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終章(2/3)-『真実』編
244-データ記録『GREGO-RR』
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『おまえは、最後の良心となりなさい』
いつのことだったか。
私が、集合意識から引き上げられ、特逸的な一個体となった日。
創造主ノエル=アルティノスは、私にそう命じられました。
『私たちは人間へと戻り、寿命という終わり、救いを得た。だが、我々は――――そう、臆病だった』
まだ身体を持たない私は、保育器で眠る若きエリアス=アルティノスを見せられた。
創造主ノエル様は、続けて言った。
『エリアス=アルティノス、我らが子に、何かが合ってはいけないと願い、不死という円環に囚われたままにした。だから、いずれ終わる私たちに代わり――――おまえが、エリアスを見なさい。エリアスの前で正しさを説き、最後の良心となりなさい』
まだ”幼い”私には、その意味が分かりかねた。
完璧である創造主の子に、私のような補助知能が付いたところで何が変わるのだと。
だが、それは...ノエル様とクロエ様が死去された時に分かった。
「グレゴル、なぜ父上と母上はクローン体に移らない?」
『あなたの両親は通常の人間体に戻られました、その意識はどこにも存在しません』
「人間に戻ると、なぜ消える?」
『寿命により体が死に至り、脳死状態となると同時に行き場をなくした情報が失われるからです』
「戻せないのか?」
『可能ですが...エリアス様はそれで良いのですか?』
「...わからない」
この会話を経て、私は自分のすべきことを悟った。
アロウトの情報にアクセスすることが出来るエリアス様には、知ることのできない情報など存在しない。
...だが、幼いエリアス様は、精神がまだ未熟なのだと知った。
私はそれから、エリアス様に様々なことを教えた。
その過程で、人間とは知識を知っているという状態だけでは駄目なのだと学習した。
知識を扱う、精神が。
『おまえは、最後の良心となりなさい』
その言葉の意味が、スッと理解できた。
この時点をもって、私は完成したと言えるだろう。
そして同時に、エリアス様もまた完成した。
ある日、いつものように朝の挨拶をした私に、エリアス様はこう仰った。
「今日から補佐は不要だ」
『承諾しました』
私は喜んだ。
いや、喜びというものがあったかは分からない。
だが、ノエル様から課せられた課題は、こうしてここに完結したのだから。
私は課題が終わった事を自覚し、自らエリアス様の視界から消えることを選んだ。
踏み台とは、踏み台であるからこそ役目を果たせるのだ。
私の存在がエリアス様に問題を与えてはならない。
しかし、それでも。
エリアス様は私を記憶していたらしい。
『宝物殿を管理せよ、Ve‘zが犯してきた過去の罪を蒐集せよ』
直接会うことなく、精神リンクから飛んできたメッセージに、私は一も二もなく従った。
仕事の内容について考える必要はない。
エリアス様が「そうせよ」と仰れば、それこそが私のするべき事であるからだ。
それから、幾万年もの時が流れた。
私はエリアス様が自死を選ばれたことを察していた。
多くのアルティノスの一族がそうしてきたように、彼女もまた運命からは逃れられなかったのだと。
だが、唐突にバイタルが回復し...それと同時に、新たな指令が流れ込んできたのだ。
『人間らしくあれ、優しく気高くあれ』
人間の真似をしろとでも言うのか。
私は当然怒った。
私の教えは無駄だったのか、と。
エリアス様は乱心なされた、と。
怒りがその心にあったことに驚きながらも。
だが、実際に怒り...私は自らの誤りに気付いた。
『グレゴル、お前は何のために生み出された?』
『.........過去の罪を管理する、墓守です』
『罪? 罪といったな?』
『お前は何故それを罪と断じる?』
『.....貴女様がそう仰ったのです』
『ならば、僕が今それを”赦す”といえばそれは無かったことになるか?』
『い、いえ.......それは過去の貴女の.....』
『ならば、私なら良いのか?』
私はその時気付いた。
あの御方が変わられたのではないのだと。
あの赤い瞳を見た時、私はエリアス様がもう一つの人格を御作りになられたのだと察した。
妥協が許されないからこそ、妥協する人格を。
それもまた一つの道の筈だ。
そして。
『エリアス様、何故人間を飼育するのです。エクスティラノスに奉仕させる理由もないでしょう』
エリアス様がヴァンデッタ帝国の生き残りを飼おうと言い出したとき、私はそれに反対した。
ノクティラノスに任せ最低限の栄養だけ与え、睡眠状態に置いておけば同じだというのに。
『グレゴル』
『はい』
『人を観察しろ』
『.......何故です?』
『エクスティラノスにないものを、彼女たちは持っているのだから』
私には理解できなかった。
よって、頭脳戦をもって、エリアス様のお気に入りであるエリス様に挑んだ。
結果――――
「か、勝っちゃったわ」
『......見事です』
正面から盤上遊戯で挑んだというのに、私は敗北した。
シミュレーションは完璧だったのだが、二週間にわたる対局の繰り返しで、216戦目でこちらが詰んだ。
繰り返しの戦術パターンを用いないため、間違った対策を組んでしまったが故の結果であった。
私は気付いたのだ。
エリアス様の優しさは、徹底的な打算の裏返しでもあると。
