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踏み出した先にあるもの
第36話 自由過ぎます貴史さん②
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今夜もSARAの開店時間になりました。
「おうっ」
松ちゃんのご来店です。
「こんばんわ」
香織が言う前に貴史が挨拶をする。
貴史は買い物から開店の手伝いをしてそのままSARAに居座っていた。普段いない人物が座っていることに松ちゃんは驚く。
「なんだ。貴ちゃん珍しいなこんな早い時間から」
おじさんいらっしゃいと香織がおしぼりと熱燗を持ってきた。
「松ちゃんに報告がありまして」
「おっ、何だい?」と香織から酒を注がれお銚子を受け取るともう1つお猪口をくれといい貴史に渡した。
香織は貴史さんの報告って何だろう?と気になった。私たちの事はもうみんなの知ってるところだし、他にか個人的なことかな。と思いを巡らす。
「まぁ、一杯付き合えや」
「はい、頂きます」
貴史は注がれた酒を一気に飲み干すと
「香織さんと一緒に住むことになりました」
いきなりの報告に香織も驚き「貴史さん」と、思わず声に出した。
松ちゃんは慌てる様子もなく、
「うん、そうかいやっと報告してくれたか」
まるで分かっていたかのように頷いている。
「おじさん?」
「何だ香そんなに驚いて。部屋ももう見つけたんだろう?」
「えっ、そうなの?聞いてないよ」
松ちゃんが一緒に住むことを知っていたこと自体驚いたが、部屋が見つかったなんて聞いてないのだから驚くのも当然ことでした。
「貴史さん。部屋って。。。」
「だからさっき内緒って言ったでしょう」
満足そうに笑いながら
「実はね、一緒に住もうって決めて直ぐに遠野さんに相談したんですよ。そしたらちょうど遠野さんのマンションにリフォームを済ませたばかりの部屋があるからどうかなって返事をいただいて、取り合えず見てきたら角部屋だし間取りもちょうど良かったので決めてきました。香織も絶対に気入るから」
ニコニコ顔で話す貴史に呆気にとられ
「決めて来たって、、、」
ひと月ほど前、自分が探すと言われ、確かにお願いしますとは言った。だけど見つけたなら一緒に見に行って決めたいじゃない。と心の中で思っていた。香織は一貴史が何でも一人で決めてしまうのが少し面白くないのだ。
「良かったじゃないか香、築年数も浅い良い物件みたいだぞ。遠野ちゃんのところのなら信用できるし、売りに出す前だからってかなりお買い得だったらしいな」
香織は松ちゃんが何を言っているのか呑み込めず思考が一瞬止まる。
「えええ、ちょっと待ってくださいお得な物件て・・・賃貸じゃなくて分譲?」
「もちろんですよ」すまして言う貴史。
どういう事?貴史の行動が読めなさすぎる。
そして自分だけが蚊帳の外だったことに段々腹が立ってきた。
「貴史さん!一緒に住む部屋を探すとは言ってたけど、購入するなんて聞いてませんっ。なんでそんな大事なこと相談も無しに決めちゃうんですか!」
香織のあまりの剣幕に貴史は勿論、松ちゃんまでもが身を引いた。
貴史は条件に見合った部屋が見つかり香織も喜んでくれると思い込んでいたから内緒にして今夜驚かそうと思っていたのだ。否、確かに驚いてくれた。でも喜ぶどころか怒り出すなんて思ってもみなかった。
「いや、これから先の事を考えたら賃貸よりも買ってしまった方が良いかなと思って。香織を驚かせて・・・喜んでくれると思ったんだけど・・・」
貴史の言葉が段々尻つぼみになって行く。
「信じられない、そんな高い買い物を」
香織の怒りは収まりません。
「お金の心配は香織はしなくても大丈夫だよ。離婚した時に売ったマンションのお金がそのまま取ってあるからそれを全部頭金に入れると残りは賃貸よりも安くなるし、本当はローンを組まなくても買えるから一括払いにしちゃおうか。それで僕の貯金が無くなる訳ではないし。あっ、心配なら僕の資産公表する?」
