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昌氏の部屋も意外なことに大聖の部屋と大して変わらなかった。予想するにも知識がないため限界があるが、もっとお洒落な雰囲気にしているかと大聖は何となく思っていた。
以前本屋で雑誌をパラパラめくっていた時、団地やアパートの古い部屋をお洒落に改造する特集的な記事があり、これは自分にも参考になるだろうかと読んでみたことがある。だがそもそもお洒落に変えるための雑貨が何もない上、どこで仕入れればいいかもわからない。あと雑貨を例え手にしても圧倒的になさそうなセンスという壁が立ちふさがり、結局右往左往するだけになりそうだと諦めるしかなかった。しかし昌氏はそういったインテリアにさらりとしそうな印象ある。
「どうかした?」
「俺の部屋とあまり変わらないんだなって」
「そりゃ、同じ間取りだろうしね」
「じゃなくて、柄本さんならもっとお洒落な感じにしてそうだから。畳のままでもお洒落なソファー使ったりとか、何かこう、俺のセンスだと言葉にすることすら難しいけど」
「はは。マンションのほうもあまり飾り立ててないかもだなあ。ああもちろんマンションは内装自体がこことは違うけども。ここはたまにしか来ないし、こういう感じが落ち着くよ」
昌氏は静かに笑いながら「どうぞ」とコーヒーカップを差し出してくる。コーヒーメーカーからずっといい匂いしていたので大聖は少しそわそわしていたのだが、受け取ったコーヒーカップがシンプルながらに高級そうで思わず正座する。
「どうしたの、今度は」
「いえ、あー、カップを落としたりしないように?」
「気楽で大丈夫だよ」
ニコニコ言われたが、そういうわけにはいかないと正座のままコーヒーを飲んだ。匂いだけでなく味もとても美味しかった。豆がやはりいいのか、コーヒーメーカーがいいのか、その両方か。
コーヒーを飲みながらふと気づいたのだが、大聖の部屋と変わらない昌氏の部屋は、改めて見るとむしろ大聖よりもあまり物がないように思えた。おまけに髪の毛一本すら落ちていないのではと思うほど、とても綺麗に片付いている。秀真の汚い部屋との対比に思わず少し笑ってしまった。
「何か面白いものでもあった?」
「そうじゃなくて、思い出し笑いというか。柄本さんって綺麗好きなんだね」
「そうかな」
「うん。ゴミ一つでも許さないって感じ」
「……そう? 僕、神経質そうなのかな」
少し低い声で言われ、何となくそう思われたくないのだろうかなどと大聖はふと思った。
「あ、そういう意味じゃなかったよ。ただ部屋がすごく綺麗だなって思ったから」
「ああ、悪い風に聞こえたならごめんね。どんな風に君から見えてるのかなって思っただけだよ。綺麗、ありがとう」
ごめんね、と昌氏は大聖に近づいてふわりと抱きついてきた。すぐ離れたが、何だかいい匂いが大聖の鼻に残る。神経質どころか、スキンシップを気軽に取る人なのだろう。大聖は「ううん」と昌氏に笑いかけた。
その後コーヒーを飲みながら、大聖の専攻している学科の話したりした。IT系の仕事をしている昌氏と関係ない内容だというのに昌氏は結構知っていて、改めて頭のいい人なのだろうなと思われる。これが秀真だったらまず勉強の話にもならなさそうだ。同じ大学の学生であること自体、大聖にとって未だに少々疑問だったりする。
「柄本さん、コーヒーごちそうさま」
「うん。またいつでもおいで」
玄関で見送ってくる昌氏が静かに笑みを浮かべながら言ってくる。
「いつでも、は嬉しいけど、柄本さんいつもいるわけじゃないだろ」
「そうだけどね。でもしばらくはこっちにわりといることになるかもだから」
「そうなの? 職場が近いからとかそういう?」
「まあ、ね。ちょっとした都合でこっちからのが便利になったんだ。留守のこともそりゃあるけど、気兼ねなく来て」
「うん、わかった。ありがとう柄本さん」
「じゃあね」
美味しいコーヒーを飲んで勉強のことなどを話したおかげか、気も紛れたようだ。自分の部屋へ戻ろうとして、大聖はその前にと角部屋へ向かった。インターホンを押してみるが反応はない。念のため鍵を開けて中を覗いてみたがやはり留守のようだ。
「もうホストの仕事に出かけたっぽいな」
なら仕方ない、とようやく自分の部屋へ戻った。
今後は息子を持つ母親のような気持ちではなく、恋人に対して接するような気持ちに切り替えないとなと、残っていた洗い物をしながら思う。ただ、今まで誰かとつき合ってきた経験がないため、どうすればいいのかよくわからない。
「明日、神保に相談してみるかな」
つき合っている彼女がいる修なら、何か有益なことを教えてもらえるかもしれない。恋人がいる場合に普段どう過ごせばいいかすら、今の大聖には謎だった。いつもと変わらず大学へ行ってアルバイトして、空いている時間に勉強したり家事をしたり自分の時間を過ごしたり友人と遊んだりという流れだと、恋人との時間をどう組み込めばいいかすらわからない。友人を恋人に置き換えたらいいのかなとも思ったが、そうなると友人とつき合う時間がなくなってしまう。かといって勉学やアルバイトを疎かにするのもどうかと思う。なら家の事の時間や自分の時間を使えばいいのかなとも思ったが、いまいち配分をどうすればいいのかピンとこない。かといって今まで通りだと何も変わらない気がする。恋人としてそれはどうなのか。
以前本屋で雑誌をパラパラめくっていた時、団地やアパートの古い部屋をお洒落に改造する特集的な記事があり、これは自分にも参考になるだろうかと読んでみたことがある。だがそもそもお洒落に変えるための雑貨が何もない上、どこで仕入れればいいかもわからない。あと雑貨を例え手にしても圧倒的になさそうなセンスという壁が立ちふさがり、結局右往左往するだけになりそうだと諦めるしかなかった。しかし昌氏はそういったインテリアにさらりとしそうな印象ある。
「どうかした?」
「俺の部屋とあまり変わらないんだなって」
「そりゃ、同じ間取りだろうしね」
「じゃなくて、柄本さんならもっとお洒落な感じにしてそうだから。畳のままでもお洒落なソファー使ったりとか、何かこう、俺のセンスだと言葉にすることすら難しいけど」
「はは。マンションのほうもあまり飾り立ててないかもだなあ。ああもちろんマンションは内装自体がこことは違うけども。ここはたまにしか来ないし、こういう感じが落ち着くよ」
昌氏は静かに笑いながら「どうぞ」とコーヒーカップを差し出してくる。コーヒーメーカーからずっといい匂いしていたので大聖は少しそわそわしていたのだが、受け取ったコーヒーカップがシンプルながらに高級そうで思わず正座する。
「どうしたの、今度は」
「いえ、あー、カップを落としたりしないように?」
「気楽で大丈夫だよ」
ニコニコ言われたが、そういうわけにはいかないと正座のままコーヒーを飲んだ。匂いだけでなく味もとても美味しかった。豆がやはりいいのか、コーヒーメーカーがいいのか、その両方か。
コーヒーを飲みながらふと気づいたのだが、大聖の部屋と変わらない昌氏の部屋は、改めて見るとむしろ大聖よりもあまり物がないように思えた。おまけに髪の毛一本すら落ちていないのではと思うほど、とても綺麗に片付いている。秀真の汚い部屋との対比に思わず少し笑ってしまった。
「何か面白いものでもあった?」
「そうじゃなくて、思い出し笑いというか。柄本さんって綺麗好きなんだね」
「そうかな」
「うん。ゴミ一つでも許さないって感じ」
「……そう? 僕、神経質そうなのかな」
少し低い声で言われ、何となくそう思われたくないのだろうかなどと大聖はふと思った。
「あ、そういう意味じゃなかったよ。ただ部屋がすごく綺麗だなって思ったから」
「ああ、悪い風に聞こえたならごめんね。どんな風に君から見えてるのかなって思っただけだよ。綺麗、ありがとう」
ごめんね、と昌氏は大聖に近づいてふわりと抱きついてきた。すぐ離れたが、何だかいい匂いが大聖の鼻に残る。神経質どころか、スキンシップを気軽に取る人なのだろう。大聖は「ううん」と昌氏に笑いかけた。
その後コーヒーを飲みながら、大聖の専攻している学科の話したりした。IT系の仕事をしている昌氏と関係ない内容だというのに昌氏は結構知っていて、改めて頭のいい人なのだろうなと思われる。これが秀真だったらまず勉強の話にもならなさそうだ。同じ大学の学生であること自体、大聖にとって未だに少々疑問だったりする。
「柄本さん、コーヒーごちそうさま」
「うん。またいつでもおいで」
玄関で見送ってくる昌氏が静かに笑みを浮かべながら言ってくる。
「いつでも、は嬉しいけど、柄本さんいつもいるわけじゃないだろ」
「そうだけどね。でもしばらくはこっちにわりといることになるかもだから」
「そうなの? 職場が近いからとかそういう?」
「まあ、ね。ちょっとした都合でこっちからのが便利になったんだ。留守のこともそりゃあるけど、気兼ねなく来て」
「うん、わかった。ありがとう柄本さん」
「じゃあね」
美味しいコーヒーを飲んで勉強のことなどを話したおかげか、気も紛れたようだ。自分の部屋へ戻ろうとして、大聖はその前にと角部屋へ向かった。インターホンを押してみるが反応はない。念のため鍵を開けて中を覗いてみたがやはり留守のようだ。
「もうホストの仕事に出かけたっぽいな」
なら仕方ない、とようやく自分の部屋へ戻った。
今後は息子を持つ母親のような気持ちではなく、恋人に対して接するような気持ちに切り替えないとなと、残っていた洗い物をしながら思う。ただ、今まで誰かとつき合ってきた経験がないため、どうすればいいのかよくわからない。
「明日、神保に相談してみるかな」
つき合っている彼女がいる修なら、何か有益なことを教えてもらえるかもしれない。恋人がいる場合に普段どう過ごせばいいかすら、今の大聖には謎だった。いつもと変わらず大学へ行ってアルバイトして、空いている時間に勉強したり家事をしたり自分の時間を過ごしたり友人と遊んだりという流れだと、恋人との時間をどう組み込めばいいかすらわからない。友人を恋人に置き換えたらいいのかなとも思ったが、そうなると友人とつき合う時間がなくなってしまう。かといって勉学やアルバイトを疎かにするのもどうかと思う。なら家の事の時間や自分の時間を使えばいいのかなとも思ったが、いまいち配分をどうすればいいのかピンとこない。かといって今まで通りだと何も変わらない気がする。恋人としてそれはどうなのか。
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