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第一話
雷電
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「ハルカ様!!また勝手なことをされて!困ります!!!」
「大丈夫ですよ。私の目に狂いはありません」
「それ、何度目なんですか!!」
「さぁ?、初めてですから」
「ハルカ様!!!」
小さな少女が光に対して怒鳴っているという異様な光景を、千尋はただ眺めていることしかできなかった。
どうやらここは目の前に見える屋敷の庭のようだ。
綺麗に刈られた芝が見える。
少女は先程まで洗濯物を干していたらしい。シーツが風に揺れていた。
「あなたも!中で体を洗ってきてください!着替えは用意しておきますから!」
「あ、あぁ」
「千尋、今日は休みましょう」
ハルカが瞬きながら言う。
千尋はそれに素直に従うことにした。
体が冷えて棒きれのようである。
とても万全の体調とはいえなかった。
屋敷の中に入ると、真っ白な服を着た人たちが部屋でなにか作業をしていた。
薬品の匂いが鼻につく。
「お、お前が新入りか」
そう話しかけてきたのは白い服を着た青年だった。
手には黒いゴム手袋を嵌めている。
「まあ死なないように頑張れよ。今まで生き残ったやつは一人も居ないけどな」
そう言われながらポンポンと肩を叩かれる。それからまじまじと彼に見つめられた。
「あれ?お前、心を抜かれてんのか?
えげつねえな、ハルカ様も」
じゃあな、と彼は千尋を気にせず行ってしまう。
(俺は心を抜かれてる…ハルカがそれをやった?)
千尋は更に屋敷の奥に足を踏み入れた。
バスルームをようやく見つけて中に入る。中は広かった。
熱いシャワーを浴びて綺麗な服を着たら一気に眠気が襲ってきた。
千尋は自分の部屋だと先程の少女に案内されベッドに横になった。
柔らかい温かな布団の中に包まれているうちに、千尋は眠ってしまっていた。
✢✢✢
「加那、何をそんなに怒ってるんだよ?」
千尋は夢を見ていた。
目の前にいるのは可愛らしい顔をした誰かだ。今はその可愛らしい顔を怒りで歪めている。
(加那って誰だ…?)
思い出そうとしても無理だった。
改めて自分は空っぽだと思う。
心を抜かれているためだろうか。
「もー!千尋が悪いんでしょー?」
「悪かったよ。アイスならまた買ってくるから」
「絶対2つ買ってよね?!」
「わかったよ」
「そう来なくっちゃ!」
加那と呼ばれたその人に嬉しそうに腕を掴まれる。
千尋はそれでも何も思い出せなかった。
(俺はこいつが好きだったのかな…多分こいつも俺のことが…)
だんだん視界がぼやけてくる。
千尋は覚醒が近いことを悟る。
気が付くと誰かがこちらを覗き込んでいた。
ここに来た時にハルカと言い合っていた少女である。
「起きましたか?お食事をお持ちしました」
「ありがとう…」
「!」
少女が驚いたような顔をする。
千尋は彼女を見つめ返した。
「どうかしたか…?」
「あなたみたいに心を抜き取られた人にお礼を言われるなんて初めてです」
彼女はそう早口で言うと逃げるように行ってしまった。
千尋は一人取り残される。
とりあえず目の前の食事を片付けてしまおう、千尋はそう思いスプーンを握った。
メニューはリゾットと野菜サラダ、ハンバーグだった。
千尋は何も思わず、ただ淡々と食事を進める。
美味しいという気持ちすら湧かない。
(加那なら俺のことをよく知っているはずだ)
加那という人物に会えば、少しは自分の情報がわかるかもしれない。
わかったところで状況は変わらないかもしれないが、何もやらないよりはいいはずだ。
「千尋」
光が部屋に入ってくる。ハルカだ。
「あなたに武器をあげなくては。
あなたに相応しい完璧なものを」
「俺に相応しい?」
「そう。あなたの中には力が眠っているの。加那太みたいに」
「加那太?」
なんとなく千尋の中でピンとくるものがある。加那太は加那と同一人物だ。
でもそのことをハルカに悟られてはいけないような気がする。
千尋はこう続けた。
「誰なんだ、そいつは?」
ハルカは瞬いた。
「あなたは知らなくていいこと。
さぁ、食べたら庭に来て。待っているから」
「わかった」
千尋は食事を済ませて庭に向かった。
✢✢✢
千尋が庭に向かうと、丸い形をした黒い小さな石が真ん中に置かれていた。
「千尋、その石を持って。
もちろん利き腕で」
千尋は右手でその石を握りしめた。
すると青白い光を石が放ち始める。
「素晴らしい出来ね。千尋」
気が付くと千尋の右手に漆黒の太刀が現れていた。
千尋はそれを鞘から引き抜く。
驚くべきなのはその軽さだった。
まるで羽のようである。
それを自分の体の一部のように感じ取ることができた。
刀身には青い稲妻が走っている。
「千尋、その子の名前を決めなさい」
「こいつは雷電だ」
名前が導かれるようにして出てきたのに、千尋は戸惑った。
だがその感情すらすぐなくなる。
「ついに悪神を処刑できる!これでアドリアーレの平和を取り戻せる!」
ハルカは興奮しているようだ。
千尋はただそれを眺めていた。
「大丈夫ですよ。私の目に狂いはありません」
「それ、何度目なんですか!!」
「さぁ?、初めてですから」
「ハルカ様!!!」
小さな少女が光に対して怒鳴っているという異様な光景を、千尋はただ眺めていることしかできなかった。
どうやらここは目の前に見える屋敷の庭のようだ。
綺麗に刈られた芝が見える。
少女は先程まで洗濯物を干していたらしい。シーツが風に揺れていた。
「あなたも!中で体を洗ってきてください!着替えは用意しておきますから!」
「あ、あぁ」
「千尋、今日は休みましょう」
ハルカが瞬きながら言う。
千尋はそれに素直に従うことにした。
体が冷えて棒きれのようである。
とても万全の体調とはいえなかった。
屋敷の中に入ると、真っ白な服を着た人たちが部屋でなにか作業をしていた。
薬品の匂いが鼻につく。
「お、お前が新入りか」
そう話しかけてきたのは白い服を着た青年だった。
手には黒いゴム手袋を嵌めている。
「まあ死なないように頑張れよ。今まで生き残ったやつは一人も居ないけどな」
そう言われながらポンポンと肩を叩かれる。それからまじまじと彼に見つめられた。
「あれ?お前、心を抜かれてんのか?
えげつねえな、ハルカ様も」
じゃあな、と彼は千尋を気にせず行ってしまう。
(俺は心を抜かれてる…ハルカがそれをやった?)
千尋は更に屋敷の奥に足を踏み入れた。
バスルームをようやく見つけて中に入る。中は広かった。
熱いシャワーを浴びて綺麗な服を着たら一気に眠気が襲ってきた。
千尋は自分の部屋だと先程の少女に案内されベッドに横になった。
柔らかい温かな布団の中に包まれているうちに、千尋は眠ってしまっていた。
✢✢✢
「加那、何をそんなに怒ってるんだよ?」
千尋は夢を見ていた。
目の前にいるのは可愛らしい顔をした誰かだ。今はその可愛らしい顔を怒りで歪めている。
(加那って誰だ…?)
思い出そうとしても無理だった。
改めて自分は空っぽだと思う。
心を抜かれているためだろうか。
「もー!千尋が悪いんでしょー?」
「悪かったよ。アイスならまた買ってくるから」
「絶対2つ買ってよね?!」
「わかったよ」
「そう来なくっちゃ!」
加那と呼ばれたその人に嬉しそうに腕を掴まれる。
千尋はそれでも何も思い出せなかった。
(俺はこいつが好きだったのかな…多分こいつも俺のことが…)
だんだん視界がぼやけてくる。
千尋は覚醒が近いことを悟る。
気が付くと誰かがこちらを覗き込んでいた。
ここに来た時にハルカと言い合っていた少女である。
「起きましたか?お食事をお持ちしました」
「ありがとう…」
「!」
少女が驚いたような顔をする。
千尋は彼女を見つめ返した。
「どうかしたか…?」
「あなたみたいに心を抜き取られた人にお礼を言われるなんて初めてです」
彼女はそう早口で言うと逃げるように行ってしまった。
千尋は一人取り残される。
とりあえず目の前の食事を片付けてしまおう、千尋はそう思いスプーンを握った。
メニューはリゾットと野菜サラダ、ハンバーグだった。
千尋は何も思わず、ただ淡々と食事を進める。
美味しいという気持ちすら湧かない。
(加那なら俺のことをよく知っているはずだ)
加那という人物に会えば、少しは自分の情報がわかるかもしれない。
わかったところで状況は変わらないかもしれないが、何もやらないよりはいいはずだ。
「千尋」
光が部屋に入ってくる。ハルカだ。
「あなたに武器をあげなくては。
あなたに相応しい完璧なものを」
「俺に相応しい?」
「そう。あなたの中には力が眠っているの。加那太みたいに」
「加那太?」
なんとなく千尋の中でピンとくるものがある。加那太は加那と同一人物だ。
でもそのことをハルカに悟られてはいけないような気がする。
千尋はこう続けた。
「誰なんだ、そいつは?」
ハルカは瞬いた。
「あなたは知らなくていいこと。
さぁ、食べたら庭に来て。待っているから」
「わかった」
千尋は食事を済ませて庭に向かった。
✢✢✢
千尋が庭に向かうと、丸い形をした黒い小さな石が真ん中に置かれていた。
「千尋、その石を持って。
もちろん利き腕で」
千尋は右手でその石を握りしめた。
すると青白い光を石が放ち始める。
「素晴らしい出来ね。千尋」
気が付くと千尋の右手に漆黒の太刀が現れていた。
千尋はそれを鞘から引き抜く。
驚くべきなのはその軽さだった。
まるで羽のようである。
それを自分の体の一部のように感じ取ることができた。
刀身には青い稲妻が走っている。
「千尋、その子の名前を決めなさい」
「こいつは雷電だ」
名前が導かれるようにして出てきたのに、千尋は戸惑った。
だがその感情すらすぐなくなる。
「ついに悪神を処刑できる!これでアドリアーレの平和を取り戻せる!」
ハルカは興奮しているようだ。
千尋はただそれを眺めていた。
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