10 / 22
一年目。
大会、そして海へ
しおりを挟む
夏休みはもっと遊べると思っていたが、部活でほとんど時間が取られ、なんだかんだで忙しい日々が続いていた。
今日は県大会のため、マイクロバスで1時間半ほどかけて移動。夜は宿に一泊する予定だ。
1年生たちは、会場準備や雑務に追われていて忙しそうだ。
そろそろ試技の時間が近づき、俺も会場へ向かう。
そんな中、雑務で手が離せないはずのヤマトが小走りでやってきた。
「先輩、頑張ってください!」
「おう、サボりか?」
「合間見つけて応援に来たんですよ!」
少し不満そうに口をとがらせている。
「ありがとな、頑張るよ」
笑って返すと、ヤマトも嬉しそうに笑った。
その顔を見て、緊張していた気持ちが少しだけ和らぎ、落ち着いて競技に挑むことができた。
結果は今までで一番良かったが、全国大会には届かなかった。
3年生の先輩たちはこの大会で引退。みんなでお礼を言って送り出した。
試合後、1年生たちは一日中走り回っていてヘトヘトだ。
自販機で飲み物を買って、ジュンヤとヤマトに渡す。
「ありがとうございます!」
(そういえば、この二人って仲いいんだな…)
「二人はクラスでも仲いいの?」
「まあ、普通に部活の話とかしますけどね。ヤマトは先輩の話ばっかしてますけど」
「んっ!」
ヤマトがジュンヤを肘で軽く突く。
(ちゃんとクラスでも馴染んでるんだな。ちょっと安心した)
夜は宿でゆっくり過ごすことになった。
布団が9人分敷かれた和室の大部屋。先生たちは別室で飲み会らしく、夜更かししても何も言われない。
ヤマトはちゃっかり俺の隣に布団を敷いていた。
深夜、みんなが寝静まった頃、ヤマトがそっと俺の布団に潜り込んできた。
「先輩、起きてます?」
耳元で囁かれたが、眠気に勝てず寝たふりをした。
すると、ヤマトが布団の中で俺の体を優しく撫でてくる。直接的なことはしてこないが、なぜか体が反応してしまい、慌てて寝返りを打って背を向けると、ヤマトはそのまま俺の背中に寄り添ってきた。
嫌な感じはしない。むしろ、どこか安心してしまい、そのまま眠りに落ちた。
朝、部長たちは早く起きていて「どんだけ仲いいんだよ」と茶化され、ヤマトを起こすと何事もなかったように「おはようございます」と挨拶してきた。
帰りのバスでも、ヤマトは当然のように俺にもたれて寝ていた。
もう部内でも、そういう姿を見ても誰も驚かなくなっている。
3年生の引退後、俺は副部長に任命された。
大会も一段落し、顧問の方針で勉強に専念する期間として、部活は1週間の休みに入った。
「先輩!明日から海に行きませんか?
