XLサイズの龍大くんはくっつきたがりなクーデレ男子

星詠みう菜

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ふたりの王子様

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 今日は仕事が上手くいかず、ぶつかりおじさんの被害にも遭ったが、普段の鈴夏の仕事っぷりは順調だ。入社して4年で昇給も決まったし、そろそろ新たに昇給するか昇進してもおかしくない。仕事に対しては多少の文句はありつつも、納得してできているのは事実だ。
 でも、今のところ恋愛は遠慮したい。なぜなら、鈴夏が今まで付き合った彼氏は、付き合った途端何もしてくれなくなる。なのに、なぜか鈴夏がフラれてばかりだからだ。それならNetflixで映画やドラマの世界に浸る方が良い。
 だからこそ、今日起こったぶつかりおじさん事件で出会ったふたりは、本当に王子様のように見えた。トキメキが少ない日常生活の中で出会った、かっこいいお兄さん達。ふたりの王子様の顔を思い出しながら足を運ぶ帰り道、仕事の疲れはどこかへ行き、なんだかいつもより早く家に着いたような気がする。

「ただいまー」
「おかえり~。本日も、とっても、とっても! お疲れ様でしたぁ」

 鈴夏が家に着いて玄関の扉を開けた瞬間、奥から甘ったるくてあざとい声を出しながらモコモコのルームウエアを着た同居人が駆け寄ってきた。

「また何か頼み事?」
「うわーん、すぅ姉お願いお願い! 編集手伝って~!」
「面倒くさ」
「今度ラーメン奢るから~」
「ダメ、昨日サラが自分でやるって言ったばっかりでしょ?」

 この同居人は皆月更紗みなづきさらさ。鈴夏は「サラ」と呼んでいる。30歳で鈴夏の2歳年下だ。

「だって他の仕事も立て込んでて……」
「だったら少しでも早く作業に取り掛かりなさいっての」
「だって……」
「最優先で済ませないといけないのは?」
「明日が納期の動画編集……」
「じゃあまずそれをやること」

 そういって鈴夏は、更紗を無理矢理部屋へと促した。2LDKのこの物件は、玄関入ってすぐの部屋が鈴夏、奥の部屋が更紗の部屋だ。更紗の部屋の方が若干広い。部屋の中には大きい冷蔵庫があり、荷物が多いからだ。

「動画ファイル開いて、じゃあ開始。動画の長さが20分だからトリミング作業20分」

 鈴夏はキッチンタイマーをセットして、更紗の机に置いた。まるで家庭教師みたいだ。でも鈴夏は、いざとなれば更紗が集中力を発揮することは知っている。鈴夏自身も何度か更紗の仕事を手伝ったこともあるが、結局更紗の方が早い。やればできるのに、取り掛かりが遅いだけなのだ。ここ最近は鈴夏に頼ることが少なくなったが、酔った勢いで仕事を安請け合いしてしまったらしい。とりあえず取り掛かったのを見届け、鈴夏はお風呂へと向かった。
 元々鈴夏と更紗は、10人ほどが集うシェアハウスの住人だった。でも、同じタイミングで転職したため、ふたり一緒に引っ越した。お互い寂しくないし、シェアハウス内でも仲が良い方だったので、最初からふたりで住む予定だった。骨格診断やパーソナルカラーもほぼ同じ、骨格ウェーブのイエローベース春だ。体格差もあまり無いから、服の貸し借りもできる。
 更紗は元テレビ番組制作会社に勤めていたが、激務で体調を崩して休職した。ストレスで肌荒れするより、食べ物で肌荒れした方がマシだと思い、フライドチキンやポテトを買い込んで爆食いする様子を動画撮影。それをSNSにアップロードしたら、予想外にバズってしまったのだ。それが会社にばれ、転職することになった。副業はOKな職場だったはずだが、休職中に遊んで金稼ぎしていると思われたようだ。
 現在更紗は大食いASMR系インフルエンサーとして活動しつつ、番組制作の技術を活かして動画編集の仕事も請け負っている。部屋に大きな冷蔵庫があるのはこのためだ。鈴夏の3倍の量は食べるし、なぜか全然肌も荒れない。鈴夏にとっては羨ましい限りだ。そして更紗は今年で前職の年収を越えるかもしれないと躍起になっており、仕事に集中しなきゃと先週宣言したばかりだった。
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