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ベッドの下の、この引き出しに(全3話)
3(最終話)
しおりを挟む次に目が覚めたときには部屋は明るくなっていて、ケータイのアラーム音と彼の情けない叫び声がセットになって耳にうるさかった。
「はァア!おい、おいて、」
「…びっくりした…なに………ぅわぁっ」
結論から言うと、作戦は失敗したのだ。
仰向けで寝ようと心掛けたのに、早い段階で横向きに、つまり無意識に彼と向かい合って寝ていたらしい。
尻の下には新旧のシミが並び、先に目を覚ました彼はそれを目撃してしまったらしい。
ベッドサイドで目を丸くしている、血の耐性は無かっただろうに本当に可哀想なことをしたと思う。
「ごめん…月のもんが来てな…すぐ洗うから」
「びっくりしたわ…処女抱いたんか思たやん」
「………阿呆、こんなに出ぇへんわ」
「お前これくらい出てたよ」
「やかましな!シーツ剥ぐから退きや!」
余計なことをペラペラと喋る男のデコをぱちんと一発シバいてから、シーツやベッドパッドなど諸々を風呂場へ運び入れて、浴槽で水に浸けた。
トイレで新しい置きパンツに脚を通し、最後の砦を挿入してからドラッグストアへと出掛けることにした。
浴槽に汚れた衣類もぶち込み、怠い下半身を引き摺ってスニーカーに足を入れる。
「はぁ…行ってくるわ…」
「付いて行こか?」
「いや、生理用品だけやから…風呂場、見んとってや、グロいから」
「ほいほい」
このダルさ、痛み、だくだくと体液が流れ出る感覚、自分の心身の生きている実感が湧くから憂鬱ではあるが案外嫌いではない。
自分の体が女である証、確かにこの胎の中に女の機能が搭載されていて、定期的にお知らせしてくれている、そんな感じだろうか。
初めてセックスをした時、確かにあの時も、彼の言うようにそこからはなかなかに血が滲んだ。
今回と出所・性質は異なる血だが、女としての証明書を交付されたようで嬉しかった…あの痛みは二度とごめんだが。
ドラッグストアで置き下着と生理用品を買い足早に彼の家に帰ると、入るなと言った風呂場の方から滴る水音が響いていた。
まさかと思い中を覗けば、シーツを絞って洗濯機へ入れようという彼に出会してしまった。
「ちょっと、ええよ!ばっちいから」
「水吸ったら重いわ。パッドだけでいっぺん回すかな…全部一気にしてまう方がええか、」
「ええって、あ、ぱ…パンツも洗うた…?」
「洗剤で擦ったら簡単に落ちたで、ズボンも」
「いや……ごめん……」
彼は何が「ごめん」なのかは理解しきれない様子だったが、とにかく持っていたシーツの塊を奪い取り、浴室から脱衣所へ上がらせた。
「うちが汚したんやから…自分でやるよ…」
「…そう?んでもさぁ、初エッチの後もさぁ、俺がシーツ洗うたで?お前、痛くて起きれん言う」
「もう!!!今言わんでええやろ!ええ加減忘れろや!阿呆!」
その後は結局、数回に分けて洗濯機を回し、
「お前は座っとれ」
と彼が言うもんだからその通りに休ませてもらった。
ベランダにはためくシーツとベッドパッド、僅かにシミは残ったが家主が気にならないと言うのでならそれで良いのだろう。
それらを干したのは彼で、下着はきちんと室内に吊るしてくれた。
腕枕をしてくれた時に正直に言っておけばここまでの大事にはならなかったかもしれない。
今となってはどうにもならないが、もう少しお互いの体の事をオープンにしても良いのかなと思える一件だった。
「なぁ」
「…なんよ」
「なんぼか、生理のやつ、うちに置いとき。困るやろ、またこんななったら」
「うん、…わかった」
下着に見下ろされながら物件情報を漁る休日の午後。
「生理前やったら、避妊せんでええんかな」
あの時本当はそう提案してみたかったと、彼からそれを聞いたのはもう数年は後の事である。
おしまい
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