【完結】ハロウィンでの出会いに乾杯

アキノナツ

文字の大きさ
19 / 21

【その後】好きってナニ? [2]

しおりを挟む

お待たせしました(>人<;)

===========


呟くように言ったオレを見つめてる彼は、目を合わせたまま、空になった缶ビールをローテーブルに置いた。
コツンと軽い音が響く。

テレビの音だけが部屋に響いていた。

沈黙が続く。

なんだか落ち着かなくなる。

「もう1本呑む?」

こんな言葉、ここにいた間、一度も言った事ないのに。沈黙が耐えれない。声は上擦り、掠れていた。

「俺って、やっぱ餌か。餌結構。上等な餌だろ?」
真面目な表情で言ってくる。

「うん。最高だよ。今までで一番かも知れない」

目を見たまま喋るのが辛くなってきた。
きゅっと抱きついた。
首に回す腕をぎゅっと締めた。
肩や背の筋肉を掌で感じる。
肩口に埋めた顔があげれない。

涙が溢れて来た。

言葉が出て来ない。
この男よりも長く生きて来たというのに、オレは何をしてきたのだろう。
自由気ままに生きて来て、ちょっとした失敗でこの島国に流れ着いて、死にそうになりながらも、狩りに必死だった。
懸命に生きて来て、淫魔と出会い、縄張り争いのようなものに巻き込まれ、身体のサイズを小さくして、なんとかせいにしがみついてきた日々。

振り返ってもこの国に来てからというもの碌な事はなかった。なかなかに大変な日々であった。

風前の灯だった…。

この男に出会えて、救えれ、余裕も出てきて…こんなにも同じ人間と言葉を交わし触れ合った事など今まで生きて来て、数えるほどで、こんな気持ちになった事はなかった。
こういった身体の関係になったのは初めてだ。
未経験の肉欲に溺れてるのか?

この関係だって、この男以外とするかと思えば悪寒が走る。要はこの男ならしてもいいと思える行為なのだ。
多分この男を見送る事があったら、それ以降こういう事はする事もない気がする。

この男だけ・・がオレを自由にしていい…。していい…と思うんだ。

オナホ扱いされても、どんな事されても、お前ならいいんだ。お前だけなんだ…。

涙で言葉は音にならない。
頭の中で溢れて渦巻く。

抱きしめてれていた。
男の膝の上に乗せられて、オレを力一杯抱きしめてくれてる。

そして、泣いていた。
この男が泣くんだ…。
自分の事を棚上げで、ぼんやり思った。

コイツの笑顔しか知らない。
自信ありげな尊大な男が、泣くんだ。

オレより俺様の男がか…。
滑稽だな。

「お前は、オレと共に夜に生きる気はあるか?」

涙も引っ込み、抱き合う温もりに全てを預け揺蕩う。揺蕩いながら、ポツリと言葉を紡いだ。

しばらく後に首が振られた。
ああ、お前はオレの花嫁ではないのか…。

「俺は、この仕事に誇りを持ってる。この仕事を失ってまでお前の餌にだけのは、成れない。お前が好きなのは変わりないんだ。俺の矜持の問題だ…」

『仕事』と『餌』としてオレだけのモノになるかのどちらかの選択は出来ないという事か…。

コイツ、種族なんて関係ないって言ってた…。

ーーーーそうか。

唐突に胸の辺りのつっかえが取れて、ふわっと温かいものが湧いてきた。

制服姿で立っていた男を思い出す。
何故、あの時接吻がしたくなったのか。
腑に落ちた。

この男の仕事がこの男そのものなんだ。
これ込みの人間なのか。それ込みでオレはこの男を好きになってる。

オレは、オレをこの男に渡したい。
オレが、この男と共に居たいんだ…。

「オレを、もらって、くれ…」

声を押し殺して静かに泣いていた男が、グズと鼻を鳴らして、息を殺して、泣き止もうとしてる。

じっと待った。

そう言えば、国際結婚がどうのこうのと言ってたな…。
男の言葉を待っていたのだが、ぼんやりと声に出していた。

「国際結婚って言ってたな…」

言った事に気づいていなかったから、次の言葉に驚いた。

「結婚いいな…。人間の契約をしないか? お前の方の契約は先延ばしでいいか?」

涙に濡れた顔が笑っていた。
肩口から引き剥がされて、男の膝に跨ったままの格好で見詰め合っていた。

ああ、えらく情けない顔になってるのに、オレはこの顔の状態などどうでも良かった。この男から目が離せない。

『付き合ってあげなよ』淫魔の言葉が蘇る。

付き合わさせてくれ。

「お前がやり切ったと思った時、オレのものになればいい」
湧き上がる想いを素直に言えなかった。
お前のものにしてくれと言えなかったが、精一杯の言葉だった。
オレの矜持か…。

「ありがとう」
男が笑顔で礼を言ってきた。

「……。どういたしまして」
どうにか返す。
言葉のチョイスは間違ってないだろうか…。
笑顔を作ってるつもりだが、頬が引き攣ってる気もする。

というのも、全身燃えるように熱い。
彼の方に置かれた自分の手が見えてるんだが、真っ赤になってる。
全身真っ赤かも。
な、なんで…???

そして、この湧き上がる芳醇なワインのようなうっとりするものはなんだ?

「あ、あの、これは、なんだ?」

相談に乗ると言ったのだ。最後までつき合って貰いたい。

「これ?」

「こう、ココがふわふわしてて、全身でお前に抱きつきたいというか……嬉しい」

胸に手を当てて訴える。
苦しいような弾むような、なんだか分からないものがココに渦巻いてて…。

よく分からない『嬉しい』が飛び跳ねてる。

「吸血鬼くん、それが『好き』というモノですよ」

静かに告げられた。

「好き? 好き…す、き…。そうか。好きなのか」
至福…そうだ、これは至福というヤツではないだろうか。

「オレはお前が好きだ。オレは、お前の、花嫁になろう…してくれ。この至福を分かち合いたい…」

『花嫁を手に入れた時至福を味わえる』

そうか。これがその時なのだな。

「ああ、俺と共に…」

唇が触れ合った。
互いを受け取り受け止める。



==============

ウサギの回も意味があったんです( ̄▽ ̄;)

二人ガッチリです。
自分、どっぷりのこの感じ好きみたいですw
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...