「そっ、そういう問題じゃないです!」
香織は怒ったまま厨房に入ってしまった。
「香織」
貴史が呼ぶも返事すらしてくれない。
「ちょっと先走りし過ぎましたかね」
「いや、あいつは石橋を叩いても渡らねえくらい慎重すぎるからこのくらい強引じゃないと話は中な進まねえよ」
「そうでしょうか、でも香織怒ってますよ」
「その内に機嫌も治るわ」
「はぁ。」
額に手を当て落ち込む貴史だが、松ちゃんはさほど気にしてないようで、それどころか声を潜めて聞いてきた。
「ところで、老婆心ながら聞きたいんだが。貴ちゃんの資産てどのくらいあるんだ?嫁がせるからには多少知っておかないとな」
どうやら中古といえ一括でも買えると言った貴史の懐事情が気になる様だ。
「えっ、あ、はい。そうですねー、うちは両親は二人とも個別の会社経営してましたが、海外旅行へ行った先で事故に遭い二人とも他界してまして。」
「両親揃って旅行で事故なんて辛かったな。。。社長さんだったら相続も大変だったろう?」
「ええ、相続するのが一人息子の私とそれぞれの会社だった訳ですが、自分は両親の個人財産を相続しまして、だいぶ相続税で持って行かれて行かれましたけど。あと両親が住んでいた広尾の自宅があるんですが、こちらは固定資産税も大変なので、今お貸ししている方に売っても良いかなと考えています。あと自分の貯蓄がそれに投資している分くらいですかね。この先僕に何かっても香織一人何とか暮らしていけるとは思います」
余りにも平然という金額に松ちゃんは唖然とした。
「驚いたな、かなりの資産家じゃねえか、両親の会社はどうしたんだ?」
「僕はどちらの会社も継ぐ気はなかったので父の会社は一緒にやっていた叔父に、母の方は母の片腕だった副社長に任せました。あっ、あとそこから名前だけの役員報酬も両社から入ってきてますね」
「すげえなー。。。でもそしたら新築でもっと良いマンションは買えるじゃねえか」
「いや、勿体ぶっている訳ではなく、自分たちの今の生活に合った部屋で十分だと思っているので。豪華なタワーマンションなんて見栄の塊みたいものですからね」
資産数億でサラリーマンをやってる貴史にそれ以上の言葉が出ない松ちゃんでありました。
家庭の事情を聴いてボンボンだったのかと思いましたが、今までの貴史を思い出すとそれをひけらかす素振りも無かったし、話を聞けばしっかり現実を見ていて堅実でもある。
大した男だなと感心してしまう。
それにしてもイケメンでスタイルも良くて資産家なんてそう居るもんじゃありませんが、お金にそれ程興味を持っていない香織が知っても「そうなんですか」で終わってしまいそうだと松ちゃんは思った。
香織が怒っているのはマンションの金額とか購入した事ではなく、【自分に何も話をしてくれなかった】という事なのですから。
香織は厨房の中でじゃ芋の皮をむきながらぶつぶつと一人言をいっています。
『ほんとにもう、なんなの?みんなして勝手に話を進めて。貴史さんがマンションを買うのは自由だけど一緒に住むんだからあたしに一言あったっていいじゃない。何が『資産公表する?』なのよ。人のお金に何て興味がないわ。
あーもう、貴史さん自由過ぎて振り回されっ放し』
怒りながらも半ば呆れ気味の香織です。
30分以上厨房に籠っていた香織が出て来たのは、カランとドアの鐘が鳴りお客が入って来てからでした。
それまでカウンターの二人は珈琲1杯とお銚子1本で置き去りにされたままで。
愛想よく注文を聞くと、黙ったまま貴史に生ビールと松ちゃんにはお銚子を出して、今来たお客とは楽しそうに会話をしている。
食事を済ませた客が帰った後、貴史は黙って話を進めたことを散々詫び、香織の機嫌も多少直ってきたころに遠野が顔を出した。
「香織ちゃん、おはよー。今日も綺麗だね」
お約束の挨拶をしたのにその場の空気がいつもと違うのに気づき戸惑っていたのは言うまでもありません。
松ちゃんから事の成り行きを聞き遠野も一緒に謝ってくれている。
香織も大の男が3人で頭を下げる姿を見て反対に子供みたいに拗ねた自分が少し恥ずかしくなってきた。
一足先に香織の部屋へ帰るという貴史を見送りに外へ出ると師走の冷たい空気に身震いをする。
部屋のカギを渡すと
「香織の気持ちも考えず突っ走ってごめん。部屋を暖めて待っているから機嫌直して。寒いから早く中に入って」
眉尻を下げて貴史が言う。こんな顔をしてもイケメンなんて、と思ってしまう自分が少し笑えてしまった。
「もう。その顔ずるい。早く帰って下さい」
そう言いながらマフラーを貴史の首に巻き付けてあげる。
「サンキュー」と言って背伸びして巻いてくれている香織の頬にちゅっとキスをした。
「知らない!」
頬を染めると、くるっと貴史の体の向きを変え背中を押し出した。
貴史はそのまま振り向かずいつものように片手を少し上げて歩き出す。
香織が店に入り扉が閉まった音を確認すると両手で顔を覆いながら下を向き、
「やっぱり、可愛い」と呟いてしまう貴史でした。
店内に戻ると松ちゃんと遠野が貴史の資産の話をしていた。
「へぇー、そうなんですか。私も最初マンションを一括でと言われたときには何者なんだと思ってはいましたが。凄いですね」
「何の話?」
「まぁ香織は結婚でもすれば否応なしに分かる事だけどよ」
と大まかな話を香織に聞かせる。
「それにしてもお前セレブだぞ」
「はい?あたしがセレブなの?」
「ああ、これは個人情報だからな。俺と遠野ちゃんの胸の中にしまっておこう」
貴史の家族の話は今まで聴いた事は無かった。
日奈ちゃんみたいなご令嬢とまではいかなくとも両親が社長を務めるご子息だったのだ。
どうりでパーティーにも慣れていたし、エスコートも完璧なはずだわと今更ながら感心する。
でも、例えそうであっても貴史同様香織だってお金持ちだと分かっていて好きになった訳ではない。今の貴史が好きなんだからどれだけお金をもっていようが関係ないわ。
と思いつつも、『無いよりはマシだけどね』と肩をすくめた。
「おうっ」
松ちゃんのご来店です。
「こんばんわ」
香織が言う前に貴史が挨拶をする。
貴史は買い物から開店の手伝いをしてそのままSARAに居座っていた。普段いない人物が座っていることに松ちゃんは驚く。
「なんだ。貴ちゃん珍しいなこんな早い時間から」
おじさんいらっしゃいと香織がおしぼりと熱燗を持ってきた。
「松ちゃんに報告がありまして」
「おっ、何だい?」と香織から酒を注がれお銚子を受け取るともう1つお猪口をくれといい貴史に渡した。
香織は貴史さんの報告って何だろう?と気になった。私たちの事はもうみんなの知ってるところだし、他にか個人的なことかな。と思いを巡らす。
「まぁ、一杯付き合えや」
「はい、頂きます」
貴史は注がれた酒を一気に飲み干すと
「香織さんと一緒に住むことになりました」
いきなりの報告に香織も驚き「貴史さん」と、思わず声に出した。
松ちゃんは慌てる様子もなく、
「うん、そうかいやっと報告してくれたか」
まるで分かっていたかのように頷いている。
「おじさん?」
「何だ香そんなに驚いて。部屋ももう見つけたんだろう?」
「えっ、そうなの?聞いてないよ」
松ちゃんが一緒に住むことを知っていたこと自体驚いたが、部屋が見つかったなんて聞いてないのだから驚くのも当然ことでした。
「貴史さん。部屋って。。。」
「だからさっき内緒って言ったでしょう」
満足そうに笑いながら
「実はね、一緒に住もうって決めて直ぐに遠野さんに相談したんですよ。そしたらちょうど遠野さんのマンションにリフォームを済ませたばかりの部屋があるからどうかなって返事をいただいて、取り合えず見てきたら角部屋だし間取りもちょうど良かったので決めてきました。香織も絶対に気入るから」
ニコニコ顔で話す貴史に呆気にとられ
「決めて来たって、、、」
ひと月ほど前、自分が探すと言われ、確かにお願いしますとは言った。だけど見つけたなら一緒に見に行って決めたいじゃない。と心の中で思っていた。香織は一貴史が何でも一人で決めてしまうのが少し面白くないのだ。
「良かったじゃないか香、築年数も浅い良い物件みたいだぞ。遠野ちゃんのところのなら信用できるし、売りに出す前だからってかなりお買い得だったらしいな」
香織は松ちゃんが何を言っているのか呑み込めず思考が一瞬止まる。
「えええ、ちょっと待ってくださいお得な物件て・・・賃貸じゃなくて分譲?」
「もちろんですよ」すまして言う貴史。
どういう事?貴史の行動が読めなさすぎる。
そして自分だけが蚊帳の外だったことに段々腹が立ってきた。
「貴史さん!一緒に住む部屋を探すとは言ってたけど、購入するなんて聞いてませんっ。なんでそんな大事なこと相談も無しに決めちゃうんですか!」
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貴史は条件に見合った部屋が見つかり香織も喜んでくれると思い込んでいたから内緒にして今夜驚かそうと思っていたのだ。否、確かに驚いてくれた。でも喜ぶどころか怒り出すなんて思ってもみなかった。
「いや、これから先の事を考えたら賃貸よりも買ってしまった方が良いかなと思って。香織を驚かせて・・・喜んでくれると思ったんだけど・・・」
貴史の言葉が段々尻つぼみになって行く。
「信じられない、そんな高い買い物を」
香織の怒りは収まりません。
「お金の心配は香織はしなくても大丈夫だよ。離婚した時に売ったマンションのお金がそのまま取ってあるからそれを全部頭金に入れると残りは賃貸よりも安くなるし、本当はローンを組まなくても買えるから一括払いにしちゃおうか。それで僕の貯金が無くなる訳ではないし。あっ、心配なら僕の資産公表する?」
「そっ、そういう問題じゃないです!」
香織は怒ったまま厨房に入ってしまった。
「香織」
貴史が呼ぶも返事すらしてくれない。
「ちょっと先走りし過ぎましたかね」
「いや、あいつは石橋を叩いても渡らねえくらい慎重すぎるからこのくらい強引じゃないと話は中な進まねえよ」
「そうでしょうか、でも香織怒ってますよ」
「その内に機嫌も治るわ」
「はぁ。」
額に手を当て落ち込む貴史だが、松ちゃんはさほど気にしてないようで、それどころか声を潜めて聞いてきた。
「ところで、老婆心ながら聞きたいんだが。貴ちゃんの資産てどのくらいあるんだ?嫁がせるからには多少知っておかないとな」
どうやら中古といえ一括でも買えると言った貴史の懐事情が気になる様だ。
「えっ、あ、はい。そうですねー、うちは両親は二人とも個別の会社経営してましたが、海外旅行へ行った先で事故に遭い二人とも他界してまして。」
「両親揃って旅行で事故なんて辛かったな。。。社長さんだったら相続も大変だったろう?」
「ええ、相続するのが一人息子の私とそれぞれの会社だった訳ですが、自分は両親の個人財産を相続しまして、だいぶ相続税で持って行かれて行かれましたけど。あと両親が住んでいた広尾の自宅があるんですが、こちらは固定資産税も大変なので、今お貸ししている方に売っても良いかなと考えています。あと自分の貯蓄がそれに投資している分くらいですかね。この先僕に何かっても香織一人何とか暮らしていけるとは思います」
余りにも平然という金額に松ちゃんは唖然とした。
「驚いたな、かなりの資産家じゃねえか、両親の会社はどうしたんだ?」
「僕はどちらの会社も継ぐ気はなかったので父の会社は一緒にやっていた叔父に、母の方は母の片腕だった副社長に任せました。あっ、あとそこから名前だけの役員報酬も両社から入ってきてますね」
「すげえなー。。。でもそしたら新築でもっと良いマンションは買えるじゃねえか」
「いや、勿体ぶっている訳ではなく、自分たちの今の生活に合った部屋で十分だと思っているので。豪華なタワーマンションなんて見栄の塊みたいものですからね」
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大した男だなと感心してしまう。
それにしてもイケメンでスタイルも良くて資産家なんてそう居るもんじゃありませんが、お金にそれ程興味を持っていない香織が知っても「そうなんですか」で終わってしまいそうだと松ちゃんは思った。
香織が怒っているのはマンションの金額とか購入した事ではなく、【自分に何も話をしてくれなかった】という事なのですから。
香織は厨房の中でじゃ芋の皮をむきながらぶつぶつと一人言をいっています。
『ほんとにもう、なんなの?みんなして勝手に話を進めて。貴史さんがマンションを買うのは自由だけど一緒に住むんだからあたしに一言あったっていいじゃない。何が『資産公表する?』なのよ。人のお金に何て興味がないわ。
あーもう、貴史さん自由過ぎて振り回されっ放し』
怒りながらも半ば呆れ気味の香織です。
30分以上厨房に籠っていた香織が出て来たのは、カランとドアの鐘が鳴りお客が入って来てからでした。
それまでカウンターの二人は珈琲1杯とお銚子1本で置き去りにされたままで。
愛想よく注文を聞くと、黙ったまま貴史に生ビールと松ちゃんにはお銚子を出して、今来たお客とは楽しそうに会話をしている。
食事を済ませた客が帰った後、貴史は黙って話を進めたことを散々詫び、香織の機嫌も多少直ってきたころに遠野が顔を出した。
「香織ちゃん、おはよー。今日も綺麗だね」
お約束の挨拶をしたのにその場の空気がいつもと違うのに気づき戸惑っていたのは言うまでもありません。
松ちゃんから事の成り行きを聞き遠野も一緒に謝ってくれている。
香織も大の男が3人で頭を下げる姿を見て反対に子供みたいに拗ねた自分が少し恥ずかしくなってきた。
一足先に香織の部屋へ帰るという貴史を見送りに外へ出ると師走の冷たい空気に身震いをする。
部屋のカギを渡すと
「香織の気持ちも考えず突っ走ってごめん。部屋を暖めて待っているから機嫌直して。寒いから早く中に入って」
眉尻を下げて貴史が言う。こんな顔をしてもイケメンなんて、と思ってしまう自分が少し笑えてしまった。
「もう。その顔ずるい。早く帰って下さい」
そう言いながらマフラーを貴史の首に巻き付けてあげる。
「サンキュー」と言って背伸びして巻いてくれている香織の頬にちゅっとキスをした。
「知らない!」
頬を染めると、くるっと貴史の体の向きを変え背中を押し出した。
貴史はそのまま振り向かずいつものように片手を少し上げて歩き出す。
香織が店に入り扉が閉まった音を確認すると両手で顔を覆いながら下を向き、
「やっぱり、可愛い」と呟いてしまう貴史でした。
店内に戻ると松ちゃんと遠野が貴史の資産の話をしていた。
「へぇー、そうなんですか。私も最初マンションを一括でと言われたときには何者なんだと思ってはいましたが。凄いですね」
「何の話?」
「まぁ香織は結婚でもすれば否応なしに分かる事だけどよ」
と大まかな話を香織に聞かせる。
「それにしてもお前セレブだぞ」
「はい?あたしがセレブなの?」
「ああ、これは個人情報だからな。俺と遠野ちゃんの胸の中にしまっておこう」
貴史の家族の話は今まで聴いた事は無かった。
日奈ちゃんみたいなご令嬢とまではいかなくとも両親が社長を務めるご子息だったのだ。
どうりでパーティーにも慣れていたし、エスコートも完璧なはずだわと今更ながら感心する。
でも、例えそうであっても貴史同様香織だってお金持ちだと分かっていて好きになった訳ではない。今の貴史が好きなんだからどれだけお金をもっていようが関係ないわ。
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