虹色の未来を

わだすう

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49,歓迎

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「ティル…あの国、やっぱ行かなきゃダメか?」

 蓮はずっと懸念していることを聞いてみる。今日の会談でも、延ばし延ばしにしているメンバル王国訪問の話が出ていたらしい。

「あ…うん…。僕も楽しみみたいなこと言っちゃったけど…レンが嫌なら行かなくていいよ。断ろうか?」

 外交的には行くべきだろうが、王も蓮が嫌がることは極力させたくないのだ。

「ん…いや、行く」

 蓮は首を振る。聞いてみただけで、行く覚悟はもうしていた。王だって苦手な外交を嫌だからと止めずに、立派にこなしたのだ。

「お前だけ、頑張らせるワケに行かねーし」
「レン…」

 王の手に手を乗せると、王は応えるようにその手を組み、握る。そして、引き寄せられるように唇を合わせた。

「ん…」
「ふふっ」

 お互いほほを染め、笑い合う。

「じゃあ、レンが帰って来たらどこか遊びにいこ。どこがいい?」
「お前が行きたいとこでいい」
「いっつもそうじゃない。たまにはレンの行きたいとこにしようよ」
「ティルと一緒に行くとこが、俺の行きたいとこだから」
「…っっ!!レン、大好き!!」

 にっと笑う蓮にぎゅんっと心をつかまれ、王は思いきり抱きつく。

「知ってる」

 蓮は王を抱きとめ、ぽんと背を叩く。

 何気ない会話が楽しくて、そばにいるだけで安心して、触れ合えば嬉しくなる。大切な友達とのかけがえのない日常。永遠ではないけれど、こんな日がずっと続く。蓮も王もそう思っていた。













 1か月後。

「ようこそいらっしゃいました、ウェア王陛下!」

 と、嬉々として蓮たちを出迎えたのはメンバル王だ。後ろにはウェア王国での会談時と同じ側近が整列している。

 今日、ようやく彼らの念願だったウェア王の訪問が実現した。金髪に金のコンタクトレンズをつけ、王と寸分違わぬ姿の蓮と、王室護衛長のハクロ、外交担当の大臣とその補佐官、護衛の計5名がメンバル王国の飛行場に降り立った。

「お出迎えありがとうございます、メンバル王陛下。ご承知だと思いますが…」

 王の歓迎にもちろん蓮は口を開かず、外交担当の大臣が進み出て話す。

「ええ、陛下は他国で現地の者と口をきいてはならない掟なのですよね。周知徹底しておりますので、ご心配なさらずに。どうぞ、我が国の様子をご覧になってください」

 メンバル王は並んだ送迎車に彼らを促した。








 その頃。

「ぜぇ…っ!は…はぁ…っ!」

 息を激しく荒らげ、足を引きずり、傷ついた首や腕から多量の血を滴らせ、ウェア城に向かう者がいた。

「なっ?!お、お前は…っ!!」

 城周りの森を見回る護衛ふたりが彼を見つけ、驚愕する。3か月前から行方不明になっていたワンスだった。

「はや、く…知らせ…ろ…っは、話の、わかる…っ奴に…!」

 ワンスは護衛たちに気づくと、首を押さえてやっと声を出し、訴える。鈍い金色の右目を光らせ、血にまみれた鬼気迫る表情に護衛たちはゾッとしてしまう。

「戻って来たのですか」

 と、森の中から姿を見せたのはシオンだ。国境の結界に反応があり、ただ事ではない気配を感じてやって来たのだ。

「シオンさん…!」

 頼れる元護衛長の登場に、護衛たちは安堵する。

「あんたか…かはっ、ちょうどいい…。レンは、どこにいる…っ」
「何故ですか」

 かなりの重傷で血を吐きながら話すワンスを見ても、シオンは冷ややかに聞き返す。

「あいつを…っ守れ…!城から、出すな…っゲホっ!!が…っ」

 ワンスは多量に吐血し、立っていられず崩折れる。

「え…?」
「れ、レン様は今、外交中で…」

 護衛たちは青ざめて顔を見合わせる。

「な、んだと…?馬鹿が…っ」

 ヒューヒューとやっと呼吸しながら、ワンスはがく然とする。それが蓮の役目なのだろうが、タイミングが悪すぎる。

「あいつを…食われ…たい、のか…っ」
「…っ」

 まさか。シオンはゾワッと全身が粟立つ。同時に、異様な殺気を感じとった。

「下がって!!」
「がっ?!!」

 シオンは叫んで護衛たちを押しのけ、四つん這いになっていたワンスを蹴りどかす。その刹那、カッとワンスがいた地面に短刀が突き刺さった。

「しぶとい虫けらですねえ」

 現れたのは、仕立ての良かったであろうスーツを着た細身の男。ため息をつき、血に塗れた短刀を地面から引き抜く。

「ひぃ…っ?!」

 護衛たちは思わず悲鳴がもれる。彼はワンス以上に血だらけで、腕も足も折れているのか不自然に曲がり、何故平然と立って話すことが出来ているのか、異常でしかない姿だ。しかも、その両目は鈍く金色に光っていた。










