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54.さいごのお願い
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刻々と時間は過ぎ、誕生日の終わりが近づいてくる。
あんなにも幸せで浮かれていた気分は日が落ちるほどに鳴りを潜め、僕は不安に押しつぶされそうになっていた。軽い夕飯の最中も片付けをしている今も会話は少ない。リアンもどこか上の空で、それが僕の不安を助長していた。
決意が揺らぎそうになる。お互いの関係が曖昧なままでも、仲良く楽しく暮らせているじゃないか。リアンが僕を大切にしてくれている現在の状態を保っていたい。……けれどそれではキリトのときの二の舞いだ。
自分を卑下し、すぐ人に流される自分はあのとき死んだと思うことにした。あれ以上の恐怖や痛みはなかなか経験できない。いま生きていることが奇跡なら、もうなにも怖くないはずだ。
僕が片付けを終えて密かに決意していたとき、少しの間外出していたリアンが帰ってきた。連れていきたい場所があるから、一緒に来てくれという。
もう外は真っ暗だ。こんな時間になんだろう?
言われるがまま温かい服に着替え、もらったばかりのコートを着る。ちょっと温かすぎる気がしたけど、リアンはそんな僕を見てウンウンと頷いている。
「えっ!車?リアン運転できるの?」
「うん。車は借り物だけど、運転は上手いよ」
家の前には四角いボディの大きな車が鎮座していた。リアンが運転しているところを見たことがなかったからびっくりだ。彼の久しぶりに自信満々な発言を聞いて、くすくす笑ってしまう。
ファリアスの人はだいたいが学校を卒業する年に免許を取得するけど、車を個人所有する人は多くないらしい。公共交通機関が発達しているからだろう。
その代わりカー・シェアが浸透していて、必要な時に必要な車種を簡単に借りられるそうだ。
オフロードでも力強く走れそうな車は車高が高く、ひとりで乗るのに苦労していたらリアンが後ろからひょい、と持ち上げて乗せてくれた。車に乗りなれていないのもあるけど、子どもみたいで恥ずかしい……
僕の羞恥心なんて気づきもせずリアンの運転で車はスムーズに走り出す。
どこか見覚えのある道をどんどんと進み、急な山道を登ってあっという間にケルティ山の中腹まできてしまった。停留所がないぶん、オート・バスよりかなり早い。
リアンが車のヘッドライトを消すと、周囲は真っ暗だった。月明かりがないから、新月かそれに近いだろうか。
何も言わないリアンに車から降ろしてもらって、手を引かれて歩く。目が慣れてくると、ピクニックの時にバスを下りた場所とは少し違うことがわかった。
夜なのもあるし、標高が高いから地上よりもぐっと気温が低い。自分の吐く息が白く靄のように広がり、温かい服装をさせられた意味を理解する。
広い駐車場には数台の車が停まっていて、こんな時間に他にも来ている人がいることに驚く。こんなところに何が?
自然な流れでリアンは僕の手を引いて歩いている。暗いし僕がすぐ転びそうだからだろうけど……手を繋いで歩くなんて初めてで、その時点で僕の脳内は沸騰していた。
急に手汗が気になって、手の隙間に空間を持たせようと手の平を丸めたりしてしまう。
そんなことに注力しているあいだに僕らは駐車場を通り抜け、広場のようなところに躍り出る。低い丘になっていて、その向こうには柵が、そして……柵の先にはキラキラと輝く夜景が見えた。
「すごい……綺麗!夜景を見せに来てくれたの?」
周囲には丘に寝転がっている人や、柵に寄りかかって夜景を見ている人たちもいることがシルエットでわかる。かなり暗いから、あからさまにイチャイチャしている人さえいてそっと目を逸らした。
僕が隣のリアンを見上げて問うと、暗闇の中でもリアンが薄く微笑んでいることがわかった。彼は首を横に振り、空いている手で頭上を指さした。
「上?わっ…………わぁ~~~!」
真っ暗だと思っていた空は、小さな星々に埋め尽くされていた。
昼間にあった雲はまとめてどこかへ消えてしまったようだ。無駄な光の一切ない場所で見る星は、地上から見るのとは別物だった。
あんなにも幸せで浮かれていた気分は日が落ちるほどに鳴りを潜め、僕は不安に押しつぶされそうになっていた。軽い夕飯の最中も片付けをしている今も会話は少ない。リアンもどこか上の空で、それが僕の不安を助長していた。
決意が揺らぎそうになる。お互いの関係が曖昧なままでも、仲良く楽しく暮らせているじゃないか。リアンが僕を大切にしてくれている現在の状態を保っていたい。……けれどそれではキリトのときの二の舞いだ。
自分を卑下し、すぐ人に流される自分はあのとき死んだと思うことにした。あれ以上の恐怖や痛みはなかなか経験できない。いま生きていることが奇跡なら、もうなにも怖くないはずだ。
僕が片付けを終えて密かに決意していたとき、少しの間外出していたリアンが帰ってきた。連れていきたい場所があるから、一緒に来てくれという。
もう外は真っ暗だ。こんな時間になんだろう?
