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終章(2/3)-『真実』編
224-因果は微笑む:Ve’z
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水底を進む僕は、回廊をずっと歩いていた。
水温は既に一桁となり、ここを潜水服だけで潜るのは不可能だろうと推察される。
「(だが、出口は近いな)」
僅かな流れがあり、どこかへ通じているのは明白だ。
僕はそこへ向かって歩き続ける。
「(しかし、不思議なものだ)」
壁の材質は大理石か何かだが、劣化が全くない。
流れがあるのなら、長い年月の中ですり減っていくはずだ。
だがそれがない。
さらに、壁には壁画が彫られているが...
知るはずのない、Ve‘zのモノらしき紋様が見える。
それだけではない。
オルトス王国、ヴァンデッタ帝国、カルメナス...未来の国家の紋章が、何故かそこにあった。
「(魔法の産物か)」
どうもこの宇宙は、もともと因果律によって制御されていたように僕は思う。
全ての起こるべきことは最初から決まっており、ラー・ゼソルはそれを読み取る魔法を持っていた。
だが、その結果は...
「(僕か、カルか、シン。それとももっと前の誰か。その誰かがこの世界に転移してこなければ、この世界にあるのは終わりだけだった)」
何かが起こった。
もし転移・転生者がいなければ、因果律通りにこの世界は基盤を失い、滅びていたはずだった。
壁画の終わりは、歪んでいく紋章が描かれていた。
因果律に従わない、部外者たち。
僕らが、彼らが、彼女らが。
この世界を乱し始めたのだ。
その乱れは、世界自体を未知の滅びから遠ざけた。
『アラタ、お前が乱したのは世界だけではない。Ve’zの運命もまた...』
「(エリアス...)」
分かっている。
こんなところで遊んでいる暇はない。
僕は足を止めずに先へ、また先へ。
そして...
「(ここは...?)」
水路の先は、広大な空間になっていた。
上を見上げれば、青緑色の光が降ってきていた。
地面に視線を這わせれば、淡く金色に光る紋様が彼方此方に埋め込まれている。
前を見た僕は、そこで初めてそれを見た。
『ようこそ、真なる終焉が集うこの場所へ』
「...」
目の前には祭壇のような建造物があり、そこに全身が淡く発光する人間が座っていた。
見たところ、前世で言う巫女のようにも見えた。
「終焉? 話が見えないな、ここは...」
『はい、報復を遂げるための場所...表向きはそうされている場所です。事実、私の背後にあるこの装置には、ラー・ゼソルの技術が収められています』
「では、なぜ?」
声を発した僕は驚く。
この場所では、水中だというのに声が響く。
確かに水は音を通すが、空気中と違いくぐもる。
ここでは地上以上に声が届く。
『私の名前はアルマシェ、最果てを見通す巫女です』
「最果てを...それも魔法か?」
『いいえ。デフォンがあなたに何を伝えたにせよ、それらは全て表向きの事情に過ぎません』
やはり、接触のことも知っているか。
『私は世界の始まりからやって来ました』
「大きく出たな」
『原初から私は存在しているのです』
「そうか」
『私には宇宙の終わりが見えていたのです、しかし今は見えません』
やはり、壁画は彼女が描いたのか。
だとしても、やはり見えない。
なぜここに彼女がいるのかが。
発達した超文明が、彼女のようなオカルトを抱え込むとは。
『あなたが何を考えているかは分かっております。ラー・ゼソルの栄達は私があってこそです』
「なるほど、未来の技術を盗んだか」
『盗んだ...そうですね、盗んだのです』
そう表現されるとは思っていなかったのだろう、アルマシェは一瞬目を見開いて驚いた。
そして、開き直るようにつぶやいた。
「その結果がアレか」
『私は世界の守護者ではありません。ただ見通すことが出来るだけ...あの結果が人為的に引き起こされるモノではなく、自然に起こる現象として認識してしまい、それを防ぐために人々に知識を伝えたのです』
「それ以降は?」
『私は世界の外へと吸い出される前に脱出し、今はここへ』
なるほど。
最初の文明であるラー・ゼソルが滅び、その魔法はアルケーシアへと、科学技術はVe‘zへと受け継がれたのか。
アルケーシアが何らかの理由で破綻し、魔法ではなく科学がエミドに受け継がれた。
Ve’zとエミドは、兄弟文明だったのだ。
もっともそれは確信に変わったというだけで、今この場で語られたのは最初の文明であるラー・ゼソルが既存のどの文明もを凌駕する理由だ。
「未来は、見えるのか?」
「いいえ、もう見えません。定められた律は破られました。運命の歯車は予定通りに動かず、結末がわからなくなり始めています」
やはり僕の予想通りか。
「ならば、僕の邪魔をするな」
『いいえ、私はこの情報を背にする身として、あなたに問います』
何を問うというのか?
疑問に思う僕に対して、彼女は宣告した。
『この世界の滅びは近い。ですがそれは、遷移者達の行動によりある一定の刻限ではなくなった。終わりは確実ではなくなりました。もし滅びが近づいた時、あなたはこの世界を守ると誓うことができますか?』
その問いに、僕は...
