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ジークハルトの過去1
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俺は騎士を多く輩出するメッテルニヒ公爵家の次男として生を受けた。
兄であるアルベルトは今は金獅子騎士団の団長をしている。
俺が子供の頃は、アルベルトとはまあまあ仲が良かった。
というより、魔法も剣術もその他何をしても優れているアルベルトに俺は一方的に憧れていた。
「メッテルニヒ公爵家の人間として、強くなれ。優秀な騎士になれ。」
というプレッシャーより、
「アルベルト兄さまみたいに強くなりたい!」
という一心だった。
魔法と剣術を俺に教えてくれたのもアルベルトだった。
勝負を挑んでも全然かなわなかったが、
同世代の奴らとは比べ物にならないくらい強くなれたのは
アルベルトのおかげだ。
ちょっと性格に問題があるが、
そんなのが気にならないほどの強さと何事もスマートにこなす器用さが
本当に自慢の兄だった。
しかし。
俺が魔法騎士学院に入学して3年がたち、
アルベルトが魔法騎士学院を卒業する頃から、
俺に対する態度が変わっていったのだ。
俺のことを「どうでもいい」という態度で接するようになった。
解せなかった。
アルベルトは俺に魔法や剣術を教えるどころか、鍛練にも付き合うことはなくなった。
まるで俺のことなど見えなくなったようだった。
意味がわからなかった。
そうか、
そっちがそのつもりならもういい。
俺は1人で強くなる。
そして絶対アルベルトを超えてやる!
それからは、「アルベルトを超えたい」というその一心で鍛練に励んできた。
アルベルトが魔法騎士学院を卒業してからも、
周囲の教師陣なんかからはアルベルトと比較し、
アルベルトのような騎士になれるよう頑張れと言われることもあったが、
アルベルトと比較されるのはなんとも思っていないし、
俺が頑張るのは当然だし、
周囲からの評価なんてどうでもよかった。
このときの俺にはアルベルトのことしか見えてなかった。
ある日、
魔法騎士学院の鍛練場に残り、
いつものように一人で倒れる寸前まで鍛練をしていた。
闇魔法で幻影を作り出し、それと戦う訓練だ。
学院での授業の一環での鍛練では技を出す訓練とか、
一対一での模擬戦とか、
どうやってもアルベルトに追いつけるような内容ではなかった。
だから、
自分で仮想の敵を何体も幻影で作り出し、
それをあやつりつつ、
自分で撃退するという訓練をしていた。
同時に複数の魔法を展開するので、このときの俺はまだ力が足りず、
倒れる寸前の極限状態になっていた。
その状態を通りがかったルーカスに見られたのだ。
そのときはルーカスのことを
「なんかやたらと俺に絡んでくる弱っちいヤツ」
くらいにしか思っていなかった。
ルーカスが俺に駆け寄ってきて、ふらついている俺の身体を支えた。
「お前、ちょっと休め!
そんな訓練を続けてたら、身体壊れちまうぞ。」
公爵家の人間として兄のような立派な騎士になれるように頑張れ、と言われ続け、
それは当然だと思って努力し続けてきたが、
俺の身体を心配されたのは初めてだった。
そしてルーカスは俺に簡単な回復魔法をかけた。
身体がじんわり暖かくなった。
俺たちはなんとなく鍛練場の隅の塀にもたれかかるように並んで座った。
こいつとこんなふうに過ごすのは初めてだった。
「なあ、ジークハルト、
なんでお前はそんなふらふらになるまで頑張るんだ?」
とルーカスが聞いてきた。
「兄のアルベルトを超えたい、それだけだ。」
俺がそう答えると、
ルーカスは
「お前のお兄さん、すごい騎士らしいよな。
異例の早さで金獅子騎士団の団長になる日も近い聞いたけど。
そんな人がお兄さんなんてすごいな。」
「そんなすごいお兄さんに挑んで努力し続けているお前もすげえよ。ほんと。」
と言った。
そして、
「でもあんま根詰めすぎて身体壊すなよ。
オレだってお前を目指して頑張ってるんだからさ。
お前はオレの目標でいてくれよ!