親戚の家が海の近くなんで、お墓参りも兼ねてなんですけど…」
「いいね。なんだかんだ忙しかったしな」
「やった!お母さんに言っときます!」
こうして、ヤマトと夏休みの終わりに2泊3日の海旅行に行くことになった。
翌日――
「よろしくお願いします」
「サトシ君が来てくれるって聞いて、ヤマトすごく楽しみにしてたのよ。毎年二人で行ってたから」
ヤマトは少し恥ずかしそうに照れている。
(そういえば、ヤマトのお父さんって見たことないな…)
長時間高速を走り、ようやく親戚の家に到着。
もともと民宿をやっていたというだけあって、大きな二階建ての木造建築。広い庭に、美味しい空気、蝉の声、潮の匂い――
「夏休み感満載で最高だな!」
ついテンションが上がる。
「満喫できますよ!」
優しそうな祖父母に挨拶を済ませたあと、ヤマトに手を引かれ、蝉の声が響く道を歩いていく。
たどり着いたのは墓地。ヤマトが水を汲みに行き、俺は墓石の前で手を合わせる。
「お父さん、なかなか来れなくてごめんね。
いつも仲良くしてくれてる先輩と遊びに来たよ。優しくて頼りになるんだ」
――ヤマトのお父さんは、もうこの世にいないのだ。
親戚の家に戻り、二階の一室をヤマトと二人で使わせてもらう。
「お父さん、3年前に病気で亡くなっちゃったんです…
たまに思い出して悲しくなるけど、今は先輩のおかげで楽しいです」
そう言って、ヤマトの目に涙が浮かび、やがて溢れ出した。
自分にはまだ、そういう経験がない。だから何も言葉が出てこなくて、俺はそっと背中を撫でることしかできなかった。
・
・
・
しばらくしてヤマトも落ち着き、部屋でまったりしていると――
「先輩!今日はBBQだそうですよ!」
元気を取り戻したヤマトが手を引き、庭へ連れていかれる。
「すごいでしょ!」
「準備したのはヤマトじゃないだろ」
庭には信じられないほどの量の肉と新鮮な野菜が並んでいた。
「ヤマトの先輩が来るって聞いたから、張り切って買っちゃったよ。
遠慮せずにたくさん食べてね」
おじいちゃんが炭を起こしながら笑っている。
「いただきます!」
次から次へと肉が焼かれ、どんどん皿に乗せられる。限界まで食べたところで、今度はおばあちゃんがスイカを持ってくる。
種飛ばし勝負をしたり、笑い合ったり、夏を全力で楽しんだ。
夕方の涼しい風が吹く頃、お風呂に入って部屋に戻ると、布団が敷かれていた。
「今日は本当に楽しかったな~。夏って感じだった」
「明日もありますよ。まだ海に行ってませんし!」
「だな~。楽しみだ」
満腹と疲れで布団に倒れ込む。
「先輩、一緒の布団で寝てもいいですか?」
「ちゃんとヤマトの分もあるだろ」
ちらりと見ると、少し寂しそうな顔をしていた。
「しょうがないな~、いいよ」
布団の端を開けてやると、ヤマトは嬉しそうに隣に寝転んでくる。
ここはヤマトの父親の実家――
きっと、いろいろと思い出して寂しくなるのだろう。
今日は県大会のため、マイクロバスで1時間半ほどかけて移動。夜は宿に一泊する予定だ。
1年生たちは、会場準備や雑務に追われていて忙しそうだ。
そろそろ試技の時間が近づき、俺も会場へ向かう。
そんな中、雑務で手が離せないはずのヤマトが小走りでやってきた。
「先輩、頑張ってください!」
「おう、サボりか?」
「合間見つけて応援に来たんですよ!」
少し不満そうに口をとがらせている。
「ありがとな、頑張るよ」
笑って返すと、ヤマトも嬉しそうに笑った。
その顔を見て、緊張していた気持ちが少しだけ和らぎ、落ち着いて競技に挑むことができた。
結果は今までで一番良かったが、全国大会には届かなかった。
3年生の先輩たちはこの大会で引退。みんなでお礼を言って送り出した。
試合後、1年生たちは一日中走り回っていてヘトヘトだ。
自販機で飲み物を買って、ジュンヤとヤマトに渡す。
「ありがとうございます!」
(そういえば、この二人って仲いいんだな…)
「二人はクラスでも仲いいの?」
「まあ、普通に部活の話とかしますけどね。ヤマトは先輩の話ばっかしてますけど」
「んっ!」
ヤマトがジュンヤを肘で軽く突く。
(ちゃんとクラスでも馴染んでるんだな。ちょっと安心した)
夜は宿でゆっくり過ごすことになった。
布団が9人分敷かれた和室の大部屋。先生たちは別室で飲み会らしく、夜更かししても何も言われない。
ヤマトはちゃっかり俺の隣に布団を敷いていた。
深夜、みんなが寝静まった頃、ヤマトがそっと俺の布団に潜り込んできた。
「先輩、起きてます?」
耳元で囁かれたが、眠気に勝てず寝たふりをした。
すると、ヤマトが布団の中で俺の体を優しく撫でてくる。直接的なことはしてこないが、なぜか体が反応してしまい、慌てて寝返りを打って背を向けると、ヤマトはそのまま俺の背中に寄り添ってきた。
嫌な感じはしない。むしろ、どこか安心してしまい、そのまま眠りに落ちた。
朝、部長たちは早く起きていて「どんだけ仲いいんだよ」と茶化され、ヤマトを起こすと何事もなかったように「おはようございます」と挨拶してきた。
帰りのバスでも、ヤマトは当然のように俺にもたれて寝ていた。
もう部内でも、そういう姿を見ても誰も驚かなくなっている。
3年生の引退後、俺は副部長に任命された。
大会も一段落し、顧問の方針で勉強に専念する期間として、部活は1週間の休みに入った。
「先輩!明日から海に行きませんか?
