旅は道連れ、夜は明けて─名無しの旅行記─

時暮雪

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×××─夜が更ける。

朝を焼く。

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 空の紫が真っ赤なように白む時間のことだった。
 轟々、轟々と燃え盛る炎は、先程から降り始めた雨で勢いを失くしていた。しかし、恐らく何かに引火したのだろう。それが何かは知るよしもないが。

 突然、爆音が辺りに響いた。音と光と熱で、暫く自分の視覚と聴覚は使い物にならなくなる。

 ようやく戻ってきた視覚が捉えたものは、勢いを増してしまった炎と、さらに燃える己の住まい可燃ゴミだったもの。
 先程の爆発により周りの木にも引火していたが、そちらは程無くして雨により消えていた。
 しかし、勢いを増してきた炎は、さほど勢いの強くない雨では消えなかったらしい。むしろ蒸発して、辺りの惨状を更に酷くしていた。

 雨と水蒸気でびしょ濡れなのに、熱により火照った体は、手に何か冷たいものを握っていたことを思い出させてくれた。

 それは燃え盛る炎の中、咄嗟に掴んだものだった。

 唯一、自分に残ったものだった。

 自分はこれの使い方を知っている。

 気づくと足は勝手に動いていて、燃えている住まい可燃ゴミの横にある小さな建物に来ていた。
 やはりそこも燃えているが、勢いはさほど強くはない。目の前にあるものの名前は知らないが、扱い方は知っていた。

 あの人も、まさか自分が"それ"で逃げるとは思いもしなかっただろう。
 自分が今より小さかった頃、分かるわけないと思って教えたことがきちんと理解されていたなんて、予想だにしなかったことだろう。

 手に握っていたものを使い、記憶通りに手順を済ませれば、"それ"は目覚めた。跨がると足はギリギリ届いたため、操作に問題は無さそうだった。
 そのまま小さな空間を"それ"に乗って飛び出せば、瞬間鼻を刺す酷い臭い。一瞬だったが、しかしその一瞬はゆっくりと流れたように感じた。

 最後に確認したものは、自身の体が燃えていると言うのに、『死』を受け入れられずに足掻く醜い肉塊。肉が燃える酷い臭いを撒き散らしながら、そいつは自分に手を伸ばす。

─否、手を伸ばしたものは自分が跨がっているものだろう。所詮、自分はその程度の価値だったのだ。
 数分に感じたその一瞬。燃える肉塊を一瞥して夜に飛び込む。

 初めてだが、何度も見た。操作に問題はない。強いて言うなら、体が小さく非力なため細かい操縦が出来ないことだろうか。
 スピードの出しすぎだと理解しているが、しかし止める気はさらさらなかった。

 このまま、このまま行けば。己を縛るものは全て燃えた。燃えてしまった。自分に残ったものは、今乗っているこれだけ。

 それだけで十分だった。

 背後の熱も遠退き、それでも体は熱いまま。一本道をひたすら進む。
 向かう先から太陽が昇り、空を焼いた。その眩しさに、思わず目を細めて──


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