好き、やねん

茜琉ぴーたん

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いつも彼女が最後に見せる顔にはドキッとさせられる(全6話)

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 さて、私は出番の前に耳鼻科のオンライン予約を入れてから舞台へ上がった。

 出来は上々、常連さんには物足らなかったかもしれないが、この鼻と顎関節はもう限界に近かったので許してほしい。


 幕袖へ下がるとすぐに財布を持って劇場を出て、近所の耳鼻科へ徒歩で向かった。

 診療予約の甲斐あってそう待たずに順番が回ってきたし、昨日の今日だから診察自体も速くて助かった。

 昨日の薬と併せて飲める鎮痛剤だか抗生剤を出して貰い、薬局のウォーターサーバーですぐに胃へ運んでその効果を期待する。


 昼の出番まではまだ時間がある、ゆっくり歩いて劇場まで戻り、裏で今日の演者一覧を確認した。

 そして、師匠クラスが使う畳の個室楽屋の空きに目を付け、一番広い所を選んでしめしめと忍び込む。

 今日の面子は若手ばかり、ここを使う大御所は来ないはずだ。

 バレれば謝るだけ、備品には手を付けない、ただ静かに休みたいだけなのだから…と思ったが備え付けのボックスティッシュは早い段階で手を伸ばしてしまった。

 こうなればもう一緒だろうと、師匠が寄贈した厚めの座布団も二つに折って頭に敷いて、またすぐに塞がった鼻を天井に向けて寝転んだ。

 年季の入った劇場だけあって天井や壁は汚れているが、定期的に入れ替えているだろう畳は藺草いぐさの良い香りがする。

 何か有れば相方が電話してくるだろうとタカをくくり、アラームもかけずに目を閉じた。


 顔の痛みは目の奥まで進行して、顔全体が熱を持ってもはや脳までぽっぽと温かい気もする。
 
 口はポカンと開けっぱなし、必然的に舌が乾く。

「楽屋の飲みもん、パクっとけば良かった…」

相方に頼む手もあるがこれ以上世話を掛けたくないし、第一スマホに手を伸ばすのも億劫になっていた。
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