【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

文字の大きさ
122 / 134
王子様と皇太子殿下 7

事件も事件、大事件

しおりを挟む
湖面に、輝く光の玉が現れた。
それが、美しい女性の姿になった。

「かあさま」
「なあに?クロエ。」
「かあさま…ぼく、ぼくね」
「知ってるわ。見てたもの、全部。」
「……ぜんぶ?」
「あなたが頑張ってるところも、苦しんでるところも、全部…見てたわ。
 守って…あげられなくて、ごめんね。
 苦しい時にそばにいられなくて、ごめんね。」
「そんな、そんなの、ぼく…ぼく、」
「かあさんね、あなたのこと生んで良かった。」
「……えっ……」
「生まれてきてくれて、ありがとう、クロエ。」
「ぼ……ぼくのこと、おこらないの?
 だって、かあさまは、ぼくのせいで…」
「あなたの所為じゃないわ。あの男が悪いの。」
「でも、でも!」
「自分を責めないで、クロエ。
 あなたを産めただけで、かあさんは十分幸せ。
 金の髪に、緑の目…。
 その緑の目はね、あなたのお父様の色よ」
「とうさま…?」
「優しくて勇敢な人だったわ。
 お城へ1度、会いに来てくれたのよ。
 あなたも会ってるわ、赤ん坊のときに、ね。」
「とうさまが?」
「そうよ。
 その後、すぐに殺されてしまったけど…
 皇城に忍び込んだ罪で。」
「……そんな……」
「今、ね。
 かあさんはあなたのお父様と一緒よ。
 死んでまた、一緒になれたの。
 だから……安心して!
 あなたも、幸せに、なるのよ!?」

きらきらと笑う、女性。
でもその顔は、子を案じる母の顔。

「しあわせ…かあさまは、しあわせ?」
「そうよ。しあわせよ。」
「そっか…そっか、よかった、」

ああ、そうだ、あれを見せないと。
持ってきた麦の種…

「かあさま、これ、ぼくがそだてたむぎの…こ」
「そう…、あなたが育てた麦から、こんな立派な実をつける麦が、育ったのね。」
「うん、うん、そう、そうなの」
「ふわふわのパン、好きだったものね。」
「うん…うん、ごめんなさい、」
「どうして謝るの?
 かあさんはね、あなたの我儘を、たった1つだけど叶えてあげられて…嬉しかったわ。」
「うん、うん…!
 かあ、さま……これ!」
「これを、私に?」
「うん!」
「ありがとう、クロエ。」
「あ、あと、かあさま」

これを渡したら、最後。
だから、言わなきゃ。

「生んでくれて、ありがとう!」

キラキラした光の玉は、すう…と消えた。
湖面に拡がった何かも、縮んで消えた。



----------


これは、ただの人間が初めて魔法を使った瞬間。
「人間」でも魔法が使えると分かった瞬間。


この世界に、

魔法が存在すると、

証明された…

歴史的な出来事だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...