XLサイズの龍大くんはくっつきたがりなクーデレ男子

星詠みう菜

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そのサプライズは聞いてない!

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 写真撮影が終わると、披露宴会場への案内が始まる。龍大は今日のゲストじゃないから「後で迎えに来る」とだけ言って去って行った。聞きたいことはたくさんあったし龍大のスーツ姿をもっと見ていたかったけど、更紗から受け取ったブーケをぎゅっと腕に抱いて会場へと向かった。

「鈴夏ちゃんのお相手、すごくカッコイイじゃない~」

 披露宴会場で席につくと、隣に座っている秋さんも微笑みながら話しかけてくれる。

 「でも今日のことって、もしかして……みんな知ってたんですか?」

 鈴夏がそう言うと、シェアハウスのメンバーはみんなバツが悪そうにしている。どうやら今日のサプライズプロポーズのことを知らなかったのは、本当に鈴夏だけだったらしい。秋さんに「ごめんねぇ」と言われたけど、ちゃんと隠し通して祝ってくれたことは嬉しかった。

「いいですよ。あんな素敵なスーツ姿初めて見られましたから」
「でもホントいい夫婦になれそうね~」

 ブーケを受け取って、プロポーズされて……披露宴会場のいちばん奥にあるメイン席にいずれ自分が座るのかもと思うと、まだその未来がイメージできなくて信じられない。何も知らなかった朝の自分が、懐かしいと思うくらいだ。
 披露宴も滞りなく進行して、二次会の会場へと移っていく。そのとき更紗が鈴夏の隣に座り、今日のサプライズをすることになった経緯を話してくれた。プランナーに「海外でこういうのが流行っている」と提案され、すぐさま鈴夏のことが思いついた更紗は、その次の日に小春ベーカリーへ行って龍大に直接交渉したらしい。龍大に鈴夏の連絡先を渡したときもそうだったけど、更紗は相変わらずフットワークが軽かった。
 そして久しぶりの同窓会のような結婚式が終わると、会場の外へ出てみんなと別れた。結婚式や披露宴が終わった後は、幸せなオーラをたっぷり浴びて夢見心地になる。そのときちょうど近所のパーキングに車を停めて、コンビニで時間を潰していると龍大から連絡がきた。
 コンビニに向かうと、龍大が店の前でいつもよく見るフーディーを着た姿でカップタイプのコーヒーを飲んでいた。鈴夏に気づいた龍大はそれを飲み干し、コンビニ内のゴミ箱に捨てて、鈴夏の荷物を持ってくれる。車のある場所まで向かい、帰途についた。
 車内で洋楽を流すラジオを聞きながら、鈴夏から口を開いた。

「たっちゃん、今日緊張した?」
「めっちゃくちゃした。鈴夏が綺麗だったから余計に」

 スーツを堂々と着こなしていたからそこまでとは思わなかったけど、やっぱり緊張していたと知ってなぜかホッとする。しかも毎日会ってるのに「綺麗だった」と言われ、思わず頬が熱くなった。

「今日仕事休みだったんだね」
「うん、だいぶ前から休みにしてた」
「やっぱり……髪は? ジュイチくんにやってもらったの?」
「出勤前にジュイチさんとユイトさんとこ行ったから」
「てことはジュイチくんも知ってたんだね……」

 髪を編み込んでもらっているときのちょっとしつこかったジュイチの態度を思い出すと、納得だ。おそらくサロンを出た後、当然龍大に報告もしていただろう。
 
「騙してたみたいでごめん」
「ううん、いいよ。サプライズされるのも悪くないなって思った。たっちゃんかっこよかったし」

 そう言って、鈴夏は薬指に嵌めている指輪を目の前にかざした。寝ている間にこっそり測ったという指輪のサイズもぴったりで、細く伸びた鈴夏の指をもっと美しく見せてくれた。
 今日起こったことを振り返り、この幸福感に浸っていたいのに、時間は容赦なく過ぎていく。あっという間に家に着き、あっという間に翌日になり、あっという間に2ヶ月が過ぎて師走の季節になる。時間はときに残酷なほど人を置いてけぼりにするし、待ってはくれない。
 そして12月25日、鈴夏の試験結果が提示される日になった。鈴夏が退勤したと同時に龍大が職場近くのパーキングまで車で迎えに来て助手席に乗り込み、ふたりでスマホを見せ合うことにした。
 龍大のスマホには1級建築士の合格者の受験番号が書かれたページ、鈴夏のスマホには自分自身の受験番号が表示されている。

「じゃあいくよ。せーの」

 鈴夏の合図で、お互いのスマホを見せあって番号があるかひとつひとつ目で追っていった。龍大のスマホの画面には10列ほど受験番号が並んでいて、上から4番めに鈴夏の番号と一致する数字が書かれてあった。

「あ、あった……」

 鈴夏がそう呟いて龍大と目が合うと、今までで一番強く抱きしめられた。心臓と心臓が近くなって、龍大の胸もドクドクと脈を打っているのが伝わってくる。龍大が自分のことのように喜んでくれたことも、今までずっと支えてくれたことも、鈴夏にとっては嬉しくてたまらない。1年半にも及ぶ努力が実ったことを実感して、鈴夏の目からは涙が溢れた。
 それからふたりは高揚した気分が落ち着いてから役所へと向かい、窓口に婚姻届を提出した。役員さんからの「おめでとうございます」の声を聞いて、じわじわと夫婦になった実感が湧いてくる。
 このとき鈴夏のおなかのなかに新しい命が宿っていることを、ふたりはまだ知らない。それでも龍大は過保護なパパになり、鈴夏は仕事と子育てが忙しいママになるだろうと、料理好きな夫婦が天から微笑んでいた。
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