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◇
目覚めると見慣れた天井が広がっていた。数回、瞬きを繰り返す。ゆっくりと上半身を起こし、首を横に振った。部屋にかけられた時計へ視線を投げる。時刻は俺がベッドに寝転んでから約一時間経過していた。
────寝てしまった。
あのあと自分の部屋へ帰り、頼まれていた機器の修理を行なっていた。が、ハルの苦しそうな声が鼓膜から離れず、それが嫌でベッドに横たわったのだ。
────なんでこんな……。
俺がこんなに悩んだり苦しむ意味はない。あの人間がどうなろうと関係ない。
だが、脳裏にハルの姿が焼き付いて離れない。
「……クソ」
俺は悪態を吐き、ベッドから降りた。床に転がった器具を避けながら、部屋を後にする。やけに静かな廊下を歩き、食堂へ向かった。
────なんだ? 妙に……。
妙に静かだった。物音ひとつ聞こえず、耳鳴りがするほどの静寂が船を支配していた。「おい?」。俺は誰かを呼んでみる。が、その声は反響し、どこかへ消えた。
瞬間、足に錘がついたように重くなり、うまく歩けなくなる。
────寝起きだからか?
俺は眉を顰め、もう一度声を出した。しかし、反応する者は誰一人としていない。
不気味さを覚えつつ、目的地の食堂へ向かう。
「……ん?」
食堂が何やら騒がしかった。あぁ、ここに集まっていたのかと察し、ホッと胸を撫で下ろす。だが、いったい何をやっているのだろうと首を傾げた。
香ばしい匂いが鼻を擽る。何か料理でもしているのかと思い、ギュルリと鳴る腹を摩った。
食堂へ入ると、一つのテーブルをウェインたちが囲っていた。手にはフォークやスプーンが握られていて、忙しなく何かを掬っては口に入れている。
楽しげなその輪に、そこはかとなく違和感を覚え、彼らへ近づく。俺が一歩を踏み出すと同時に、ウェインがこちらへ振り返った。
「お、ロジモ。お前も来たのか」
「……何をやってるんだ?」
俺の問いに、ウェインが肩を竦めた。口の中に入っていたものを咀嚼し、嚥下する。
「いやぁ。俺は食べるつもりなんてなかったんだが……みんながどうしてもっていうから、なぁ?」
彼の言動に、咄嗟に何かを感じ取る。「まさか────」と言った俺は、足元にある布切れに気がついた。視界に入れた途端、ウェインの笑う声が聞こえる。
落ちていたそれは、ハルが身につけていた衣類の残骸だった。一気に血の気がひき、汗が吹き出た。どくどくと心臓が脈を打ち、口内に唾液が滲む。
「おま、お前ら、お前ら、嘘だろ」
俺は震える手で、テーブルを囲っていた連中を掻き分ける。彼らに祀られるように置かれていたのは、大きな鍋だった。底が深いそれは、中に何が入っているか分からない。けれど芳醇で、香ばしい匂いが漂っているということだけは確かだ。
「は、ハル……ハル……」
俺は鍋の縁に手を伸ばし、中を覗き込んだ。
目覚めると見慣れた天井が広がっていた。数回、瞬きを繰り返す。ゆっくりと上半身を起こし、首を横に振った。部屋にかけられた時計へ視線を投げる。時刻は俺がベッドに寝転んでから約一時間経過していた。
────寝てしまった。
あのあと自分の部屋へ帰り、頼まれていた機器の修理を行なっていた。が、ハルの苦しそうな声が鼓膜から離れず、それが嫌でベッドに横たわったのだ。
────なんでこんな……。
俺がこんなに悩んだり苦しむ意味はない。あの人間がどうなろうと関係ない。
だが、脳裏にハルの姿が焼き付いて離れない。
「……クソ」
俺は悪態を吐き、ベッドから降りた。床に転がった器具を避けながら、部屋を後にする。やけに静かな廊下を歩き、食堂へ向かった。
────なんだ? 妙に……。
妙に静かだった。物音ひとつ聞こえず、耳鳴りがするほどの静寂が船を支配していた。「おい?」。俺は誰かを呼んでみる。が、その声は反響し、どこかへ消えた。
瞬間、足に錘がついたように重くなり、うまく歩けなくなる。
────寝起きだからか?
俺は眉を顰め、もう一度声を出した。しかし、反応する者は誰一人としていない。
不気味さを覚えつつ、目的地の食堂へ向かう。
「……ん?」
食堂が何やら騒がしかった。あぁ、ここに集まっていたのかと察し、ホッと胸を撫で下ろす。だが、いったい何をやっているのだろうと首を傾げた。
香ばしい匂いが鼻を擽る。何か料理でもしているのかと思い、ギュルリと鳴る腹を摩った。
食堂へ入ると、一つのテーブルをウェインたちが囲っていた。手にはフォークやスプーンが握られていて、忙しなく何かを掬っては口に入れている。
楽しげなその輪に、そこはかとなく違和感を覚え、彼らへ近づく。俺が一歩を踏み出すと同時に、ウェインがこちらへ振り返った。
「お、ロジモ。お前も来たのか」
「……何をやってるんだ?」
俺の問いに、ウェインが肩を竦めた。口の中に入っていたものを咀嚼し、嚥下する。
「いやぁ。俺は食べるつもりなんてなかったんだが……みんながどうしてもっていうから、なぁ?」
彼の言動に、咄嗟に何かを感じ取る。「まさか────」と言った俺は、足元にある布切れに気がついた。視界に入れた途端、ウェインの笑う声が聞こえる。
落ちていたそれは、ハルが身につけていた衣類の残骸だった。一気に血の気がひき、汗が吹き出た。どくどくと心臓が脈を打ち、口内に唾液が滲む。
「おま、お前ら、お前ら、嘘だろ」
俺は震える手で、テーブルを囲っていた連中を掻き分ける。彼らに祀られるように置かれていたのは、大きな鍋だった。底が深いそれは、中に何が入っているか分からない。けれど芳醇で、香ばしい匂いが漂っているということだけは確かだ。
「は、ハル……ハル……」
俺は鍋の縁に手を伸ばし、中を覗き込んだ。
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