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シーズン4-ヴァンデッタ帝国戦後
087-君は?
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記憶を上っていくと、徐々に実態が明らかになってきた。
『...この記録を付けるのも、段々と機械的になっていく。我々は幸福という命題を追う内に、盲目になっていたのかもしれない』
増加し続ける自害を止めるため、正気とされた始まりの八人は、とある策に出た。
『だが、あの策も決して成功したとはいえない。個人の記憶に干渉し、自害に至ったらリセットなど、我々のエゴで縛っているようなものではないか』
彼等も正気と判定されてはいたが、狂っているようなものだったのかもしれない。
全てのVe‘z人のクローンに干渉し、記憶をある程度の位置でバックアップし、自害に至った瞬間にリセット、という悍ましい改造を施していたようだ。
だが、度重なる記憶のリセットに、徐々にシステム自体が耐えられなくなった。
多くの人々は、自害に至るまでのプロセスが徐々に短くなっていったのだ。
『我々は魂を観測したことはなかった。だが、まさに――――まさに、”魂”に記憶が刻まれているかのように』
魂の存在。
全く未知の事象にぶち当たった始まりの八人は、それを研究しようと躍起になった。
だが数百年を経ても、それは一部すら解明できず、その間にVe’z人の自害率は100%になっていた。
『我々は不老不死などではなかった。魂には生きるべき時が、予め定められていたのだろう』
悲しげに、記録にはそう記述されていた。
『私は狂っていたのだろう。だから今こそ、全ての人間を枷から解き放つ。我が友エスリーよ、頼んだ。ロドウィン=アルティノスより』
実は、記録の記述者は世代を経て変わっていた。
幸福を望んで科学を追ったからこそ、魂を縛り続ける事に耐えられなかったのだろう。
Ve‘z人の自害が始まってから、既に三人...ナザラック、オースティン、キラーズと交代している。
恐らくこの交代というのは、始まりの八人の内輪の中の話であると思われる。
だから...後は四人のみ。
『ロドウィンに発生した致命的なエラーにより、Ve’z人はほとんど死滅した。そういったプログラムを組んでいないのに、彼らは枷から解き放たれると同時に、自壊を選んだ。意味が分からない。』
記述者はエスリーへと変わる。
ロドウィンとは違い、哲学的な事を語る気はないようだ。
『我々はVe‘zを存続させる必要がある。しかしながら、守るべき国民はもういない。そこで我々は、ノクティラノスを造った。』
ノクティラノスを創り、そのAIの育成を任務とする。
それは、正気の沙汰とは思えない行動だった。
いわば大の大人四人が、おままごとに興じているような状況だ。
『狂いたくなかったから、狂うしかなかったのだろうか?』
僕は呟く。
発狂しないために、ただただ、人間らしい行動を履修しようとしたのかもしれない。
それが常識から外れていようとも。
『だが、ノクティラノスたちと行動を共にするたび、我らは思い知る。精神や魂といったものを、我々は余りに軽視し過ぎてしまったと』
ノクティラノスには恐らく、かつては自我があったのかもしれない。
だが四人は、それを消した。
余りにも虚しい結末に終わったからだろう。
『多くの人間を不幸にしておきながら、自分もまた終わりたいと願うことになろうとは、夢にも思わなかった』
文章が不穏さを増す。
だが僕は、その覚悟を持って、上へ上へと昇る。
『頼んだぞ、リティアル。私はもう...限界だ』
そんな記述と共に、記録は終わっていた。
次の記録は、より深刻なものへと切り替わる。
『リティアルが死んだ。エスリーの後を追うなど、不条理なことをする。若きを想い、永遠の生を追い続ける事こそ、我らの命題ではないか』
リティアルは未記述のまま死亡した。
エスリーとの仲が良く、その死に耐えられず自害したのだろう。
『しかし...我らはずっと、失う事のない生に明け暮れていた。だがこうして、失うという事に直面すると...いいや、些事に過ぎない』
新しい記述者の名はクロエ。
記録を見ると、植物を育てる趣味があったようだ。
『二人になると、不思議と寂しくなった。それ故に、わたしは特定のノクティラノスにエクスティラノスという名を付け、指揮個体として扱う事にした。自我に近いものを与え、かつて...本当に、遥かかつての時代、人間が動物を飼ったように、エクスティラノスたちを飼育した。』
狂っている。
そう思うのは単純だが...僕には、エリアスにはわかる。
これほどの栄華の残滓を、夢の跡を...放置して死ぬわけにはいかないかったのだろう。だが、『発狂』すれば自害という最悪の選択肢に進んでしまう。
『我々は残り二人となった』
ようやく、エリアスの記述が登場するだろうか?
僕は少しだけ興味を強め、記録を読み進めた。
『クロエ=アルティノス、そして...ノエル=アルティノス。この二人で、我々は生きていかなければならない』
...どういう事だ?
僕は困惑する。
全ての人間が死に絶えて、残った人間が二人。
なら...
『僕は...エリアスは』
誰だ?
『...この記録を付けるのも、段々と機械的になっていく。我々は幸福という命題を追う内に、盲目になっていたのかもしれない』
増加し続ける自害を止めるため、正気とされた始まりの八人は、とある策に出た。
『だが、あの策も決して成功したとはいえない。個人の記憶に干渉し、自害に至ったらリセットなど、我々のエゴで縛っているようなものではないか』
彼等も正気と判定されてはいたが、狂っているようなものだったのかもしれない。
全てのVe‘z人のクローンに干渉し、記憶をある程度の位置でバックアップし、自害に至った瞬間にリセット、という悍ましい改造を施していたようだ。
だが、度重なる記憶のリセットに、徐々にシステム自体が耐えられなくなった。
多くの人々は、自害に至るまでのプロセスが徐々に短くなっていったのだ。
『我々は魂を観測したことはなかった。だが、まさに――――まさに、”魂”に記憶が刻まれているかのように』
魂の存在。
全く未知の事象にぶち当たった始まりの八人は、それを研究しようと躍起になった。
だが数百年を経ても、それは一部すら解明できず、その間にVe’z人の自害率は100%になっていた。
『我々は不老不死などではなかった。魂には生きるべき時が、予め定められていたのだろう』
悲しげに、記録にはそう記述されていた。
『私は狂っていたのだろう。だから今こそ、全ての人間を枷から解き放つ。我が友エスリーよ、頼んだ。ロドウィン=アルティノスより』
実は、記録の記述者は世代を経て変わっていた。
幸福を望んで科学を追ったからこそ、魂を縛り続ける事に耐えられなかったのだろう。
Ve‘z人の自害が始まってから、既に三人...ナザラック、オースティン、キラーズと交代している。
恐らくこの交代というのは、始まりの八人の内輪の中の話であると思われる。
だから...後は四人のみ。
『ロドウィンに発生した致命的なエラーにより、Ve’z人はほとんど死滅した。そういったプログラムを組んでいないのに、彼らは枷から解き放たれると同時に、自壊を選んだ。意味が分からない。』
記述者はエスリーへと変わる。
ロドウィンとは違い、哲学的な事を語る気はないようだ。
『我々はVe‘zを存続させる必要がある。しかしながら、守るべき国民はもういない。そこで我々は、ノクティラノスを造った。』
ノクティラノスを創り、そのAIの育成を任務とする。
それは、正気の沙汰とは思えない行動だった。
いわば大の大人四人が、おままごとに興じているような状況だ。
『狂いたくなかったから、狂うしかなかったのだろうか?』
僕は呟く。
発狂しないために、ただただ、人間らしい行動を履修しようとしたのかもしれない。
それが常識から外れていようとも。
『だが、ノクティラノスたちと行動を共にするたび、我らは思い知る。精神や魂といったものを、我々は余りに軽視し過ぎてしまったと』
ノクティラノスには恐らく、かつては自我があったのかもしれない。
だが四人は、それを消した。
余りにも虚しい結末に終わったからだろう。
『多くの人間を不幸にしておきながら、自分もまた終わりたいと願うことになろうとは、夢にも思わなかった』
文章が不穏さを増す。
だが僕は、その覚悟を持って、上へ上へと昇る。
『頼んだぞ、リティアル。私はもう...限界だ』
そんな記述と共に、記録は終わっていた。
次の記録は、より深刻なものへと切り替わる。
『リティアルが死んだ。エスリーの後を追うなど、不条理なことをする。若きを想い、永遠の生を追い続ける事こそ、我らの命題ではないか』
リティアルは未記述のまま死亡した。
エスリーとの仲が良く、その死に耐えられず自害したのだろう。
『しかし...我らはずっと、失う事のない生に明け暮れていた。だがこうして、失うという事に直面すると...いいや、些事に過ぎない』
新しい記述者の名はクロエ。
記録を見ると、植物を育てる趣味があったようだ。
『二人になると、不思議と寂しくなった。それ故に、わたしは特定のノクティラノスにエクスティラノスという名を付け、指揮個体として扱う事にした。自我に近いものを与え、かつて...本当に、遥かかつての時代、人間が動物を飼ったように、エクスティラノスたちを飼育した。』
狂っている。
そう思うのは単純だが...僕には、エリアスにはわかる。
これほどの栄華の残滓を、夢の跡を...放置して死ぬわけにはいかないかったのだろう。だが、『発狂』すれば自害という最悪の選択肢に進んでしまう。
『我々は残り二人となった』
ようやく、エリアスの記述が登場するだろうか?
僕は少しだけ興味を強め、記録を読み進めた。
『クロエ=アルティノス、そして...ノエル=アルティノス。この二人で、我々は生きていかなければならない』
...どういう事だ?
僕は困惑する。
全ての人間が死に絶えて、残った人間が二人。
なら...
『僕は...エリアスは』
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