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春の邂逅
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「うーん、深見。僕はお菓子が食べたいんだ」
晶がデスクの前でぐぐぐと伸びをする。呼びつけられたのはそれが理由か。僕は晶と過ごした時間が長い。つまり、こういう事があることも予見できていた。
「チョコスナックなら買ってきたよ」
「そ、それはコンビニエンスストアのかい?」
晶が大きな深紅の目をキラキラさせながら聞いてくる。晶はコンビニに行かない。駄目だとご両親から禁止されているらしい。由緒ある獅子王家の人間がそんな所にということだ。晶はずっと行きたがっていたけれど、僕が代わりにスナック菓子を買ってくるということで落ち着いたようだった。
「晶、言っておくけどただの駄菓子だからね?」
苦笑しながら言ったら、それがいいんじゃないかと真顔で返された。
「僕は駄菓子を愛しているからね」
晶に買ってきたスナック菓子を渡したら、早速開けて食べ始めた。
「うん、歯触りが心地良いよ」
「晶、食べたらちゃんと歯磨きしてね?」
「もちろんさ。深見もお食べ。君も食べたくて買ってきたんだろう?」
「じゃあもらうね」
僕たちはしばらくチョコスナックをポリポリ食べた。学校から帰ってくるとなんでこんなにお腹が空いているんだろう?こうやっておやつを食べるとホッとするなぁ。
「そういえばこんな物が来ていたんだ」
僕が首を傾げると、晶が何かを差し出す。それは白いカードだ。模様に見覚えがある。僕は受け取ってそれを見つめた。怪盗からの予告状である。そこにはこう書かれていた。
【明日の0時、姫君の涙を頂戴致します】
また気障ったらしい予告文である。怪盗は格好を付けないといけないルールでもあるのだろうか?
「晶、君、お宝持ってたの?」
晶はゴクンとスナックを飲み込む。
「違うよ、これは僕の叔父上の元に届いた予告状なのさ。深見、この間のことを覚えているかい?」
「怪盗が晶に誕生日プレゼントを渡してきた」
「そうさ、僕は悔しいんだよ。まんまとしてやられたのだからね!」
「でも、何も盗まれていないよね?」
「あぁ、表面上ではね。ただ」
晶が顔を曇らせる。
「あの養護施設の理事長は叔父上の奥様なんだ。施設の鍵が一部紛失したと聞いている」
「え?じゃあ怪盗が?」
「まぁそういうことなのだろうね。叔父上は奥様に危害が加えられるのではと心配されていてね、僕としてはどうにかならないかと模索しているんだよ」
「でも僕たち、子供だよ?」
「その通り。僕たちは無力さ。口だけは一丁前なんだけれどね」
はぁ、と晶はため息をついて紅茶の入ったカップを呷った。すっかりぬるくなってしまっている。
「淹れ直してくるよ」
「すまないね」
僕はカップとティーポットをトレイに載せて小さく区切られている給湯室に入った。お湯を温めて茶葉をティーポットに入れる。適温になったらお湯を入れて。
「お待たせ」
「ありがとう、深見。やはり甘いものには紅茶だよ。僕はホットミルクも好きなのだけどね」
「分かった、あとで作るね」
晶には敵わないなぁ。
「にしてもだよ」
晶は腕を組んだ。
晶がデスクの前でぐぐぐと伸びをする。呼びつけられたのはそれが理由か。僕は晶と過ごした時間が長い。つまり、こういう事があることも予見できていた。
「チョコスナックなら買ってきたよ」
「そ、それはコンビニエンスストアのかい?」
晶が大きな深紅の目をキラキラさせながら聞いてくる。晶はコンビニに行かない。駄目だとご両親から禁止されているらしい。由緒ある獅子王家の人間がそんな所にということだ。晶はずっと行きたがっていたけれど、僕が代わりにスナック菓子を買ってくるということで落ち着いたようだった。
「晶、言っておくけどただの駄菓子だからね?」
苦笑しながら言ったら、それがいいんじゃないかと真顔で返された。
「僕は駄菓子を愛しているからね」
晶に買ってきたスナック菓子を渡したら、早速開けて食べ始めた。
「うん、歯触りが心地良いよ」
「晶、食べたらちゃんと歯磨きしてね?」
「もちろんさ。深見もお食べ。君も食べたくて買ってきたんだろう?」
「じゃあもらうね」
僕たちはしばらくチョコスナックをポリポリ食べた。学校から帰ってくるとなんでこんなにお腹が空いているんだろう?こうやっておやつを食べるとホッとするなぁ。
「そういえばこんな物が来ていたんだ」
僕が首を傾げると、晶が何かを差し出す。それは白いカードだ。模様に見覚えがある。僕は受け取ってそれを見つめた。怪盗からの予告状である。そこにはこう書かれていた。
【明日の0時、姫君の涙を頂戴致します】
また気障ったらしい予告文である。怪盗は格好を付けないといけないルールでもあるのだろうか?
「晶、君、お宝持ってたの?」
晶はゴクンとスナックを飲み込む。
「違うよ、これは僕の叔父上の元に届いた予告状なのさ。深見、この間のことを覚えているかい?」
「怪盗が晶に誕生日プレゼントを渡してきた」
「そうさ、僕は悔しいんだよ。まんまとしてやられたのだからね!」
「でも、何も盗まれていないよね?」
「あぁ、表面上ではね。ただ」
晶が顔を曇らせる。
「あの養護施設の理事長は叔父上の奥様なんだ。施設の鍵が一部紛失したと聞いている」
「え?じゃあ怪盗が?」
「まぁそういうことなのだろうね。叔父上は奥様に危害が加えられるのではと心配されていてね、僕としてはどうにかならないかと模索しているんだよ」
「でも僕たち、子供だよ?」
「その通り。僕たちは無力さ。口だけは一丁前なんだけれどね」
はぁ、と晶はため息をついて紅茶の入ったカップを呷った。すっかりぬるくなってしまっている。
「淹れ直してくるよ」
「すまないね」
僕はカップとティーポットをトレイに載せて小さく区切られている給湯室に入った。お湯を温めて茶葉をティーポットに入れる。適温になったらお湯を入れて。
「お待たせ」
「ありがとう、深見。やはり甘いものには紅茶だよ。僕はホットミルクも好きなのだけどね」
「分かった、あとで作るね」
晶には敵わないなぁ。
「にしてもだよ」
晶は腕を組んだ。
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