言われるがまま温かい服に着替え、もらったばかりのコートを着る。ちょっと温かすぎる気がしたけど、リアンはそんな僕を見てウンウンと頷いている。
「えっ!車?リアン運転できるの?」
「うん。車は借り物だけど、運転は上手いよ」
家の前には四角いボディの大きな車が鎮座していた。リアンが運転しているところを見たことがなかったからびっくりだ。彼の久しぶりに自信満々な発言を聞いて、くすくす笑ってしまう。
ファリアスの人はだいたいが学校を卒業する年に免許を取得するけど、車を個人所有する人は多くないらしい。公共交通機関が発達しているからだろう。
その代わりカー・シェアが浸透していて、必要な時に必要な車種を簡単に借りられるそうだ。
オフロードでも力強く走れそうな車は車高が高く、ひとりで乗るのに苦労していたらリアンが後ろからひょい、と持ち上げて乗せてくれた。車に乗りなれていないのもあるけど、子どもみたいで恥ずかしい……
僕の羞恥心なんて気づきもせずリアンの運転で車はスムーズに走り出す。
どこか見覚えのある道をどんどんと進み、急な山道を登ってあっという間にケルティ山の中腹まできてしまった。停留所がないぶん、オート・バスよりかなり早い。
リアンが車のヘッドライトを消すと、周囲は真っ暗だった。月明かりがないから、新月かそれに近いだろうか。
何も言わないリアンに車から降ろしてもらって、手を引かれて歩く。目が慣れてくると、ピクニックの時にバスを下りた場所とは少し違うことがわかった。
夜なのもあるし、標高が高いから地上よりもぐっと気温が低い。自分の吐く息が白く靄のように広がり、温かい服装をさせられた意味を理解する。
広い駐車場には数台の車が停まっていて、こんな時間に他にも来ている人がいることに驚く。こんなところに何が?
自然な流れでリアンは僕の手を引いて歩いている。暗いし僕がすぐ転びそうだからだろうけど……手を繋いで歩くなんて初めてで、その時点で僕の脳内は沸騰していた。
急に手汗が気になって、手の隙間に空間を持たせようと手の平を丸めたりしてしまう。
そんなことに注力しているあいだに僕らは駐車場を通り抜け、広場のようなところに躍り出る。低い丘になっていて、その向こうには柵が、そして……柵の先にはキラキラと輝く夜景が見えた。
「すごい……綺麗!夜景を見せに来てくれたの?」
周囲には丘に寝転がっている人や、柵に寄りかかって夜景を見ている人たちもいることがシルエットでわかる。かなり暗いから、あからさまにイチャイチャしている人さえいてそっと目を逸らした。
僕が隣のリアンを見上げて問うと、暗闇の中でもリアンが薄く微笑んでいることがわかった。彼は首を横に振り、空いている手で頭上を指さした。
「上?わっ…………わぁ~~~!」
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昼間にあった雲はまとめてどこかへ消えてしまったようだ。無駄な光の一切ない場所で見る星は、地上から見るのとは別物だった。
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