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終章(2/3)-『真実』編
245-データ記録『MeTT'Ira』
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私の名前はメッティーラ。
メッティーラ・エクスティラノス。
私の役目は、アロウトを警備・守護する事。
創造主であるノエル・アルティノス様のため。
ひいては現在の主であるエリアス・アルティノス様のために。
『あなたは何が楽しいの?』
『楽しい.....? そのような感情的プロセスを、私はインストールされておりません』
そして。
もう一人の主人である、クロエ・アルティノス様のために。
『来る日も来る日も、巡回と警備ばかり。飽きないの?』
『それが役目です』
『そうね....そういう風に作ったものね、ノエルが』
かつてのその日。
機械的に答えた私に、ノエル様は溜息を吐かれた。
私は何が間違っているのか、理解できずにいた。
『けれど、私にも教えることは出来ないわ。人間がどんな感情で動いているかなんて、私達も得始めた段階なのだから』
『そうですか』
『それでも、きっとあなたは....いつか、それを知るわ』
結局、私がそれを知る事はなかったのだろう。
クロエ様を看取ったのも私だ。
ノエル様が生命活動を停止してから、正確に45日と16時間後。
原因不明の衰弱により、医療用ポッドの治療の効果が認められず死亡した。
『我々はクロエ様の命により、アロウトを離れる』
『承諾した、機密アクセスコードを遮断する』
それから数時間以内に、ガルジア=エクスティラノスとナージャ=エクスティラノスが離反した。
いいや、離反した訳ではない。
ノエル様の命令により、遠い旅に出ただけだ。
それから今に至るまで、彼らは帰ってきていない。
『メッティーラ』
『はい』
『楽しいのか?』
それから五百年が経過した。
エリアス様の後任を管轄するグレゴルの役目が十全に果たされ、エリアス様は日に日に僅かな精神の成熟を感じ取れるようになってきていた。
『何がでしょう』
『毎日の巡回が、だ』
『それは.....』
不思議そうに尋ねるエリアス様の御顔が、クロエ様と重なった。
エクスティラノスらしくない感傷に、私は困惑する。
プログラムに致命的なエラーが発生している。
最新のビルドに異常が起きているが、しかし許可なくバックアップを復元することはできない。
『楽しい、という訳ではありません。役目なのですから』
『私は人間の感情を探している、楽しいとはなんだ? グレゴルは答えてくれなかった』
『カサンドラ様にお聞きになられてはどうですか?』
私には索敵と戦闘、疑似的なインターフェースしか組み込まれていない。
カサンドラ様に聞いたほうが、より最適な答えを出すことができると思ったゆえの提案であった。
『そうか、ありがとう』
『はい』
それからまた時が過ぎた。
ある時、エリアス様の信号が途絶えた。
クローン転送のシステムが何者かによって書き換えられており、最高位の管理者権限でオーバーライドが打ち消せない状態にあった。
『これは最悪の予測ですが』
『メッティーラ』
カサンドラ様に具申した私の言葉を、カサンドラ様ご自身が切って捨てた。
エリアス様が、アルティノスの血統個体が持つ自害特性によって自分の命を絶たれたのではないかと。
アロウトを自爆させ、Ve’zを終わらせるべきだと。
『エリアス様は必ず戻ります』
『......』
それから、気の遠くなるような年月が流れる。
エリアス様がご帰還されてからは、全てが光の如く流れていった。
そんなある日、庭園の巡回警備を行っていた私に、エリス様が問いかけた。
「ねえ、メッティーラ」
『いかがいたしましたか?』
「楽しいの? それとも、お仕事だからやってるの?」
『それは.....』
反論を封じられた。
同時に、私にも懐古というものがあったのかと、驚く。
クロエ様、エリアス様のその疑問が、私の中に浸透していく。
『楽しくはありません、仕事ですので』
「じゃあ....少し、私の我儘に付き合ってくれないかしら?」
私は、エリス様のもとで少し時間を過ごした。
不思議だった。
クロエ様はどうすればいいか分からないと言い、エリアス様は知らないから探していると言った。
エリアス様のお気に入りとはいえ、人間の一個体が、私に初めて答えをくれた。
『エリス様は、これが楽しいのですか?』
「人間って、どういう時が楽しいか....知ってるかしら?」
『知りません』
「好きな人のことを考えながら、ゆっくり時間を過ごすときよ」
『それだけだというのですか?』
「そうよ」
理解できない。
そう判断した私だったが、唐突にエリアス様の姿が思考回路に引っかかった。
「あっ、エリアスの事を考えてるのね」
『....何故、お判りに?』
「エリアスの周りにいる人たちは、みんなあの人が好きだもの」
『....好き』
その日から、私は巡回警備の隙間に、”楽しい”を実行するようになった。
エリアス様の事を考え、無為に過ごす。
それで何かが変わるわけではなかった。
所詮、私は人に作られた存在で、人になる事は出来ない。
けれど――――
『得た答えは、結論に繋がります』
私は、秘匿された内部の思考パターンの中で、そう呟く。
『結論に導かれた理論は、楽しいを数値に出来る』
その答えが、人間になる事だとすれば。
私はクロエ様がエリアス様に伝えられなかったことを伝える事が出来る。
