辺境の地へ飛ばされたオメガ軍医は、最強将軍に溺愛される

夜鳥すぱり

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 ぐっすり眠って、リズはパチリと目を覚ました。首をくるりと横に向け、隣の枕をみると、既にリュカは居なかった。

「あぁ、リュカさん、もう仕事してるんだ……ちゃんと寝たのかなぁ、夜遅くまで資料をみてたし、あ、パン用意してくれてある」

部屋のテーブルの上に視線を移すと、パンと果物と葡萄酒が篭に入って置いてあった。リュカが食堂から持ってきて置いてくれたらしい。ベットから降りて、スリッパをひっかけ、ひたひたと歩き、テーブルの横の椅子に腰かけパンに手を伸ばす。

「医師会合は、昼からだから、今のうちに食べとこ」

もぐもぐとパンを食べ、ドラクロンで発生していた伝染病の記録に目を通す。高熱の類いと、継続的な咳、肌に発疹、地図に書き込んでいく。大まかな患者数と、発生日を、照らし合わせて、今の状態を予測する。

「10日前に、この村では高熱の患者が6人、その家族にも広まっていると仮定して、今年の風邪は高熱が3日続いて喉の腫れと、吐き気、倦怠感が出るものが多い……咳が出てるこっちの村の方が危ないか、せき止め薬を至急手配して、近隣の村にも届けてっと」

独り言をぶつぶつ言いながら、リズは計画表を書き上げた。少しでも早く薬が患者に届く事を願って。

小1時間ばかりかけて、食事を終え、服を着替えた。ここは、砂漠都市サララよりも東で、標高が高いため、気温がぐっと下がる。雪こそ振らないが、床に素足でたっていると、ぶるりと悪寒を感じるくらいに冷たい。足元が冷えるからとリュカが、レッグウォーマーを貸してくれたので、ズボンの上に付ける。格段に暖かい。毛糸で編んだ下着をつけて、白い軍服を着る。
これまたリュカが用意してくれた、医官用の軍服だ。白は汚れが目立つけれど、医療に関わる者は清潔で有るのが一番なので、リズはとても気に入っている。

「うん、身が引き締まる」

ボタンをきっちりと止めて、今日話し合う資料と、さっきの計画表、地図、筆記用具なんかを手に持つと、かなりの荷物になってしまった。1枚の紙も塵も積もればで、百枚もあれば、かなりの重量だ。

リズが必死で運んでいると、気づいたドラクロンの騎士が手伝ってくれた。

「自分が持ちますよ」
「いえいえ、そんな」
「遠慮為さらず、そっちの紙も」

騎士は、リズの荷物を軽々と持ち、運んでくれた。

「ありがとうございました」
「いいえ、えっと、クライス王国の医官様ですよね?」
「はい、医官のリズ·カリルです」

「や、これはどうも、ご丁寧に、わたしは、ホルス·ポプランです、リズ様とは何かご縁を感じます、どうぞ御滞在の間は私と仲良くして下さい」

にっこりと微笑んで、ホルスは立ち去っていった。感じの好い人だなぁと、リズはホルスを見送り、医師会合が行われる部屋へと入った。



◇◇◇◇◇



部屋には既に数十名の人がいて、リズが入っていくと、快く迎えてくれた。

「カリル医師、こちらの席にどうぞ」
「ありがとうございます」

席は円卓になっていて、リズは一番奥の席につき、ぐるりとリズを、取り囲む様に席についた医官達をみて、挨拶をした。

「この度は、皆様の貴重なお時間をいただき、感謝します、クライス王国より参りました、リズ·カリルです、よろしくお願いします、早速ですが、この国に流行ってる、流行り病について議論をしたいと思います、こちらの地図と資料をご覧ください、人数分御用意できず申し訳ないのですが、回していただけますか」

医師達は熱心に読み込み、隣へと渡していく。

「こんなに詳しく我が国の事を」
「高熱が続く病がこれほど広がっているとは」
「咳は死者数が高い、危険だ対策を」
「薬はどの様なものを?」
「我が国で量産できるだろうか、輸入に頼るのか」

「危険度が高いのは皆様のご意見通り、咳の病です、長引き治りも遅いと傾向がでてます、特効薬としまして、ヒブルの木の実から取れる粉が、クライスでは用いられます、こちらの木の生息分布ですが、山岳地では育ちません、湿地帯に生える木ですから、ドラクロンなら、西部のここら辺に」

「おお、確かに、早速木の実を取らなくては」
「製造方法は、こちらの紙に纏めました、粉にする際に殻が混じらないよう細心の注意が必要です、殻には別の成分が含まれますから、身体に影響がでます」

「なるほど、クライスは薬を作る時はやはり専用の建物があるのでしょうか?」
「はい、密閉した部屋と、空気が循環する部屋と二種類あります、ドラクロンでも?」
「いえ、ドラクロンは医師が各々の部屋で作ることが多く、大量生産という概念がありませんてました、早速建造していただけるように、ゼクス様に掛け合います」

予定していた時間があっという間に過ぎ去り、議論に花が咲いて、リズはこの国の医療が格段に邁進していく事が嬉しかった。自分が溜め込んできた知識が、役にたっていく。カリル家が代々受け継いできた技術を惜しげもなく提供して、これ程カリル家に生まれた事が誇らしいと思う事はなかった。

父上は、どんなところへ行っても全力でやりなさいと僕を送り出してくれた。その答えが今ここに有るような気がする。遠い地で、父の言葉が染み入る。リズは無性に、姉や兄や父、母にお礼を言いたい気持ちになった。


◇◇◇◇◇

夕飯をリュカと一緒に食べながら、リズは頬を紅潮させていた。

「リュカさん、医師会合とても有意義だったんです」
「へぇ、そっちに行きたかったすね」
「僕が頑張ったところ、リュカさんにみて欲しかった」

にっこにこで、話すリズは本当に嬉しそうで、リュカはその笑顔が眩しかった。この人は心の底から医師という仕事が好きなんだなと。

「リズが、優秀な医者だって俺は知ってる、ドラクロンの民も知ることになる、俺だけのリズじゃ無くなってくなぁ」

「そんなの、リュカさんだって、リュカさんずっとずっと働いてるじゃないですか、僕が寝た後も、色んな所の責任いっぱい抱かえて、皆に頼りにされて……リュカさんこそ、僕だけのリュカさんじゃない、本当は、僕が一人占めしていい人じゃないって」

知識は皆に広めてこそ価値がある、知識を溜め込んだリュカは色んな人に会ってこそその真価が発揮されるような気がする。

「だから、嫉妬しちゃいます、僕のリュカさんなのにって、僕、意外と心が狭かったんですね」

リュカは、リズのその言葉に、救われるような気持ちになった。

「俺の事、一人占めしてよ、リズだけだよ、俺の心も身体もリズの為にある」

「僕もですよ、僕の全部リュカさんの為にある、リュカさんに釣り合いたくて、頑張ることの根っこがリュカさんに繋がってます、僕の生きる全ての根っ子がリュカさんを原動力にしてます」

「リズの養分?」
「はい、ずっと吸い続けないときっと枯れちゃいます」

「ハハッ、じゃぁ、リズが枯れないようずっとそばに居なきゃな」
「はい、居て下さいね」

愛しい人の生きる糧だと、こんな嬉しい告白が有るだろうか。

「リズに吸い付くされて死ねたら本望だ」
「そこまで吸いませんよ、化物じゃないんだから」

ぷぅと膨れる可愛い恋人の、その膨らんだ頬にキスをする。逆だよと、リュカは思った。

吸っているのは自分だ。リズの生命の煌めきをずっと追いかけてきた。声も掛けれず影から見ていたあの頃よりずっと輝きは増して心にリズがいる。







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