なぎさのごはん日記 〜今日のごはん、何つくる?〜

月影 光(つきかげひかる)

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第3話 恋がこじれた夜には 〜塩バター焼きそば〜

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「……もしかして、私だけ好きだったのかな」
 付き合っていたつもりの人からの、そっけないメッセージ。なぎさは職場のトイレでスマホを見つめたまま、数分間動けなかった。
 彼は優しかった。連絡もマメで、デートも丁寧だった。でも、ここ最近はどこか歯車がかみ合わず、会話も減っていた。なぎさがその変化に気づきながらも、見ないふりをしてきたことを、今になって思い知る。
 夜、帰宅しても、ごはんを作る気力なんてない。でも空腹だけは正直で、キッチンの引き出しを開ける。
「……今日は、黙っててくれる?」
 そう言ったなぎさに、スプーンは少しの間、何も言わなかった。
「でもさ、あんた泣くとき、口元がちょっと歪むのよ。ださいわねぇ」
「……うるさい」
「ま、そんなときは、バターでも炒めな。気分がちょっとマシになるわよ」
 なぎさはしばらく立ち尽くしていたが、やがて冷蔵庫を開け、冷凍庫から野菜ミックスを取り出した。
「これでも、一応ごはんって言えるかな」
「言えるわよ。ちゃんと炒めて塩ふれば、“こじらせ女子の立派な晩餐”よ」
「……そういうこと言う?」
「言うわよ。どうせあんたは食べ終わったころには、また明日も生きようって思えるんだから」
 その言葉に、なぎさは小さく笑った。
「ありがとう、スプーンさん」
「礼なんていらないわ。さ、焼きそば麺が泣いてるわよ」
 🍜 塩バター焼きそば
【材料】
 ・焼きそば麺(蒸しタイプ)…1袋
 ・キャベツ or 冷凍野菜…ひとつかみ
 ・鶏ガラスープの素…小さじ1
 ・塩…少々
 ・バター…5g
【作り方】
 フライパンに少量の油をひき、野菜と麺を炒める。
 鶏ガラスープの素・塩を加え、全体をほぐし炒める。
 最後にバターをのせて溶かしながら全体を絡める。
【魔法のひとさじ】
 レモンを少し絞ると、気持ちもふわっと軽くなる。                                          
 スプーンの声に導かれて、なぎさは今日も少しだけ元気になる。                                                                                        明日は、きっと、昨日よりましになる——そんな気がしていた。

🍀 おばあちゃんのひとこと 🍀
「失恋のあとは、塩と油と、ちょっぴりの火力。からっぽの心は、あったかい湯気で満たせるよ」

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