呑気な薬師と領主さま

アキノナツ

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本編

10】ヌシさま

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 ぼんやり気持ちのいい惰眠を貪ってます。ふわふわと波間に漂うのようにな揺らぎに意識が浮上しかけては沈む繰り返しに気持ちいいです。

 寒くもないポカポカした温度もいいですね…。

『目を醒ませてくれんかのぉう』

 ホトホト困り果てた声。

 何度かこの声を聞いた気はしますが、声と共に起きる振動が心地よくて気にもならなかった…。

 そろそろ起きないといけない気がする。
 よく寝ました。

 大きなあくびをして身体を起こし、ぐぐーっと伸び上がる。
 あー、背筋が伸びて気持ちいいですねぇ。あちこちがバキバキと身体が鳴る気がします。

『人の子。お前はどうしたいのだ?』

 また声がしてます。
 不思議な感じ…。耳で聞いてる感じであるような無いような…。

 ぼんやり周りを見回してみますが、どうも見知らぬところです。明るいのか暗いのかよく分からない場所。

 ベッドで寝てた訳ではなかったようです。野宿?

 ーーーここは何処だろう?

 危機感は感じず、のんびりと考えてると、さっきの声が答えてくれました。

『オアシスの下じゃ。オアシスそのものと言った方が良いかのぉう』

 口を開けて喋ろうとして…困りました。上手く喋れない。
 水の中のような、息苦しさはないのですが、身体の中にみっちりと何かが満たされています。

『ここでは頭で喋るのじゃ。地上とは違うのでな』

 耳で聞いてる感じではなかったのはそういう事だったようです。

『こんにちは。僕は、エミルです。貴方は?』

 伝えようと思い浮かべます。考えるとは違うようです。

『んー、ここの…ヌシ、とでも名乗ろうかの。お前さんの概念に近かろう』

 水中に近いような音の伝わり方です。

『僕は、どうして、ここに?』

 なんとなくコツが掴めて来ました。

『んー、相性が良かったのかのう。すまんが、もう殆ど溶けてしもた。起こしたのだぞ?』

『ほへ?』

 手を見て、その手で身体を触り、足を見て、納得しました。触れますが…。

 実体がほとんど無い。無いが、有る。有るが、無い。

 そんな感じです…。

『コレは、ヌシさまが?』

 暫く考えいましたが、考えたところで仮説しか立たなくて、立った事で方向は決まりましたが。

『人の子…順応が早いのう。元を参考に再現したが、ワシとの融合が激しくてのう…欠損などは無くしておいた。必要なものがあるのなら、今のうちに要望を出してくれ』

 随分と融通のきくヌシさまであります。

 どうやら僕は人をやめてしまったらしいです。
 火傷も手荒れもない身体に、元に戻った耳。

 ーーーーま、いいか。

 さて、これからどうしようかなぁと呑気に考えながら、ヌシさまと楽しく会話をして過ごします。
 時間の概念がよく分からない中、眠くもないので、話し続けました。

 ヌシさまが気づいた時には、僕は溶けていたそうです。
 ……そういえば、手が引き寄せられるように、身体が気持ちよくオアシスの大地に吸い寄せられたのは、なんとなく…覚えて…感覚が残ってます。

 お邪魔してしまったようですね。すみません。

 ヌシさまは、動物と植物の間のような概念の塊の生物だという事が分かりました。

 なんだか、ヌシさまと僕は気が合うというか気兼ねしない感じで馴染みます。

 昔はヌシさまのような生き物が幾体も居たのだそうです。

 この生命の何もない土地に迷い込んで、そのままごろごろしてたら、本当に寝てしまって、気づいたら、地の底で寝てたそうな…。
 寝てしまったのですね…。僕と似た感じがします。畏れ多いですが…。

 話を聴いてると、寝てしまったのは、僕とは大違いです。失礼しました。

 ヌシさまは地のエネルギーのようなものが無いと休眠に入ってしまうそうです。うっかりさんです。
 そして、眠るヌシさまから漏れ出る生命力が上にオアシスを作ってしまったという事らしいのです。

 地上の生命力がヌシさまに力を与えて、ヌシさまが土地の僅かな命を地上に供給して…今の状態です。

 ん? それって、いつか枯れるんじゃぁ……。

 ヌシさまもその事には気付いてるらしいのですが、どうしていいか分からず困っていたのだとか…。

 ヌシさまは僕の目には大きな亀のような大木のような姿を形作っています。
 僕のイメージに近いもので形作ってくれてるらしいです。目に見えない概念と話すのはどうもやり辛いので、ありがたいですね。優しいヌシさま…。

 僕は大好きですよ。好意を伝えると、『ほぉ、ほぉ、ほぉ』と笑っておられました。

 大好きなヌシさまを助けたいと、提案してみました。
 ヌシさまはどうやら水に関する感覚が鋭いようですので、水脈を探してほしいと。で、僕はその水をここに導く為の地層の隙間を見つけるのです。

 土属性で探査能力に長けてる僕には、ちょっと当てがあるのです。

 ヌシさまはカラカラ笑いながら、提案に乗ってくれました。

 旅をして、色々見たり聞いたりして来た事が役に立ちます。万年雪の山脈があるのを知ってます。

 方角とかは曖昧ですが、ヌシさまの感覚を借りて、広範囲に探索すれば見つけられるでしょう。

 ヌシさまと僕は同化してるので、感覚を借りるのは容易いです。でも、スケールが大きくて、初めは感覚に振り回されて…。少しずつ慣れさせて範囲を広げて行きました。

 ……外の様子が感じられます。
 見える感じ?

 根を張るように感覚を伸ばします……。

 森のように生命力の溢れたところに繋がるとグンッと更に感覚が大きく広がるのを感じます。感覚が掴めて来ました。

 そこに住む人の感覚にも触れる感じがします。その地の空気に溶け込んで風に漂うように人々の間をすり抜けていきます。

 段々と慣れてきました。
 楽しい。
 ぐんぐん広げていきます。

 とっても知ってる存在を感じました。領主さまです。

 辛そうだ……。どうして?

 奥さまは一緒じゃないの?

 何か探してるみたいだ。
 どうしたんだろう?
 すわぁっと側に近づいてました。よく見たい…触れたい…。

 んッ!!!!

 慌てて離れます。
 一瞬、感覚が掴まれそうになったのです。
 ギュンッと引き剥がして戻しました。一気に感覚を小さくして、オアシスに戻って来ました。

 無い心臓が、激しく波打って、苦しい。痛い…。汗が吹き出してる気がします。身体を小さく丸めてました。

『どうした?』

 ヌシさまが心配気に尋ねてくれます。

 落ち着いて来ました。
 仕切り直しです。

『なんでもないよ』

 明るく応えて、再び感覚を広げていきます。

 海は海底深くまで感覚を伸ばさないとダメな感じです。少し難しい感じだと漠然と思いました。
 探したいのは万年雪ですから火山島へは違いますね。グランさんはどうしてるんだろうなぁ。

 遊んでたらダメですね。感覚は掴めましたので、雪山です。
 えっと…万年雪…あっちみたいですね。
 大体の方角だけヌシさまに伝えました。

 僕はその方面で地下水が通りやすい地層を探すます。
 ヌシさまと共同で作業をします。

 その合間に今まで訪れた街や集落やそこの人々の感覚に寄り添って見たり聞いたりしてみました。
 みんな元気なようで、その様子を垣間見るのは楽しいです。

 冒険者たちは、僕の露店が無くなったのを残念がっていました。ごめんね。

 領主さまの領地は、一時期、森が壊滅的だったようですが、回復し出しています。また来てしましました…。
 領主さまは頑張っておられるようですね。

 領主さまのは近づかないようにしてます。
 領主さまを考えると、胸がチクリとしましたが無視しました。胸なんてなくなってるし。

 あちこち探検しながら、順調に地層を見つけて水を導きます。

 漸く、水が僕の見つけた地層を通ってココへやって来ます。水脈が出来てきました。

 上のオアシスの下に地下水を広がらせます。
 植物が吸い上げて自ら水を作って循環する環境まであと少し。

 緑が少しずつ広がっていきます。

 砂漠の緑地化なんて凄くない?ってヌシさまに言ったら、眠そうなヌシさまが、笑っています。

『すまない。少々力を使い過ぎたようだ。眠るかものう』

 元気がなくなってるようで心配です。実際ではないですが、抱きしめ撫でてあげます。

『どのくらい眠るの?』

 少し焦って来ました。ここに取り残されるのはちょっと寂し過ぎます。

『そうじゃのう…数年、否、千年かもしれんのう。供給が増えれば、すぐかもかのう。…もう無理じゃ。お休みじゃ、エミル…』

 取り残されるのは杞憂だったようです。ヌシさまと同化してる僕も一緒に眠り始めました。

 水脈も順調です。緑も元気になって来ました。それらが出す可愛らしい音が心地いいです。

 眠りが深くなります…。

 感覚の一部が時折り、欠伸のような、夢現に微睡から浮上して地上を伺う感じがしました。

『エミル、見つけた…』





===============


ヌシさまの足元で凭れながら、お話してるイメージです。
時間の流れの概念もあやふやな感じかな…。
ゆったりお話しする時間って至福ですけど、現実世界では、なかなかそんな時間は取れませんね(⌒-⌒; )

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