそろい、蓮はようやく思い出していた。
「ありがとうございました!!さすがレン様ですっ!!」
「るせーよ」
アラシは歓喜して、うっとおしがる蓮に頭を下げる。
彼と護衛たちはクラウドから連絡を受け、学校に飛んできた。騒ぎになるのを防ぐため、捕らえた外国人たちの受け渡しはそのまま校舎裏で行なっていた。彼らは護衛たちに手錠をかけられ、蓮が殴った男はまだ気絶している。
「お前なぁ!本当に何やっているんだよ?!ヒナタ泣かして、レンにまで面倒かけやがって!!」
「はい!申し訳ありません!!」
激怒するクラウドに、アラシはビシッと姿勢を正して謝る。昼休憩は終わっており、ヒナタはクラスメイトたちと共に校庭へ戻っている。
「あ?悪ぃのはコイツらだろ」
「レン様…っ」
蓮が外国人らを指し、かばってくれたとアラシは感激する。
「お前、アラシに甘くないか?」
蓮が何かとアラシにものをあげたり、労ったりするのがクラウドは気に入らない。
「わ、私…っレン様からの激励、本当に感激しました!その上、密入国者の確保にご協力いただけるなんて…っ。私はレン様のおっしゃる通り、私にしか出来ない使命を全ういたします!」
通信機を通して、蓮から言われたことが嬉しくてたまらないアラシは改めて頭を下げる。
「あ、そ」
もう何を言ったかも忘れた蓮はそっけなく背を向けた。
昼休みになると、ヒナタは走って観覧席へ向かった。先に了承を取りたいからと、とりあえずクラスメイトたちは待たせている。
「おー、ヒナタ!お疲れさん」
「頑張りましたね、ヒナタ」
迎えたクラウドはヒナタの頭をガシガシなで、シオンは優しく微笑む。
「あ…うん…」
ヒナタは嬉しくて、照れくさくて、ほほを染めてうつむいた。以前いた学校は不登校気味で、こうした行事にもほとんど参加しなかった。『家族』に頑張りを見せたり、ほめられたりすること事態が初めてなのだ。一番見てほしい蓮はどんな顔をしているだろうか。顔を上げるが、蓮の姿はない。
「れ…っレンは?!」
クラスメイトも待っている。蓮がいないと話にならない。焦ってシオンとクラウドに聞く。
「校舎のお手洗いに行かれましたよ」
「すぐ戻るだろ」
「そう…」
ヒナタは少しほっとしてうなずいた。
用を済ませた蓮は初等部校舎内をプラプラ歩いていた。前に見学したことはあるが、人気のない校舎内はまた違う雰囲気だ。
「あっ!あの人っ!」
「ヒナタのお兄さんだ!」
そんな蓮の姿に気づいたのは、昼休みになり、校舎内に入ってきた数人の生徒たち。目立つ珍しい黒髪で、すぐにクラスメイトの親族だとわかった。
「あの…っヒナタのお兄さんですよね?!」
彼らはすぐに駆け寄り、ワクワクドキドキしながら蓮に話しかける。
「あ?」
「ヒっ…?!」
「ぼ、ぼくたち、ヒナタ、と同じ組の…っ」
思ったより威圧的な蓮の反応にビクッとしつつ、自己紹介しようとする。蓮としては脅かすつもりはないが、子どもに気を使おうという気持ちもないので仕方がない。
「ああ…何。何か用」
蓮は子どもたちの顔ぶれを見て、ヒナタの周りにいたなと思う。
「い…っ今、何しているんですか…っ?」
「別に。戻るとこ」
と、蓮はまた歩き始める。
「ま、待って!良かったら、その…っ」
子どもたちは蓮を引き止め、どうする?言っちゃう?とコソコソ顔を見合わせる。そして、意を決して蓮を見上げた。
「い、一緒にっ遊んでくださいっ!!」
「…あ?」
何でこうなった。
蓮は子どもたちをぞろぞろ連れ、廊下を歩いていた。
「レンさん!て!手をつないでいい?」
「…」
「わーい、わたしもー!」
