呑気な薬師と領主さま

アキノナツ

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本編

2】お仕事

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 流されて、男相手に何をしてるんだろう。
 僕の上で腰を振って身体を弄り回してる男を見遣ります。

 自分の適応力にうんざりしながらも考えます。
 衣食住は困らない。
 領主さまのお相手をするのが目下のお仕事のようです。

 初めては散々なモノでしたが、男を相手するのも、される側のも初めてでは、お察しです。
 流血にならずに恙無く行えたのは、ここの人たちのお陰と、薬師としての知識でしょうか。
 時折り、そういったお薬なりをお求めに来られるお客さまもおられました。
 そういった専門のお店の方が、色々揃ってますが、僕のところも対応出来るのはあるんでね。

 事前の説明と覚悟があったので、完全とは言えないまでも準備は出来たので、なんとか…まぁ、たぶん、済ませられました。
 よく分からないまま終わって、放心状態のまま朝を迎えたのです。

 横に領主さまが寝てて……横では無いですね。しっかり抱き込まれ、他人の温もりを背に感じながら、ぼんやり部屋を見ておりました。

 領主さまはお若くて美しい殿方だと思います。
 今はお忙しいようですが、その内良縁が結ばれ、良家のお嬢さまがお嫁に来られるんでしょう。
 自分は、それまでの繋ぎのような位置付けでしょうか。

 これからの事やこれまでの事などをつらつらと考えてる内に部屋が明るくなっていき、身動ぎされる領主さまに一瞬身体が固くなり、思わず目を閉じて寝たふりをしてしまいました。
 どういった顔で、顔を合わせれば良いのか分からなくなってしまったのです。

 お粗末さまでした。とかですか?
 ここは普通におはようございます。ですか?
 朝の支度のお手伝いですか?

 ーーーー分かりません。

 こめかみに柔らかく温かいものを感じて、衣擦れの音を聞き、部屋を出ようと移動する音に薄っすら目を開けて様子を伺います。
 ダークブルーの髪がカーテン越しの光りに艶やかに黒光りして……。

 ん?

 昨晩は、もう少し青みがかってたように思ったのですが、今は黒に近い。深い水底の色を連想される色合いで…。綺麗です。
 勘違いでしょうか。
 夜の電灯の灯りでははっきりしないのですが…。思い違い…?

 そんな事を考えてるとナイトガウンの領主さまが振り返った気がして、キュッと目を閉じました。
 瞼の裏に赤い瞳が焼き付いています。目が合ったような……。
扉が閉じる音に詰めていた息をそっと吐き、身を起こしました。

 これが始まりでした。

 あれ以来、朝は寝たふりまたは完全に寝てるかで、挨拶も見送りもしていません。
 未だに対処が思いつかないのです。

 あの時目撃した変化は気の所為ではなかったというのは、その後の接触ではっきりしてきました。
 僕の光属性は後発発現だけあってか、自分で思うように操る事は出来ないようでした。色々と他の魔法を使うみたいに試してみたんですが…。

 はっきり分かった事は、無意識に使っているという事でした。
 僕の接触が治癒効果を発揮するらしいのです。皮膚接触もですが、粘膜接触が効果的なようです。これは周知の事だったようで、『領主さまのいう事に逆らわないように』と言われた事に納得でした。

 夜訪れる領主さまは、疲れ切ってるのに、朝は色艶よく回復されてる事で明らかでした。

 僕の接触が効力を発揮するという事で、今までの事の裏付けがとれた気分です。
 僕が作る薬も、僕が長時間接触して作るのです。無意識に効力が溶け込んでいたのでしょうね。
 納得はしても、この接触は慣れるものではありません。領主さまは、気持ちいいのだそうです。そんな事を閨で言っておられました。

 領地が上手く収められてるのは、この若い領主さまのお陰なのは確かなので、僕は回復要員として頑張ってみるかと、この行為を甘んじて受け入れている事態です。

 お仕事と思いましょう。

 僕は領主さまのようには若くはないです。
 領主さまは20そこそこだと思います。片や僕は35、6辺りです。四捨五入したら40です。おじさんと言われる年齢です。
 あー、自分の年齢があやふやなのは、誰もでしょ?あれ?違うのかなぁ。誕生日をよく忘れる僕は大体で過ごしてます。
 年齢なんて届出書類がなければ、認識する事がないんで、こんなものかなと思ってましたが…。

 おっと、話が脱線してしまいました。

 兎に角、僕は肉付きも悪く、背もそれ程高くもない。スタイルは良くないでしょうね。言うなれば貧相な男です。
 こんなおじさんを抱くのは、あまり気分の良いものではないでしょうに。
 こんな男でも役に立つのであればと受け入れた行為ですが、慣れませんね……。

 慣れるものではないのですが、なんとか頑張ってます。

 慣れない物といえば、宝飾品があります。
 これにはまったく興味がありません。

 若く美しい領主さまならなんでもお似合いでしょうが。
 肌も白くて、ダークブルーの髪は一見黒く見える程に深い色合いで、艶やか。髪を緩く撫で付け流している姿は男の僕でも見惚れます。
 赤い瞳も切れ長の目も顔全体が整っています。
 身体付きも筋肉が全体にバランス良く付いていて、理想的な体躯を持ってらっしゃる。騎士をしててもいい身体つきです。
 宝石も喜ぶでしょう。

 うん、女性も喜ぶでしょう。
 自分は女役をしてますが、男です。
 着飾る事には今も昔も興味はありません。薬草図鑑や植物図鑑が愛読書の地味男です。
 なのに、宝飾品に始まり服飾品を贈られています。
 今日はお花です。

 えーと、これはなんなのでしょう?

 どの品も一級品だと素人でも分かります。布の手触りも滑らか……。

 思い切って「これはなんですか?」とお尋ねすれば、「贈り物だ」と言うのです。
 お礼は言いました。

「領主さま、贈り物は要りませんよ?」
 余りに無駄遣いな気がしてきてお断りをしてみました。
 彼は贈り物をしたいのだそうです。

 んー、領主さまを煩わせるのは本意では有りません。贈り物を断ったら、別な物を考えるでしょうね…。
 で、妥協案を提示してみました。

 贈り物の仕入れ先を訊いてみて、僕の考えの裏付けが取れた事での妥協案でした。

 すべてが一級品だとしたら、王都からの取り寄せではないかと思ったら、ビンゴだったのです。
 この領地には、産業があります。
 王都に納めてる物も有ります。
 お金を落とすなら、地元に。

 それからがちょっと面白い事になりました。

 領主さまのこだわり?
 一級品を見てきた目が発揮したようです。
 職人の腕が上がってるのが贈られる品物に感じられます。
 素材の質も変わってきてました。
 テコ入れされてるのが実感出来ます。

 これに比例して領主さまの疲れも溜まるようで、こちらへの通いも頻繁になるんですよね。仕方がないんですがね。

 そうすると、こちらの疲労も蓄積されるので、引き篭もってました。その様子に、出掛けないのかと問われました。
 貴方は回復されましたが、僕は疲れてるのです。こちらの回復は緩やかなのです。手持ちのポーションを使ったりしてますけどね…。冒険者でも無いので、原液に耐えられる基礎体力が無いので、薄めて摂取してますが、あまり頼れません。

 しかし、ここで弱音など言ったら、領主さまはお困りになりますから、曖昧に笑ってやり過ごします。

 ここに来てから、色々あり過ぎて、体力もそんなにないので閉じこもってただけです。精神的なのは自分でもよく分かってました。
 最近は更に疲れてたので、少し前までしていた庭で散歩というか、草花を見る事もなかったのです。

 自分へ治癒魔法が使えたら良いのですが、他の人は知らないんですが、僕の場合は自分自身に使えないらしいです。疲労は寝て治してます。

 色々考え過ぎて返事が遅れたら、勘違いされたようで、それからは『お小遣い』を支給されるようになったのです。

 これは…、お給金ということでしょうか。
 そうしておきましょう。

 領主さまは、お出かけには、お小遣いが必要と思っただけのようです。
 好きな物を買ったりしたら良いという事でしょうか。

 僕は物欲もないんですが、珍しい素材には興味があります。
 今は薬を作る事も無いので、使う事はありませんけど…。

 部屋の隅で道具が寂しく放置されてます。薄っすらホコリも被ってるかも知れませんね…。






===============


次話で少し動きます。
もう少しこの主人公の語りにお付き合い下さい。

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