そしていつかオレもお前から「お前には負けない」って
思われるくらい強くなってやるよ!」
ルーカスは、にやっと笑いながら俺にそう言ったのだ。
今まで自分のことを理解してくれるヤツなんていなかったし、
そんなヤツは必要ないと思っていた。
なんなんだこいつは。
こんなに弱いのに
俺のことを理解して
俺のことを心配して
俺のことを超えたいというのか。
それ以来、俺はルーカスのことを無意識に目で追うようになった。
そしてルーカスは宣言通り本当にどんどん強くなり、
魔法騎士学院を卒業する頃には俺と肩を並べるほどになった。
まあ一度も負けてやることはなかったが。
顔を合わせれば「今度こそ負けない!」なんてかわいらしいことを言ってくるが、
そんなルーカスと一緒にいるときは兄の存在という気負ったものがふっとなくなって
自然体でいられるような気がした。
もうその頃にはルーカスへの恋心は完全に育ちきっていたんだ。
兄であるアルベルトは今は金獅子騎士団の団長をしている。
俺が子供の頃は、アルベルトとはまあまあ仲が良かった。
というより、魔法も剣術もその他何をしても優れているアルベルトに俺は一方的に憧れていた。
「メッテルニヒ公爵家の人間として、強くなれ。優秀な騎士になれ。」
というプレッシャーより、
「アルベルト兄さまみたいに強くなりたい!」
という一心だった。
魔法と剣術を俺に教えてくれたのもアルベルトだった。
勝負を挑んでも全然かなわなかったが、
同世代の奴らとは比べ物にならないくらい強くなれたのは
アルベルトのおかげだ。
ちょっと性格に問題があるが、
そんなのが気にならないほどの強さと何事もスマートにこなす器用さが
本当に自慢の兄だった。
しかし。
俺が魔法騎士学院に入学して3年がたち、
アルベルトが魔法騎士学院を卒業する頃から、
俺に対する態度が変わっていったのだ。
俺のことを「どうでもいい」という態度で接するようになった。
解せなかった。
アルベルトは俺に魔法や剣術を教えるどころか、鍛練にも付き合うことはなくなった。
まるで俺のことなど見えなくなったようだった。
意味がわからなかった。
そうか、
そっちがそのつもりならもういい。
俺は1人で強くなる。
そして絶対アルベルトを超えてやる!
それからは、「アルベルトを超えたい」というその一心で鍛練に励んできた。
アルベルトが魔法騎士学院を卒業してからも、
周囲の教師陣なんかからはアルベルトと比較し、
アルベルトのような騎士になれるよう頑張れと言われることもあったが、
アルベルトと比較されるのはなんとも思っていないし、
俺が頑張るのは当然だし、
周囲からの評価なんてどうでもよかった。
このときの俺にはアルベルトのことしか見えてなかった。
ある日、
魔法騎士学院の鍛練場に残り、
いつものように一人で倒れる寸前まで鍛練をしていた。
闇魔法で幻影を作り出し、それと戦う訓練だ。
学院での授業の一環での鍛練では技を出す訓練とか、
一対一での模擬戦とか、
どうやってもアルベルトに追いつけるような内容ではなかった。
だから、
自分で仮想の敵を何体も幻影で作り出し、
それをあやつりつつ、
自分で撃退するという訓練をしていた。
同時に複数の魔法を展開するので、このときの俺はまだ力が足りず、
倒れる寸前の極限状態になっていた。
その状態を通りがかったルーカスに見られたのだ。
そのときはルーカスのことを
「なんかやたらと俺に絡んでくる弱っちいヤツ」
くらいにしか思っていなかった。
ルーカスが俺に駆け寄ってきて、ふらついている俺の身体を支えた。
「お前、ちょっと休め!
そんな訓練を続けてたら、身体壊れちまうぞ。」
公爵家の人間として兄のような立派な騎士になれるように頑張れ、と言われ続け、
それは当然だと思って努力し続けてきたが、
俺の身体を心配されたのは初めてだった。
そしてルーカスは俺に簡単な回復魔法をかけた。
身体がじんわり暖かくなった。
俺たちはなんとなく鍛練場の隅の塀にもたれかかるように並んで座った。
こいつとこんなふうに過ごすのは初めてだった。
「なあ、ジークハルト、
なんでお前はそんなふらふらになるまで頑張るんだ?」
とルーカスが聞いてきた。
「兄のアルベルトを超えたい、それだけだ。」
俺がそう答えると、
ルーカスは
「お前のお兄さん、すごい騎士らしいよな。
異例の早さで金獅子騎士団の団長になる日も近い聞いたけど。
そんな人がお兄さんなんてすごいな。」
「そんなすごいお兄さんに挑んで努力し続けているお前もすげえよ。ほんと。」
と言った。
そして、
「でもあんま根詰めすぎて身体壊すなよ。
オレだってお前を目指して頑張ってるんだからさ。
お前はオレの目標でいてくれよ!
そしていつかオレもお前から「お前には負けない」って
思われるくらい強くなってやるよ!」
ルーカスは、にやっと笑いながら俺にそう言ったのだ。
今まで自分のことを理解してくれるヤツなんていなかったし、
そんなヤツは必要ないと思っていた。
なんなんだこいつは。
こんなに弱いのに
俺のことを理解して
俺のことを心配して
俺のことを超えたいというのか。
それ以来、俺はルーカスのことを無意識に目で追うようになった。
そしてルーカスは宣言通り本当にどんどん強くなり、
魔法騎士学院を卒業する頃には俺と肩を並べるほどになった。
まあ一度も負けてやることはなかったが。
顔を合わせれば「今度こそ負けない!」なんてかわいらしいことを言ってくるが、
そんなルーカスと一緒にいるときは兄の存在という気負ったものがふっとなくなって
自然体でいられるような気がした。
もうその頃にはルーカスへの恋心は完全に育ちきっていたんだ。
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