呑気な薬師と領主さま

アキノナツ

文字の大きさ
33 / 42
番外編:『エミルの日常』

1)露店開業

しおりを挟む
 
 あー、あー、聞こえてるでしょうか?

 只今僕はダンジョン近くで露店を開いて、商い中です。
 冒険者さん達がいい感じで覗いて行ってくれてます。
 ポーションもついでに民間薬も売れています。そこそこの稼ぎです。
 今日は何か美味しい物を食べに行きたいですね。ここの名物って何なのでしょうねぇ。

 そんな事を考えながら、近くの町での美味しいお店を訪れる冒険者さん相手にリサーチなどしています。

 うーーーーー。
 こんな実況妄想でもしないとやってられません。

 ヴィクトルさまがこの上級ダンジョンに潜られて、まだ出て来てくれません。
『出てこなかったら、冒険者と一緒に町に戻って』なんて言ってダンジョンパーティの方へ駆けて行きました。

 S級の冒険者さまですから、心配なんてしてませんよッ。モンスター相手にはね。
 僕のヴィクトルさまなんですから。
 強いんですから!
 サクッと行ってくるって言ってたもんッ。

 ーーーーー日が暮れそうです。

 朝早くにパーティ組んで入ったんだよね。
 ヴィクトルさまはソロが基本なんだけど、パーティを組む事もあるのだそうです。ギルドからも依頼されるのだとか…。これもお仕事です。

 自分都合で動けないんだろうなと思うんだけど、オアシスでは定時に帰ってくるのが当たり前なので、この残業ちっくな時間が……なんだか……嫌です。

 組んだパーティのメンバーも魅力的な方々なのも、モヤモヤします。

 僕のヴィクトルさまはもっと魅力的です。
 あの魅力と実力にメンバーさまがキュンとされては、僕に勝ち目がないように思うのです。

 こんな茶色の冴えない髪色におめめもぱっちりしてる訳でもなく、色も茶色……。
 童顔でちんちくりんのおっさんです。縮んだからね。若く見られると言うより幼く見られてる気がするんですが…。

 あ、愛、愛されてる(恥ずかしいッ!)自覚はあるんですが、(あつ~)
 ヴィクトルさまに送られる秋波を阻止する事は出来ないじゃないですかぁぁ…。

 あー、まだ起こってない事に嫉妬しそうです。
 ううぅぅ……胸がチクチク、もやもやします。

 日が暮れる前に町に戻らないと戦闘能力のない薬師は危険です。

 この冒険者さんを最後にしましょうか。
 町に帰るか訊いて、同行がお願いできたら、ご一緒しましょう。

 商品を品定めしている間、僕はダンジョンの方向を見てしまいます。

 帰ってこないね……。
 もうここに野営しちゃおうかな……。

「ねぇ、夜は流石に居ないよね?」

 帰るかどうかを訊く前にそんな事を言われてしまいました。

「開いているとイイですか?」

 僕も言い出せません。この様子では、ダンジョンに潜るんですね。

「そりゃね。でも、夜はこの辺りも様変わりだからな。無理はしない方がいいよ。ーーーーコレちょうだい」

 品物をお渡しして、帰るタイミングを逃してしまいました。

 次に来た冒険者さんと帰りましょう。

 片付けながら、お客さまを待ちます。
 森は日が翳るのが早いですね。

 ブルっと震えが走ります。

 慌てて片付け、周りを伺います。
 入っていく冒険者さんは居ても、帰る方はおられないようで。

 完全にタイミングを逃したッ。

 とりあえず、帰りましょう。
 リュックを背負って、小走りにダンジョンを後にしました。

 …道、コレで、合ってますか?

 闇が迫ってます。
 身体が冷えます。
 嫌な汗が噴き出て来ます。
 体感温度がバグってます。

 もうダメかも…。
 何が?
 道に迷ったんですよ…。

 大木がある時点で道から外れてます。
 行きにこんなのなかったです。

 木の周りをぐるっとしてみたら、裏に大きな洞が開いてました。
 さっきから霧のような小雨が煙るように漂うように降っています。
 町に行くのは諦めて、ここで一晩お世話になる事にしました。

 中を整えて、ひと息。外からの雨風は十分に防げます。縮んで良かった点ですかね。すっぽり入れてます。

 リュックを漁ったら、焼き菓子が少し、お店をしながら摘んでた残りです。無いよりマシですね。
 モキュモキュ食べて、リュックを抱え、『隠匿の布』を被りました。適度に温度と音を遮断してくれ、快適温度と静けさです。

 ダンジョンから離れたと思ってたけど、本当に離れられてるんだろうかが不安です。

 外の脅威は匂い消しとこの布でたぶん大丈夫。元々、魔獣は人を無闇に襲いたくない動物だし。獣はダンジョン近くには居ない。ここが離れたところだとしたら、匂い消しで大丈夫。
 問題はダンジョンモンスター。
 アレは確実に人を襲う。
 出会ったら、出会わなくても接近で積極的にぐわっと来ます。ダンジョンから離れてる事を祈るしかない…。

