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明るみ
しおりを挟むアリシアはジェイデンに邸宅を案内され、侍女をつけてもらいまずは浴室へと向かった。
侍女はマリアという名で、着ていたフードを預かると声をかけられたが、アリシアは頑として断った。
浴室も貴族ならば通常世話をする者がいるのだが、それらもすべて断った。
ようやく一人になれた浴室で汚れた服を黙々と脱いだ。扉を開けて中に入ると、王族が浸かるような広い浴槽が広がっていた。
(すごい……! 浴槽までまるで違う……)
ひとまず体の汚れを落とし、良く洗ってから湯槽へ浸かる。凍えた体が生き返るように温かい。湯に浸かり自分の体を見た。
全身に暴行された痣が点々とできている。新しいもの、消えかけているもの。赤黒いものや青黒くなってしまっているもの。
体裁が悪いからとジムは首から上に危害を加えることは少なかった。見えない部分を狙いアリシアに暴力を振るっていた。
今回頬を叩いたのも、離縁するとわかっていたからなのだろう。
もう気を回さなくて良くなかったからか、最後の平手打ちは痛かった。
夫のジムは泣きもしないと言っていたが、アリシアも初めの頃は泣いていた。
ただ人前で見せず、部屋にこもり人知れず涙を流していた。
もっと夫の前で泣いていたら、少しは同情されただろうかと、そんな疑問が頭をよぎる。
だが、今さら答えなどわかりはしない。おそらく、どうやっても結果は変わらなかったのだろう。
お湯に映る自分の顔があまりにひどくて、思わず目を逸らした。
肩までの長さしかない薄桃色の髪、これも腰まであったものをある日怒ったジムに切られてしまった。
原因も覚えていないほど些細なことだったと思う。
そして悲壮感に満ちている灰色の瞳。これも薄汚れた色だと、散々ジムに馬鹿にされた。
アリシアも貴族の子女としてそれなりに容姿に気を使ってきたが、流石に長い間ここまで罵られていては、女としての自信など欠片も残らなかった。
しかし、そんなことなどもう関係ない。
自分がどうであろうと、生涯を神に捧げる身だ。醜かろうが汚かろうが、神は差別することはない。
信仰に厚いわけでもなかったが、そう思うことがアリシアの救いになっていた。
体も十分温まり、湯槽から上がった。
浴室を出てて体を拭こうとしたアリシアに、いつの間にか入ってきた侍女のマリアが、タオルを手に待ち構えてた。
「せめて、お着替えだけでも――ッ! その頬はどうされたのですか!?」
アリシアの顔を見たマリアが心配そうに声を荒らげた。見られた衝撃にギクリと体が震えた。
「そのお身体も……!」
立ち竦んでいたアリシアに近づき、タオルで体を覆ってくれたが、気まずさと動揺を隠せなかった。
「……少し、ぶつけただけなので。すぐに、治ります」
俯いてぎこちなく話したが、その言葉を言うことが精一杯だった。
「お着替えが済みましたらすぐにお医者様をお呼びいたします!」
「大丈夫です。お気遣いなく……」
「お嬢様、その傷は放っといてはいけません。ぜひ、治療を受けてくださいませ。あと、そちらの頬の腫れはすぐに冷やさななければ……!」
話しながら有能な侍女はアリシアの身体を優しく拭き、痛々しそうにアリシアを見ていた。
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