みんなのたいちょう[完]

なかあたま

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 いつの間にか眠りについていたらしい。俺は窓から差し込む朝日に目を擦りながら体を起こす。薄い毛布を剥ぎ、首をぐるりと回した。独特の気怠さに支配されながら、昨日のことをぼんやりと思い出す。
 ────あれは、夢か?
 俺だって男だ。欲求は溜まる。故に、あんな歪な夢を見てもおかしくない。にしても悪趣味な夢だったなと思い、顔を洗うために小屋から出た。外では既に男達が居て、トラックに乗り込み物資の調達へ向かおうとしていた。
 その場に、隊長はいない。おかしいな、いつもなら張り切って彼らを見送っているはずなのに。そう思い、妙に心臓がドキドキと脈を打つ。
 急ぎ足でルタの小屋へ向かう最中、ワッツが俺の腕を掴んだ。なんだよと彼を振り解き、見つめる。

「ワッツ、俺はいま忙しいんだ。後にしてくれ」
「アーデ。昨日お前、途中で帰ったんだろ?」

 彼の言葉に、身が凍った。俺の雰囲気を察したのか、ワッツが後頭部を乱暴に掻く。

「あー……もしかしてお前、ああいうの苦手だったか? まぁ、相手は男だしな……」

 でも、一応ルールは伝えておかないとな。彼がため息を漏らし、俺へ人差し指を立てながら言葉を続けた。

「これはゴドフリーが昨日、みんなへ伝えたルールだ。一つ、隊長との行為は一日一回だけ。二つ、行為中は割り込んだりしない。三つ、言うことを聞かない時は乱暴に扱っていいが、それ以外では手を上げない……」
「なっ!」

 つまり、ゴドフリーはルタが行為を拒んだら殴ってもいいと考えているのか? 俺は背筋が凍るような寒気に襲われる。

「隊長に手をあげるなんて、間違ってるよ」
「でも、望んだのは隊長だ。昨日、聞いただろ? 彼は自分で供物になっても構わないと言ったんだ。彼が許可したんだから、それを拒むのは反則だろ?」

 ワッツがニタリと笑う。その笑みに吐き気がした。

「お前……隊長のこと、好いてたくせに」
「いやぁ、だからこそラッキーだったよ。こうやって抱ける機会が得られるなんて」

 あはは、と嬉しそうに笑うワッツ。好いていたという言葉の意味は、人間として尊敬していたのだろう? といった意図だったが、彼はそもそもルタを「そういう」目で見ていたらしい。
 ────こういう輩からすると、好都合ってわけか。
 やるせない気持ちになり、眉を歪める。

「あとは……なんだっけ。まぁいいか。とにかく、隊長はみんなのものだ。自由に使って構わない。もちろん、未婚既婚関係なく。やりたくなけりゃ、やらなきゃいいし、やりたければ、やる。簡単な話さ」

 肩を竦め、じゃあなと手を振り去っていく彼の後ろ姿を見つめ、俺はその場に立ち尽くした。
 ────みんな、隊長を慰み者にしていいと思っているのか?
 昨日、俺はあの集会所で周りに同調して興奮し、ルタに欲情してしまった。それは紛れもない事実だ。けれど、だからといって、この集落にいる飢えた男達の標的にされるのはおかしいと思う。
 しかし、そう思いながらも俺はどこかウズウズとした何かを孕んでいた。
 正常な思考と、相反して異常なこの環境に脳が麻痺し、渦を巻いている。
 かぶりを振り、俺は隊長の小屋まで急いだ。
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