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第二章 魔界統一 編
67話 魔界天下布武
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力尽きた金吾。それを見たファルティスは堪らず飛び出した。
「ガイゼルバッハの勝ちか……。まぁ、予想通りかのう」
ラーダマーヤもこの結果に落胆。変わらず平然だったのはヴァルサルドルムだけ。
「ガイゼルバッハは若い。まだまだ強くなろう。そして金吾だが、まだ己の身体に馴れていないのだ。あやつの底力もまだこんなものではない」
「どちらにしろ、あとは首を取って仕舞いじゃ」
「……」
その通り。金吾にはもう戦う力はなかった。ただただ正座したまま、穴の開いた腹を手で押さえている。顔も上げる余裕すらなく地に向けたままだった。
それでも何とか声だけは出せた。
「ガイゼルバッハ……」
「……」
「お互い肩を壊し腹に穴を開けてしまった。そろそろ幕引きといかないか?」
「……」
「引き分け……と言いたいところだが、俺の負けだな。認めよう。俺にはもう打つ手がない」
それは降参だった。ブラフではない。そう認めたガイゼルバッハは逆に問い返す。
「一つ聞きたい。何故、お前には殺意がなかった? 初めはブラフの攻撃だからと思っていたが、最後の一撃にすらそれがなかった」
「殺意?」
「そうだ」
「……そりゃ、俺はお前を殺したくなかったからな」
「っ!?」
「サルベイダに向けて言っただろう? アイツが忠義を示すお前に興味を覚えたと。俺はお前に好意しかもっていなかった。言葉でなく拳で語り合うことになってしまったが、それは今も変わってはいない」
「……」
「お前は強い。まだまだ余力があろう。だが、それは俺にとって脅威ではなく頼もしさだ」
「小早川金吾、お前は俺より弱いと認めるのか?」
「俺は人間だからな。力だけが全てとは思っていない。それにサルベイダだってお前のことをただ強いだけで慕っているわけではないのだろう?」
「……」
「魔界は変わろうとしている。力だけがモノをいう古き時代は去り、共に手を取り合う新しい時代が訪れる。その時代にはサルベイダのような男と、その忠義を受けるお前のような者が必要なのだ」
そして金吾は……、
「新しい時代の夜明けだ。ガイゼルバッハ、その力をオカヤマに貸してくれ」
夜明けの陽に照らされながら、頭を垂れ辞儀をした。
ガイゼルバッハ、瞠目。初め、理解が出来なかった。
自分の力が認められ、矜持も尊重され、決闘にも勝利した。何ら不満はない結果だ。なのに、金吾のその姿は敗者そのものでありながら、言っている言葉は勝者のものなのである。それでいて自分は不快な気持ちにはならなかったのだ。
また、彼は思う。サルベイダのような配下をもてたことは幸運であるが、そのような者を増やすにはこれまでの世界では難しいと。
サルベイダがオカヤマに相応しい魔族なら、新しい時代こそそれらが得られる場なのかもしれない。
今までにない、新たな世界を望みたい。それもまた己の『野心の性』によるものか……。
心を揺さぶられる魔王。その辞儀は金吾の最後の攻撃だったのかもしれない。魔族には出来ぬ、小早川金吾だけが持ちうるとてつもない力……。
……。
ガイゼルバッハは身体に刺さっていた刀と脇差を抜き捨てる。その中でも肩の方の傷は金吾の乾坤一擲によるものだ。彼の古傷コレクションの一つとして一生残ることだろう。
「小早川金吾、貴公の手並、傍で直と見させてもらうぞ」
そして、ガイゼルバッハはそう答えると暁の空へ飛び立つのであった。
決着である。
決闘の勝者がどちらか、それは当人たちですら分からないだろう。
やってきたファルティスが金吾に寄り添う光景を背に、ガイゼルバッハは空を舞う。
その表情はどこか満足そうなものだった。
遂に、その日がやってくる。
街中で人々が沸き立つ中、オカヤマ城・玉座の間にて魔界統一式典が開かれていた。
列席するのはヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダー、ガイゼルバッハら四人の元魔王を筆頭に、ルドラーンやラナなどのファルティスの腹心。他、ジーグリーン、ユリエド、リアスター、サルベイダ、ガッシュテッド、ラシャーク、バッサラバッサなど各勢力の魔族たち。またセルメイル王国王女ティエリアや公使マゼルバもいる。
そしてそれらの視線の先には、玉座に就く魔王ファルティスと侍る金吾がいた。
彼は諸氏の前で力強く宣言する。
「我が主、魔王ファルティスはヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダー、ガイゼルバッハ、ベリアルドゥの臣従を認められた。これをもって魔王はファルティスただ一人となり、魔界は四百年ぶりに統一された! 合わせて、魔王を元首とした魔族国家オカヤマの建国を宣言する!」
まずは魔界統一とオカヤマの正式な立国。
「また建国に伴い、オカヤマの官職も整備する。某、小早川金吾は魔王より関白職を承る。また、ヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダー、ガイゼルバッハ、ベリアルドゥの五名には『大老』に任じるものとする。関白及び五大老以下、オカヤマの臣下は魔王を守り立て、オカヤマの繁栄に努めること」
次いで重臣たちへの勲労と責務。
「そして、嘗ての先代魔王のように天下にファルティスの名を轟かせるべし!」
最後に魔族の復権。
彼の号令の下、全ての魔族、人間がファルティスに平伏した。
今、魔界の乱世は終焉し、天下布武は成った。
魔界は新たな時代を迎えたのである。
― 第 二 章 完 ―
――― あとがき ―――
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。これにて第二章完結となります。
引き続き第三章が始まりますので、ブクマや評価、感想などを頂けましたら大変嬉しく存じます。
今後ともお付き合い頂けるよう務めてまいりますので、よろしくお願い致します。
「ガイゼルバッハの勝ちか……。まぁ、予想通りかのう」
ラーダマーヤもこの結果に落胆。変わらず平然だったのはヴァルサルドルムだけ。
「ガイゼルバッハは若い。まだまだ強くなろう。そして金吾だが、まだ己の身体に馴れていないのだ。あやつの底力もまだこんなものではない」
「どちらにしろ、あとは首を取って仕舞いじゃ」
「……」
その通り。金吾にはもう戦う力はなかった。ただただ正座したまま、穴の開いた腹を手で押さえている。顔も上げる余裕すらなく地に向けたままだった。
それでも何とか声だけは出せた。
「ガイゼルバッハ……」
「……」
「お互い肩を壊し腹に穴を開けてしまった。そろそろ幕引きといかないか?」
「……」
「引き分け……と言いたいところだが、俺の負けだな。認めよう。俺にはもう打つ手がない」
それは降参だった。ブラフではない。そう認めたガイゼルバッハは逆に問い返す。
「一つ聞きたい。何故、お前には殺意がなかった? 初めはブラフの攻撃だからと思っていたが、最後の一撃にすらそれがなかった」
「殺意?」
「そうだ」
「……そりゃ、俺はお前を殺したくなかったからな」
「っ!?」
「サルベイダに向けて言っただろう? アイツが忠義を示すお前に興味を覚えたと。俺はお前に好意しかもっていなかった。言葉でなく拳で語り合うことになってしまったが、それは今も変わってはいない」
「……」
「お前は強い。まだまだ余力があろう。だが、それは俺にとって脅威ではなく頼もしさだ」
「小早川金吾、お前は俺より弱いと認めるのか?」
「俺は人間だからな。力だけが全てとは思っていない。それにサルベイダだってお前のことをただ強いだけで慕っているわけではないのだろう?」
「……」
「魔界は変わろうとしている。力だけがモノをいう古き時代は去り、共に手を取り合う新しい時代が訪れる。その時代にはサルベイダのような男と、その忠義を受けるお前のような者が必要なのだ」