右手を強引に繋がれ、左腕にひとり抱きつき、服のすそを後ろからふたりに引っ張られ、まさに群がっている状態だ。子どもたちにはよくあるナンパのように下心がある訳ではない。拒絶することも出来ず、そのまま歩くしかなかった。
「レンさん、一緒にお弁当食べよー?」
「あ?何でだよ。家族んとこ行け」
「お母さんたち、高等部の方行っちゃったよ」
「出店いっぱいだもんね」
「初等部は終わるまで行っちゃダメなんだって」
「あ、そ…」
などと、ワイワイ話しながらあてもなく行進する。蓮の態度は素っ気ないが、子どもたちは顔のかわいらしさと手や腕の意外なたくましさにうっとりしていた。
レン、どこ行っちゃったの。
一方、待ちきれなくなったヒナタは走って校舎へ向かっていた。もう、クラスメイトたちに蓮の強さを証明したいという気持ちより、蓮に会いたいという気持ちの方が勝っていた。
「…め、だ」
「?」
ふと、校舎の方から聞き覚えのない男の声が聞こえ、ヒナタは立ち止まる。ふらりと昇降口から出てきたのは見覚えもない大きな男。
「?!」
どうやら外国人のようで、ヒナタはドキリと心臓がはね上がった。以前、ヨイチら3人に拉致されたことのある彼は、外国人というだけで恐怖の対象だ。
「き…金眼だ…!」
その外国人の男はヒナタの左眼を見つめ、ギラギラとした表情になる。ヒナタは誰も気に止めないのもあり、左の金眼を隠す眼帯もコンタクトレンズも着けていない。
「すごい…っほ、本物…!!」
「…っ?!」
男が手を伸ばし、ヒナタは声にならない悲鳴を上げる。きびすを返し、走り出す。
「あ!待て…っ」
呼び止める声が更に恐怖をあおる。捕まれば、犯され、眼をえぐり取られ、殺されるのだ。金眼保有者であるという本能がそう言っている。もつれそうになる足を必死に動かす。
人目のある校庭の方へ行けばいいものを、周りすら見えないほど恐怖にとらわれたヒナタは人気のない校舎裏に向かってしまっていた。
「レンさん、屋上行こう!」
子どもたちの誰かが言い、それに従って蓮たちは屋上への階段を上っていた。
普通、ドラマや漫画でもない限り学校の屋上への扉は施錠されているだろうが、ここ初等部校舎の階段つきあたりの扉は開放されているらしい。子どもたちは当然のように扉を開けた。ヒュウっと風が吹き、眼前が広がる。
「校庭見えるし、高等部の方まで見えるんだよ!」
「ふーん…」
子どもたちは屋上を囲む高いフェンスの方へ、蓮の手を引いて走っていく。確かにフェンス以外遮るものがなく、校庭はもちろん広い学校の敷地がほとんど見渡せるようだ。
「あれ?ヒナタじゃない?」
「えー?本当だ!」
校庭と逆側、校舎裏の方へ行っていた子どもたちが下を指差し声をあげる。
「…?」
蓮はシオンとクラウドのそばにいるはずの彼が何故校舎裏にいるのか疑問に思いつつ、校舎裏側に移動する。フェンス越しに見下ろせば、確かに見覚えのあるオレンジ色が見えた。
「…ヒナタ、追いかけられてない?」
子どもたちのひとりがぽつりと言う。見れば、速くはない足で一生懸命走っているヒナタの背後には大柄な男。状況はわからないが、上からは追いかけられているように見える。
子どもたち皆がそれを認識する前に、蓮は3メートルほどあるフェンスをひょいっとかけ上がっていた。そして、フェンスの上に立ったかと思うと、飛び降りた。もちろん、屋上の向こう側に。
「…っわあぁぁぁあ?!!」
「レンさーん?!!」
ワンテンポ遅れ、子どもたちが叫ぶ。初等部校舎は4階建て。さすがに子どもでも飛び降りればタダでは済まないとわかる。皆、一斉にフェンスにかけ寄り、下をのぞき込んだ。
