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続編
精霊たちの騒めき(8)
しおりを挟む「ヴィクトルさま、ちょっと待って」
出発しようとしたところで、エミルが何か思いついた声音で袖を引いてきた。
「キラキラだけを探ってみたらね、コレってグランさんが通ったルートみたい。妖精さんが跡をつけてくれてるんだよ。先を探れる。ショートカットで追い抜きも可能かもッ」
ポンと背中に飛び乗ってきた。
「もっとルート探索もするから、モンスターに遭遇するかも。頑張るけど」
申し訳なさそうな声。探索能力を振り分けれないという事だな。
「大丈夫だ。任せろ。ルートを探ってくれ。行くぞ」
モンスターの遭遇前には警告を入れてくれるので、出合い頭という事にはならずに対処は出来た。モンスターが反応する前に仕留めていく。
魔力もまずまずの出力で剣技と合わせた自分らしい技が決まっていく。
冒険者として活動し始めた時には、思うようにはならずに歯痒い思いをしたが、私についてくれてる精霊の枷が少なくなってるのを実感する。あと少しで解放してやれる。
「グランさんとの距離が縮まったッ。グランさんの気配、あと少しで捕まえれる」
突然、背中で嬉しそうな声がした。
隠し通路のようなところも幾つも通った。ダンジョンに申し訳ないくて居た堪れない。私は心の中で謝罪しまくっていた。ルートは忘れる。緊急事態ですッ、許してくれ!
「つ、かまえ、た…捕まえたよッ」
嬉しそうなエミルの声に疲れを感じる。マズイ。ここで寝られたら…。
「エミル、合流まで、頑張ってくれッ」
小型な癖にやたらと強いモンスターに梃子摺りながらも仕留める。再び駆け出す。
あの大きな扉は……ボス部屋かッ!
駆けていく先に高い天井に届くかという大きな扉が見えてきた。
脚に強化魔法を追加し、加速していく。
扉が開いていた。
ゆっくり閉じ始めてる……グラントリーが入ったのだろう。
滑り込んだ。
ギリギリか!
兎に角、間に合った。
「エミル、間に合った」
寝ていた。
マジか~。
「エミル、起きてくれ!」
抱き直して呼びかける。
奥で怪音が響き渡っている。
この騒音の中で寝れる才能は褒めてもいいが、今じゃない!
ここからどうしたらいいんだ?
多分この音の方にグラントリーがいる。
エミルを抱き抱えると奥へ向かった。
怪音が益々大きく耳を劈く。
グラントリーと火竜が対峙していた。戦闘は起きていない様だが、どうも様子がおかしい。
ひと際大きな怪音が響き渡る。
ワァン、グワァンと反響音で鼓膜はどうにかなりそうだ。
エミルの頭を抱え込み音から守ってやるがどうにならない。
音に身体が押さえつけられそうな圧もある。立っているのが辛くなる。膝をつきそうだ。
エミルが腕の中で身動いだ。
見遣れば、懸命に目を開けようとしている。
「妖精さんが、ダメって…行くな、ダメって。…布出して、被って…」
また眠りそうだ。
妖精って喋るのか?
エミルは寝ぼけてるが、なんらかの意思の疎通が出来てたようだ。『隠匿の布』を引き摺り出して被った。
防音効果もあるのだろうか。幾分音が和らいだ気がする。
布と一緒に転がり出たのか足元にポーションの小瓶があった。
確かこの瓶は魔力回復の…。
「エミル、魔力回復ポーションだ。飲めるか?」
口で蓋を開け口元に当てて様子を見る。薄い反応。飲もうとしてるように口が動くが飲めてない。
口に含むと口移しで飲ませてやる。
「ごめん。魔力切れ起こしかけてた」
飲み干し、暫くすると目が開いた。起きてくれた事に嬉しくて「もう一本?」と言ってしまった。
酒でも勧めるようだなと、言ってから気不味く思ってると、クフッと笑われた。
和やかな空気が流れる。
怪音と焦げるような臭いと爆音が時々する。
「妖精さんが騒いでる。僕に言ってる訳じゃないみたい。布から出よう。支えて…僕を連れてって…」
エミルが向かいたい方向への歩みを遮る事なく支えて進んだ。
大きく赤いドラゴンとグラントリーが対峙している。
グラントリーが何か叫んでいるが、火竜は大きな身体を震わせ、尻尾を激しく振り叩きつけている。
火竜が口を開けば、轟音が鳴り響く。火は吐いてないが、あちこちに焦げ跡もあるから、いつ吐き出すか分からない。
エミルが私の腕から離れていく。腕に力入らない。
脚が動かない。手を伸ばすが届かない。声も咆哮に掻き消される。
どうした?
頭が締め付けられるように痛い。目が霞む。
グラントリーが叫んでる。こちらに気づいたようだ。
私とて止めたいんだ。非難がましく見るな。
尻尾がエミルの前を薙いだ。
生きた心地がしない。見るしか出来ない。
何かに押さえつけられてる。
押さえ込まれている部分が熱く熱せられてる。コレは精霊の仕業か?! 何故邪魔をする。
ぴょんとエミルが火竜に引っ付いた。
「どこか痛い?」
はっきりエミルの声が聞こえた。
ーーーー爆音がしない。静けさで反対に耳が痛くなる程に消えた。
「ドラゴンさん、どうしたんですか?」
洞窟のようなおどろおどろしい場にはそぐわない春の木漏れ陽を思わせる声音。
「ーーーーおお、消えた。。。」
感動している。
コレはドラゴンの声?
その間にエミルが、うんしょ、うんしょと火竜の背中に登っている。
しかし…、その格好が…どうにもその格好が、おかしくて…。木登りとか苦手そうな動きだ。
「ドラゴンさん、どうしたの?」
登り終えて、首にたどり着くと、首にしがみついて立ち上がる。ちょっとでも顔に近づきたいようだ。
「妖の者が喧しくて、気が狂いそうだった。ーーーーおお! やっと来たか、グラン!」
周りを見回して、正面の人に気づいたようだ。
「さっきから居たぞ!」
グラントリーが怒鳴っている。
「鱗なら返す! 嫁はお断りだからな!」
「鱗? 返さずとも良いぞ? まだ欲しいか?」
爪が鱗を掻いてる。
「僕は欲しい」
エミルが割って入った。
「んー、鱗は、そうそうやれん」
手を止めて、火竜はすまなそうに言ってる。
「残念」
あっさり引き下がった。
用はないと言いたげに降りようとするところを大きな手に抑えられてる。
「お前が離れると、また騒がしくなる。もう暫く」
「何があったんですか?」
見上げてる。
「暫し待て…。順番に、ゆっくり、できるか?」
大きな金の目が閉じられ、渋く静かな声が流れる。
誰に語っているのか?
暫しの沈黙…。
シタッと尻尾が揺れると目が開かれた。
ギロリと金の目が身動きできない私に向けられた。
「そこな者がか? ふむ…」
金の目に射抜かれている。恐怖に身動きできない身体が竦み上がった。
「ドラゴンさん?」
エミルが語るかけてる。
「お前もだな」
エミルに視線が向く。私と違ってエミルはキョトンとしている。光りが彼らを包んだ。
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「お前は止めたのか? 巻き込まれたか…。罰は仕方がないな」
私の方を見て語りかけてるが、私ではない何かに話しかけてる。
「ドラゴンさんは、精霊さんとお話しできるのですか?」
エミルが興味津々に訊いている。
「火の精霊は我の欠片だ。妖精もな。分離してから久しく時が過ぎて、別物になってしもうたが。話すというか、分かるのだ」
エミルを抱えたままその場にドカリと座り込んだ。エミルは彼の首に腕を回して抱きついてる。
「数年前から騒がしいとは思っておったが、放っておいたら、近くで騒ぎ出してのぅ」
思い出を振り返るように話始めた。
「よく分からぬので、話せる人に訊くのが早いかと、ダンジョン攻略の者に尋ねても、会話がままならぬので困っておった。グランのように話せる者が少ないのを失念しておった」
何が可笑しいのか、カッカッカと声を出して笑ってる。
「そんな折り、皆からグランの名が出てきての。グランを思い出してのう。グランに話を聞こうとよな。手紙を出したが、その時は頭が痛くてのぅ。なんと書いたかのぉう」
のんびりと言い募っている。思い出そうとしてるのか首を捻って悩んでる。
「『来い』って書いてあったよ」
エミルが教えてる。
「酷いな」
クシャッと眉間に皺を寄せ渋面になった。
「そぉお?」
「そうであろう。喧嘩を売ってるようではないか。酷い…。それでこの事態か。グランすまなかった。して、魔石をお前が持ってると、この者たちが言ってるが、どういう事だ?」
ココにいる者たちが全て固まった。
知らん。
皆が思ったに違いない。更に言えば、言ってる意味が分からん。
「動きたいのだが…」
熱の塊にのし掛かられた感じで抑え込まれ動けない。
パチンと長い爪の指が鳴ると呪縛が解けた。
「話を整理したい」
グラントリーの手が挙がった。疲れた掠れた声で宣言した。
叫び過ぎたらしい。
火竜の話をまとめると、妖精たちが森の破壊と魔獣の殺戮で、助けてを求めて騒ぎ出したもそうだ。
風の妖精が土の妖精たちの声を運び。水の精霊たちが波立たせ、火の妖精たちに飛び火して、精霊たちにも知らせて、ここへ大きな者のドラゴンのところへやった来たらしい。
周りで助けを求めたが、一向に伝わらず、ワイのワイの集まってきて、大合唱して、集まり続けていたようだ。
エミル曰くキラキラが眩しいらしい。
そうこうしてる内にあと数個の知らせの中に持ってる者が以前ココに来たグラントリーの名があったのだとか。
ドラゴンの反応に妖精たちが俄然元気にお知らせしていたという事らしい。
相当な騒音だったようだ。
火竜がこめかみを揉んでいる。
今は代表者が順番に話してるようだ。喧しいのは変わらないようだ。この様子から代表者と言ってもひとりとは限らないようだ…。
「戒めも解除されてるという事は、許されてるという事か。なら、あとひとつを地に渡せばよかろう。我はもう眠りたい気分だ」
エミルが鞄を漁ってる。
「総合回復ポーションです。どうぞ」
あったぁ!と掴み出して、火竜に差し出した。
「ほぉ。面白い物を。いい出来だ。光の者かーーーー闇も深い」
受け取り、光に翳すように見ていたが、一息で飲み干した。
「皆の者、解散! 解決した。あとは見守られよ」
エミルを膝から下ろすと私の方へ押しやった。
トトトとエミルが小走りに私の腕の中に収まる。
「グラン、茶でもと言いたいが、その阿呆に魔石を渡してやってくれ」
グラントリーに火竜が告げたが、当の彼は仁王立ちで微動だにしない。
「……どうした?」
親しい間柄なのだな…。
「嫁に来いじゃなかったのか?」
憮然とした物言いで言ってる。分かる気がする。ここに来るまで悩んでたものな…。
「なんと!来るのか? 良いぞ。いつでもウェルカムじゃッ」
方や相手は嬉しそうに両手を広げて『来い』と態度で示してる。
憮然とした態度のままドカドカとグラントリーが歩み寄る。
ニッコリ見惚れる微笑みの火竜。
パシーンとその手が叩かれる。
「嫁は断る!が、茶ぐらいなら付き合ってやる」
弾かれた事にびっくりした顔が破顔。
「善き良き。会話の出来る人の子は貴重じゃ。今度来る時は、ダンジョンからじゃなくてコレで来い」
ころりとした鉤爪の形の小石が渡されている。
「会いたいと思って握れば、我のところよ」
ニコニコ顔だ。美丈夫の男の顔が崩れてる。
「へー、便利だね」
グラントリーがニコニコとポケットに入れている。お前もなんだかな…。
それは…。
言ってやりたい事は色々あるが……。ま、いいか。
「グラン、お前の国まで送ってやろう。皆も一緒に運んでやろうぞ。気分が良いからのぉ~」
発光が起こると、大きな紅いドラゴンが羽を広げて鎮座していた。尾っぽがゆらゆらしてる。
北の国までひとっ飛び。
グラントリー。居場所も抑えられたな。
城の中を家探しする事になったが、私にやれる事はなく、じっと待つしかなかった。
城の中は魔力が発動しにくい何かが仕掛けられてるようで、下手に動けない。
「グランさん! キラキラがあっち行った」
ここでもエミルが頑張って走ってる。
足元は少々よれてる。眠りそうなのを頑張ってるのだろう。
カクンと膝が折れた。
石の床と接触する前に掬い上げる。
私は本当に役立たずだ。
『馬鹿ヴィー』と殿下の声が聞こえた気分だった。ドラゴンにまで阿呆と言われたし。もうダメダメだな…。
エミルを抱き抱え、指差す方へ向かった。
魔石は鱗と一緒に渡した王への土産の中にあった。小さな石だったので埋もれていたようだ。
グラントリー自身どういった経緯で手に入れたか既に忘れた代物だったが、本物である事は、私の周りを熱風を巻き起こしてる存在が熱風を叩きつけてくるので、それで合ってると言ってるようだ。
日頃感じない私にまで精霊の存在を感じさせるのだ。コレで間違いないだろう。
礼は後日と言い置いて北の国を後にした。
エミルを抱えたままであったが、受け取った足で、森に向かった。
「全て終わった、はずなのではないのか?」
まだ違和感が強い。
魔石は砕き、地に還って行った。
儀式を終えたのに、試しに剣に纏わせた焔の煌めきが足らない。あと少し出力が出ない。引っ掛かりというか…。
儀式に間違いはなかった。終わったと感じている。いるのに、何か欠けてる感じがする。まだ魔石が足りていない?
『血を…』
座り込んで剣を翳し眺める私の膝で眠ってるはずのエミルが呟く声が耳に届く。
エミルの声だが、何か違和感がある。
血?
エミルの血と泥に塗れた荷物が雨に叩きつけられた景色が脳裏に浮かぶ。
あの場所か…。訳は分からなかったが、直感がそこへ向かえと言っていた。
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次回後始末!
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