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◇
「地球には、あとどのぐらいで到着する?」
操縦室へ向かい、舵を取っていたレデに声をかける。彼は気怠そうにこちらへ振り返り「まだちょっと時間はかかるなぁ~」と座っていた椅子に背中を預け、深々と欠伸をした。
目の前にあるタッチパネルに頬杖をつく。
「速度を早めたりできないのか?」
「なんだよ、そんなに地球へ行きたいのかよ」
「違う。捕虜になっている人間が早めに地球へ行けないかって聞いてきたんだ」
「で、お前が交渉に来たってわけか。 なんだ? 惚れたのか?」
「違う。俺は別に人間を抱く趣味はない。交渉できるのが俺だけだから、聞きに来たんだ」
妙なことを言われ、俺はムキになり声を荒げた。惚れているわけないだろう、と怒鳴ってやりたくなったが、その反応は皮肉屋のレデにとっては逆効果だと察する。
「人間がそんなことを言ったのか?」
声をかけられ、肩に手を置かれた。ビクンと体を跳ねさせ、振り返る。そこにはウェインがいた。目を細めているが、笑ってはいない。その表情に冷や汗が滲んだ。今まで見たことがない類の表情に唾液を嚥下する。
「いや……別に懇願されたわけじゃない。ただ、少し早めに帰ることはできないかと言われたんだ」
「なるほど」
ウェインがうんうんと頷く。続けて「お前は随分とあの人間に好かれているんだな」と言った。
「違う、言葉が分かるから接しているだけで……好かれているとか、そういうわけじゃない」
「そうか。じゃあ、こう伝えてやるか。「もう時期、着く」と」
レグが深々と座っていた椅子から立ち上がる勢いで体を起こし「えぇ!?」と声を荒げる。
「まだ着きませんよ、全然!」
「分かってる」
「じゃあなんで」
「そっちの方が、楽しめるから」
俺の言葉にウェインが愉快げに歯を見せた。背中を向けた彼は俺に振り返ることなく「あの人間に教えてやるか」と言い残し、操縦室を去る。
その背中を眺めながら言葉の真意を察し、悪趣味さにゲンナリする。
「まだ時間がかかるって伝えるより、もうすぐで到着するぞって言った方が希望を持たせることができるもんな。その状態で抱きたいんだろ。ウェ~……鬼だぜ」
レグが肩を竦める。そのままタッチパネルへ向き直った。
────いいよな、間に挟まれてない奴は……。
人間の言葉なんて理解できなければ良かったと後悔する。
大きなため息を漏らし、ウェインの後を追った。
「地球には、あとどのぐらいで到着する?」
操縦室へ向かい、舵を取っていたレデに声をかける。彼は気怠そうにこちらへ振り返り「まだちょっと時間はかかるなぁ~」と座っていた椅子に背中を預け、深々と欠伸をした。
目の前にあるタッチパネルに頬杖をつく。
「速度を早めたりできないのか?」
「なんだよ、そんなに地球へ行きたいのかよ」
「違う。捕虜になっている人間が早めに地球へ行けないかって聞いてきたんだ」
「で、お前が交渉に来たってわけか。 なんだ? 惚れたのか?」
「違う。俺は別に人間を抱く趣味はない。交渉できるのが俺だけだから、聞きに来たんだ」
妙なことを言われ、俺はムキになり声を荒げた。惚れているわけないだろう、と怒鳴ってやりたくなったが、その反応は皮肉屋のレデにとっては逆効果だと察する。
「人間がそんなことを言ったのか?」
声をかけられ、肩に手を置かれた。ビクンと体を跳ねさせ、振り返る。そこにはウェインがいた。目を細めているが、笑ってはいない。その表情に冷や汗が滲んだ。今まで見たことがない類の表情に唾液を嚥下する。
「いや……別に懇願されたわけじゃない。ただ、少し早めに帰ることはできないかと言われたんだ」
「なるほど」
ウェインがうんうんと頷く。続けて「お前は随分とあの人間に好かれているんだな」と言った。
「違う、言葉が分かるから接しているだけで……好かれているとか、そういうわけじゃない」
「そうか。じゃあ、こう伝えてやるか。「もう時期、着く」と」
レグが深々と座っていた椅子から立ち上がる勢いで体を起こし「えぇ!?」と声を荒げる。
「まだ着きませんよ、全然!」
「分かってる」
「じゃあなんで」
「そっちの方が、楽しめるから」
俺の言葉にウェインが愉快げに歯を見せた。背中を向けた彼は俺に振り返ることなく「あの人間に教えてやるか」と言い残し、操縦室を去る。
その背中を眺めながら言葉の真意を察し、悪趣味さにゲンナリする。
「まだ時間がかかるって伝えるより、もうすぐで到着するぞって言った方が希望を持たせることができるもんな。その状態で抱きたいんだろ。ウェ~……鬼だぜ」
レグが肩を竦める。そのままタッチパネルへ向き直った。
────いいよな、間に挟まれてない奴は……。
人間の言葉なんて理解できなければ良かったと後悔する。
大きなため息を漏らし、ウェインの後を追った。
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