14 / 29
14
しおりを挟む
◇
蒸し暑さで目覚めた。ベッドのシーツは汗ばみ、着ていたTシャツが肌に張り付いている。履いていたグレーのボクサーパンツに汗が滲んでいて顔を顰めた。
気怠さを孕ませたまま上半身を起こし、窓へ目を向ける。閉ざされたカーテンの隙間から、目が焼けるほどの眩い光が差し込んでいた。蒸し暑い風が舞い込むたびに、その眩い光が畝る。
外から雪崩のように舞い込む蝉の声に眉を顰め、息を吐き出した。
────今、何時なんだろう。
枕元に置いていた携帯端末を手に取り、画面をつける。時刻は昼手前だ。どれだけ眠りについていたのだ、と自分を叱咤しベッドから転がり落ちるように起きる。冷えたシャワーを浴びたくて一階へ降りた。
「母さん?」
どうやら母は不在らしい。リビングは薄暗く、不気味なほど静かだった。冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いだ。グイと飲み干し、口元を拭う。
────そういえば、夏休みも部活があるって言ってたな。
隣家がある方へ視線を投げる。今頃、彼は道場で練習に勤しんでいるのだろう。自分が通っていた中学校の構造を脳裏に浮かべる。畳が敷かれた道場は、僕には無縁の場所だった。
────行ってみようかな。
何故か、そう思ってしまった。秋斗の道着姿を想像し、無意識に照れる。
「きも」
中学二年生の男子に妙な気持ちを抱いている事実に、自身で嫌悪感を抱く。背伸びをしながら風呂場へ向かった。
「あれ? 八雲?」
シャワーを浴び、さっぱりした僕は家を出て中学校へ向かった。自宅から歩いて十五分。蒸すような暑さを孕んだ道を歩み、わざわざ向かうのは気が重い。しかし、何故か秋斗に会いたくて仕方がなかった。彼が普通に中学生として過ごしている姿を見てみたいと思った。
刺すような太陽光を避けながら日陰を歩んでいる際、背中に声が当たる。振り返ると、そこには同級生の真谷孝志が立っていた。彼は僕の顔を見るなり、やっぱり、と子供のような声を漏らす。
「真谷?」
「久しぶり! なに、お前、こっちに帰ってきてんの?」
「うん、夏休みで帰ってきてる」
パタパタと駆け寄った真谷は、学生時代と変わらぬ笑みを浮かべていた。Tシャツとハーフパンツから覗く肌はこんがりと焼けていて健康的だ。
真谷は高校卒業後、地元で就職した。学生時代は親友というわけでもないが、付かず離れずの存在だった。そんな彼との再会に頬が緩む。
「そういえば、同じクラスだった枝野と小嶋、結婚したの知ってる?」
「えっ、知らない……」
「あの二人、実はずっと付き合ってたらしいぜ」
懐かしい話に花を咲かせながら、並行して歩む。ザリザリと地面を蹴る音と蝉の音が混じり合い、ノスタルジックな気持ちになった。まるで自分が学生時代に戻ったかのような感覚に陥る。
蒸し暑さで目覚めた。ベッドのシーツは汗ばみ、着ていたTシャツが肌に張り付いている。履いていたグレーのボクサーパンツに汗が滲んでいて顔を顰めた。
気怠さを孕ませたまま上半身を起こし、窓へ目を向ける。閉ざされたカーテンの隙間から、目が焼けるほどの眩い光が差し込んでいた。蒸し暑い風が舞い込むたびに、その眩い光が畝る。
外から雪崩のように舞い込む蝉の声に眉を顰め、息を吐き出した。
────今、何時なんだろう。
枕元に置いていた携帯端末を手に取り、画面をつける。時刻は昼手前だ。どれだけ眠りについていたのだ、と自分を叱咤しベッドから転がり落ちるように起きる。冷えたシャワーを浴びたくて一階へ降りた。
「母さん?」
どうやら母は不在らしい。リビングは薄暗く、不気味なほど静かだった。冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いだ。グイと飲み干し、口元を拭う。
────そういえば、夏休みも部活があるって言ってたな。
隣家がある方へ視線を投げる。今頃、彼は道場で練習に勤しんでいるのだろう。自分が通っていた中学校の構造を脳裏に浮かべる。畳が敷かれた道場は、僕には無縁の場所だった。
────行ってみようかな。
何故か、そう思ってしまった。秋斗の道着姿を想像し、無意識に照れる。
「きも」
中学二年生の男子に妙な気持ちを抱いている事実に、自身で嫌悪感を抱く。背伸びをしながら風呂場へ向かった。
「あれ? 八雲?」
シャワーを浴び、さっぱりした僕は家を出て中学校へ向かった。自宅から歩いて十五分。蒸すような暑さを孕んだ道を歩み、わざわざ向かうのは気が重い。しかし、何故か秋斗に会いたくて仕方がなかった。彼が普通に中学生として過ごしている姿を見てみたいと思った。
刺すような太陽光を避けながら日陰を歩んでいる際、背中に声が当たる。振り返ると、そこには同級生の真谷孝志が立っていた。彼は僕の顔を見るなり、やっぱり、と子供のような声を漏らす。
「真谷?」
「久しぶり! なに、お前、こっちに帰ってきてんの?」
「うん、夏休みで帰ってきてる」
パタパタと駆け寄った真谷は、学生時代と変わらぬ笑みを浮かべていた。Tシャツとハーフパンツから覗く肌はこんがりと焼けていて健康的だ。
真谷は高校卒業後、地元で就職した。学生時代は親友というわけでもないが、付かず離れずの存在だった。そんな彼との再会に頬が緩む。
「そういえば、同じクラスだった枝野と小嶋、結婚したの知ってる?」
「えっ、知らない……」
「あの二人、実はずっと付き合ってたらしいぜ」
懐かしい話に花を咲かせながら、並行して歩む。ザリザリと地面を蹴る音と蝉の音が混じり合い、ノスタルジックな気持ちになった。まるで自分が学生時代に戻ったかのような感覚に陥る。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる