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続編
精霊たちの騒めき(7) 微々※
しおりを挟む「寝てしまいましたね…」
冒険者装備のグラントリーが、私の背でスヤスヤ寝ているエミルを見遣っている。
城下から馬で途中の町まで移動。転移可能地点まで徒歩で移動途中にさっきまで陽気に話しながら歩いていたエミルの口数が次第に少なくなり、ふらついたと思ったら、頽れるように倒れたのがさっき。
地面に突っ込む前に抱き上げたが、抱えた彼はスヤァ~と寝ていた。
えーと、道のど真ん中で寝ますか?
そして、今、私の背中で眠っている。
荷物はグラントリーが持っていてくれてるが、なんとも気まずい。
はしゃぎ過ぎたか…。まだこの身体と馴染んでないのだろうか…。平時はそう難しくはなかったが、こう突然では対処が難しくなるな…。
「こちらに戻ってきてまだ間がないんだ。自分でもどこまで動けて、どこまで出来るのか、分かってない部分もあるのだろう…」
無言も気まずいので、エミルの行方不明から今までのざっくりとした経緯を話す事にした。
書面にすると言ってた内容だったが、話すのは大した事ではない。この沈黙よりはマシだろうと話していた。
内容は大した事だが、グラントリーは口を挟む事なく静かに聞いていてくれた。
「信じられん事だろうが、こうして彼は還って来てくれたのは事実だ。ーーーー本人が順応し過ぎてて、摂理から考えたらどうなのかなど忘れてしまうほどだよ…」
摂理もそうだが、今のエミルには思うところもあるにはある…。
「信じます。エミルさんがここに存在んですから」
グラントリーが心から安心できる笑顔で応じてくれた。私の不安を和らげてくれる。
「今のエミルには、少し気になることがあるんだ」
この笑顔を見たからだろうか。すんなりと心の内を吐露し始めていた。
「グラントリーが手紙を送った王太子殿下が、言うんだ。あれは、エミルの性格だって。前も前向きの性格ではあったとは思うんだよ。でも、彼は控えめで謙虚だった。実験とは言え、躊躇なくは…何かが違う気がする…」
違和感というか不安を共有できる相手が出来たのが嬉しかったのだろうか。さっきの話の中に実験などの様子もしていた事もあって、何がどうのとは言わなかったが、私自身、驚くほど言葉がポロポロと出てくる。
「確かに…。エミルさんは痛みに対しては嫌がってました。しないといけない時は、すっごく気合い入れてましたし。俺は旅をしてたあの頃しか知りませんが、出会った時も俺の傷を自分の痛みのように顔を顰めてました」
心配性で思いやりもあるエミル。きっと旅先でもあちこちで世話を焼いていただろう…。
「なるべく痛くない方法…。実験をするにしても後の処理も考えて事前に準備してそうですよね…」
そうだな…。血を滴らせながら、さてコレをどうしたものか…などとなってるのも変だな。痛みもあるはずなのに。
以前も過去の事への思い出とかは薄い感じはしていたが、今は、以前にも増して前を向き過ぎてるような変な…違和感を感じてたのだろうか…。
もうすぐ転移可能地点。
この国は結界の関係上、転移魔法等の魔法が使える区域が制限されている。その為、魔法を用いた移動を使うとこういう事になってしまう。時短ではあるが。
エミルの状態もあるので、オアシスに戻ってから火山島へいく事になった。
グラントリーには一緒に行動する事を提案したが、腕が鈍ってるから鍛錬しながら向かうと言うので、火山島での合流となった。
合流場所はあちらのギルドでいいだろう。
この男もマイペースだ。
転移魔法も使えるらしいから、3日後辺りで落ち合う感じか。
しかし、この時行動を一緒にしておけば良かったと後悔したのは後の話だ。
「僕が寝ちゃったから、こうなったのですか?」
ドラゴンダンジョン近くまで来ていた。
準備をし、エミルの目覚めを待って即出発した。
3日と掛かっていないのだが、彼は居なかった。
火山島の冒険者ギルドの受付でグラントリーについて尋ねると既にダンジョンに入ったとの事だった。ついさっきと言う。
上級ダンジョンは申告制なのが助かった。
隣のエミルの視線が痛い。もう少し早ければ捕まえられたという訳だからな。
ドラゴンダンジョンは上級ダンジョンの中でも危険という事で、A級でも上位ランクしか入れない。
私はA級なのだが、規定は満たしていない。
厳密にはA級ならそのランクになってなくても入れなくはない。命の保障は出来ないが、自己責任でという事だ。
「グランさんてS級なんだね。ヴィクトルさまは、何故A級なの?」
貶してる訳ではないのは目を見れば分かるが、胸に刺さる。
「あなたを探す為に冒険者になりましたが、行動の自由度が上がるというだけで、A級にしてただけで。その後は、依頼やダンジョンクエストはしてませんので、上がってないだけです」
ふーんと納得した感じだが何か考え始めた。
「ヴィクトルさまなら大丈夫だと思うけど、僕、何にも出来ないし。冒険者二人だったらって思ってたのに…」
ブツブツ呟き何やら考え事のようだ。腕組みして眉間に深い皺を刻んで唸っている。その仕草も新鮮で可愛いと眺めてしまった。危機感を持たねばいけないのだが。
「とりあえず入りますかね」
手を取ると、抵抗があった。『待て』という事らしい。考えが纏まったようだ。
「グランさんの性格からして、一人で解決しようとしてるんだと思うのですよ。で、ブランクはあるとは言え、S級だから追いつくにはすっ飛ばす勢いが必要だと思うんですよね」
「まぁ、そうですね」
ムフフと言いたげな表情で見上げてくる。
ちょいちょいと指で呼ばれた。
「何ですか?」
疑いもなく顔を寄せる。耳打ちか?
耳を寄せようと顔を傾けかけたところを両手で顔を挟まれ向き合わされる。唇を重ねてきた。
油断した。するりと舌が差し込まれ深く侵入された。舌で口内を隈なく舐められている。ねっとりと…。
姿勢が辛いので、エミルを抱き上げるが、なんだってこんなところでキスなどせねばならないのか、疑問に思いながらも、その行為を受け入れていた。熱烈な、しかし事務的な感じのキスを受ける。
いつもは私主導で始まるキスなので、なんとも辿々しく、可愛らしい舌使いにイタズラ心が刺激された。
チロチロ動く舌に大きく舌を絡め、舌の根本近くの舌裏を擽ってやると、驚く勢いで引っ込み、唇に噛みつかれた。
痛ッ
錆の味に血が出たのを自覚する。
舐めようとすると、エミルが透かさず舐めとった。傷にエミルの唾液が塗り込まれる。
「ちゃんと唾液飲んだ? んー、傷は、治りましたね。ヴィクトルさま、イタズラはいけないのです」
呑気な声音で注意された。その様子に微笑んでしまう。
はい、唾液は混ざったのを飲みましたね。
エミルにしては濃厚なキスでした。次はもう少し頑張ってもらおう。
腕の中のエミルはなんだか偉そうです。ちょっと顔が赤い。誤魔化しが可愛いね。
不意に視線を逸らして、腰のポーチから小刀を出すと指先をチョンとついて私の口に突っ込んで来た。動作が雑です。
「舐めて」
舐めますが…。ちゅぽッと指が抜けた。
彼は手際良く道具を仕舞い、スルリと腕から降りる。ポーションを垂らして傷を治し、魔法の詠唱を始めた。
エミルの魔法を本格的に見るのは初めてで、柔らかな魔力が纏わりついてくるのは、擽ったい気分で、なんとも愛おしくなる気配に抱きしめてしまいそうだ。
実際は自重した。詠唱中の横槍は生命の危険も意味する愚かな行為だ。
「よし! コレで、中ボス程度までのダンジョンモンスターには気づかれずに中を進めるよ。それから、僕は探査魔法が得意だから、レーダーになる」
私の後ろに回るとぴょんと飛び乗って、私の背にピッタリくっついた。どうやら気配を消す例の魔法を使ったらしい。
