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番外編:『エミルの日常』
2)足元注意
しおりを挟む露店の外が騒がしいです。
ちょっと騒がしいだけで、僕には関係ない感じなので、このまま営業で問題ないでしょう。
この前は、僕が行方不明になったと周りの人に迷惑を掛けてしまったらしいです。確かにあの時ヴィクトルさま以外の人の声がしました。
ダンジョンを出たヴィクトルさまが血相を変えて森の中へ入って行くのを、さっきまで組んでたパーティの人やその場にいた冒険者さん達が気にかけて追いかけてくれたらしいのです。さっきお買い物してくれた冒険者さん情報です。
ヴィクトルさまはダンジョンを出てすぐに僕の位置を確認したらしいのです。側にいない時にはよくしてるとか。聞いてると習慣のような事みたいですね。遠距離では大まかな位置しか分からないらしいのは以前と同じです。
僕もどうしてるかなぁって思ってるから気持ちは同じです。同じでないのは、この耳朶に嵌ってる石の所在をヴィクトルさまは感知できるって事ですね。
互いに思ってるって事です。うふふ、一緒は幸せな気分ですね。そう言えば、殿下に一緒の話をしたら『大丈夫か?』って言われました。呑気過ぎるって…どういう事ですかね…。
耳朶の赤い石は僕の宝物です。今回は同意でつけて貰いました。彼の石を半分にした物だそうです。
耳朶に埋まってる守り石の気配を追って、森の中へ入って行ったのですよね。町の方向にいるはずが、近くで反応があったらびっくりですよね…。
彼から話を聞いた方々は、手分けして探してくれたらしいです。皆さんいい人ですね。冒険者さん達っていい人集団なのでしょうか。
ヴィクトルさまに訊ねてみれば、眦上げて怒られてしまいました。怖いです。
また怒らせたら…思わず腰をさすってしまいました。激しいのもいいんですけど、泣いてもやめてくれないんです。お仕置きって、恥ずかし過ぎるので、回避です。
『知らない人について行ったらダメですからねッ』
何度も言われて、めちゃくちゃ頷いたけど…。心の中ではびっくり仰天でした。
えーッ?!です。
帰り自分が一緒に出来ない時は、冒険者さんと一緒に帰るように言うのに?!
その『知らない人』ばかりなんですけど?!
なんて事を思ってましたけど、もの凄ーく怖いお顔なもので、ブンブン思いっきり首を縦に振りましたね。回避、回避ですッ。
じっと彼の目を真剣に見返します。
怒らせたくないもん。
甘い時間が少なくなるもん。
もん、もん、と思ってたら、おっさんなのに子どもぽくなっていく感じがします。
この身体になってから、どんどん思考が子供っぽくなっていく感じがして…困るのです。知識だけはいっぱいです。
縮んだ身体に思考も引っ張られるのでしょうか…。
元領主さまは逞しく育ってて、僕は彼の身体にすっぽり身体を隠せる感じで…抱きしめられるんです。彼の胸に頬をつけてぎゅっとされると幸せで…。
ガリガリではないのですが、細いのもよくないのだと思うのです。昔から食べても何かに吸収されてるみたいで、お肉にならない。おじさんになれば駄肉がつくかと思ったんですが、若い時から変わらないのです。身体が若い気でいるんです。作り直してくれても仕様なのか、年をとっても変わらなかったようです。だから貧相な身体つきのままです。
駄肉でもあれば触り心地が良くなると思うんだけど……。
あーーーーーッ、えっちな事考えてたぁぁあああ。恥ずかしいッ。両手で熱くなる顔を覆い隠しました。視界は暗くなっても恥ずかしさは隠れてくれません。
しかも、恥ずかしさに悶えながらも、思考も止まらないです。
キスだって、背伸びしないと出来ないし、ちゃんと踵を接地した状態で逞しい背に手を回せば、胸筋が丁度顔の位置で。
前は、肩口ぐらいにおでこがついてたように思ったんだけど。
還ってきた時は頭が彼の顎に当たるか当たらないかで…縮んだですね…。
胸筋が気持ち良くて困ります。
僕が顔をくっつけてると、ゆるゆると揺らしてくる。アレはきっとワザとだ。僕がうへへってなってるのを上から見てるんだ。
僕もうへへってなってるのが悪いんだけど、ホント罪なぐらい気持ちいいですよ、あーた。
『あーた』って誰だよ。
ふぅ……。
……ホント騒がしいですね。
足元に違和感を感じ…る?
「そっち行ったか?」
「始末したか?」
「露店のは近寄らすなよ」
「入った?!」
なんか話し声が近くでする。
ヒョコっと店の中を覗かれた。
「あっ、いらっしゃいませ」
驚きを隠して、穏やかにご挨拶。
「買い物は後でします。ところで、中でおかしな事とか起きてません?」
若い冒険者さんが人懐っこい笑顔で、訊ねてきます。
おかしな事???
「何も」
短く、正直に答えました。おかしな事ってどんなのでしょう?
「そう。………じゃあ、後で」
仲間だろうかの声に呼ばれて消えた。
「あっちかも。小物だけど厄介だからなぁ」
「ダンジョンに帰ってくれたらいいんだが」
話し声が遠退いて行きます。
なんとなく分かりました。
この近くにダンジョンモンスターが沸いたんだ。
たまにある事です。気配は消しているので大丈夫ですが、油断は出来ません。
今日は早めに店じまいするかな。
さっき僅かに感じた足元の違和感が増しました。コレは…おかしな事ですか?
視線を陳列台の影に移動させます。
僕の足元からちょっと離れたところの地面に黒い湿ったシミが広がってます。
何か溢しただろうか…。
じわじわっとシミが動いたように見えました。
目を擦って、シミの場所を目を凝らして見ます。
今度はシミが盛り上がりました。
透明な何かが、地面のシミから盛り上がって、こちらを見ています。
うん、見てます。
バッチリ目があってます。
ここは『はぁーい』とご挨拶した方がよろしいのでしょうか……。
見詰め合って、時間が流れていきます。
「コレ下さい」
声に呪縛が解けました。時間が溶けていました。
「あっ、まいどッ」
指定される品物を包みながら、他も薦めます。色々お買い上げ頂きました。
お客さまがダンジョンに向かわれるのを見送りながら、足元のあのシミがあったところを探るように見遣ってみます。あれば、さっきの方にお知らせした方がいいですね。
消えてる。
アレは…、スライムってヤツ?
僕が知ってるのは、『えっち用のスライムくん』だけなので、ああいう感じのは初めてで…。
害があるようには感じなかったです。
驚きはしたけど。
ちょっと、ほんのちょっとだけど、可愛いと思ってしまったのです。
『えっち用スライムくん』の影響かも知れないですね。恥ずかしいッ。
ヴィクトルさまが悪いんですッ。
彼が最近当たり前のように使うから耐性が出来ちゃったんだと思うんですよ。種類もあるんです。どれも形状は手のひらサイズなんですよね。
でも、アレはダンジョンモンスター。人が手を入れて作られた物じゃない野生(?)のスライムくんなのです。
その辺の線引きをしないといけないのです。
胸元できゅっと拳を作って決意です。
可愛くっても、連れて帰りたくなっても、ダメなのです!
自分に言い聞かせます。
スライムに『くん』などとつけてる時点で、どうかしてるのに、あの時は、自分では気づいてなかったのです。
それ程、そのスライムは可愛かったのです。
それから暫く、時々、足元にシミがやって来ます。
少しずつ。
少しずつ。
近づいて来ていました。
接触はまだ先の話。
=============
スライムとのお話が続きます。
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