「まさか、奴が…」

 ウェア城の書庫。ヨイチは資料のひとつとして見ていた新聞をクシャリと握る。日付けは約4年前だ。

「レン…っ」

 左目の眼帯を外し、立ち上がった。











「いかがでしたか?5年前とは比べものにならないと思いますが」

 王国の主要都市などをひととおり見学した後、一行はメンバル城内の応接間に通されていた。にこやかに話すメンバル王の言うとおり、王国は様変わりしていた。いや、元に戻ったというべきか。以前のように火薬や血の臭いはせず、街も人々も活気づいて見え、平和で豊かな国となっていた。
 城も外観こそ変わらないが、内装は別の国かと思うほど見違えている。
 5年前のようなことはないとわかっていても、嫌悪感は拭えなかった蓮だが、それらを見て安堵していた。予定どおり、同じく安堵している大臣に耳打ちするふりをする。『話さない』というテイなので、会話をしなければならない時はそうすることになっているのだ。

「ええ、驚きました。大変な労力だったでしょう。素晴らしいです」

 大臣はうなずき、称賛の言葉を伝える。

「ありがとうございます」

 メンバル王は微笑み、頭を下げる。

「では、安心していただいたところで、あなた方はお休みしてください」

 そう言ってゆっくりと顔を上げると、テーブルを挟んで座る大臣と立っている護衛たちを見回した。その途端、大臣らは失神したかのようにバタバタと倒れ込んだ。

「?!!」

 今、ヤツは何をした?唯一、何も感じなかった蓮は驚いて立ち上がる。

「『身代わり』の小僧、口をきいてもいいぞ。お前には掟など関係ないだろう。いや、元々掟などないな。ウェア王は国から出られないのだから」

 メンバル王の雰囲気が変わった。先ほどまでとはまったく違う口調と態度で、蓮を見る。しかも、蓮の正体やウェア王国の内情をすべて知っているかのような口ぶりだ。

「…テメー…何モンだ…?」

 蓮は彼から目を離さないようにしながら、テーブルに突っ伏している大臣に触れた。息はある。気絶しているだけのようでほっとする。床に倒れている補佐官や護衛たちも同じだろう。

「ははは、思ったより口も目つきも悪いな」

 メンバル王は感情なく笑う。

「心配するな。彼らはウェア人だ、殺しはしない。起きればきれいさっぱりこのことは忘れている。無事に王国まで送り返してやろう」

 と、背後の側近たちに目配せする。

「う、ぅ…っれ、レン…」

 すると、倒れていたハクロがうめき、頭を押さえながら立ち上がろうと身動ぐ。

「ハクロ…っ」

 蓮はハッとして彼のそばにかけ寄る。

「ほう?効かなかったのか。さすが王室護衛長といったところか」

 メンバル王は感心しながら、テーブルを乗り越えて来る。

「ち、近づくな…っ!レン、下がっ…ぐうぅっ!!」

 ハクロはヨロヨロと身体を起こし、蓮をメンバル王から離そうとするが、彼と目が合うと苦しげに頭を抱える。

「っ!!やめろ!」

 蓮はメンバル王を見上げ、制止する。

「ハクロ、動くな」

 彼が何をしてこうなっているかわからない以上、動かない方がいい。ハクロの背に手をやり、なだめた。

「ぅう…!」

 ハクロは頭を押さえ、うめく。メンバル王を見ると意識が遠のき、気を保とうとすると頭が割れるように痛む。

「賢明な判断だな、小僧。護衛長殿、余に逆らわない方がいいぞ。頭が破裂してしまう。純粋なウェア人は殺したくない」
「…」

 ウェア人をやけに強調する。コイツの狙いはそうじゃない俺か。蓮は苦しむハクロを支えながら、メンバル王をにらむ。

「その姿で…そのような目を向けるな、小僧!!」
「!!」

 メンバル王は怒鳴ると蓮の顔に拳を振り下ろした。

「く、ぁ…っ」

 蓮は腕で防御するが、一般人ではあり得ない速さと重さに押されてよろける。腕がビリビリとしびれるほどの強い打撃だ。

「レン…っ!!うう…っ!」

 ハクロは動けず、助けに入れない。

「まったく…相変わらず、この身体はもろい」
「…っ?!」

 メンバル王の腕は関節と反対方向に曲がり、ぷらんと垂れ下がっていた。己の身体を壊すような攻撃をしたというのか。常人なら自制が効いて出来ない。それ以上に耐え難い激痛であるはずなのに、彼の様子はまるで他人事だ。

「余が何者かという問いだったな」

 腕をぶらぶらさせながら、メンバル王は蓮を見下ろす。

「余はウェア王だ」

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