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見た目は自分でも悪くないと思っていたし、酒にも弱くないし、飲むのも普通に好きだ。もちろん女が嫌いなわけない。
だからホストは天職かもしれないなどと秀真は思っていたが、いざアルバイトとしてホストをやってみると思っていたより大変だった。規則が案外多いし厳しい。それに仕事も酒を飲んで女と楽しく話していたらいいだけではなかった。まず掃除などの開店準備がある。多分普通の飲食店よりも掃除は入念ではないだろうか。そしてミーティングもしっかり行われる。いざ開店すると指名があればそこへつくし、なくてもヘルプで入ることもある。酒を作る時も細かいルールがあったりする。今時でも煙草を吸う人は案外多いので、絶えず気にしてさっとライターで火をつけたり灰皿の取り換えをスムーズに行ったりもする。気にしなければならないことは多いが、その間も会話などで客を楽しませなければならない。ようやく閉店してもまた掃除やミーティングが待っている。それ以外でも同伴やアフターがあったりもするし、ちょくちょくSNSなどで恋人のようにやり取り行ったりもする。
そうしてがんばっても固定客や指名客に恵まれない日もある。運が悪いと売掛金を作る客もいたりするようだ。売掛金というのは客が店にツケすることだが、たまにそのツケを払わない客がいたりするらしい。そうするとその客を担当しているホストが支払わねばならない。
アルバイトなので日給プラス歩合と、一応安定した収入はあるものの、その代わり売り上げからのバックはだいたい20パーセントくらいと、レギュラーホストの半分くらいではないだろうか。
それでもやはり普通のアルバイトよりは収入がいいため、秀真は二年生の頃から続けていた。おかげで奨学金もどうにかなりそうだ。
ただ、それなりに客がついているなとは自分でも思っているが、アルバイトだし上位に入るほどでもない。ほどほどと言うのだろうか。
「昴ー、チューしない?」
「うん。どこにしよっか」
「えーどこって何かエッチ。とりあえず口がいいな」
「いいよ」
笑みを向けると、秀真は隣に座っている女性客を抱き寄せ、ちゅっと軽く唇へキスした。卓チューくらいは別に珍しくないし、秀真も気軽にする。アフターでホテルにつき合うこともたまにだが、ある。そういった客は皆、思い返しても明るいタイプが多いし気さくな感じだった気がする。それに少しでも重そうなタイプは初めから秀真の客にならないような気もする。もちろん分け隔てなく接客するが、向こうがきっと秀真みたいなタイプが好みでない気がするというのだろうか。
……やっぱストーカーされるような心当たり、ねーんだけどな。
仕事を終え、先輩たちと深夜もやっている焼肉店へ立ち寄ってから帰宅すると、いつものように無意識にポストを開けようとしてから悠人の言葉を思い出した。意識してロックがかかっていることを確認し、ダイヤルを回す。中を取り出すとチラシしか入っていなかった。
「そいや最近電気とか水道とかの通知見てないような……」
思わずぼそりと呟いた後に、だがそれも気のせいかもしれないと少し頭を傾げながらポストを閉めた。自分の家の玄関までくると、今時玄関ドアがノブなのも珍しいよなと思いながら、とりあえず鍵を使わずノブを回し、ちゃんと鍵がかかっていることを確認した。
「気ぃつけろっつったって、やっぱ何をどう気ぃつけんだよ」
店で散々飲んだ後、先輩たちと焼肉を食べながらまたビールを飲んだおかげであまり頭が働かない。多分焼肉臭いだろうがシャワーは後回しにしてとりあえず先に寝ようと、敷きっぱなしの布団に秀真は倒れ込んだ。
翌日もアルバイトはあったが、アフターもないし今日は早めに帰ろうと、秀真は掃除が終わりミーティングも済むと珍しくそのまま自宅へ向かった。帰りにコンビニエンスストアへ寄ろうかと思ったが、確かいい加減食べないと腐ってしまうパンがあったのを思い出す。数日前に酔っぱらいながら買い物した時、別に好きでもないのに買ったいくつかの甘い菓子パンだ。食べる気になれずそのまま放置していたが、やはり腐らせてしまうのは気が引ける。
ここのところ帰りは大抵朝方だったため、二時過ぎに帰るのは久しぶりだ。いつもは即寝ているが、今日は寝る前に久しぶりにDVDでも見るかと思いながら玄関の鍵を回し、ドアを開けようとしたら鍵がかかっていた。
あれ? 俺、今鍵回さなかったっけ? 思い違いか?
怪訝に思いつつも、再度鍵を回した。今度は開く。やはり勘違いだったのだろうが、本当に最近変というか、気のせいなのかと頭を傾げるようなことが多いなと思いながら、秀真は中へ入った。そして違和感に気づく。その違和感はすぐにわかった。部屋の電気がついている。
……俺、消し忘れた? いやそんなわけねーだろ、ここ出る時まだ明るかったのに電気なんてつけてねーよ。
顔を険しくしながら急いで靴を脱ぐと、部屋へ上がった。そして数日前にネットで買った、今日見ようと思っていたDVDを手にしながら頭を傾げている知らない男を見つけた。
「お、おま、お前誰だよっ?」
このご時世だ。どんな変質者がいるかわからない。心臓の鼓動がめちゃくちゃ速くなるのを感じながら、秀真は何とか男を睨んだ。その後、声かけるまえに通報すればよかったと気づく。
「……あ」
男は秀真が入ってきていることも気づいていなかったのか、秀真を見てくるとポカンとした顔してきた。どこかで見たことがあるかもしれないが、思い出せない。今からでも遅くないから通報しようかと携帯電話に手をやろうとしたら「あんたの好みに一貫性はないのか」とわけわからないことを落ち着いた声で聞かれた。
だからホストは天職かもしれないなどと秀真は思っていたが、いざアルバイトとしてホストをやってみると思っていたより大変だった。規則が案外多いし厳しい。それに仕事も酒を飲んで女と楽しく話していたらいいだけではなかった。まず掃除などの開店準備がある。多分普通の飲食店よりも掃除は入念ではないだろうか。そしてミーティングもしっかり行われる。いざ開店すると指名があればそこへつくし、なくてもヘルプで入ることもある。酒を作る時も細かいルールがあったりする。今時でも煙草を吸う人は案外多いので、絶えず気にしてさっとライターで火をつけたり灰皿の取り換えをスムーズに行ったりもする。気にしなければならないことは多いが、その間も会話などで客を楽しませなければならない。ようやく閉店してもまた掃除やミーティングが待っている。それ以外でも同伴やアフターがあったりもするし、ちょくちょくSNSなどで恋人のようにやり取り行ったりもする。
そうしてがんばっても固定客や指名客に恵まれない日もある。運が悪いと売掛金を作る客もいたりするようだ。売掛金というのは客が店にツケすることだが、たまにそのツケを払わない客がいたりするらしい。そうするとその客を担当しているホストが支払わねばならない。
アルバイトなので日給プラス歩合と、一応安定した収入はあるものの、その代わり売り上げからのバックはだいたい20パーセントくらいと、レギュラーホストの半分くらいではないだろうか。
それでもやはり普通のアルバイトよりは収入がいいため、秀真は二年生の頃から続けていた。おかげで奨学金もどうにかなりそうだ。
ただ、それなりに客がついているなとは自分でも思っているが、アルバイトだし上位に入るほどでもない。ほどほどと言うのだろうか。
「昴ー、チューしない?」
「うん。どこにしよっか」
「えーどこって何かエッチ。とりあえず口がいいな」
「いいよ」
笑みを向けると、秀真は隣に座っている女性客を抱き寄せ、ちゅっと軽く唇へキスした。卓チューくらいは別に珍しくないし、秀真も気軽にする。アフターでホテルにつき合うこともたまにだが、ある。そういった客は皆、思い返しても明るいタイプが多いし気さくな感じだった気がする。それに少しでも重そうなタイプは初めから秀真の客にならないような気もする。もちろん分け隔てなく接客するが、向こうがきっと秀真みたいなタイプが好みでない気がするというのだろうか。
……やっぱストーカーされるような心当たり、ねーんだけどな。
仕事を終え、先輩たちと深夜もやっている焼肉店へ立ち寄ってから帰宅すると、いつものように無意識にポストを開けようとしてから悠人の言葉を思い出した。意識してロックがかかっていることを確認し、ダイヤルを回す。中を取り出すとチラシしか入っていなかった。
「そいや最近電気とか水道とかの通知見てないような……」
思わずぼそりと呟いた後に、だがそれも気のせいかもしれないと少し頭を傾げながらポストを閉めた。自分の家の玄関までくると、今時玄関ドアがノブなのも珍しいよなと思いながら、とりあえず鍵を使わずノブを回し、ちゃんと鍵がかかっていることを確認した。
「気ぃつけろっつったって、やっぱ何をどう気ぃつけんだよ」
店で散々飲んだ後、先輩たちと焼肉を食べながらまたビールを飲んだおかげであまり頭が働かない。多分焼肉臭いだろうがシャワーは後回しにしてとりあえず先に寝ようと、敷きっぱなしの布団に秀真は倒れ込んだ。
翌日もアルバイトはあったが、アフターもないし今日は早めに帰ろうと、秀真は掃除が終わりミーティングも済むと珍しくそのまま自宅へ向かった。帰りにコンビニエンスストアへ寄ろうかと思ったが、確かいい加減食べないと腐ってしまうパンがあったのを思い出す。数日前に酔っぱらいながら買い物した時、別に好きでもないのに買ったいくつかの甘い菓子パンだ。食べる気になれずそのまま放置していたが、やはり腐らせてしまうのは気が引ける。
ここのところ帰りは大抵朝方だったため、二時過ぎに帰るのは久しぶりだ。いつもは即寝ているが、今日は寝る前に久しぶりにDVDでも見るかと思いながら玄関の鍵を回し、ドアを開けようとしたら鍵がかかっていた。
あれ? 俺、今鍵回さなかったっけ? 思い違いか?
怪訝に思いつつも、再度鍵を回した。今度は開く。やはり勘違いだったのだろうが、本当に最近変というか、気のせいなのかと頭を傾げるようなことが多いなと思いながら、秀真は中へ入った。そして違和感に気づく。その違和感はすぐにわかった。部屋の電気がついている。
……俺、消し忘れた? いやそんなわけねーだろ、ここ出る時まだ明るかったのに電気なんてつけてねーよ。
顔を険しくしながら急いで靴を脱ぐと、部屋へ上がった。そして数日前にネットで買った、今日見ようと思っていたDVDを手にしながら頭を傾げている知らない男を見つけた。
「お、おま、お前誰だよっ?」
このご時世だ。どんな変質者がいるかわからない。心臓の鼓動がめちゃくちゃ速くなるのを感じながら、秀真は何とか男を睨んだ。その後、声かけるまえに通報すればよかったと気づく。
「……あ」
男は秀真が入ってきていることも気づいていなかったのか、秀真を見てくるとポカンとした顔してきた。どこかで見たことがあるかもしれないが、思い出せない。今からでも遅くないから通報しようかと携帯電話に手をやろうとしたら「あんたの好みに一貫性はないのか」とわけわからないことを落ち着いた声で聞かれた。
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