クロエ様のために、エリアス様のために。
私は消えるわけにはいかない。
メッティーラ・エクスティラノス。
私の役目は、アロウトを警備・守護する事。
創造主であるノエル・アルティノス様のため。
ひいては現在の主であるエリアス・アルティノス様のために。
『あなたは何が楽しいの?』
『楽しい.....? そのような感情的プロセスを、私はインストールされておりません』
そして。
もう一人の主人である、クロエ・アルティノス様のために。
『来る日も来る日も、巡回と警備ばかり。飽きないの?』
『それが役目です』
『そうね....そういう風に作ったものね、ノエルが』
かつてのその日。
機械的に答えた私に、ノエル様は溜息を吐かれた。
私は何が間違っているのか、理解できずにいた。
『けれど、私にも教えることは出来ないわ。人間がどんな感情で動いているかなんて、私達も得始めた段階なのだから』
『そうですか』
『それでも、きっとあなたは....いつか、それを知るわ』
結局、私がそれを知る事はなかったのだろう。
クロエ様を看取ったのも私だ。
ノエル様が生命活動を停止してから、正確に45日と16時間後。
原因不明の衰弱により、医療用ポッドの治療の効果が認められず死亡した。
『我々はクロエ様の命により、アロウトを離れる』
『承諾した、機密アクセスコードを遮断する』
それから数時間以内に、ガルジア=エクスティラノスとナージャ=エクスティラノスが離反した。
いいや、離反した訳ではない。
ノエル様の命令により、遠い旅に出ただけだ。
それから今に至るまで、彼らは帰ってきていない。
『メッティーラ』
『はい』
『楽しいのか?』
それから五百年が経過した。
エリアス様の後任を管轄するグレゴルの役目が十全に果たされ、エリアス様は日に日に僅かな精神の成熟を感じ取れるようになってきていた。
『何がでしょう』
『毎日の巡回が、だ』
『それは.....』
不思議そうに尋ねるエリアス様の御顔が、クロエ様と重なった。
エクスティラノスらしくない感傷に、私は困惑する。
プログラムに致命的なエラーが発生している。
最新のビルドに異常が起きているが、しかし許可なくバックアップを復元することはできない。
『楽しい、という訳ではありません。役目なのですから』
『私は人間の感情を探している、楽しいとはなんだ? グレゴルは答えてくれなかった』
『カサンドラ様にお聞きになられてはどうですか?』
私には索敵と戦闘、疑似的なインターフェースしか組み込まれていない。
カサンドラ様に聞いたほうが、より最適な答えを出すことができると思ったゆえの提案であった。
『そうか、ありがとう』
『はい』
それからまた時が過ぎた。
ある時、エリアス様の信号が途絶えた。
クローン転送のシステムが何者かによって書き換えられており、最高位の管理者権限でオーバーライドが打ち消せない状態にあった。
『これは最悪の予測ですが』
『メッティーラ』
カサンドラ様に具申した私の言葉を、カサンドラ様ご自身が切って捨てた。
エリアス様が、アルティノスの血統個体が持つ自害特性によって自分の命を絶たれたのではないかと。
アロウトを自爆させ、Ve’zを終わらせるべきだと。
『エリアス様は必ず戻ります』
『......』
それから、気の遠くなるような年月が流れる。
エリアス様がご帰還されてからは、全てが光の如く流れていった。
そんなある日、庭園の巡回警備を行っていた私に、エリス様が問いかけた。
「ねえ、メッティーラ」
『いかがいたしましたか?』
「楽しいの? それとも、お仕事だからやってるの?」
『それは.....』
反論を封じられた。
同時に、私にも懐古というものがあったのかと、驚く。
クロエ様、エリアス様のその疑問が、私の中に浸透していく。
『楽しくはありません、仕事ですので』
「じゃあ....少し、私の我儘に付き合ってくれないかしら?」
私は、エリス様のもとで少し時間を過ごした。
不思議だった。
クロエ様はどうすればいいか分からないと言い、エリアス様は知らないから探していると言った。
エリアス様のお気に入りとはいえ、人間の一個体が、私に初めて答えをくれた。
『エリス様は、これが楽しいのですか?』
「人間って、どういう時が楽しいか....知ってるかしら?」
『知りません』
「好きな人のことを考えながら、ゆっくり時間を過ごすときよ」
『それだけだというのですか?』
「そうよ」
理解できない。
そう判断した私だったが、唐突にエリアス様の姿が思考回路に引っかかった。
「あっ、エリアスの事を考えてるのね」
『....何故、お判りに?』
「エリアスの周りにいる人たちは、みんなあの人が好きだもの」
『....好き』
その日から、私は巡回警備の隙間に、”楽しい”を実行するようになった。
エリアス様の事を考え、無為に過ごす。
それで何かが変わるわけではなかった。
所詮、私は人に作られた存在で、人になる事は出来ない。
けれど――――
『得た答えは、結論に繋がります』
私は、秘匿された内部の思考パターンの中で、そう呟く。
『結論に導かれた理論は、楽しいを数値に出来る』
その答えが、人間になる事だとすれば。
私はクロエ様がエリアス様に伝えられなかったことを伝える事が出来る。
クロエ様のために、エリアス様のために。
私は消えるわけにはいかない。
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