そして金吾は……、
「新しい時代の夜明けだ。ガイゼルバッハ、その力をオカヤマに貸してくれ」
夜明けの陽に照らされながら、頭を垂れ辞儀をした。
ガイゼルバッハ、瞠目。初め、理解が出来なかった。
自分の力が認められ、矜持も尊重され、決闘にも勝利した。何ら不満はない結果だ。なのに、金吾のその姿は敗者そのものでありながら、言っている言葉は勝者のものなのである。それでいて自分は不快な気持ちにはならなかったのだ。
また、彼は思う。サルベイダのような配下をもてたことは幸運であるが、そのような者を増やすにはこれまでの世界では難しいと。
サルベイダがオカヤマに相応しい魔族なら、新しい時代こそそれらが得られる場なのかもしれない。
今までにない、新たな世界を望みたい。それもまた己の『野心の性』によるものか……。
心を揺さぶられる魔王。その辞儀は金吾の最後の攻撃だったのかもしれない。魔族には出来ぬ、小早川金吾だけが持ちうるとてつもない力……。
……。
ガイゼルバッハは身体に刺さっていた刀と脇差を抜き捨てる。その中でも肩の方の傷は金吾の乾坤一擲によるものだ。彼の古傷コレクションの一つとして一生残ることだろう。
「小早川金吾、貴公の手並、傍で直と見させてもらうぞ」
そして、ガイゼルバッハはそう答えると暁の空へ飛び立つのであった。
決着である。
決闘の勝者がどちらか、それは当人たちですら分からないだろう。
やってきたファルティスが金吾に寄り添う光景を背に、ガイゼルバッハは空を舞う。
その表情はどこか満足そうなものだった。
遂に、その日がやってくる。
街中で人々が沸き立つ中、オカヤマ城・玉座の間にて魔界統一式典が開かれていた。
列席するのはヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダー、ガイゼルバッハら四人の元魔王を筆頭に、ルドラーンやラナなどのファルティスの腹心。他、ジーグリーン、ユリエド、リアスター、サルベイダ、ガッシュテッド、ラシャーク、バッサラバッサなど各勢力の魔族たち。またセルメイル王国王女ティエリアや公使マゼルバもいる。
そしてそれらの視線の先には、玉座に就く魔王ファルティスと侍る金吾がいた。
彼は諸氏の前で力強く宣言する。
「我が主、魔王ファルティスはヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダー、ガイゼルバッハ、ベリアルドゥの臣従を認められた。これをもって魔王はファルティスただ一人となり、魔界は四百年ぶりに統一された! 合わせて、魔王を元首とした魔族国家オカヤマの建国を宣言する!」
まずは魔界統一とオカヤマの正式な立国。
「また建国に伴い、オカヤマの官職も整備する。某、小早川金吾は魔王より関白職を承る。また、ヴァルサルドルム、ラーダマーヤ、ネトレイダー、ガイゼルバッハ、ベリアルドゥの五名には『大老』に任じるものとする。関白及び五大老以下、オカヤマの臣下は魔王を守り立て、オカヤマの繁栄に努めること」
次いで重臣たちへの勲労と責務。
「そして、嘗ての先代魔王のように天下にファルティスの名を轟かせるべし!」
最後に魔族の復権。
彼の号令の下、全ての魔族、人間がファルティスに平伏した。
今、魔界の乱世は終焉し、天下布武は成った。
魔界は新たな時代を迎えたのである。
― 第 二 章 完 ―
――― あとがき ―――
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。これにて第二章完結となります。
引き続き第三章が始まりますので、ブクマや評価、感想などを頂けましたら大変嬉しく存じます。
今後ともお付き合い頂けるよう務めてまいりますので、よろしくお願い致します。
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