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番外編:『エミルの日常』
終)お話しますッ 微々※
しおりを挟むスライム騒動の終わりです。
============
目を覚ますと、チュニック着せられて寝てました。
シーツも何もかもスッキリ綺麗に整ってます。
もっそり起き上がりました。お腹もスッキリです。
サイドテーブルに水差しとフードカバーが掛かったのが置いてあります。
ここまで準備されてるって事は、ヴィクトルさまは居られないという事です。
コップに水を注ぎながら、ちょっと…ほんのちょっと…思います。
目が覚めたら、ヴィクトルさまがそばに居てくれると思ってたので…。
ほんのちょっとですけど、ほんのちょーーーーーッとですよ? ーーーー不満です……。
ちょっとだけです。
クピ、クピっと水を飲んでると、お腹が鳴ってしまいました。
出すもの出したらお腹はスッキリですね。
久々の空腹感です。
カバーを見ながら、くんと匂いを嗅いでしまいました。
いい匂いが微かにします。
カバーが掛かってますが、軽食ですね。
ちょっと傾けて中を確認。ほら、やっぱりね!
たっぷり具が挟まったサンドイッチを掴んで「いただきまーす」と大きなお口でパックン、モグモグ……ごっくん。
美味し~いッ。生き返ります。
全てお腹に収めて、お水で水分補給。さっぱりした果汁の飲み物が欲しくなりました。お腹が落ち着いたら、台所に行ってみましょう。お片付けもありますしね。
やっと落ち着きました。
寂しいなって思ったのは、隅っこに押しやります。
ヴィクトルさまは確かお仕事にお出かけだった筈です。何かの理由でお戻りになって、僕の醜態に出会ってしまったんだと思います。
そして……、顔が熱いです。
ほっぺたを両手で押さえます。
ブンブン頭を振って、ヴィクトルさまに助けていただいた艶めくアレコレを追い払います。奥にあったアレの為に奥に魔力を送る必要があったんです。ともなってしまったあの状態は…不可抗力です。そう、不可抗力だったんです。
アレは、僕を助けようとしてくれた行為で、やましい事など、これっぽっちもヴィクトルさまにはないんです。
パンパンとほっぺを叩いて気分を切り替えます。僕のぽやぽや頭では、ヴィクトルさまに悪いです。
ヴィクトルさまはお仕事を片付けに行ってるのだと思います。
食器を片付ける為にベッドを降りると、膝がカクンと折れてしまいました。
おお?
産まれたての子鹿のようにお尻を上げて脚を踏ん張り、よいしょと立ち上がります。
ちょっと不安定ですが、歩けそうです。
お尻もちょっと違和感。
確かに、アレは激しかったです。
互いにフラストレーションの爆発ですもの仕方がないないです。うん、仕方がないんです。お片付けです。
ぽっぽぽっと再び顔が燃えるのを感じながら、食器を持ってキッチンへ。
片付けて、寝室に戻ってきました。
居間や作業台に行かなかったのは、気になった事があったからです。
スライムくんの置き土産ちゃんたちはどこでしょう。
ヴィクトルさまの事です。きっとここにちゃんと保管してる筈です。
ここになければ……ヴィクトルさまの書斎?
キョロキョロ探します。
ーーーー有りました。
籠の中に柔らかそうな敷物を敷いた上にコロコロと入ってます。大小色々なサイズの玉。
コレが僕のお腹に入ってたんですね……。
籠を抱え、ソファに座りそれらを眺めていました。
親指と人差し指で丸を作った感じの大きさのを摘んで、光に翳してみました。
透明の殻の中に液体のような物が入ってます。コレがスライムくんの分身なのですね。
風に吹かれて空気に散っていったスライムくんを思い出していました。
中が揺らいだ気がします。
そうです。コレは生きているのです。
どうしましょうか……。
「エミル…」
後ろで静かな声がしました。
そっと玉を元に戻して、声の方を見ます。
ヴィクトルさまが急いで帰ってきてくれて、真っ直ぐここにきてくれたのだと分かる様相です。
少し着崩れた感じになってるのは、色っぽいなんて考えてしまった僕は申し訳なくて、視線を前に戻しながら「お帰りなさい」というのが精一杯でした。
膝の籠をきゅっと掴んでいました。
横にふわりと座ったヴィクトルさまが僕を籠ごと抱っこして、脚の間に座らせて、後ろから回した腕が僕のお腹周りをゆったり拘束します。
もう、僕は逃げれなくなってしまいました。
「ただいま」
つむじやこめかみ、頬にキスが落ちてきます。優しいキスです。
じわっと涙が溢れてきました。
籠の中のスライムくんの置き土産ちゃんがゆらっと歪みました。
「ごめんなさい…」
僕はウソをついていた事が申し訳なくて、胸が苦しくなってしまいます。苦しくて、涙が溢れて来ます。
ヴィクトルさまを見遣ると、微笑んでいました。何もかも知ってるってお顔です。
「全部話して下さいね…」
圧を感じます。当たり前です。心配をかけてしまいました。
赤い瞳に優しさの中に刃物のような煌めきを見出し少しゾッとしましたが、僕は全てを話さないといけないのだと。怖いからと逃げてはいけないのです。ヴィクトルさまが怒っておられるのはよく分かります。
気持ちを引き締めました。
大きな手が僕の頬にスジを作った涙を拭ってくれます。
ヴィクトルさまの膝の上に座り直され、温もりに後押しされながら、事のあらましをゆっくり、思い出し、整理しながら、話していきました。
「スライムはいくら可愛く思っても、モンスターだと分かりましたか?」
呆れた声で、話終えた僕に諭されました。目が笑ってます。
「分かりました」でも、可愛くて、スライムくんはお友達だと思ってたんです。
後半は口に出せませんでした。
頭をくしゃくしゃに撫でられました。乱暴な手つきに目を瞑って耐えます。グラグラです。
「お友達だったんですね。多分、そのスライムもエミルだから、託したんでしょうね」
ハッとヴィクトルさまを見遣ります。優しい目に遭いました。怒ってません。
「彼がダンジョンの崩壊を早い段階で察知して、自分の分身を隠す場所を探してたんだと思います。普段はダンジョン内の壁の割れ目などじめっとしたところにこういうのはあるんだそうです」
優しくぐしゃぐしゃになった僕の髪を手櫛で梳いてくれます。
「ダンジョン近くの木の洞か洞窟を探してたんだと思います。そこで、君に会ってしまったというところでしょうね。エミルも水の加護の影響で呼ばれてしまったではというには、私の考えですが。あなたは色々な者たちに好かれますね…」
そっと玉を摘み上げ、僕の目の前で観察してます。
「コレに君の魔力を感じます」
この一言に、ボンっと顔が燃え上がってしまいました。あえて誤魔化して言わなかった部分です。僕もなんとなくそれに感じてた部分です。言い訳を考えてたのですが、指摘に白紙になってしまいました。動揺していてはバレバレです。
「不可抗力としておきましょう。でも自分で頑張って外に出たんでしたね」
やはり、ヴィクトルさまにバレてます。
「君から貰った魔力を織り交ぜて、君の腹に馴染みやすくして託したという事でしょうか」
お腹を優しく摩られました。僕も撫でる彼の手に手を重ねて、一緒に撫でてました。
ここに入ったんですね…。
「均等には育たなかったみたいですね。そのスライムも人に産みつけたのは初めてだったんでしょうね」
そうか…。
「コレ、僕に預けてくれたんだ。出す方法とか考える暇がなかったんだね」
サラサラと風に消えていったスライムくんを思い出してました。
「そうですね。早く相談して欲しかった。劇薬まで作って…」
伸びやがってヴィクトルさまの頬に唇をそっと押し付けるようにキスします。お詫びです。反省してます。
「ごめんなさい。忠告されてたのに、自分であそこから抜け出せて、対処出来たんだと思ってたから……恥ずかしくて…言えなかった」
許してとすりっと身体を大きな身体にすり寄せました。
「それでも、言って欲しかったです。初めから言えなくても。困った事は相談して下さい。ーーーー察せられなくて、すみません」
ヴィクトルさまが何故か謝りました。
どうして?
僕が悪いのにッ。
「ヴィクトルさまは悪くないです。僕が悪いんです。怒られる事をしたのは僕です」
慌てて、言い募りますが、彼の意思は揺らぐ感じはありません。
互いに見合ってると、彼がフッと笑いました。折れてくれました。
笑う彼にうっとりです。うっとりしちゃダメな場面なんですけどね。
僕の大好きなヴィクトルさまの新たな表情です。好きです。大好きです!
「お互い様という事でいいですか?」
何も言わずに唇に重ねて和解を了承です。
「さて、彼らが殻から出てきそうですから、帰しに行きますかね」
籠の中を見ると、殻の中の液体が揺らいでるのが、気のせいでなく光がゆらゆら反射してます。
「本当だ…すごく動いてる」
「あのダンジョンに帰せばいいそうです」
どうやら、お仕事以外にスライムの事を調べて来てくれたようです。さすがヴィクトルさまです。
そして、あのダンジョン前に来ています。
「離れないで下さいね。まだ中は調査中なので」
崩壊は落ち着いて構築は終わってるのだそうです。今は、地図を作ってる最中だとか。ヴィクトルさまは手元の道具を確認してます。地図作成調査が名目です。
閃いてしまいました。お役に立てそうです。踵が上がって下がってウキウキしてしまいます。カバンから魔力強化ポーションをコソッと出してクピっと飲みます。
「僕の探査魔法で地図作成のお手伝いが出来るかもッ」
手を挙げて元気に提案です。驚きと呆れの混ざったなんとも言えない顔で見られてしまいました。
「ダメ?」
上目遣いに様子を伺ってると、頭をガシガシ掻き回されました。
「分かりました。コレの最適な場所も探りましょう」
ヴィクトルさまは、僕に甘いです。
僕はヴィクトルさまの服の端を掴み、片手に籠を下げて、ダンジョンに入っていきました。
作成途中の地図に足らない部分を書き足しながら進みます。未記入な場所を通って行くので、出会うモンスターは未知です。それも書き込みます。
手を繋いでくれたりして進みます。これってダンジョンデートですね。危険だと分かってても彼と一緒では、危機感が薄れてました。
ヴィクトルさまは、サクサクと僕を守りながら進んで行きます。その背中を頼もしく見ていると、スライムがいるエリアに出たようです。
籠の中もモソモソ動いてる気配が伝わって来ました。ここが良さそうですね。あとは、快適な巣ですね…。
「ヴィクトルさま、この辺が良さそう」
キョロキョロと辺りをサーチして探ります。
いい感じの亀裂がありましたッ。
「あそこがいいかも…ッ」
ふらふらっとそっちに足が向いて、首根っこを思いっきり引っ張られました。
「エミルッ」
キツイ響き。
「ごめんないッ!」
ここはダンジョンでした!
ため息が後ろでします。またやってしまいました。僕は反省はしても行動に変化は出ないようです。困りました。
「どこですか?」
「あそこッ」
元気に指差しです。ヴィクトルさまが周りの安全を確認して近くまで誘導してくれました。
籠から玉を出して、ポンポン放り込みます。
ここに来るまでに、多少乱暴に扱っても大丈夫なのは検証済みです。
スライムくん、ごめんね。えーと、色々実験しちゃった。えへへ…
小さいのは、籠を逆さにしてポンと投げ入れます。
パンパンと手を叩いてひと仕事終えた気分。
「終わりました」
笑顔で振り返ります。
おいでと身体を開いてる彼がいます。迷う事なく飛び込みます。
しっかり抱きしめてくれて、クリクリと撫でてくれます。嬉しくってほっぺたを彼の頬にくっつけてました。自然と唇が合わさって、次第に舌が絡むキスに発展してました。
ここがダンジョンだという事も忘れて口付けを交わしてました。感謝のキスがいつの間にか夢中で彼の舌を追ってました。
鼻から抜ける甘えるような音と唇の合間から漏れる水音がダンジョンの通路に密やかに響きます。もっとと唾液を啜りながら舌を絡めたところで、チュパッと唇が離れてしまいました。
「行きましょうか」
静かな彼の言葉を遠くに聞いて、名残惜しそうに濡れた彼の唇を見つめてしまってました。
コツンと額が合わさりました。
「煽らないで下さい」
切なげな彼の言葉に、ぽやっとした気分が霧散します。恥ずかしくなって、下を見てしまいます。モジモジです。
「この奥ってどうなってるんですか?」
奥の通路を指さします。サーチは更に奥をなんとなく探ってました。えっちな気分になってるのを誤魔化すように話題をチェンジです。お仕事~。
「サーチすれば分かるのでは?」
笑いを含んだ言葉が返ってきます。イジワルされそうです。
慌てて、真面目にサーチしてみますが、やはりはっきり分かりません。
「なんだか靄ってて、はっきりしないんです」
二人で通路の奥を見つめてました。
「この階層のボスですかね。記録して帰りましょう。隊に任せた方がいいです。エミルを危険に晒せません」
ヴィクトルさまの横顔が一瞬ウキウキするような表情を見せましたが、いつものキリッとした顔でこちらを見ました。
僕は足手纏いですね。力が発揮できないのは不本意でしょう。当たり前です。目的は達成できたので帰るのがベストです。
「帰りましょうッ」
きゅっと抱きつきました。
僕たちのお家に!
で! イチャイチャするのです!
何故か周りで潜んでるスライムたちがザワっと動く気配がします。
スライムって空気中の感情とか色々と漂う匂いとかで何かを読み取って交信するとかなんとか、研究がぼちぼち進んでるようです。よく知らんけど。
スライムなんてポピュラーなモンスターなのに、あまり研究されてないんですよね~。
のちに、あのダンジョンで、妙に撫で回してくる不埒なスライムが出ると噂が流れて来ましたが、聞かなかった事にしました。
================
頑張ったエミルでした。
スライムは元々えっちだっだのかな~( ̄▽ ̄;)
次は、ヴィクトル視点のお話を少し。
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