呑気な薬師と領主さま

アキノナツ

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続編

精霊たちの騒めき(1) 微々※

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ヴィクトル視点からのスタート~。
初っ端からちょっと…大分痛いね。流血です。
薄目でよろしくお願いします。



============


 
 仕事を切り上げて、自宅に帰って来た。
 領主の頃の屋敷のように大きくはない。
 基本ふたりきりで過ごしてる。部屋が何部屋かあるぐらいで、料理人とメイドが通いで出入りするぐらいのこぢんまりとした屋敷だ。

 開け放たれた窓からオアシスの風が通って室内は気持ちのいい温度が保たれている。

 広いリビングに入ると部屋の一角を作業場にしている机でエミルが、今日も薬作りに勤しんでいるようだ。

 鈍い光りが彼の手元で閃き消える。
 ナイフだと思った時には、刃が手に握られ引かれていた。

「エミル!」

 思わず大きな声を出してしまった。

 エミルの肩が激しく跳ね上がる。
 ナイフと手から血が飛び散る。机の上にパタパタと落ちた。

「あー、汚しちゃった」

 呑気な声。場面に合ってない。

 ナイフを横に置いてシャーレの上に手を翳しつつ、周りに飛び散った血を眺めている。シャーレの中にポタポタと握った手から血が落ちている。

 浄化魔法をしようかどうしようか悩んでるいるようだ。ーーーそんな事よりも!

「あなたは…! 手当を…ッ」

 慌ててる自分が滑稽に感じる。そばに血のついたナイフがまだある。手を出したいが、エミルの動きが分からない。

 シャーレに垂らした血が予定量取れたのか、対のガラスの蓋をして、横に避けるとポーションに手を伸ばし掴んだ。治す方向の向いたようだ。安心して近づく。

 ポーションの蓋を口に咥え、歯で挟み勢いよく引っ張る。キュポッと小気味よい音と共に栓が抜ける。

 血を搾る様に強く握られていた指が開くと、ざっくり抉られるように掌が切られていた。
 真っ直ぐ引いたのではなく、捻ったのか?!

「んー、ちょっと深かったかな?」

 彼は、傷の具合を観察して、瓶の中身を裂いた傷にぶっかけた。

 みるみる塞がり復元する。

 いつ見てもすごい効き方だ。
 でも、なんだかなぁ……。

「少しだけでも良かったかな…」

 机に散った血溜まりを注射器で回収して試験管に。
 残りは浄化魔法で無かった事にしている。

「あー、指をちょっと切れば良かったのかなぁ。それだと足りないし、腕の方? 採血で取れば良かったか?」

 ぽやぽやした様子で呟いてる…。この人は…。

「実験ですか?」

 実験中に近づくと普段のぼんやりさんが豹変するので、なるべく見守り方向にしている。
 実験を無駄にしたら、同じような事をもう一度になる。悪くするともっと酷い事になりかねない。
 これまでの経験でここに落ち着いてる…。

「うん。ちょっと血の凝固と溶解を見たかっただけなんだけど…」

 真剣に顔で手の傷の治りを確認して、シャーレを引き寄せて、今度はそっちを観察してるようだ。

「なんだって、あなたは簡単に自分を実験に使うんですかね」

 シャーレに夢中の彼の無防備な手をそっと引き寄せる。綺麗に塞がった掌を撫でる。

 ふるると小さくエミルが震えてる。
 治った傷の上は神経が剥き出しになってるのか敏感になるようだ。しばらくするといつもの感覚に戻るらしい。

 その様子に、ちょっと楽しくなってしまった。
 手を握りながら、すりすり、ぷにぷにと親指で撫で摩る。

「そ…だね…どうしてかなぁ。昔から薬の効きは自分で試してた、よ…はぁ…。毒系とかは、ぅふ、薄めてたけど。モゥッ」

 私の手をペシっと小さく叩かれた。
 イタズラしようしてるのがバレたようだ。
 叩かれた手を摩りながら、エミルを見ていた。

 手元の器具で血を使っていくつか実験して確認し、いくつかセッティングしている。後日確認するのだろう。
 もう少し続けるのかと思って、ぼんやり作業を見てたら、唐突に片付け始めた。

 真剣な眼差しで手元を見てるが、ちょっと頬が赤い。耳も赤いね。
 感じちゃった? 可愛いなぁ…。

 少し伸びた髪を梳き撫でてあげる。彼が何か言いたそうにこっちを見上げてくる。
 エミルはこの手が好きなようだ。
 くふふ…と笑いそうな笑みを浮かべて、私の手に擦り付けてくる。