水温は既に一桁となり、ここを潜水服だけで潜るのは不可能だろうと推察される。
「(だが、出口は近いな)」
僅かな流れがあり、どこかへ通じているのは明白だ。
僕はそこへ向かって歩き続ける。
「(しかし、不思議なものだ)」
壁の材質は大理石か何かだが、劣化が全くない。
流れがあるのなら、長い年月の中ですり減っていくはずだ。
だがそれがない。
さらに、壁には壁画が彫られているが...
知るはずのない、Ve‘zのモノらしき紋様が見える。
それだけではない。
オルトス王国、ヴァンデッタ帝国、カルメナス...未来の国家の紋章が、何故かそこにあった。
「(魔法の産物か)」
どうもこの宇宙は、もともと因果律によって制御されていたように僕は思う。
全ての起こるべきことは最初から決まっており、ラー・ゼソルはそれを読み取る魔法を持っていた。
だが、その結果は...
「(僕か、カルか、シン。それとももっと前の誰か。その誰かがこの世界に転移してこなければ、この世界にあるのは終わりだけだった)」
何かが起こった。
もし転移・転生者がいなければ、因果律通りにこの世界は基盤を失い、滅びていたはずだった。
壁画の終わりは、歪んでいく紋章が描かれていた。
因果律に従わない、部外者たち。
僕らが、彼らが、彼女らが。
この世界を乱し始めたのだ。
その乱れは、世界自体を未知の滅びから遠ざけた。
『アラタ、お前が乱したのは世界だけではない。Ve’zの運命もまた...』
「(エリアス...)」
分かっている。
こんなところで遊んでいる暇はない。
僕は足を止めずに先へ、また先へ。
そして...
「(ここは...?)」
水路の先は、広大な空間になっていた。
上を見上げれば、青緑色の光が降ってきていた。
地面に視線を這わせれば、淡く金色に光る紋様が彼方此方に埋め込まれている。
前を見た僕は、そこで初めてそれを見た。
『ようこそ、真なる終焉が集うこの場所へ』
「...」
目の前には祭壇のような建造物があり、そこに全身が淡く発光する人間が座っていた。
見たところ、前世で言う巫女のようにも見えた。
「終焉? 話が見えないな、ここは...」
『はい、報復を遂げるための場所...表向きはそうされている場所です。事実、私の背後にあるこの装置には、ラー・ゼソルの技術が収められています』
「では、なぜ?」
声を発した僕は驚く。
この場所では、水中だというのに声が響く。
確かに水は音を通すが、空気中と違いくぐもる。
ここでは地上以上に声が届く。
『私の名前はアルマシェ、最果てを見通す巫女です』
「最果てを...それも魔法か?」
『いいえ。デフォンがあなたに何を伝えたにせよ、それらは全て表向きの事情に過ぎません』
やはり、接触のことも知っているか。
『私は世界の始まりからやって来ました』
「大きく出たな」
『原初から私は存在しているのです』
「そうか」
『私には宇宙の終わりが見えていたのです、しかし今は見えません』
やはり、壁画は彼女が描いたのか。
だとしても、やはり見えない。
なぜここに彼女がいるのかが。
発達した超文明が、彼女のようなオカルトを抱え込むとは。
『あなたが何を考えているかは分かっております。ラー・ゼソルの栄達は私があってこそです』
「なるほど、未来の技術を盗んだか」
『盗んだ...そうですね、盗んだのです』
そう表現されるとは思っていなかったのだろう、アルマシェは一瞬目を見開いて驚いた。
そして、開き直るようにつぶやいた。
「その結果がアレか」
『私は世界の守護者ではありません。ただ見通すことが出来るだけ...あの結果が人為的に引き起こされるモノではなく、自然に起こる現象として認識してしまい、それを防ぐために人々に知識を伝えたのです』
「それ以降は?」
『私は世界の外へと吸い出される前に脱出し、今はここへ』
なるほど。
最初の文明であるラー・ゼソルが滅び、その魔法はアルケーシアへと、科学技術はVe‘zへと受け継がれたのか。
アルケーシアが何らかの理由で破綻し、魔法ではなく科学がエミドに受け継がれた。
Ve’zとエミドは、兄弟文明だったのだ。
もっともそれは確信に変わったというだけで、今この場で語られたのは最初の文明であるラー・ゼソルが既存のどの文明もを凌駕する理由だ。
「未来は、見えるのか?」
「いいえ、もう見えません。定められた律は破られました。運命の歯車は予定通りに動かず、結末がわからなくなり始めています」
やはり僕の予想通りか。
「ならば、僕の邪魔をするな」
『いいえ、私はこの情報を背にする身として、あなたに問います』
何を問うというのか?
疑問に思う僕に対して、彼女は宣告した。
『この世界の滅びは近い。ですがそれは、遷移者達の行動によりある一定の刻限ではなくなった。終わりは確実ではなくなりました。もし滅びが近づいた時、あなたはこの世界を守ると誓うことができますか?』
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