「さぁ、出発ッ。最短ルートでグランさんに追いつくよ」
愉快ですね。クピクピとポーションを飲んでる様子。魔力回復に強化か…。
エミルの馬になった気分で、ダンジョンに踏み込んだ。駿馬になりましょう。
モンスターにほとんど遭遇せずに奥に進んでいく。本当にモンスターの横を通り過ぎても何の反応もない。
エミルの指示で動いたが、これは随分とショートカットしたと思われる。短時間で肌を刺激してくる気配が急激に変化していた。
「ヴィクトルさま、そこの奥に小部屋がある。緩衝エリアみたい」
耳元で囁かれる。なるべく周りに気取られないように注意している。
指示通り入り込む。不意に不穏な気配が消えた。
背中からポンとエミルが飛び降りる。
床に手を置くと何か探ってる。
ここまでほぼ駆けて来ている。ダンジョン攻略としては邪道な気がしてならないが、ダンジョン攻略が目的でないので大目に見て欲しいところではある。
「2/3程進んだね。まだ追いつかないって事は、もうラスボスなんだろうか…。どう思う?」
キリリと振り返るエミルを見遣りながら、座り込む。
はて…抜かしたか?
「探査はどこまで伸ばせる?」
暫く黙ってたが、「うっすら最深部まで。あと少しってところまでしか届かない感じ…」と返ってきた。
広範囲だな。
「エミル、少し休もう」
おいでと手を広げる。
腕の中にすっぽり入ってきた。疲れは出てたか。
ドライフルーツを口に入れてやる。エネルギー補給をしてやらないと倒れてしまう。
幸せそうにもぐもぐしている。ポーションもクピクピ。
さて、追い越してる訳ではないなら、ここから離れた別ルートで最深部に入ってるって事だろう…。
グラントリーが今、最深部のラスボスの部屋にいるとしたら、勝負がつくまで扉が閉まってるだろう。間に合わなかったか…。しかし、S級とはそこまでの速度で進めるのか?
最深部のモンスターは、S級でも手間取るはずだ。急げばまだいけるか?
どうしたものか……。
「ヴィクトルさま……ここって森でもないのに、キラキラがなんで多いんだろう…」
自分のポーチの中も探りながら、ぽやぽや喋ってる。ここ? この部屋に何かいるか?
追加のドライフルーツを出すと口に持っていく。
「キラキラ?」
そう言えば、城から帰ってきてから、『キラキラが…』と話す事が多くなった。訊こうと思っていたが、なんだか楽しそうにしてるのを邪魔するのも悪い気がしてそのままだった。
「殿下が言うには、コレって妖精さんや精霊さんの感情とかの欠片なんだって」
ふ~ん……ん? それがなんだと???
何も言えず、見返してしまった。分からん。
ほら、ブシュンと膨れた。不味いな…。
困った。
「もういいですよ。キスしておく? ここから上位モンスターだから、繋がり強くしておかないと」
繋がりを強くなら、セックスしておくか?
なんて思ったら、ベチッと頬を痛くはないが勢い良く両手で挟まれました。
「えっちな事を考えてたでしょ? 今繋がってるからよくわかるんですヨォ~」
え? 今の頭の中のエミルの官能的な痴態が筒抜けですか?
それは…なかなかなにエロくないか?
じっとエミルを見てると、目を合わせたまま徐々に赤くなってきている。面白い。ふふふ…エロいのが丸わかりらしい。
「はっきりとは分からないけど、変な事、考えないで下さいねッ」
照れ隠しだろうか。プチュっと唇を押し付けるように重ねてきた。
はっきりではないのか…残念って事にしておこう…。
舌をゆっくり入れてやれば、舌を添わせ迎えに来てくれた。
「…ぅ…ん…んくぅ…」
場所と行為の目的を忘れそうな程、互いを感じねっとりと舌を絡めていた。
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グラントリーを捕まえろ~
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