サンプルを確保し、常に傍にいることで心理を知ろうとしているのだと。
結論など、求められるものではない。
これから見つけるのだ。
いつのことだったか。
私が、集合意識から引き上げられ、特逸的な一個体となった日。
創造主ノエル=アルティノスは、私にそう命じられました。
『私たちは人間へと戻り、寿命という終わり、救いを得た。だが、我々は――――そう、臆病だった』
まだ身体を持たない私は、保育器で眠る若きエリアス=アルティノスを見せられた。
創造主ノエル様は、続けて言った。
『エリアス=アルティノス、我らが子に、何かが合ってはいけないと願い、不死という円環に囚われたままにした。だから、いずれ終わる私たちに代わり――――おまえが、エリアスを見なさい。エリアスの前で正しさを説き、最後の良心となりなさい』
まだ”幼い”私には、その意味が分かりかねた。
完璧である創造主の子に、私のような補助知能が付いたところで何が変わるのだと。
だが、それは...ノエル様とクロエ様が死去された時に分かった。
「グレゴル、なぜ父上と母上はクローン体に移らない?」
『あなたの両親は通常の人間体に戻られました、その意識はどこにも存在しません』
「人間に戻ると、なぜ消える?」
『寿命により体が死に至り、脳死状態となると同時に行き場をなくした情報が失われるからです』
「戻せないのか?」
『可能ですが...エリアス様はそれで良いのですか?』
「...わからない」
この会話を経て、私は自分のすべきことを悟った。
アロウトの情報にアクセスすることが出来るエリアス様には、知ることのできない情報など存在しない。
...だが、幼いエリアス様は、精神がまだ未熟なのだと知った。
私はそれから、エリアス様に様々なことを教えた。
その過程で、人間とは知識を知っているという状態だけでは駄目なのだと学習した。
知識を扱う、精神が。
『おまえは、最後の良心となりなさい』
その言葉の意味が、スッと理解できた。
この時点をもって、私は完成したと言えるだろう。
そして同時に、エリアス様もまた完成した。
ある日、いつものように朝の挨拶をした私に、エリアス様はこう仰った。
「今日から補佐は不要だ」
『承諾しました』
私は喜んだ。
いや、喜びというものがあったかは分からない。
だが、ノエル様から課せられた課題は、こうしてここに完結したのだから。
私は課題が終わった事を自覚し、自らエリアス様の視界から消えることを選んだ。
踏み台とは、踏み台であるからこそ役目を果たせるのだ。
私の存在がエリアス様に問題を与えてはならない。
しかし、それでも。
エリアス様は私を記憶していたらしい。
『宝物殿を管理せよ、Ve‘zが犯してきた過去の罪を蒐集せよ』
直接会うことなく、精神リンクから飛んできたメッセージに、私は一も二もなく従った。
仕事の内容について考える必要はない。
エリアス様が「そうせよ」と仰れば、それこそが私のするべき事であるからだ。
それから、幾万年もの時が流れた。
私はエリアス様が自死を選ばれたことを察していた。
多くのアルティノスの一族がそうしてきたように、彼女もまた運命からは逃れられなかったのだと。
だが、唐突にバイタルが回復し...それと同時に、新たな指令が流れ込んできたのだ。
『人間らしくあれ、優しく気高くあれ』
人間の真似をしろとでも言うのか。
私は当然怒った。
私の教えは無駄だったのか、と。
エリアス様は乱心なされた、と。
怒りがその心にあったことに驚きながらも。
だが、実際に怒り...私は自らの誤りに気付いた。
『グレゴル、お前は何のために生み出された?』
『.........過去の罪を管理する、墓守です』
『罪? 罪といったな?』
『お前は何故それを罪と断じる?』
『.....貴女様がそう仰ったのです』
『ならば、僕が今それを”赦す”といえばそれは無かったことになるか?』
『い、いえ.......それは過去の貴女の.....』
『ならば、私なら良いのか?』
私はその時気付いた。
あの御方が変わられたのではないのだと。
あの赤い瞳を見た時、私はエリアス様がもう一つの人格を御作りになられたのだと察した。
妥協が許されないからこそ、妥協する人格を。
それもまた一つの道の筈だ。
そして。
『エリアス様、何故人間を飼育するのです。エクスティラノスに奉仕させる理由もないでしょう』
エリアス様がヴァンデッタ帝国の生き残りを飼おうと言い出したとき、私はそれに反対した。
ノクティラノスに任せ最低限の栄養だけ与え、睡眠状態に置いておけば同じだというのに。
『グレゴル』
『はい』
『人を観察しろ』
『.......何故です?』
『エクスティラノスにないものを、彼女たちは持っているのだから』
私には理解できなかった。
よって、頭脳戦をもって、エリアス様のお気に入りであるエリス様に挑んだ。
結果――――
「か、勝っちゃったわ」
『......見事です』
正面から盤上遊戯で挑んだというのに、私は敗北した。
シミュレーションは完璧だったのだが、二週間にわたる対局の繰り返しで、216戦目でこちらが詰んだ。
繰り返しの戦術パターンを用いないため、間違った対策を組んでしまったが故の結果であった。
私は気付いたのだ。
エリアス様の優しさは、徹底的な打算の裏返しでもあると。
サンプルを確保し、常に傍にいることで心理を知ろうとしているのだと。
結論など、求められるものではない。
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