 寝れないね…。

 実際は、スーッと寝そうにというか寝てました。ちょっとだと思いたいですが、自分でも呆れちゃいましたよ…えへへ…。

 目が覚めたのは、木の周りを地面が擦れるような引き摺るような音が断続的起こってるのに気づいたからです。

 魔力を意識して使います。
 コレでこちらの気配は消えたも同然でしょう。

 ーーーー早く朝になって……。
 心細いのは変わりありません。



「エミル? そこにいるんだろ?」

 眠いです。もう少し寝ていたいです…。

 いつも起こしてくれる声。
 もうそんな時間ですか?
 布からもそもそと出ます。

「頭?! 人?!」

 別の声に驚いてまた潜ってしまいました。

 な、何なの?!
 寝ぼけ眼もぱっちり開きましたよッ。えーと、僕寝てましたッ。

「ありがとう。もう大丈夫だ」

 ヴィクトルさまの気配だけになった。

 こそーっと顔を出します。
言いつけを守らず、野宿をしてて、しかも、危険かも知れない場所で寝てましたからね…。
 えへへ…と笑ってみたけど、赤い目が吊り上がってます。
 怖いぃぃッ!
 射竦められて動けない。布も被れず、ぷるぷる震えるだけです。

 動けない僕は、ヴィクトルさまに何もかも一緒くたに、ごっそり抱き抱えられました。

「帰る」

 彼の温もりに安心してしまいます。怒り心頭の人に抱えられても…。
 転移魔法で宿屋へ。今の拠点にしてる部屋です。

「何故、ダンジョン近くで野営してた?」

 身綺麗にされて、ヴィクトルさまのお膝の上です。お風呂でホコホコです。

「町に向かったはずですよ。迷ったみたいだけど…」

 ダンジョンの近くだったんですね。

「ーーーーー無事でよかった」

 抱き締められました。
 言いたい事はいっぱいおありのようですが、怒りはどうやらおさめてくれたようです。

 僕はモンスターに誘われたらしいのです。それで道に迷ったとか…。本当かな…自分で迷った気がします。

 使っていた薬草類が守ってくれたのか。
 でも、僕寝ちゃったんだよね。
 もしかしたら、そんなに危機感感じなかったのかな?

 木の周りにスライムが円陣組んでたらしいです。

 ーーーースライム?

 木の周りにスライムくん達がぷにぷにと… ちょっと可愛いと思ってしまいました。

 ぷにぷにしたのが、木の周りをぐーるぐると…ぷにぷに…プニョプニョ…と動いてたんですよね…。

 うふふ…可愛い。

 ヴィクトルさまに頬っぺた引っ張られました。

「エミルッ、笑い事じゃないです!」

 赤い目がつり上がってます。お怒り再びです。えーと…怒らないで? 『反省してます』と上目遣いに見つめます。

 おじさんは時々ズルいのです。
 ベッドにお誘いしてしまいましょうか?

 ……寂しかったんです。一緒に帰りたくて…待ってたんです。言わないけど、ぎゅっと抱きしめてくれました。僕も抱きしめ返します。一緒がいいんです…。

「本当に心配したんですからね…」






============

次は、露店の様子などを…続きます。


続きが気になる方、お気に入りに登録やしおりは如何でしょう?

感想やいいねを頂けたら、さらに嬉しいです。

↓下の方にスタンプや匿名でメッセージ送れるの設置してあるので、使ってみて下さい。

ちなみにURLはコレ↓
https://wavebox.me/wave/8cppcyzowrohwqmz/


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

りんご成金のご令息

けい
BL
 ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。  それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。 他サイトにも投稿しています。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【完結】こじらせ半猫くんは、好きな人の前だけ可愛い―溺愛ダーリン×半猫化男子―

砂原紗藍
BL
大学生の三毛乃レンは、雨に濡れたり感情が高ぶったりすると、ふわふわの猫耳としっぽが勝手に出てしまう“半猫体質”。 誰にも知られないように隠してきたのに、気になっていた隣人・橘カナトに見られてしまう。 「お前は、そのままで可愛い」 そう言って優しく受け入れてくれるカナトに対し、レンは「別に嬉しくない」と強がる。 でも本当は――寂しがりで不安になりやすく、嫉妬も拗ねるのも止められない“無自覚メンヘラ”気質。 実はその原因は、“幼い頃に背負った傷”にあった。 半猫姿を狙われて怯えたり、危ない目に遭えば、カナトは迷わず抱き寄せて守ってくれる。 そんな溺愛に触れていくうちに、気づけば、“心も体も”カナトなしでは生きていけなくて――。 「カナトさんがいないと、やだ。置いてかないでね」 「置いていかない。絶対に」 「……約束?」 「約束するよ」 レンを守り甘やかす一方で、嫉妬や拗ねるレンにデレデレになりがちなカナト。 耳もしっぽも、心も体も――お互いを独り占めしたくて、手放せない。 こじらせ半猫男子と、一途に溺愛するダーリンの、甘々ラブストーリー。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

処理中です...