それはダメだよ秋斗くん![完]

なかあたま

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 蒸し暑さで目覚めた。ベッドのシーツは汗ばみ、着ていたTシャツが肌に張り付いている。履いていたグレーのボクサーパンツに汗が滲んでいて顔を顰めた。
 気怠さを孕ませたまま上半身を起こし、窓へ目を向ける。閉ざされたカーテンの隙間から、目が焼けるほどの眩い光が差し込んでいた。蒸し暑い風が舞い込むたびに、その眩い光が畝る。
 外から雪崩のように舞い込む蝉の声に眉を顰め、息を吐き出した。
 ────今、何時なんだろう。
 枕元に置いていた携帯端末を手に取り、画面をつける。時刻は昼手前だ。どれだけ眠りについていたのだ、と自分を叱咤しベッドから転がり落ちるように起きる。冷えたシャワーを浴びたくて一階へ降りた。

「母さん?」

 どうやら母は不在らしい。リビングは薄暗く、不気味なほど静かだった。冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いだ。グイと飲み干し、口元を拭う。
 ────そういえば、夏休みも部活があるって言ってたな。
 隣家がある方へ視線を投げる。今頃、彼は道場で練習に勤しんでいるのだろう。自分が通っていた中学校の構造を脳裏に浮かべる。畳が敷かれた道場は、僕には無縁の場所だった。
 ────行ってみようかな。
 何故か、そう思ってしまった。秋斗の道着姿を想像し、無意識に照れる。

「きも」

 中学二年生の男子に妙な気持ちを抱いている事実に、自身で嫌悪感を抱く。背伸びをしながら風呂場へ向かった。
 




「あれ? 八雲?」

 シャワーを浴び、さっぱりした僕は家を出て中学校へ向かった。自宅から歩いて十五分。蒸すような暑さを孕んだ道を歩み、わざわざ向かうのは気が重い。しかし、何故か秋斗に会いたくて仕方がなかった。彼が普通に中学生として過ごしている姿を見てみたいと思った。
 刺すような太陽光を避けながら日陰を歩んでいる際、背中に声が当たる。振り返ると、そこには同級生の真谷孝志が立っていた。彼は僕の顔を見るなり、やっぱり、と子供のような声を漏らす。

「真谷?」
「久しぶり! なに、お前、こっちに帰ってきてんの?」
「うん、夏休みで帰ってきてる」

 パタパタと駆け寄った真谷は、学生時代と変わらぬ笑みを浮かべていた。Tシャツとハーフパンツから覗く肌はこんがりと焼けていて健康的だ。
 真谷は高校卒業後、地元で就職した。学生時代は親友というわけでもないが、付かず離れずの存在だった。そんな彼との再会に頬が緩む。

「そういえば、同じクラスだった枝野と小嶋、結婚したの知ってる?」
「えっ、知らない……」
「あの二人、実はずっと付き合ってたらしいぜ」

 懐かしい話に花を咲かせながら、並行して歩む。ザリザリと地面を蹴る音と蝉の音が混じり合い、ノスタルジックな気持ちになった。まるで自分が学生時代に戻ったかのような感覚に陥る。
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