「また色が抜けてる」

 色が抜けていく髪。綺麗だ。

「え~ッ。白髪増えるの嫌だよ。やっぱり染めようかなぁ」

 さっきまで艶っぽくなりそうな雰囲気だったのに気配が消えた。

 髪をひと房掬う。
 私は好きなのだが、彼は染めたがる。不思議だ。こんなに美しいのに…。
 何故染めたがるのだろう…?
 そもそもこれは、白髪じゃないのに。以前も説明したのだが、納得してくれてないようだ…。

「これは、前も言いましたけど、白髪じゃないですよ?」

 訂正してみた。私の好きなのを否定されたくない。

「ん?」

 やっぱり分かってない。

「よく分かりませんが、光属性の力が強くなってるというか…」

 光属性の強い子供は生まれた時、光り輝いてるという。
 つまり色素が薄いというか白いというか金色といか。そういう事なんだが…。
 いまいち伝わってない気がする。

 パチクリと可愛く見上げられても困る。
 そもそも私の専門分野ではないので、あやふやな感じになってしまう。
 ぼんやりした事を説明するのは難しい……。

 不思議そうな顔の彼に顔を寄せる。誤魔化す訳ではないが、唇を重ねると、彼からも応えてくれる。

 舌先を触れ合わせて、徐々に、深く、絡め合わせていく。角度を変えながら口づけを交わしながら、私は彼を抱き上げた。彼の脚が私の腰に絡んで腕も首に回って、しっかり捕まってくれる。その気になったようだ。

 まだ明るいが少し運動をしてから食事にしてもいいだろう。





 小さな白い小鳥が窓辺にいる。
 私を見つけると、パタパタと飛んで差し出した指に止まる。掌に乗せれば、紙包みが解けるように崩れ、一枚の紙になった。

 王太子殿下の呼び出しだ。

 エミルをそろそろ連れて来いと書かれていた。
 確かに、還って来てくれてから、身体の定着は充分なようだ。ところ構わず寝てる事も減って、普段の生活で不具合もなさそうだ。これなら転移魔法にも耐えれそうだ。

 よし!
 光属性について詳しい殿下に説明してもらうのが一番いいはず。
 そうと決まれば、直ぐに行こう。

「エミルッ、王都へ。お城へ行こう」



「ちゃんと掴まっててね。私は転移魔法が苦手なんだ」

 彼を引き寄せる。

「ヴィクトルさまにも苦手な事があるの?」

 身体にしがみついてくれるのは可愛くて心拍数が上がる。顎下に彼の頭が当たる。胸がピッタリくっついてる。鼓動が伝わってそうで…。

 平常心、平常心…。

「おいおい、苦手だらけだよ。信頼してくれるのは嬉しんだが…」

 苦笑い。エミルの自分に対する認識がなんだかこそばゆい…。

「跳ぶよ」

 長距離転移を可能にしてくれてる小部屋から殿下指定の座標に跳ぶ。
 この部屋は、魔法増幅と安定強化が施してある。

 私はココから方々へ転移魔法で跳び回って仕事をしている。
 跳ぶ時はココに鍵を掛けてるので、帰宅時に衝突などという事故も防げる。サーチはしてるが、何分に苦手なので、安全重視。

 殿下の指定場所もそういった所だと思う。私が苦手なのは百も承知だ。長い付き合いの弊害だな。



「君はこの世界が消えて欲しかったりする? 破壊したい?」

 思った通り誰にも合わずに殿下の私室に入れたのだが。
 挨拶もそこそこにローテーブルを挟んでソファでお茶となって、初対面でいきなりの質問だ。
 エミルが困惑するだろうと思い、横を見遣れば、ポカンとした表情は予想通りだった。

「なんでですか? 世界はこんなにも美しいのに。何故破壊しないといけないんです? それも何故、僕に訊きますか?」

 気負わない様子で答えているには予想外だった。庶民のエミルだから、萎縮してるかと思ったら…。
 しっかりしてる。平民でも商売をしてたからだろうか…。

 そう言えば、私と会った時も緊張はしてるようだったが、ふんわりそこに居たなぁ。乳鉢でゴーリゴーリと床に座って作業をしてた…。初めて挨拶してくれた態度は可愛かったけど、キリッとしてた…。童顔だから年相応の態度でもなんだかなのだ。
 領主邸の離れでの事を思い出していて、二人の会話の内容をあまり聴いていなかった。

「君は躊躇なく自分を傷つけるらしいね」






==============


『続編』スタートです。

二人がイチャイチャしながら、話が進むといいなぁといった感じです。

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