「はぁ…っ!はぁっ!…た…っえ…!」
ヒナタは息も絶え絶えに走りながら助けを呼ぶが、声にならない。外国人の男はまだ追ってくる。早く、助けて。ただただそれだけを願っていた。その時。
「?!!」
ヒナタと男の間に、何者かが立ちふさがった。あまりのことに男は理解が追いつかない。人が頭上から降ってきたのだから。
「な、何…っぶべらっっ?!!」
それを確かめるセリフを吐く前に、男は顔の激痛と共にふっ飛んでいた。そのまま地面に叩きつけられ、転がり、失神する。
「レ…っ…!!」
ヒナタは潤んでよく見えない目で、その人物の後ろ姿を見つめる。ずっと暗闇にいた自分を光の方へ導いてくれた人、蓮だ。やっぱり、彼はピンチの時に必ず助けに来てくれるヒーローなんだと確信する。
「ヒナタ」
「わぁあああぁんっ!!レンーっっ!!」
振り向いた蓮に泣き叫びながら抱きつく。助けられた安心感と、何より嬉しくて嬉しくて。蓮の胸元に顔をうずめてわんわん泣いた。
「うわぁああっ!!やったぁ!!」
「レンさん、すごいーっ!」
「めちゃくちゃ強いね!!」
屋上では、子どもたちが歓声をあげていた。クラスメイトを追いかける悪者を一発で殴り倒した姿は、まさに強いヒーローだ。ヒナタの発言をはからずも証明していた。
「…」
一方、何故追いかけられていたのか確かめもせずに殴ってしまったと、蓮はハタと思う。しかし、泣くヒナタを見て、まぁソイツが悪いだろうと勝手に判断していた。
そこへ、バタバタと走る音が聴こえ、別の外国人の男たちが校舎裏にやってくる。
「あーっ!!お前…っ?!」
「ウェア王のニセモノっ!!」
「あ?」
彼らは蓮を見るなり、指差して叫ぶ。
「うわ?!あいつ何でぶっ倒れてんの?!」
さらにのびている男に気づいて、驚く。見たことのあるようなふたりだが、蓮は気づかない。さらに、校舎の影からもう一人の外国人の男が姿を見せる。
「れ…レン、か?」
「あ」
信じられないといった表情で蓮を見つめる彼と他ふたりがそろい、蓮はようやく思い出していた。
「ありがとうございました!!さすがレン様ですっ!!」
「るせーよ」
アラシは歓喜して、うっとおしがる蓮に頭を下げる。
彼と護衛たちはクラウドから連絡を受け、学校に飛んできた。騒ぎになるのを防ぐため、捕らえた外国人たちの受け渡しはそのまま校舎裏で行なっていた。彼らは護衛たちに手錠をかけられ、蓮が殴った男はまだ気絶している。
「お前なぁ!本当に何やっているんだよ?!ヒナタ泣かして、レンにまで面倒かけやがって!!」
「はい!申し訳ありません!!」
激怒するクラウドに、アラシはビシッと姿勢を正して謝る。昼休憩は終わっており、ヒナタはクラスメイトたちと共に校庭へ戻っている。
「あ?悪ぃのはコイツらだろ」
「レン様…っ」
蓮が外国人らを指し、かばってくれたとアラシは感激する。
「お前、アラシに甘くないか?」
蓮が何かとアラシにものをあげたり、労ったりするのがクラウドは気に入らない。
「わ、私…っレン様からの激励、本当に感激しました!その上、密入国者の確保にご協力いただけるなんて…っ。私はレン様のおっしゃる通り、私にしか出来ない使命を全ういたします!」
通信機を通して、蓮から言われたことが嬉しくてたまらないアラシは改めて頭を下げる。
「あ、そ」
もう何を言ったかも忘れた蓮はそっけなく背を向けた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる