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「い、今まで通りでいいと思う、よ」
食堂でコーヒーを飲みながら、修は少し唖然としつつもそう言ってきた。
「そうなのか?」
「……うん。今までもその秀真さん? とは一緒に食事したり部屋で過ごしたりしてたんだろ?」
「うん」
「なら、そういうのでいいんじゃないかな。で、休日とかに出かけたりして」
「なるほど」
これはメモをしておいたほうがいいかもしれない、と手帳に今の内容を書いていると「あの、さ」と修が何となく遠慮がちに呼びかけてきた。
「何?」
「その、高津ってえっと、ゲイ、だったのか?」
「え?」
思いもよらないことを聞かれ、大聖は思わずぽかんと修を見た。
「あれ? ち、違うの? でも秀真さんって男、なんだよな?」
「ああ、そういえばそうだな」
「? もしかして秀真さんって男の娘って言われるようなタイプとか?」
「男の子? まあ男だけど子どもって感じじゃないけど。そもそも俺らより年上だし」
「ああいや、その男の子じゃなくて、ムスメって書くほうの」
「むすめ? ごめん、ちょっと神保が何言ってるのか俺、よくわからないんだけど……」
戸惑いしかなくて困惑しながら修を見ると、なぜか修も困惑していた。コーヒーをまた一口飲んだ後、修は困惑したままの顔を大聖へ向けてくる。
「何ていうか、見た目女の子にしか見えないような男の子というか……」
「秀真が? 絶対ないな……確かにイケメンだけど俺……というか多分神保より背はあると思うし、どう見ても男にしか見えないな」
怪訝な顔しながら答えると、修もやはり怪訝な顔してくる。
「神保は何でそんなことを?」
「いや、俺がさっき、秀真さんって男なんだよなって聞いたらお前、そういえばそうだったなって言っただろ。だからてっきり一見女に見えるタイプの人なのかなって」
「ないな」
「ない、か。でも高津、ゲイじゃないんだろ? おまけにそういえばそうだった、とか言うから」
「なるほど。でも昔からドキドキしてしまうのは女に対してだったと思う。ありがたくおかずにさせてもらってたのもグラビアアイドルだったし。だからうん、ゲイじゃないと思う。それにそういえばそうだったっていうのは、普通にただそうだったなと思っただけだよ」
「普通に……、そうか、普通にか」
修が何とも言えないような顔している。少し首を傾げつつ、大聖は肯定した。
「ああ。ただまあ、その、成り行きで責任を取らなきゃいけないことになったから」
「成り行きで責任? って、どういう? 責任を取ってつき合うってこと?」
「俺としては責任取って将来結婚しようと思ってる。つき合うのはほら、さすがに今結婚しても無責任なだけだろ。だから──」
「一体何があったんだ……っ?」
今度は修が顔色を悪くしながら心配そうに聞いてきた。先ほどからの表情や言動がよくわからないが、それでもいい友人だと大聖は改めて思う。とはいえ秀真との出来事は秀真のプライバシーにも関わることだけに、いくらいい友人でも言うわけにはいかないだろう。
「それはプライバシーもあることだし言えないけど、でも心配してくれてありがとう、神保」
「大丈夫なのか?」
「もちろんだ。いや、まあ俺は今まで誰かとつき合ったことないから大丈夫ではないな。でも君がこうして相談に乗ってくれたから大丈夫だと思う」
「高津……ほんとに大丈夫か?」
「? ああ。また何か聞きたいことがあればこうして相談させてもらっていいだろうか」
「それはもちろん構わないよ! 何て言ったらいいかわからないけど、その、無理や無茶だけはするなよ」
「ああ、わかった。助かるよ」
修へ笑いかけると、大聖は自分が飲み忘れていたコーヒーに口をつけた。昌氏が淹れてくれたコーヒーと比べると風味が全然ない上、冷めている。とはいえこうやって気軽にコーヒーが飲める場があるのはありがたいと思っているので、感謝しつつ飲み干した。
「……ちなみに高津」
「何?」
「……同性婚は今の日本だとまだできないと思うぞ」
「ああ、それか。確か秀真も心配していたような……?」
「そうなのか? 本気なんだな……お互い」
「ああ、もちろん。確かに同性婚は今のところまだ難しいだろうけど、いざとなったら養子縁組があるし、地域によればパートナーシップ制度もある。それに何年か後にはできるようになっているかもだし」
「……本気なんだな」
「? ああ」
「わかった。高津、俺はお前を応援するからな」
「ありがとう、神保」
妙に深刻な顔をしている修をまた少々怪訝に思いつつ、やはりいい友人だなと大聖はしみじみ思った。
「ただ高津、その、嫌な気持ちにならなければいいと思いつつ言うんだけど、あまり他では言ってまわらないほうがいいと思うよ」
「何を?」
「その、同性婚のこととか?」
「なぜ?」
「そうだな、都会が開放的って言ってもやっぱり一般的じゃないと思われがちだからかな」
「……なるほど。確かに多くはないもんな。俺も普段なら男相手にそういう対象としては見ることができなさそうだし。とはいえ少数だとしても非常識なことではないし、まあ言って回る気は元々ないけど特に隠す気もないよ」
「男前だな、高津は」
優しげに笑うと、修が大聖の肩に腕を回してきた。
「男前というか、イケメンなのは神保だと思うよ」
「はは。ありがとう」
食堂でコーヒーを飲みながら、修は少し唖然としつつもそう言ってきた。
「そうなのか?」
「……うん。今までもその秀真さん? とは一緒に食事したり部屋で過ごしたりしてたんだろ?」
「うん」
「なら、そういうのでいいんじゃないかな。で、休日とかに出かけたりして」
「なるほど」
これはメモをしておいたほうがいいかもしれない、と手帳に今の内容を書いていると「あの、さ」と修が何となく遠慮がちに呼びかけてきた。
「何?」
「その、高津ってえっと、ゲイ、だったのか?」
「え?」
思いもよらないことを聞かれ、大聖は思わずぽかんと修を見た。
「あれ? ち、違うの? でも秀真さんって男、なんだよな?」
「ああ、そういえばそうだな」
「? もしかして秀真さんって男の娘って言われるようなタイプとか?」
「男の子? まあ男だけど子どもって感じじゃないけど。そもそも俺らより年上だし」
「ああいや、その男の子じゃなくて、ムスメって書くほうの」
「むすめ? ごめん、ちょっと神保が何言ってるのか俺、よくわからないんだけど……」
戸惑いしかなくて困惑しながら修を見ると、なぜか修も困惑していた。コーヒーをまた一口飲んだ後、修は困惑したままの顔を大聖へ向けてくる。
「何ていうか、見た目女の子にしか見えないような男の子というか……」
「秀真が? 絶対ないな……確かにイケメンだけど俺……というか多分神保より背はあると思うし、どう見ても男にしか見えないな」
怪訝な顔しながら答えると、修もやはり怪訝な顔してくる。
「神保は何でそんなことを?」
「いや、俺がさっき、秀真さんって男なんだよなって聞いたらお前、そういえばそうだったなって言っただろ。だからてっきり一見女に見えるタイプの人なのかなって」
「ないな」
「ない、か。でも高津、ゲイじゃないんだろ? おまけにそういえばそうだった、とか言うから」
「なるほど。でも昔からドキドキしてしまうのは女に対してだったと思う。ありがたくおかずにさせてもらってたのもグラビアアイドルだったし。だからうん、ゲイじゃないと思う。それにそういえばそうだったっていうのは、普通にただそうだったなと思っただけだよ」
「普通に……、そうか、普通にか」
修が何とも言えないような顔している。少し首を傾げつつ、大聖は肯定した。
「ああ。ただまあ、その、成り行きで責任を取らなきゃいけないことになったから」
「成り行きで責任? って、どういう? 責任を取ってつき合うってこと?」
「俺としては責任取って将来結婚しようと思ってる。つき合うのはほら、さすがに今結婚しても無責任なだけだろ。だから──」
「一体何があったんだ……っ?」
今度は修が顔色を悪くしながら心配そうに聞いてきた。先ほどからの表情や言動がよくわからないが、それでもいい友人だと大聖は改めて思う。とはいえ秀真との出来事は秀真のプライバシーにも関わることだけに、いくらいい友人でも言うわけにはいかないだろう。
「それはプライバシーもあることだし言えないけど、でも心配してくれてありがとう、神保」
「大丈夫なのか?」
「もちろんだ。いや、まあ俺は今まで誰かとつき合ったことないから大丈夫ではないな。でも君がこうして相談に乗ってくれたから大丈夫だと思う」
「高津……ほんとに大丈夫か?」
「? ああ。また何か聞きたいことがあればこうして相談させてもらっていいだろうか」
「それはもちろん構わないよ! 何て言ったらいいかわからないけど、その、無理や無茶だけはするなよ」
「ああ、わかった。助かるよ」
修へ笑いかけると、大聖は自分が飲み忘れていたコーヒーに口をつけた。昌氏が淹れてくれたコーヒーと比べると風味が全然ない上、冷めている。とはいえこうやって気軽にコーヒーが飲める場があるのはありがたいと思っているので、感謝しつつ飲み干した。
「……ちなみに高津」
「何?」
「……同性婚は今の日本だとまだできないと思うぞ」
「ああ、それか。確か秀真も心配していたような……?」
「そうなのか? 本気なんだな……お互い」
「ああ、もちろん。確かに同性婚は今のところまだ難しいだろうけど、いざとなったら養子縁組があるし、地域によればパートナーシップ制度もある。それに何年か後にはできるようになっているかもだし」
「……本気なんだな」
「? ああ」
「わかった。高津、俺はお前を応援するからな」
「ありがとう、神保」
妙に深刻な顔をしている修をまた少々怪訝に思いつつ、やはりいい友人だなと大聖はしみじみ思った。
「ただ高津、その、嫌な気持ちにならなければいいと思いつつ言うんだけど、あまり他では言ってまわらないほうがいいと思うよ」
「何を?」
「その、同性婚のこととか?」
「なぜ?」
「そうだな、都会が開放的って言ってもやっぱり一般的じゃないと思われがちだからかな」
「……なるほど。確かに多くはないもんな。俺も普段なら男相手にそういう対象としては見ることができなさそうだし。とはいえ少数だとしても非常識なことではないし、まあ言って回る気は元々ないけど特に隠す気もないよ」
「男前だな、高津は」
優しげに笑うと、修が大聖の肩に腕を回してきた。
「男前というか、イケメンなのは神保だと思うよ」
「はは。ありがとう」
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