転生金吾 ~戦国一の裏切り者 小早川秀秋、異世界でも人間から魔族へ寝返る~

北条新九郎

文字の大きさ
3 / 81
第一章 異世界・天下布武 編

3話 火炙り大名

しおりを挟む
 金吾が目を覚ますとそこは小さな村だった。一望する限り辺鄙へんぴな人里のようで、家々もおんぼろの上、こじんまりとしたものばかり。村人らしい者たちも先の街の人間よりみすぼらしい格好をしている。どうやら、金吾は彼らに拾われたようだ。九死に一生を得たか。因みに、何故彼が村を一望出来るのかというと……、

「な、何だ、こりゃ……!?」

 はりつけにされていたからだ。

 場所は村の中心の広場。木の柱に縛りつけられた金吾の足元にはわらまきが積み上げられており、村人らがすきくわを手に強面で見上げていた。そして、金吾が目覚めたことに気付く。

「魔族が目を覚ましたぞ!」

 またまた出てきた聞き慣れぬ単語に、金吾は「魔族?」と首を傾げるばかり。片や、惚けるなとばかりに村人らは暴言を浴びせる。

「奇怪な姿をして、人に化けるのが下手くそな奴め!」

「俺たち人間を馬鹿にするなよ!」

「今までの恨み、今日こそ晴らしてやる!」

 遂には連中、松明まで取り出した。その目的は勿論、藁に火を付けるため。

 金吾は火炙ひあぶりに処された。

「大名の俺が切腹どころか火炙りだと!?」

 火が上がり、煙が彼を包んでいく。油も撒かれていたからか、勢いも凄まじい。

「ま、待て。せめて酒を……酒を一杯……」

 金吾、力なく慈悲を請うも……、

「一体どこで盗んだんだ? この妙な剣は。全く、魔族ってのは忌々しい生き物だ。滅びかかっているくせによ」

 村人らは無視して金吾から奪い取った大小の刀を見定めている始末。侮蔑ぶべつの言葉と眼差しを浴びせる彼らに引け目は全くなかった。

「お前ら、情けすらないのかぁ……」

 こうして、金吾は燃え盛る炎の中に消えていくのだった……。



 それからおよそ二時間。激しい炎で磔の柱がついに崩れ落ちると……金吾はやっと解放された。

 ……そう、彼は生きていたのである。着物は完全に灰となったが、身体は大丈夫、異常なし。綺麗な肌色をしていた。とはいえ、衰弱状態なのは変わりない。金吾は残りの力を振り絞ってフラフラと歩き始めた。

「日ノ本だって行き倒れの南蛮人には手を差し伸べたのに……。ここの人間は畜生過ぎる……。本当に地獄以下だ」

 ただ、他にも可笑しなことがある。何故か、その畜生過ぎる村人たちがいなくなっていたのだ。金吾自身は激しい炎と煙に包まれていたため、視界は完全に塞がれていた。処刑を途中で放ったらかしにするとは異様である。

 いや、村全体が異様になっていた。村中で煙が上がり、火が上がり、そして悲鳴が上がっている。その度に破壊音が鳴り響いていた。正に戦の様相。

 そう、戦だ。現在、この村は襲われていた。処刑中に襲撃を受けたのだろう。

「来るな、来るなぁ!」

 また聞こえてくる悲鳴。金吾がその方向を見てみれば、血塗れの男が大量の荷物を背負って必死に逃げていた。金吾の刀を奪ったあの村人だ。だが……、

「ぎゃあああああああああ!」

 その身体が一瞬で四散した。文字通り四つに散ったのである。

 それを成したのは欲望に塗れた獣たち。

 ある獣は裂けた口と牙を持ち、ある獣は馬のように首が長く、またある獣は熊より鋭い爪を有している。人間のような二足もいれば、犬のような四足もおり、或いは虫のような多足や蛇のような無足もいた。その姿は多種多様だが、どれも人より巨大で、肉食獣のような攻撃的な風貌ふうぼうをしている。

 魔族だ。

 そんな彼らが徹底的に快楽を貪っていたのだ。人を踏み潰しては家畜を食い荒らし、酒をたるごと飲み干してはたわむれで家を破壊する。人間ではとても太刀打ち出来ない怪物。正に、地獄以下と呼ぶに相応しい光景である。……ただ、金吾はそれを目の前で見せつけられても全く興味を示さなかった。足元に転がってきた己の刀の大小を拾うと、惨劇さんげきを無視して再び歩き出す。

 奇怪の連続で、この現実を受け入れられないでいるのか? 否、彼は今とてつもなく苦しんでおり、それどころではなかったのだ。それは……、

「さ、さけ……」

 やはり酒。この世界に来てまだ一滴も飲めていない酒が、彼から正気を奪っていた。二十一歳で酒毒になるほどの酒豪である。その苦しみは計り知れない。

 虐殺の中をフラフラと歩む姿は、この地獄以下を彷徨う亡霊の如し。主がいなくなった民家に入っていき、そこで空瓶を覗いては落胆し、空樽を覗いては落胆しを繰り返した。

「さけ、さけ……」

 虐殺の余波で家の壁が崩壊しても構わず。というか、無視しているというより見えていない。酒が無いのが分かると、その穴を使って外へと出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった

ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。 悪役貴族がアキラに話しかける。 「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」 アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。 ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。

元社畜、異世界でダンジョン経営始めます~ブラック企業式効率化による、最強ダンジョン構築計画~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラックIT企業で過労死したシステムエンジニア、佐伯航。気づけばそこは剣と魔法の異世界。目の前にはダンジョンコアを名乗る銀髪美少女・コアが現れ、自身がダンジョンマスターになったことを知る。「もう二度とあんな働き方はしない!」前世のトラウマから、航改めワタルは決意する。目指すは、徹底的に効率化された「超ホワイト」なダンジョン経営だ! 元SEの知識をフル活用し、システム思考でダンジョンを設計。最弱スライムを清掃や警報システムに組み込み、罠はセンサー連動で自動化。少ないリソースで最大の効果を上げるべく、ブラック企業仕込み(?)の最適化術で、モンスターすら効率的に運用していく。これは、元社畜が知識チートと合理主義で最強ダンジョンを築き、異世界で成り上がる物語!

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー

きみゆぅ
ファンタジー
『ヴェアリアスストーリー』は神秘と冒険が交差するファンタジー世界を舞台にした物語。    不思議なちからを操るセイシュの民、失ったそのちからを求めるイシュの民、そして特殊な力を持たないがゆえに知恵や技術で栄えたヒュムが共存する中、新たなる時代が幕を開けた。  彼らは悩み迷いながらも、自分たちが信じる正義を追求し、どのように未来を切り開いていくのか。ちからと知恵、絆が交差する物語の中で、彼らは自らの運命に立ち向かい、新しい数々のストーリーを紡いでいく。  第一章はセイシュの民の視点での物語。

処理中です...