親戚の家が海の近くなんで、お墓参りも兼ねてなんですけど…」
「いいね。なんだかんだ忙しかったしな」
「やった!お母さんに言っときます!」
こうして、ヤマトと夏休みの終わりに2泊3日の海旅行に行くことになった。
翌日――
「よろしくお願いします」
「サトシ君が来てくれるって聞いて、ヤマトすごく楽しみにしてたのよ。毎年二人で行ってたから」
ヤマトは少し恥ずかしそうに照れている。
(そういえば、ヤマトのお父さんって見たことないな…)
長時間高速を走り、ようやく親戚の家に到着。
もともと民宿をやっていたというだけあって、大きな二階建ての木造建築。広い庭に、美味しい空気、蝉の声、潮の匂い――
「夏休み感満載で最高だな!」
ついテンションが上がる。
「満喫できますよ!」
優しそうな祖父母に挨拶を済ませたあと、ヤマトに手を引かれ、蝉の声が響く道を歩いていく。
たどり着いたのは墓地。ヤマトが水を汲みに行き、俺は墓石の前で手を合わせる。
「お父さん、なかなか来れなくてごめんね。
いつも仲良くしてくれてる先輩と遊びに来たよ。優しくて頼りになるんだ」
――ヤマトのお父さんは、もうこの世にいないのだ。
親戚の家に戻り、二階の一室をヤマトと二人で使わせてもらう。
「お父さん、3年前に病気で亡くなっちゃったんです…
たまに思い出して悲しくなるけど、今は先輩のおかげで楽しいです」
そう言って、ヤマトの目に涙が浮かび、やがて溢れ出した。
自分にはまだ、そういう経験がない。だから何も言葉が出てこなくて、俺はそっと背中を撫でることしかできなかった。
・
・
・
しばらくしてヤマトも落ち着き、部屋でまったりしていると――
「先輩!今日はBBQだそうですよ!」
元気を取り戻したヤマトが手を引き、庭へ連れていかれる。
「すごいでしょ!」
「準備したのはヤマトじゃないだろ」
庭には信じられないほどの量の肉と新鮮な野菜が並んでいた。
「ヤマトの先輩が来るって聞いたから、張り切って買っちゃったよ。
遠慮せずにたくさん食べてね」
おじいちゃんが炭を起こしながら笑っている。
「いただきます!」
次から次へと肉が焼かれ、どんどん皿に乗せられる。限界まで食べたところで、今度はおばあちゃんがスイカを持ってくる。
種飛ばし勝負をしたり、笑い合ったり、夏を全力で楽しんだ。
夕方の涼しい風が吹く頃、お風呂に入って部屋に戻ると、布団が敷かれていた。
「今日は本当に楽しかったな~。夏って感じだった」
「明日もありますよ。まだ海に行ってませんし!」
「だな~。楽しみだ」
満腹と疲れで布団に倒れ込む。
「先輩、一緒の布団で寝てもいいですか?」
「ちゃんとヤマトの分もあるだろ」
ちらりと見ると、少し寂しそうな顔をしていた。
「しょうがないな~、いいよ」
布団の端を開けてやると、ヤマトは嬉しそうに隣に寝転んでくる。
ここはヤマトの父親の実家――
きっと、いろいろと思い出して寂しくなるのだろう。
10
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる