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こんなはずじゃなかった
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「なんか連絡来たんだけど……」
「うっそ! なんて書いてあった?」
「『こんにちは。大山龍大と申します。』だって」
「ふふぅ~ん、めっちゃ真面目っぽい」
いつにも増して、更紗がニヤニヤと鈴夏を見ている。その気持ちは、鈴夏もわからなくはない。他人の恋バナを聞くのは疑似恋愛している気分になれて楽しいと、鈴夏もよく知っている。
「なんって読むのかな、『龍大』って。りゅうだい?」
「聞けばいいじゃ~ん」
確かにその通りだ。なんでだろう、仕事だとサクサクと何をすればいいのか頭に浮かぶのに、いざプライベートでこういうことが起こると、何もわからなくなる。戸惑う鈴夏に対して、更紗は楽しそうだ。でも、今の状況に一番ときめいているのは、おそらく更紗だろう。
「えっとじゃあ……『龍大さんって何って読みますか? 私は鷲尾鈴夏と言います。』と」
「はぁ~、ニヤニヤしちゃうな~」
「そりゃサラは楽しいでしょ、他人事なんだから」
そんなやり取りをしていたが、返信は早かった。
「あ、『たつひろ』って読むんだって」
「なんか名前だけ見ると、『名は体を表す』って感じ~」
「ふふっ、ちょっと待って……確かにそうだけど!」
さすがに名前で笑ったら失礼だろうと、鈴夏は笑いをこらえる。でも更紗の言うとおりだと思った。なんとなく、名前のすべてが大きかった。
「へ~、体が大きい龍大くんかぁ~」
「『くん』付けはまだ失礼じゃない? 年齢もまだ知らないし」
「ほらほら! 知らないことがあるならすぐ聞く!」
そう言って、更紗がもっと連絡を取れと煽ってくる。年齢を聞いてみると、あの大きいお兄さん、つまり龍大は26歳とのことだ。鈴夏よりも6歳年下ということは、龍大が小学校に入るタイミングで鈴夏は中学校に入学する。思った以上に年の差が開いていて、鈴夏は急にどうすれば良いのかもっとわからなくなる。
「こんな年下の男の子と話すなんて、職場でしかしたことないよ」
「もう~そんな意識しなくていいって。自然体自然体」
更紗はそう言うが、鈴夏にとってはその自然体が余計にわからない。鈴夏は今まで同級生か年上としか付き合ったことがないから、年下の男の子とこうやって連絡を取り合うことが実質初めてなのだ。いつもは両手でサクサクとフリック操作ができる鈴夏も、誤送信を防ぐために片手の人差し指で丁寧に文字を打っている。
「店内混んできたし、歩き疲れたし家帰ってゆっくりしよ~よ~」
「え、待ってよ!」
更紗が先に席を立ち、鈴夏も後を追う。もちろん店内が混んできたから席を外そうという思惑もあったが、もう鈴夏と龍大のやり取りは本人に任せようと思ったのだろう。というより、更紗は戸惑っている鈴夏をおちょくりたいんだろう。
電車で移動している間も、鈴夏と龍大のやり取りはほとんど滞りなく続いた。年下の男の子と連絡を取り合うやり方がわからないと言っていた鈴夏も、多少は慣れてくる。お互いに鈴夏さん、龍大さんと呼び、敬語で話し合い、LINE上でのコミュニケーションがテンポよく進む。
大山龍大。26歳。小春ベーカリーの製造担当で、やっぱりパンが好きらしい。好きなパンは、歯ごたえがあって噛むほど甘みが出るタイプ。バゲットやカンパーニュだそうだ。でも柔らかい食感のパンの方がお客さんにウケるから、龍大の作った歯ごたえがあるパンはよく売れ残るとのこと。そう聞くと、次から小春ベーカリーに行ったら、そういうパンを買おうと鈴夏は思った。
いつの間にか最寄り駅に着き、家に到着した。鈴夏は、その間のことをほとんど覚えていない。そのくらい龍大と連絡を取るのに夢中だった。
更紗も、家に着いてからはすぐ部屋に閉じこもった。あとのことは、鈴夏と龍大にお任せということだ。でも、すぐに非常事態が発生する。龍大が「明日会ってみませんか」と提案してきたのだ。
「うっそ! なんて書いてあった?」
「『こんにちは。大山龍大と申します。』だって」
「ふふぅ~ん、めっちゃ真面目っぽい」
いつにも増して、更紗がニヤニヤと鈴夏を見ている。その気持ちは、鈴夏もわからなくはない。他人の恋バナを聞くのは疑似恋愛している気分になれて楽しいと、鈴夏もよく知っている。
「なんって読むのかな、『龍大』って。りゅうだい?」
「聞けばいいじゃ~ん」
確かにその通りだ。なんでだろう、仕事だとサクサクと何をすればいいのか頭に浮かぶのに、いざプライベートでこういうことが起こると、何もわからなくなる。戸惑う鈴夏に対して、更紗は楽しそうだ。でも、今の状況に一番ときめいているのは、おそらく更紗だろう。
「えっとじゃあ……『龍大さんって何って読みますか? 私は鷲尾鈴夏と言います。』と」
「はぁ~、ニヤニヤしちゃうな~」
「そりゃサラは楽しいでしょ、他人事なんだから」
そんなやり取りをしていたが、返信は早かった。
「あ、『たつひろ』って読むんだって」
「なんか名前だけ見ると、『名は体を表す』って感じ~」
「ふふっ、ちょっと待って……確かにそうだけど!」
さすがに名前で笑ったら失礼だろうと、鈴夏は笑いをこらえる。でも更紗の言うとおりだと思った。なんとなく、名前のすべてが大きかった。
「へ~、体が大きい龍大くんかぁ~」
「『くん』付けはまだ失礼じゃない? 年齢もまだ知らないし」
「ほらほら! 知らないことがあるならすぐ聞く!」
そう言って、更紗がもっと連絡を取れと煽ってくる。年齢を聞いてみると、あの大きいお兄さん、つまり龍大は26歳とのことだ。鈴夏よりも6歳年下ということは、龍大が小学校に入るタイミングで鈴夏は中学校に入学する。思った以上に年の差が開いていて、鈴夏は急にどうすれば良いのかもっとわからなくなる。
「こんな年下の男の子と話すなんて、職場でしかしたことないよ」
「もう~そんな意識しなくていいって。自然体自然体」
更紗はそう言うが、鈴夏にとってはその自然体が余計にわからない。鈴夏は今まで同級生か年上としか付き合ったことがないから、年下の男の子とこうやって連絡を取り合うことが実質初めてなのだ。いつもは両手でサクサクとフリック操作ができる鈴夏も、誤送信を防ぐために片手の人差し指で丁寧に文字を打っている。
「店内混んできたし、歩き疲れたし家帰ってゆっくりしよ~よ~」
「え、待ってよ!」
更紗が先に席を立ち、鈴夏も後を追う。もちろん店内が混んできたから席を外そうという思惑もあったが、もう鈴夏と龍大のやり取りは本人に任せようと思ったのだろう。というより、更紗は戸惑っている鈴夏をおちょくりたいんだろう。
電車で移動している間も、鈴夏と龍大のやり取りはほとんど滞りなく続いた。年下の男の子と連絡を取り合うやり方がわからないと言っていた鈴夏も、多少は慣れてくる。お互いに鈴夏さん、龍大さんと呼び、敬語で話し合い、LINE上でのコミュニケーションがテンポよく進む。
大山龍大。26歳。小春ベーカリーの製造担当で、やっぱりパンが好きらしい。好きなパンは、歯ごたえがあって噛むほど甘みが出るタイプ。バゲットやカンパーニュだそうだ。でも柔らかい食感のパンの方がお客さんにウケるから、龍大の作った歯ごたえがあるパンはよく売れ残るとのこと。そう聞くと、次から小春ベーカリーに行ったら、そういうパンを買おうと鈴夏は思った。
いつの間にか最寄り駅に着き、家に到着した。鈴夏は、その間のことをほとんど覚えていない。そのくらい龍大と連絡を取るのに夢中だった。
更紗も、家に着いてからはすぐ部屋に閉じこもった。あとのことは、鈴夏と龍大にお任せということだ。でも、すぐに非常事態が発生する。龍大が「明日会ってみませんか」と提案してきたのだ。
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