無実の罪で投獄されました。が、そこで王子に見初められました。

百谷シカ

文字の大きさ
7 / 14

7 愛されています

しおりを挟む
 そこで国王陛下に促されて、席についた。

 国王陛下に。
 話しかけられた。


「……」


 お母様! 
 お母様たいへんっ!!

 それにしても、この卵って私が食べているあの卵と同じ卵だろうか。
 

「神よ、日々の糧を感謝します」


 国王陛下の口から出るとしても、お祈りは同じ……


「国を守り、栄光を示し賜わん事を」


 じゃなかった。
 
 神様。
 私は栄光は要らないですから、平安を──


「さっ、シエラ! 食べてちょうだい! 足りなかったら遠慮なく言ってね!」

「……はぃ」


 王女フェリシダード様に平安を、ぜひ、お願いします。


「ファニタは小柄なのにけっこう食べる人だったわね」

「ええ、そうね、お母様……っ!」

「泣いてないで、食べなさい」

「ええっ、そうよね……っ、シエラに会えたんだもの……今日は素晴らしい日だわ!!」


 王妃と王女様が、私の亡き母を偲んでいる。

 私は卵を触っている。
 喜びと困惑で、胸がいっぱいだ。息も忘れるくらい。


「割れるかい?」


 また国王陛下が!
 お声をかけられた!!


「はっ、はいっ、大丈夫です。わわわ割れます」

「指の怪我はどうなんだ?」


 殿下ぁッ!


「えっ!? 指の怪我!? それはいったいなんなんですお兄様ッ!?」


 余計な事を言っちゃダメです!!


「昨日、牢獄で指先を切った」

「まあっ、なんて事!」


 言っちゃったんですね……


「それで私はピンタードとどちらがシエラにパンを食べさせるか争った。そして勝った」

「許さないわ。殺すわ」


 フェリシダード様よ、鎮まりたまえ!
 鎮まりたまえっ!!


「継母」

「!」


 そっちかぁ……!
 それじゃあ本気かもしれないなぁ……


「あと、元婚約者」

「……」

「いい加減にしないか。食事中だぞ、フェリシダード」


 国王陛下は人の父親としても頼りになる。
 さすが、殿下を越える強面なだけある。


「それにしても、ファニタが宮廷を去ってもうそんなに経つのか。時の流れは速いものだ。だがあの頃の事はよく覚えている。皆、心を傷めた」

「ええ。本当に、男は忌々しい愚か者ばかりですわ」


 国王陛下、なぜ、再びフェリシダード様に火を点けたのですか。
 なぜ……


「ファニタ。心優しく誠実な、世界一の乳母だったというのに……最初の夫は宮廷で忙しい妻を疎い愛人を囲った上、息子が王女の婿になれないとわかると離婚を叩きつけ去った。しかも、跡取りは必要だと言って、息子を連れて」

「酷い男。あの時のファニタ、本当に悲しそうだった。私は5才だったけど、ただ膝に乗って抱きしめる事しかできなかったわ。正確には、抱きしめられる事しか」

「お前も人並みに小さかったな。……そして次の夫は、妻の忘れ形見である大切な一人娘が有事の際に旅にかまけて不在とは」

「私たちからファニタを奪った忌々しいサルバドール」


 お父様。
 王女様は、今にもナイフを折りそうです。指で。


「だが、夫には恵まれなかったが、娘に恵まれた。ファニタがあの男と結婚して幸せだったという事は、あなたを見ればわかる。シエラ、よく来てくれた。心から歓迎するよ」

「……陛下……」


 返さないわけにはいかない。
 返さないわけにはいかない!

 だけどなにも言葉が出てこない!!


「なにも言わなくて結構ですよ、シエラ」


 王妃様ぁ!


「エミリオがあなたを連れて帰ったと聞いて、私たちも言葉を失いました。喜びと、そして同時に、もうファニタとこの世では会えないという……事実を……っ、改めて思い出して……ッ!」

「お母様……ッ!!」


 乳母は重要な役目だけれど、こんなにも愛されていたなんて。
 私も、久しぶりに母を思って、胸が熱くな──


「でも、これからの私たちにはシエラがいます。お母様」

「ええ、そうね」


 え?


「わ、私、お乳は出ません……!」


 ああっ!
 咄嗟の事とはいえ、言わなくてもいい事を言ってしまった!


王家うちに乳児はいない」

「……っ」

 
 そうですよね、陛下。
 それはもちろんわかっているのですけれども、陛下。


「ではっ、なぜ……でしょう……ッ!?」


 私は濡れ衣で投獄されていたところを、幸運にも殿下に発見してもらって、助けてもらった。そこまではわかる。

 今ドレスを着て王家の食卓で卵の殻を剥こうとしている私が歓迎されているのがなぜなのか、全然わからない。


「シエラ、乳母ではなく私の妻になってほしい」

「──」


 でん、か?

 いま、なん、て?


「乳母は、選ぶ番だな」

「……ふぇ?」


 生まれて初めて、卵を握りつぶした。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます

さくら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。 パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。 そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。 そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。

ぱんだ
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。 そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。 キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。 でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。 最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。 誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。 「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。 男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。 今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

処理中です...